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第53話 イーリス族の来訪

 魔物街の空を背中から翼を生やした翼人たちが浮かんでいる。

 それは街の住民にもいくらか気づかれているが、ただ傍観していた。

 もとより地上から天空を支配するイーリス族をどうこうなど出来る筈もないが。


 「うーん、なんだアレ?」


 それを目を細めて見ていたのは街への帰還中の白蛇リュウイチであった。


 「リュウ様、なにが見えているんで?」


 お供として連れられたゴブリンは白蛇に聞いた。

 ゴブリンやオークの視力では到底見えない、改めて白蛇の視力が凄いのだ。


 「んーとなー、なんか天使みたいなのが、いっぱい飛んでる」

 「天使? 天使ってなんだ?」


 おっと、魔物に天使はないか。

 白蛇が目視したのは、よくある翼人というところか。

 ともあれ、初めて見る種族だ。

 もしかして……白蛇はある種族を思いだす。


 「もしかしてイーリス族じゃないのか?」


 大森林北部、トロス山脈に生息する別名飛翼族とも言われる種族。

 コボルトがドワーフ王国と交易の仲買人として付き合いのある種族だったと記憶している。


 「……とすると、まさかイーリス族が街に訪問を?」


 白蛇は満面の笑みを浮かべた。

 実はイーリス族には興味もあった。

 もし交流を持てるなら、きっと大きな友ともなれる可能性がある。


 「となると急いで帰らなきゃ!」


 白蛇は光の翼を広げる、しかし後ろを気にした。

 大八車を引っ張るオークたちは間違いなく白蛇についてこれない。

 どうするべきか、イーリスが魔物街へと来たのなら、自ら歓待するべきだろう。

 だがここで連れたった仲間を放置はしたくない。


 「ううん、急がないと間に合わないかもしれないけど、皆を放置なんて出来ないし……」


 主君たる白蛇の逡巡(しゅんじゅん)、それを見たゴブリンは言った。


 「護衛は我々で充分でしょう、お先にどうぞ白蛇様よ」

 「……いいのか? まだ街は遠い、魔物と遭遇する可能性だって」

 「我々とて、日々鍛錬する兵士、並大抵の魔物には引けなど取りません」


 たしかに連れて来ているのは、街道警備も任された精鋭ゴブリン兵である。

 上澄みといえる実力者だが、恐ろしいのは大森林の底知れなさである。

 完璧など存在しない、アクシデントは常に付き纏う。

 しかし大八車を引くオークたちも白蛇に対して「安心してほしい」と言った。


 「いざとなれば逃げましょう、我々とて長く大森林で生きる魔物です」


 しかり、オークもゴブリンも大森林の魔物の一種、ともなれば白蛇よりもよほど大森林を理解している。

 先人に(なら)え、最終的にリュウイチは頷くと浮上した。


 「それじゃ皆、先に行かせてもらうぜ」


 そう言って空高く飛翔する。

 リュウイチは街へと向かいながら、あるペンデュラムの啓示を思い出した。

 北部、トロス雪山から運命の啓示。

 もしかしてイーリス族がなにか関わっているのか?

