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第54話 白蛇は困った為政者?

 突然のイーリス族の来訪。

 色々聞きたいことはあるが、白ラミアのリュウイチはイーリス族の要望を即断即決で決定してしまった。

 それにはビリスも顔をポカンとさせた。


 「あ、いえ……その、そういうのは相談などしないのですか?」

 「まー正式には議会でちゃんと精査するけどさー、よーするに仲良くしましょうってことだろ? なら俺は全然オッケー」


 あっけらかん……この超ハイスピード、それこそ魔物街の長リュウイチのフットワークこそ魅力であろう。

 極端さは一長一短あるが、最終的にリュウイチの意見がほぼ通るからこそ、魔物街はこの僅かな時間に恐竜的発展を遂げたのである。


 「皆さんとりあえず今日は星聖祭です、是非お祭りを楽しんでいってくださいな」


 リュウイチは両手を広げ、祭りをアピール。

 イーリスたちはただ、困惑したように顔を合わせる。


 「あっ、そうだビリス君、君たちは魔物街に滞在するのかな?」

 「出来ればこちらに領事館を置かせていただければ」

 「オッケー、良い物件探しておくー」


 リュウイチは書状を丸めると、中央庁舎の扉を越えていった。

 パタン、あの白ラミアが居なくなると、ビリスは大粒の汗を流して息を吐いた。


 「ハァ……あれが噂に聞いた白蛇か」

 「コボルト族は以前に増して栄え、確かな手腕はあるようですが」


 中央庁舎の前でイーリスたちは集まり、感想を述べていく。

 街を空から見回しても、街の住民たちは皆朗らか、彼らと交流のあるコボルト族は白蛇を神と崇め臣従していると聞く。


 「……ユズ様、どう思います?」


 ビリスはユズを見る、その顔は白蛇には見せなかった顔だ。

 ユズは豊満な胸に手を置くと、神妙な顔で答えた。


 「一見おちゃらけているようで、腹の底が知れません」


 その言葉にイーリスたちは動揺した。

 彼らには書状には書かれていないある目的があった。

 可能であるならば、白蛇を籠絡し、マルファの民の強力な味方とすることだ。

 イーリス族は雪を被るトロス山脈の広範囲の住む集団だが、イーリス族は全てが意思統一出来ていない。

 五つの氏族によって構成されるイーリス族、マルファの民は決してイーリス族で最王手ではない。

 今回の魔物街訪問が、(ほか)の氏族にどんな影響を与えるかは判らない。

 なるべく友好関係は維持しているが、イーリスは一枚岩ではないのだから。


 「最悪の場合も考慮する必要はあるでしょう」

 「……最悪とは?」

 「勿論白蛇様が裏切った場合」


 ユズの言葉にビリスは顔を真っ青にした。

 同時に他の者も顔を押さえたり、鎮痛な面持ちで項垂れてしまう。


 「……賭けです、我々の悲願の為に、私は身を粉にしてでも」


 ユズの決意、マルファの民に千年の繁栄を約束すること。

 五大イーリス族をまずは平定し、トロス山脈を完全な支配下に置き、何人にも侵されぬ千年王国を築くのだ。

 その為にも、白蛇との交渉は必ず成功させねばならない。


 「あっ、あの……でも白蛇様はかなり好意的だったし、考え過ぎでは?」

 「キリコ、相手は相当のやり手、楽観視は自分を殺すわよ」


 キリコは声を殺すと、思い直した。

 白蛇は敵意なんてまるで無く、ユズならば簡単に籠絡出来そうな気配さえある。

 だが魔物街の繁栄を見て、簡単なはずが無い。

 オークとゴブリン族の手を取らせ、そこにコボルト族を加えた魔物街は本来ならあり得ない。

 オークとゴブリンは神代の時代より戦争してきた天敵同士、コボルトは極めて臆病で猜疑心も強い。

 それを一纏めにするのが白き翼の守り神リュウイチだ。


 「はたして……私たちは」

 「おーい! 折角だから一緒に祭りを周らないー!?」


 ユズは言葉を飲み込むと、驚いた顔で庁舎三階を見上げた。

 立派な窓から顔を覗かせたのは白蛇の姿に戻ったリュウイチであった。


 「え、えと……その、迷惑ではないのですか?」

 「なんで? 俺と遊ぼうよー」


 白蛇はクネクネ身体を揺らしごねる。

 やっぱり白蛇は愛着というか、子供っぽい。

 しかし為政者として成功しているのだから、そんなものポーズでしかあるまい。

 ……と勘繰られるが、勿論リュウイチを知る者なら、当然本当に遊びたいだけと解るだろう。

 白蛇は光の翼を広げると、ユズの前に飛び降りてくる。

 ユズはすぐに頭を下げた。


 「それでは、謹んで……」

 「うむ、ユズよ、失礼のないようにな」


 ビリスはサクッとユズに責任を押し付けると翼を広げた。

 正直まともな神経では、この神性と付き合っていられない。


 「あっ」


 ビリスはそのまま飛んで行った。

 ユズは思わず頭を抱える、あまりに哀れか周囲も気不味い。


 「ありゃりゃ行っちゃった……やっぱり飛べるって利点多いよなぁ」

 「……白蛇様も空を飛べますよね? 一体なにが?」

 「いやお恥ずかしい、街で飛べるのは俺かベヒーモスしかいないんだよぉ、複数人で空を連携して警備とか出来れば、強いよなーって」


 ユズは顎に手を当てると、リュウイチの言葉を類推する。

 つまりリュウイチは街の警備に困っている?


