第46話 セブンターキー養鶏計画は暗礁か?
ドタドタドタ、大地を踏み鳴らして二羽のセブンターキーが魔物街へと侵入してくる。
なんだなんだと、守衛は槍を構えて門の前に集まったが、その槍をセブンターキーに向けることはなかった。
「アッハッハ! フレイアいるかー?」
セブンターキーの背に白蛇が乗っていたからだ。
白蛇のリュウイチに魅了されたセブンターキーは、言いなりとなって魔物街までやってきた。
セブンターキーを初めて見る多くの住民は、恐れながらも白蛇一行を取り囲む。
「なによ、こっちは朝から疲れてんのに、この騒ぎはなんなわけ?」
丁度イチゴの農業試験場から疲れた顔でやってくるハイエルフの女がいた。
この街で唯一のエルフ、リュウイチは直ぐにフレイアの下へと這い寄った。
「おーフレイア、養殖やってみようぜー!」
「………はぁ?」
凄まじい三白眼、上のエルフにあるまじき顔で白蛇を見る。
白蛇は「え?」と口を開けたまま固まった。
「アンタ馬鹿ぁ? いやむしろ馬鹿か。養殖って、ノウハウはどこにあんのよ?」
「えー? ハイエルフなんだろ? それくらい知識あるんじゃ?」
「ハイエルフをアンタみたいな異常存在と一緒にすんじゃないわよ!!!」
凄まじい怒気を込めて怒られると、流石にリュウイチもシュンと縮こまる。
フレイアは呆れた顔で二羽のセブンターキーを見ると、冷静に質問した。
「それであのでっかい鶏はなんなの?」
「セブンターキーっていう珍しい魔物らしいぜ」
「コッコケー!」
フレイア並にデカいセブンターキーはけたたましく鳴く。
魔物の知見なんてフレイアは殆ど持っていない。
それを養殖しようぜ、だなんて本当に白蛇の奴は正気なのか。
「養殖ねぇ、出来るのかしら?」
「ほぉ、これは珍しいセブンターキーではありませんか」
フレイアの後ろから小柄なコボルトの男性がやってくる。
オストだ。オストはリュウイチに恭しく頭を下げると、セブンターキーを拝見した。
「オスト、セブンターキーを知っているのか?」
「はい白蛇様、私も各地を練り歩きながら、その姿は何度か目撃したことがあります」
「流石オストね、どんな魔物なの?」
フレイアもオストの造詣には一目置く。
こういう落ち着いた男性って素敵よね、フレイアの純粋な評価は白蛇よりオストの方が魅力的のようだ。
「詳しいことはそれほど、ですが見つかる時は番である時が多いのです」
「そういや、俺が見つけた時もだったな」
「ふーん、そういう習性なのかしら?」
小さな生き物は群れる傾向にある。
鶏は典型的だ、そして魔物もしばしば徒党を組む。
オークにゴブリン、この街の魔物たちがその性質もあって、一つになれたように。
「それで養殖でしたか? それは難しいと思いますが」
オストはやんわりと進言する。
崇拝する白蛇様の願いは叶えて差し上げたいが、セブンターキーはタダの鶏に非ず。
魔物であり、それなりに危険なのだ。
「エルフだって、何でもかんでも仲良くはなれないのよ?」
「養殖に向いているかどうかは、個体の性質にも寄りますが……」
魅了されたセブンターキーはおとなしい。
だけどずっと魅了しっぱなしとはいかない訳で、セブンターキーをどうやって飼うというのか。
白蛇はその問題が完全に頭からすっぽ抜けていた。
今までがトントン拍子過ぎたのだろう、普通新しい産業を基礎知識も無しに始められる訳がない。
「まぁ可哀想だけど、さっさと屠殺しちゃうべきでしょ」
「そうですね、セブンターキーはとても美味だと聞きます」
フレイアとオストは屠殺を推奨してくる。
白蛇は慌てて二人を制止した。
「ま、待て待て待て! せめて卵を産んでから、な?」
「卵って、そんな簡単に産むの?」
「セブンターキーは非常に神経質で臆病、どんな巣を作るのかさえ理解っていませんが」
「生態が意味不明って、まるで白蛇ねー」
フレイアから得体の知れないモンスターとして見られていることに、白蛇はぐうの音も出せない。
本当は半神という神さまのような存在なのだが、公にはしていない。
なんとなく、リュウイチはあくまで魔物街の住民と同じ目線で生きたかった。
蛇神の眷属という情報はある種ノイズとなっている。
「よ、よーし、とりあえずセブンターキーたち、ここが新しい住処だぞー」
白蛇は気を持ち直して、セブンターキーを自由にしてみる。
セブンターキーは周囲をキョロキョロしながら歩き出した。
大柄なオーク族はともかく、小柄なゴブリン族は慌てて、距離を離す。
「クッククク、コケーッ」
二羽のセブンターキーは一定の距離から離れない、地上に落ちた稲籾を啄みながら、広い農場を自由に闊歩する。
「しばらく経過観察させてくれない?」
白蛇はフレイアにお願いするように、光の翼で合掌する。
フレイアは深い溜息を吐くと。
「まったくこの街の守護神さまは、私に無茶振りばっか押し付けやがって」
「本当にごめん、でもフレイアは頼りになるから」
そう言われて嬉しくない訳が無い。
そうよ、頼られるって嬉しい。
純粋な信頼が嬉しい、白蛇は本当にフレイアを頼ってくれる。
ハイエルフとして産まれてしまい、疑心暗鬼の人生の疲れ果てて、やっと得た安住の地。
「いいわよ、ただしこっちは本当に忙しいの、こっちの要望も聞いてもらうわよ」
「はいなんなりとー!」
もはや白蛇は言いなりだ。
しばしば無茶振りするが、白蛇自体に陰湿な裏はない。
だからこそフレイアは応えてあげたいと思うのだろう。
「とりあえず、しっちゃかめっちゃか動かれて、農作物に被害を出されたら敵わないわ、早急に牧場を整備しなさい」
「お、おう! 直ぐに作業させるぜ!」
おそらく白蛇の発言で、直ぐにでも牧場の拡張工事は進むだろう。
こういう時は、案外白蛇のフットワークが活きる。
問題はいまいち向こう見ずなところだろう。
「つーか、ベヒーモス帰ってきたら、あのデカ鶏、狩られないかしら?」
ここ最近あのメチャ強猫を見ていないが、ガーネットは苦笑した。
このままじゃ、どうせ牧畜の管理人までさせられるに決まっている。
白蛇ならそうする、ありがた迷惑なことに。
「まったく……私は農業専門だっつーのに」
白蛇は忙しそうに飛び回る。
フレイアは何人かにセブンターキーを見張っているよう指示を出すと、また疲れた顔でイチゴの試験場へと戻るのだった。