 リュウイチの占星術はいまだ理解が及ばない。

 占いの才能も教授なければ、ただの勘と同じ。

 ただ悪い予感はしなかった。

 きっと良い出遭いだ、そう信じよう。


 「でも……だとすると」


 蒼穹を飛翔しながら、彼は森の外を眺める。

 ペンデュラムの啓示はもう一つ、森の外を示していた。

 森の外、人間の国。

 リュウイチには、人間は嫌な記憶しかない。

 フレイアとレギを貴重という理由で付け狙い、ゴブリン族までも利用して裏切った悪逆非道の奴隷商。

 あの男は今も恐怖を貼り付けたまま石像として街の入口に飾ってある。

 いわゆる見せしめである。魔物街に危害を加える者はいかなる者であってもこうなるという。

 事実、恐怖の人間像は初めて訪れる者を驚愕させ、また観光名所の一つにもなっている。


 「まっ、考えても仕方なし、また人族が仕掛けてくるなら、今度は完璧に迎え撃つ!」


 ゴブリン族侵攻の教訓は街を強固な城塞都市へと変貌させた。

 高い白亜(はくあ)の街壁は美しくも堅牢で、レギの建てた古ドワーフ式である。

 ドラゴンでさえあの街壁を一撃では破壊できまい。

 だが白蛇は野戦を想定している。

 大森林の深い地形を利用すれば防衛戦も可能だろう。

 もう街は襲わせない、白蛇は真剣な表情で飛翔する。


 光の翼から美しく光の粒子(パーティクル)が霧散していく。

 やがて白蛇の体から白い雲が細い筋を作っていく。

 今はまるで寒くない、それほどの高度であるのに。

 ただ無心、光の翼の保護を受けて、白蛇は迷わずイーリスの集団の元へと飛び込んだ。


 「な、なんだこの白蛇は!?」


 イーリス族は六人、男性も女性も白いワンピースの民族衣装を着ている。

 驚いた男は腰に帯刀していた刀を構えた。


 「おっと、驚かせて済まない! 俺はリュウイチ、この魔物街を一先ず治めさせてもらっている」


 白蛇はそう言うと、丁寧に会釈する。

 空飛ぶ奇妙な白蛇に最初は訝しむイーリス族、しかし一人の女性が前に出ると、白蛇に礼をする。


 「噂はかねがね、貴方様が白き翼の守り神なのですね」

 「えっと、君は……」


 金髪の、まるで天女を思わせる美しい女性、その背中には一切(いっさい)の汚れもない純白の翼が雄々しく広げられている。

 女性は温和な笑み、そして白蛇を前にして心の余裕があるかのようだ。

 なんとなく大物だな、白蛇は感心する。


 「それで、イーリス族の方々が魔物街へなんの用で?」


 白蛇は僅かに警戒しながらも、あくまでイーリス族の出方を待った。

 数は多くはない、だが強盗紛いなら厄介だ。

 彼女らは空を飛べる、この絶大なアドバンテージは地上の者にはない。

 ややあってイーリス族は僅かに話し合うと、一人の男性が前に出て、白蛇にある巻物を差し出した。


 「どうかこの書状、お受け取りください」


 六人の中では一番身分が高い、例えるならば外交官か。

 白蛇は白ラミアへと身体変化(メタモルチェンジ)すると、書状を受け取った。

 いきなりの変身に、初めて見る者は驚く。普段は一番警戒されない白蛇姿だから余計だろうか。

 ラミアはらしくないし、ケートゥはビビられる、蛇生(へびせい)は難儀なようだ。


 「……とりあえず、魔物街へどうぞ、魔物街は悪人以外は大歓迎だぜ」


 一先ず書状の中身は改めず白ラミアは魔物街へと一行を案内する。

 最初は警戒していたイーリス族であるが、意を決して魔物街へと降り立っていく。

 白ラミアが案内したのは中央庁舎前、今は星聖祭の櫓が聳える大広間である。


 「想像よりもずっと大きいわね」

 「あぁ規模だけならドワーフ王国の地底都市にも匹敵するぞ」

 「いいえむしろ北ロンギーヌ連合でも、ここまでの広場は無いでしょう」


 イーリス族は実際降り立ってみて、口々に魔物街について呟いていた。

 リュウイチはまだ世界を知らない、けれどクスリと自慢げに微笑(ほほえ)んだ。


 「自慢なんだぜ、もっともっと大きくなるからな!」

 「更に……! モーアの大森林にこれほどの都市が建設されるなんて」


 長らくモーアの大森林を開拓する者はいなかった。

