表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/57

第44話 セブンターキー養鶏計画

 濃霧に包まれるセブンターキーの番。

 しかし番は気付くこともなく、給水に夢中であった。

 湖にはミズチという危険な魔物が棲息しているが、よほど大型でもなければセブンターキーを捕食出来る個体は少ない。

 それにミズチが近づけば、セブンターキーの鋭敏な直感が直ぐに退避を(うなが)すのだ。

 セブンターキーが幻と言われる所以は個体数の少なさよりも、むしろ鋭敏な気配察知能力で、中々姿を表さないからだという。

 だからこそ、濃霧など気にしない……だが。


 「こっちを見ろー、鶏どもー」

 「コケッ?」


 セブンターキーは濃霧の中、赤い眼を輝かせる小さな気配に振り返った。

 いざとなればセブンターキーには強力な風魔法がある。

 この個体ならば小さな竜巻を生み出すくらい容易なのだ。


 「ほーら、ぷるぷるボクは悪い魔物じゃないよー」


 二匹は魔法を放つ瞬間だった。

 邪眼(スネークアイ)に魅了されたセブンターキーは、敵意を捨て去り、白蛇に嬉しそうに向かって行く。


 「コッコケー」

 「ククククク」


 二匹は白蛇にメロメロにされた。

 濃霧が晴れると、テティスはそれを見て(あき)れた。


 「リュウイチ様、セブンターキーを手懐けたの?」

 「あぁ、ちょっと試したいことがあってな」


 リュウイチはセブンターキーの背中に乗った。

 普通なら嫌がる筈だが、リュウイチの魅了に取り憑かれ、奴隷と成り果てた証であった。


 「テティス、後で魔物街までおいで、おーし、セブンターキーたち、魔物街まで行くぞー!」

 「コッコケー!」


 白蛇を載せたセブンターキーはドタドタと走り出す。

 快速で時速四〇キロも出すのだから、驚きだ。

 馬力もあるし、白蛇は「ヒャッホー」と楽しそうに声を上げた。

 そのまま湖を去る白蛇とセブンターキー、テティスは少し不安げに胸を押さえた。

 そんなテティスに長老は優しく肩を叩く。


 「テティスや、あの白蛇は恐らくとんでもないお方じゃろう、じゃがきっとお主を守ってくださる」

 「……ほんとうに、また裏切られないか、私不安だわ」


 元々ネレイド族は南の暖かい珊瑚礁の海に棲息していた。

 そこで地元の漁師たちと協力して、永い時を生きてきた。

 しかし、突然マーメイド族が人族と結託し、ネレイド族を迫害しだしたのだ。

 マーメイド族の女が人族の領主と婚姻し、領主にネレイド族を追い出すようお願いしたからだ。

 人族からすれば、ネレイドとマーメイドの違いなんて殆どわからないだろう。

 実際は文化も習性もまるで違うというのに。

 マーメイドからすれば、ネレイドはなんだか気持ち悪かったのだろう。

 マーメイドの青い鱗、ネレイドの珊瑚礁のような赤い鱗は、対照的であり、元々の生息域の違いを現す。

 時に協力していた筈なのに、ネレイドは為す術もなく、人族とマーメイドの迫害運動に晒され、一族は散り散りとなった。

 テティスは絶対にマーメイドがやりたがらない汽水域への侵入を果たし、やがてモーアの大森林までやってきた。

 最初は三千人はいた、けれどもう三百しか残っていない。

 それでも長老はネレイドの存続を望んでいた。


 「テティス、マーメイドが憎いか?」

 「憎いに、決まっています……でも」


 敵う筈がない。

 実際のところネレイドとマーメイドにそれほど違いはない。

 亜種であり、同じ人魚神を祖に持つ民族でしかない。

 それでも人族と結託したマーメイドは恐るべき力を発揮した。

 投網を……自分たちさえ危険に晒す網をネレイドに向かって投げ、水中銃を向けるのだ。

 ネレイドの水魔法もマーメイドとは五分で、決定打にはならなかった。

 鉄の銛は、ネレイドの魚鱗さえもいとも容易く砕き、命を奪った。

 今でもマーメイドの笑い声を思い出すと、吐き気がする。

 嘲笑、マーメイドの凛とした美しい声が、テティスを嘲る。

 三匹狩ったぞ、俺は四匹だと、テティスは親も兄弟も、皆マーメイドに殺された。

 マーメイドにとってネレイド狩りはハンティングでしかない。

 どうして、人族はネレイドを守ってくれないのか。

 呪っても憎んでも、誰も守ってくれない。

 いっそクラーケンがマーメイドを滅ぼしてくれないか、リヴァイアサンよ、マーメイドと人族に裁きを。

 そんな呪詛が虚しく水の中に散っていった。


 「ならば学べ、魔物街にはきっと来たるべきマーメイドとの決戦に利するものがあろう」

 「そのために泥を(すす)えと?」


 長老は皮肉げに笑う。

 白髭に覆われた口元、長老こそ最も憎悪を滾らせているのだ。


 「汚泥などとうに啜っただろう? 十万のネレイドの栄光を取り戻せ、珊瑚礁を取り戻せ」

 「……はい、ネレイドの為に」


 世界のどこかにこんな確執(かくしつ)が様々ある。

 オークとゴブリンが争い、ある国ではエルフとオークが争う。

 人族と人族が何かに理由をつけて戦争する……そんな醜い世界だ。

 いつの日か、この日()べられた憎悪という種火が、誰にも止められないほど燃え滾るかも知れない。

 それは百年後か千年後か、ネレイド族の逆襲がどうなるのか。

 歴史は動く、ただそれだけのこと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