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第47話 ベヒーモスと不死の女王

 モーアの大森林東部、中央に(そび)える巨大樹の下には伝説で伝えられる邪龍が今も眠っているという。

 その邪龍が放つ瘴気(しょうき)は、地下から周辺へと滲み出し、封印洞窟に近いほど魔物は強大で狂暴だ。

 白蛇ならば、決して近づくまいこの魔境へと、飛翔するのは大型バス並の体格の三毛猫の姿。

 禍々しい翼を広げ、三毛猫(ベヒーモス)が目指しているのは、巨大樹のほとりにある(いおり)である。

 庵の周囲には禍々しい気配がこれでもかと(あふ)れている。

 入口には龍の頭蓋骨が飾られ、見るものを威圧する。

 ベヒーモスは気圧されながら、庵の前で大きな鳴き声をあげた。


 「来てやったニャー、シショー!」


 次の瞬間、ベヒーモスの視界は禍々しい骨の玄室を捉えた。

 驚く、が同時に呆れた。

 目の前に安置された頑丈な石櫃(せきひつ)がゆっくりと開く。

 すると中から瘴気が噴出し、白骨死体がせり出してきた。


 「クカカカ、(わらわ)の眠りを妨げるのは誰じゃ?」

 「師匠、別に眠りについていた訳でもないでしょニャー」


 白骨死体は沈黙、しばし待つとパチンと指を鳴らした。

 するといかにもな玄室は広く、少し薄暗い迷宮へと変わる。

 白骨死体は急速に肉が張り付き、青白い肌の魅惑の女性がベヒーモスの前に現れる。


 「なんじゃせっかく愛しの馬鹿弟子を呼んだというのに、感じの悪い(やつ)め!」


 プンスカプン、ネクロな表情は金の冠に隠れよく見えないが、プリプリ怒っているらしい。

 彼女は指を鳴らすと、どこからか白衣が飛んできて、彼女に纏わりつく。

 そのまま白衣を纒うと、手近にあった丸椅子に座った。

 肩肘を置く鏡面仕上げのテーブルには、熱々のコーヒーの入ったカップもあった。

 ここは庵に偽装した彼女――不死の女王(リッチクイーン)研究室(ラボラトリー)だ。


 「ベヒーモス、ベヒーモスベヒーモスベヒーモスゥ! お前まだその姿なのか? ランクアップしてないみたいじゃないか」


 ベヒーモスはしょんぼり肩を落とす。

 師匠の指摘の通り、ベヒーモスはランクアップ間近ではあったが、まだ姿はそのままであった。

 大森林でも有数の☆☆☆☆☆☆☆(ほしななつ)、とはいえ目の前のリッチクイーンは遥かに格上だ。


 「うぅ、アタシだって頑張っているニャー」

 「言い訳無用! こーんな幼い頃から育ててやったのに、おろろーん」


 (てのひら)を水平にして、テーブルから離して比較するが、それだと産まれたてのベヒーモスは体長一○センチメートルになってしまう。

 それにはベヒーモスも顔を()()にして、猛反論する。


 「そんなに小さくは無かった筈ニャー! その三倍はあった筈ニャ!」

 「この戯けが! 五十歩百歩じゃ! ベヒーモス、強くなって妾を越えるんじゃ無かったのか、ええ?」


 バコン、と鉄のハンマーがベヒーモスの頭部を叩く。

 ベヒーモスは恨めしくリッチクイーンを見るが、彼女には抵抗しなかった。

 ベヒーモスが知る限り大森林の第三位、二千年を生きる不死の女王は伊達ではない。


 「……それで、グチグチ小言を言いに呼んできたのかニャ?」


 先日、夢にこの師匠が現れて、直ぐに戻ってこいと言われた時は、血の気が引いた。

 今でも気が重いくらいだ、ベヒーモスからしても、彼女は天才的魔法使いであり、そして異次元の探求者だ。

 ベヒーモスの倫理観を育てた張本人が如何にとんでもないか身に沁みている。


 「そうだった、まだまだ情けないお前を見ると、妾悲しくてのぅ」

 「だから嘘泣きはいいニャ、というか涙腺なんてとっくの昔に腐ってるでしょうニャー!」

 「失敬な! 新鮮さを保つ為に、コラーゲンは必須なのじゃぞ!」

 「ああもう意味がわかんニャい! 師匠ってば、さっさと要件を言ってほしいニャ!」


 師匠は無言、ただコーヒーカップを掴むと、ゆっくり口へと注いだ。


 「ふぅ……もう間もなく、神々の観覧闘技(ウォーゲーム)が始まる」

 「ニャ??? なにそれ?」

 「千年に一度じゃ、神々が選んだ者ら最強を証明する為に、国盗りを行う」


 七柱の神々がこの世界を千年単位で一新する。