 否、出来なかったのだ。

 ゴブリン族が地上を夢見て、何度も開拓しても大森林の摂理に阻まれ、これまで小さな村落以上にすることは叶わなかった。

 それをリュウイチは、僅か数ヶ月で数多くの種族が行き交う魔物の為の街へと変貌させたのだ。

 高い諜報力を持つイーリス族でさえ、コボルト族との交流でこの街のことを知れた。

 イーリスは高い知能と集団性がある。だからこそこの魔物街が如何に規格外(イレギュラー)かよく理解る。


 「あの、質問なんですが、この街はどれくらい住んでいるのですか?」


 ある背の低い女性が挙手した。

 本来なら国防に関わる情報だが、リュウイチはというと。


 「んー住民票を確認しないとはっきりしないけどたしか――」

 「住民票? え? まさか……」


 察しの良い者はリュウイチの僅かな言葉に魔物街が高度な住民管理を行っていると気付けた。

 そう魔物街では戸籍謄本を製作し、住民票で個別に管理しているのだ。

 それはおそらく人族の国でも、エルフの国でもやっていない筈。

 この街は子供一人に至るまで、はっきりした情報があるのだ。


 「とりあえず家庭住民科に行って調べて来ようか?」

 「あっいえ! お、お気になさらず! ただき、気になっただけで」


 質問したイーリスは大慌てだ、まさかの反応に逆に困ってしまう。

 それに助け舟を出したのは、最初に挨拶した女イーリスであった。


 「申し訳ございません、国防にまつわるもの、気軽に話せる訳もありませんよね?」

 「え……ぁ」


 まるで()()()()というように、リュウイチは間抜けな顔を見せる。

 その美しく聡明なイーリスは口元に手を当てて、優しく微笑んだ。

 大人の余裕だ、リュウイチには無いものである。


 「そ、そうだったーイッケネー」


 リュウイチは明後日に方を見ながら割れた舌をチロチロ出してすっとボケる。

 これをあのハイエルフが見れば「だから馬鹿なのよアンタは」と、苦言でも呈しただろう。

 ただリュウイチは国民の数が国防に繋がるなんて想像もしていなかった。

 知られたところで、それが何になるか、思考の欠如である。


 「落ち着きなさって、ね?」


 ただそのイーリスは優しく包容的に白蛇に諭す。

 なんだか心が洗われるようで、リュウイチは新鮮な気分に浸れた。

 このイーリスは、優しい!


 「エヘヘ、ごめんねー、俺うっかり!」


 デレデレ顔で頭をペシンと叩く。

 イーリスはただ穏やかな顔を見せた。


 「そういや書状、すぐ確認いるよな?」

 「出来れば」


 リュウイチは丸められた書状を広げる。

 いわゆる羊皮紙、そこには達筆な字で異世界文字で文章が書かれている。

 最初まるで英語のような形象文字のような文字にリュウイチは眉をひそめた。

 だがすぐにぼんやりと異世界文字が、見慣れた日本語に変わっていく。

 神の半身の標準能力【異世界適応(ベターフォーマル)】である。


 「なになに、イーリス族は正式に魔物街と友好関係を築き、共に積極的な交流を望む?」


 随分とお硬い文章だ。

 リュウイチは改めてイーリス一行を見た。

 ガタイの良いイーリス男性は頷く、彼らは使節団なのだ。


 「我々マルファの民は正式に魔物街と友好関係を築く為に参りました」

 「なるほど、まさかねー」


 星聖祭の前、振り子が示す運命に北からの出会いがあった。

 どうやらこれがその答えだったらしい。

 色々聞きたいことはあったが、まず彼らの代表がリュウイチの前で跪く。


 「私はマルファの民、族長リューリスの長男ビリスであります、どうかお見知りおきを」


 端正でガタいの良いイケメンのビリスはそう言って顔を上げた。

 同じく、跪くあの美しいイーリスは。


 「マルファの民、ユズと申します」


 ユズ、見たところこの中で一番(えら)いのはビリス、ついでユズだろうか。


 「それじゃ改めて俺は白蛇リュウイチ、とりあえずオッケー」


 リュウイチは頭の上で両手でマルを作ると、にこやかに微笑んだ。

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