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第43話 ネレイド族

 再び平穏を取り戻した湖畔、白蛇の前でテティスらネレイド族が整列している。


 「ふむ、つまり住処(すみか)を追われて、泣く泣くこんな危険な森にまで逃げ込んできたのか」


 テティスは暗い顔で頷く。

 ネレイド族の中には海を知らない子供さえいる。

 それほど過酷な逃走劇がこの少女らにはあったのだ。


 「地下水道を通って、ここまで逃げ込みました……けれど」

 「まさか地下で海まで繋がっているなんてなぁ」


 本来温暖な海に棲むネレイド族にとって、淡水はそれほど過酷である。

 まず勝手が違う、浮力が異なるため浮かぶだけでも一苦労だ。

 乾燥耐性に弱かった者たちは、次々と脱落し、生き残ったのは淡水に適応出来た僅かな者たちである。


 「ダーウィンは進化を自然に適応した種だと言ったそうだが、こういうことなんだろうな」


 恐らく生物界というのは、見えていないだけで、ネレイド族のような適応はしてきたのだろう。

 何故生物は陸上に進出したのか、何故世界は固有種で溢れているのか。

 ただ少女らを思えば、白蛇にも憐憫(れんびん)の想いが募ろう。


 「よく頑張ったな、けどもう安心してくれ、俺がネレイド族を守ってやる」


 ネレイドたちは皆感嘆の声を上げ、何人かは泣き出してしまう。

 ようやく得た地は、安住の地などではなく、過酷な生存競争の舞台であった。

 それでも安全の保証を受けられるのは、彼らにとって神の救いの手に他ならない。


 「俺の本拠地はさ、ここから西にずっと行ったところにある魔物街なんだ」

 「それって、オークとかゴブリンが住んでいる街?」

 「えっ? テティス知っていたの?」


 意外、テティスは小さく頷く。

 湖から伸びる川は魔物街へと繋がっている。

 流石に魔物街の用水路にまで来たことはないが、そういう街が急速に発達していたのは知っていた。


 「だったらさ、気軽に魔物街へと遊びに来てよ、結構驚くよ?」


 ネレイドたちは顔を見合わせる。

 どうするべきか、議論している様子だが、長老と思われるネレイドが、リュウイチに頭を下げた。


 「では、テティスら数名を魔物街へ寄贈しましょう」

 「ちょ、寄贈って」

 「リュウイチ様、どうか我らネレイドに加護を」


 テティスは両手を祈るように合わせる。

 戦国時代、血縁を結んだ家に足の腱を切った娘を差し出したという事例を思い出す。

 命がとても安かった時代、血縁関係を広げて安全を守ろうとする大名たちは多かった。

 ネレイドという小さな家が、血族を守るためにやっているのは、戦国大名たちと同じだ。

 娘を人質として差し出す、それしか生き残る選択肢はない。


 「……わかった、魔物街はネレイド族を迎えよう。可能な限り俺もネレイド族の要求を受け入れよう」


 長老はもう一度頭を下げる。

 処世術というのは、時として気分が悪くなる。

 ハプスブルク家というオーストリアだかの家は、最初は弱小であった。

 だが縁故を重視し、数多くの名家に娘を嫁がせ、オーストリアを大帝国にまでのし挙げた。

 思えばオークもゴブリンもコボルトも、弱小ゆえに苦しみの中にいた。

 白蛇という神に(すが)り、力を合わせて今のような巨大な都市国家へと成長した。

 それはこれからも同じなのだろう。新たにネレイド族が魔物街へと刻み込まれるのだろうから。


 「それでリュウイチ様は、どうしてこの名もない湖に?」

 「あぁ、元々は魔物街で星聖祭ってお祭りを催すんだけどさ、そこで料理として振る舞うフレイムコーチンとか、後はセブンターキーっていう魔物を探していたんだ」


 フレイムコーチンは大森林の至るところに生息する比較的生態ピラミッドの下層の魔物だ。

 白蛇なら見つけるのは容易である。