 神々の加護を持ったプレイヤーが、全てのプレイヤーを倒せば勝利するというルールだ。


 「たしか千年前の勝者は人族の英雄であったな」


 現在大陸は人族に大半を支配されているのは、千年前の名残りだという。


 「ニャー、千年前たって、師匠以外じゃハイエルフでもそこまで長生きはいないんじゃないかニャー?」


 リッチクイーンはクククと笑う。

 だからこそ、不死者となったのだ。

 今や古の大賢者さえ畏れる魔力を持つに至ったが、リッチクイーンにとってそれは片手間でしかない。

 リッチクイーンの目的は万物を解き明かすことにある。


 「ところで話は変わるが、兄貴ってなんじゃ?」

 「ギクギクッ!?」


 見たこともないほど毛を逆立てたベヒーモスに、「わお」とリッチクイーンは両手を叩いた。

 こうなるとリッチクイーンのニヤニヤ笑いは止まらない。


 「ククク、最強になるとほざいておいて、お前が舎弟になるとはのぅ?」

 「な、ななななんのことニャ? アタシは今でも孤高を貫くベヒーモスニャー」


 すっごい上の空、リッチクイーンには丸わかりだというのに無駄な抵抗である。


 「魔物街じゃったか? 僅か半年あまりにも関わらず、下手な村よりも大きくなりおった」


 千里眼さえ持つリッチクイーンならば、魔物街さえ訪れることなく全て把握している。

 非常に興味深いことに、二千年どころか、神話の時代から争っていたオーク族とゴブリン族が奇跡の和解を果たしている。

 それだけに留まらずコボルト族まで加わり、もはや魔物街は無視の出来ない都市となっていた。


 「……師匠、ニャーが弱いのは認めるニャー、でもそれと兄貴は関係ないニャー」

 「何を勘違いしておる馬鹿弟子め、強者が全てではないと教えたであろう?」


 ベヒーモスは目を丸くする。

 リッチクイーンは開いた手で虚空に指で切ると、燐光(パーティクル)が瞬いた。


 「妾が如何(いか)に強大といえど、この魔素が無ければ、不死の維持さえままならぬ」


 燐光はリッチクイーンに纏わりつき、青白い肌から吸収される。

 不死の女王といえど、無敵ではないという証左(しょうさ)であった。


 「強いとはなにか、それはしぶとさじゃ、妾は菌には敵わぬ、目に見えぬ細菌にさえ勝てんのじゃ」


 ドラゴンは強いか、ゴブリンは弱いか、リッチクイーンの言う強弱理論は少し違う。


 「一万年だろうが、一億年だろうが、生き残った奴が最強なんじゃ、己を至高と思っている内は、足元にいる虫にさえ劣ると気付かぬものよ」

 「ニャー、それなら師匠は限りなく最強ではないかニャ? 不老不死ニャ」

 「うむり、紛れもない。じゃが妾は不死と言うて不滅ではないのでな、それに――」


 ニャニャ? ベヒーモスは首を傾げる。


 「話相手がいないと、流石(さすが)の妾も心が擦り切れるんじゃー!!」


 そう言うと、リッチクイーンは身体を激しく振るった。

 孤独が不死者を殺すとは、二千年も生きたリッチクイーンの最大の弱点である。

 やっぱり師匠は師匠だニャ、ベヒーモスは呆れ返った。


 「だったら、なんで空間までイジって引きこもっているニャ?」


 あらゆる魔法を(きわ)めているリッチクイーンならば、人間の振りをして人族の街に住むのだって不可能じゃない筈なのに。


 「ふっ、妾は不死の女王ぞ、そんなはしたない真似――」

 「でもそれ自称ニャ、結局面倒くさいだけでしょニャ」

 「グフッ!? 馬鹿弟子、それは言ってはならんだろうが!」


 リッチクイーンはベヒーモスの周囲に無数の剣を浮かび上がらせる。

 ニャニャ!? ベヒーモスは構える、同時に剣が一斉に襲い掛かった。

 ベヒーモスは瞬時に全身を鋼鉄化、剣は逆に硬さで負けて砕け散る。


 「そういう性格だから友達も出来ないでしょうがニャー!」

 「と、友達いるもん! 皆墓の下に行っただけで!」

 「師匠は面倒くさい喪女ニャー!」

 「あぁ言ったな馬鹿弟子ー! ちょっとそこに直れ!」

 「イーヤーニャー!」


 ギャアギャア、はたから見れば世界を三度は壊せる化け物どもが暴れている。

 リッチクイーンにとってこれは、生き甲斐なのかも知れない。

 もっとも、ベヒーモスからすればはた迷惑なのだが。

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