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第41話 湖畔の濃霧龍

 「やだなーやだなー、なんなんだよー」


 蒼い三日月の振り子(ペンデュラム)(しき)りに示す東の地。

 これまでこの振り子はなんらか白蛇に恩恵を与えてきた。

 ならば今回も天啓だというのだろうか。

 だが、それでも逡巡する白蛇。

 原因は彼が極度のヘタレだということ。

 こうなるならベヒーモスも連れて来るんだったと、愚痴っても後の祭り。

 因みにベヒーモスはここ数日魔物街を離れている。

 「ちょっと修行してくるニャ」とはベヒーモスの言葉だ。

 元々猫のように気まぐれで、気ままに狩りをし、昼寝をするような奴で、害を及ぼさなければ頼れるのだが。


 「うぅぅぅ」


 気になる。

 凄く、すっごーく気になるッ!

 一体東の森になにがあるのか。

 フレイムコーチン? いやそれともセブンターキーだろうか?

 あるいはそれ以上?

 なんにせよ振り子はそれ以上を教えてくれない。

 後は白蛇自身が信じるか信じないか、それだけである。


 「うぅ、好奇心は猫をも殺す、とも言うが」


 好奇心、射幸心、人が人である故に決して抗えないという感情。

 それはリュウイチも同様であり、リュウイチは人並み外れた好奇心を持つ。

 射幸心も人並み以上だろう、何度ジンクスを信じてソシャゲでガチャ爆死しただろうか。

 運のほどもあまり良いとは言えず、されど禁欲に成功した試しはない。


 「リュウ様ー! いったいどうされたか!?」


 フレイムコーチンの首を締めるゴブリンが、悶々と頭を抱える白蛇に声を掛けた。

 リュウイチは咄嗟に苦笑い、なにも問題はないと示す。

 既に地上の狩人一行はフレイムコーチンの群れを一網打尽にしている。

 その場で仕留めたのはまだ十羽に満たない。

 これではゴブリンの分だけでもまだ頭数が足りないだろう。


 「もっと探さなきゃ……おし、皆ー、ここからはフレイムコーチンをそれぞれで狩っていこう!」

 「おおーっ!」


 ゴブリンたちが喝采を上げる。

 バルボも頷いた。祭りに振る舞われる料理の材料はまだまだ足りないのだ。

 白蛇は東の空を見上げる。

 森の中央には雲さえ突き抜ける大樹が見えた。

 大木の下には、暗黒竜の住む封印洞窟があるという。


 「絶対あそこまでは行かないっ」


 やばいと思ったら即逃げよう、そう心掛けリュウイチは結局振り子に従うのだった。

 好奇心には敵わない訳だ。




 さて、リュウイチが振り子に従い樹海の頭上を飛んでゆくこと三〇分ほど。

 今のところ危険な魔物とは遭遇していない。

 危険と言っても、今やワイバーンでさえ倒すリュウイチをどうにか出来る魔物はそうそういまいが。


 「うーん、振り子の反応が強くなってきたけど」


 一度制止すると、周囲を見渡す。

 振り子はこの周囲を示している様子だが。


 「うーん?」


 なにも見当たらない。

 これは、当てが外れたか?

 射幸心を煽られた末に無駄骨だったのだろうか。


 「まぁ運なんて、いくらでも転がるもんだしな」


 如何(いか)にマジックアイテムといえど、完璧ではない。

 三日月の振り子はちゃんと仕事を果たしたが、その結果までは教えていないものな。


 「やっぱりバルボたちと合流するか……うん?」


 怖いな怖いな、もう戻ろうかと思っていると、ふと偶然にもリュウイチの視界に綺麗な湖の端っこが見えた。

 湖、白蛇はゆっくり降下し、湖畔に降り立つ。

 霧がかった大きな湖は静かで、少し蛇肌には寒いように感じた。


 「へぇー、大森林に水源は多いけど、こんなに大きな湖があったなんて」


 モーアの大森林は豊かな水源に支えられている。

 至るところに泉が湧き、湿地が溢れるが、ここは静謐(せいひつ)であった。

 どこか神々しさすら感じるような畏怖を覚える。


 「白きモノよ、ここからタチサレ……」

 「ッ!? な、なんだ!?」


 突然白蛇の前に霧が集まる。

 霧は巨大な濃霧の竜(ミストドラゴン)へと変化し、鋭い視線を白蛇へと向けた。


 「タチサレ、ここからタチサレ……」

 「ま、待て待て待てってば! 別に俺は湖で悪さするつもりなんて無いってば!」


 まさかのドラゴンとの遭遇に、リュウイチはしどろもどろになってしまう。

 咄嗟に神へと連絡を送るが。


 (神様ドラゴンです! 言うことを聞いて退くべきでしょうか!?)


 ていうか、直ぐにでも逃げ出したい。

 ドラゴンといえば、数々のラノベやアニメに出てくる最強格の魔物。

 創作においてドラゴンはやられ役といえど、その絶大な力はヴィランの中でも最高峰だろう。

 まして濃霧の竜など、未知数過ぎて危険度がまるでわからない。


 『リュウイチ君ー、その子ドラゴンじゃないよ』


 しかし、蛇神(かみ)から帰ってきたのは、実にタンパクな答えだった。

 

 「はえ? ドラゴン、じゃない?」


 ポカン、と間抜け顔を晒すと、濃霧の竜も訝しむ。

 蛇神はあくまで子供に優しく教えるように。


 『そもそもだね、竜族っていうのは、蛇族にとっては親族の一部なの』

 (親族? それってどういうこと?)

 『簡単に説明するとだね、ドラゴン族は、蛇族と恐竜族を祖とする子族なの、だから竜族が蛇神の眷属に無礼を働ける訳がないの』


 だからドラゴンじゃない。

 それを横で聞いたいた猫神はケタケタ面白可笑しく笑い転げた。


 『ニャハハハ! やっぱりニンゲンは間抜けでオモロイなぁ!』


 猫神にイラッとしながらも、白蛇は濃霧の竜を直視する。


 「俺は白蛇リュウイチ! お前も名乗ってみろ!」

 「ッ!? わ、ワレはこの湖の王ミストドラ――」


 その時、濃霧の竜は背後に気づかなかった。

 水面に溶けた水の大蛇(ミズチ)が鎌首を上げていた。

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