 だがセブンターキーは、流石幻と謳われるだけある。


 「鶏の魔物なら、この湖によく現れるわよ、ほら」


 テティスが少し離れた浜を指差す。

 丁度フレイムコーチンが一匹、水を飲みに現れたのだ……が、哀れ頭上からダイブイーグルが強襲、フレイムコーチンは火を吐き抵抗するが、鶏が鷹に敵う筈もない。

 そのまま持ち上げ、枝に突き刺すのだろう、がバシャァァアンと音を立てて、ダイブイーグルはミズチにパクリと捕食された。

 あわれフレイムコーチンとダイブイーグル、これが弱肉強食だ。

 そのままミズチは食事に満足して水面と同化した。


 「……うーん、生命の神秘」


 まるで動物番組のような迫真の捕食シーンに、思わず頭が真っ白になる。

 現実に目撃すると、むしろ気持ち悪いな。

 ダイブイーグルやミズチからすれば、生きるために食べているだけなのに。

 モーアの大森林はやっぱり危険だぜ。


 「リュウイチ様、セブンターキーってどんな鶏?」


 テティスの知っている鳥といえば、ニャーニャー泣くやつ、鋭い嘴で海へと飛び込んでくるやつ、それとペンギンとかいう飛べない鳥だ。

 森では海では見ない珍しい種が多く、時に襲ってくる危険な種までいる。

 海ではサメや海竜など危険な魔物も多かったが、森だと未知すぎる種に襲われるのだ。

 特にミズチ、元々この湖を繁殖地にしており、水と同化するという厄介な特性は海では、クラーケン種くらいしか見ない。

 幸いネレイド種は額から超音波を放ち、その反響音でミズチやクラーケンを探知出来るので、なんとかやってきた。

 ネレイドよりも更に恐ろしいのは、空を飛ぶ巨大な鳥や猫だ。


 「特にあの三毛猫は恐ろしい……! いきなり湖に雷を落としてきて」

 「………本当に、本当に、ほんとーに、ごめんなさい!」


 はい、ベヒーモスで間違いありません。

 兄貴として監督不行き届きで、ネレイドに迷惑かけていたことに白蛇の精神はズタボロだ。

 多分ベヒーモス、ここ意外でも相当やんちゃしているのだろう。

 まぁベヒーモスからしたら大森林は格好の遊び場、デカい猫がどれほど恐ろしいか、改めて思い知る。


 「えとね? セブンターキーってのはさ、七色の尾羽根の鶏でねー」

 「七色? アイツ?」


 テティスが湖の反対側を指差した。

 体長一二〇センチメートルほど、七色の尾羽根、真っ白い羽毛、()()な鶏冠をした鶏が二羽、仲睦まじく水飲みに現れていた。


 「え? 嘘……まじ?」

 「あの(つがい)、毎日ここに水飲みに来るわよ」


 念の為、リュウイチは《ステータスオープン》と唱える。

 表示されたのは、紛れもなくセブンターキーだった。


 「やった、直ぐにバルボたちに連絡を……いや、待てよ?」

 

 リュウイチは直ぐにバルボたち狩人を集めて、狩猟を狙うが直ぐにあるプランが思いついた。

 それはすなわち、魔物街【養鶏計画】だ。


 農業が軌道に乗り、オークやゴブリンが白米を食べるようになっても、依然としてタンパク質は魔物の狩猟次第という問題を抱えていた。

 幸い魔物の豊富な大森林はそれで住民を賄えていたものの、いずれ問題に直面するのは明白だった。

 もしも魔物の取り過ぎで、棲息数が減少したら、間違いなく飢饉(ききん)を迎える。

 魔物街は絶賛ベビーラッシュも重なり、人口は激増中だ。

 いずれ今ある都市では賄いきれないのではないかと、危惧もあった。


 「テティス、霧を操るスキルで、セブンターキーの周りに濃霧を出せるか?」

 「周囲に水相があれば問題ないです」


 テティスは目を瞑ると、水面から冷たい濃霧を生成する。

 濃霧はあっという間にセブンターキーを飲み込んだ。


 「……それで、どうするんですか? 狩りならある程度手伝えますが」

 「いいや、それよりちょっと実験したいんだ」

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