 「……見たところかなり強力な防壁に囲まれているようですが」

 「いやいや、周りは密林よ? それにネレイド族も住む以上新しい区画の整備も必要急務だし」


 そこでユズの眉を僅かにひそめた。

 ネレイド族、イーリス族の諜報では聞き覚えがないぞ?


 「確か大陸南方の海に棲息する種族では?」

 「それがさぁ、マーメイド族に追いやられて、大森林まで逃げ込んできたんだ、それでネレイド族を受け入れたって訳」


 随分と簡単に言っているが、実際は凄まじく切実だ。

 ネレイド族は白蛇の庇護(ひご)を受ける代わりに従属している。

 ユズの想像よりもネレイド族は悲惨である。

 だからこそネレイド族は必死である。


 「……思った以上に複雑なんですね、この街は」

 「まぁねぇ、住民たちだって、問題起こす時は起こすし、いつなにがあるかわかんないし」


 そう言うと白蛇が溜息(ためいき)()いた。

 今は比較的平和であるが、森には想像もしないような強大な魔物がいるし、外は外でなにがいるか分らない。

 魔物街を安全に発展させるにはどうすればよいか?


 「おっ、アイじゃん!」


 ふと、白蛇の前をゴブリンの聖女アイが横切っていく。

 アイは声に気付くと、ゆっくり白蛇に振り返った。


 「あら白蛇様、お帰りなさいませ」

 「おお白蛇様!」


 祭服に身を包んだゴブリン族の一団は皆白蛇の前で両手を合わせ、膝を折った。

 それを見たイーリスたちは驚く、改めて白蛇の立ち位置が分からなくなってくる。


 「いいよいいよ、そんなに畏まらないで、巡行を邪魔(じゃま)してごめんねー」


 白蛇は相変わらず気前よくそう言うが、ゴブリンたちの信仰心は止むことがない。


 「遍く星々の神々にも劣らぬ、白き翼の守り神、白蛇様にどうかお祈りを」

 「だーもう、俺はただの白い蛇だって」

 「ご冗談を」


 アイは目を閉じたままクスリと微笑む。

 それをユズは険しい顔で真剣にアイを見ていた。

 ゴブリンの聖女アイ……異例の力でゴブリン族の地上進出を果たした女。


 「……? あの、なにか?」


 アイは視線に気付くと、ユズは顔を強張らせた。


 「いえ……その貴方がゴブリンの聖女様、ですか?」

 「はい、最も聖女など名ばかりですが」

 「ほらアイだってさー、こいつ凄いんだぜー、もう雷魔法使わせたらめっちゃ怖いし!」


 アイは少しだけ顔を赤くする。

 手に持つ錫杖(しゃくじょう)にビリリと紫電が走った。


 「そういう白蛇様には少しおしおき」


 そう言って錫杖を白蛇の額にペタリ、すると電撃が白蛇の全身を走る。


 「アババババババッ!?」


 白蛇は舌を出して全身を痺れさせる。

 ユズは驚く、ここまでしてもいいのか?


 「だ、大丈夫ですか白蛇様!?」

 「ぷへぇ、大丈夫〜」


 アイは悪びれず今度は白蛇に癒やしの魔法を掛ける。

 《レスト》の魔法によって、白蛇は痺れを取り除く。

 だがプスプス焦げるような臭いは消えなかった。


 「アイー、いくら治癒力はある方つっても、アレはちょっとキツイぞ」

 「白蛇様は自由過ぎ、少しは落ち着いて欲しいわ」


 アイからすれば、白蛇は世界で一番王様らしくない王様。

 自由で考えなしで、気がついたら変な面倒ごとを抱えてくる。

 基本的に為政者としての自覚が無いのだ、これだけは困った神様である。


 「……貴方たち、本当に何者なの?」


 しかしその距離感が分らないユズは、呆然だった。

 白蛇も白蛇ならば、聖女も聖女。

 まるで喧嘩友達にも思える親しさだ。


 「……イーリス族、そう……また巻き込んだのね?」

 「またってなんだ、またって! この方々はお客様!」


 白蛇はあくまで来賓としてイーリスを見ている。

 イーリスの目的は友好関係を築くこと、ならばこそリュウイチ流におもてなしするのだ。


 「そう……ではイーリスの方々にも、星々の神々の加護を」


 アイはユズの頭に錫杖を乗せると静かに祈る。

 ユズは複雑な顔で受け入れた。

 そのままアイは次々イーリス族の頭に錫杖を乗せ、祈りを捧げていく。

 本当に、本当に真摯な聖女様だ、ちょっと天然だけど。


 「それでは、私たちはこれで」


 アイは再び頭を下げると、街を練り歩く。

 オークにもゴブリンにも、皆平等に祈りを捧げ、星々の加護を与える。

 全うな聖職者、きっと彼女の祈りは誰よりも尊いだろう。


 「……あれがアイ」

 「ちょっと天然だけど良い子だろ?」


 電撃を浴びたにも関わらず白蛇はケロっとそう言う。

 それだけでとてもアイを信頼していると解る。

 ユズにはそれは無理だ。

 まだリュウイチもアイも信用はしきれない。


 「まっ、気を取り直してさ! 街を案内するよ!」


 祭りは夜まで続く。

 白蛇は笑顔でユズを誘うのだった。

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