第40話 狩人の才
「バルボ殿、頼むどうか力を貸してくれ」
南門前で一人のオークが、六人ばかりのゴブリン族に囲まれていた。
オーク……バルボは未動きが出来ず困惑するばかり。
どうしたのか、流石に気になった白蛇が一団に近づくと、バルボは救いの神に感謝した。
「おーい、一体どうしたんだ?」
「リュウイチ様、それが……」
「リュウ様! 我々は星聖祭に向けて狩りを行うのですが、バルボ殿にもご協力願いたく!」
ようするに、狩人の数が足りない、と。
しかしバルボは狩人を実質引退した身、それ故に困ったのだろう。
「てことはフレイムコーチンが目当てか」
ゴブリン族が星聖祭で決まって食べるのが、フレイムコーチンだと聞いている。
ある一人のゴブリンは頷く、だがその顔は神妙そのもので。
「今回我々が狙うのは虹色鶏です」
「セブンターキー? 聞いたことないなぁ」
「幻とも言われる種だ。狩人のオラでも、見たことは一度か二度か、そんな程度の」
セブンターキー、フレイムコーチンと同じく陸上の鶏といえる。
しかしこちらは個体数が非常に少なく、それ故に幻と。
「なんでそんな面倒なのを狩猟しようとしているんだ?」
「リュウ様は我々ゴブリン族の旗印をご存知でしょうか?」
リュウイチは「うーん」と記憶から、ゴブリン族侵攻の時のことを思い出す。
たしか七ツ星の旗印、だったか。
「七ツ星、だよな?」
「えぇ、いつから伝えられたかは定かでありませんが、我々ゴブリン族が信仰するものこそ、夜空に浮かぶ七ツ星なのです」
白蛇は青空を見上げる。
今は星も瞬かないが、もしこの世界も宇宙が同じなら、見えないだけでそこに存在するのだろう。
ゴブリンは「そこで」と手を叩く。
「七色の尾羽根を持つセブンターキーは、とても縁起が良いのです! ですからこの魔物街での初年度こそセブンターキーをお納めしたく!」
「あーわかったわかったから!」
ゴブリンの熱弁に圧され、白蛇は苦笑いする。
要するに縁起物を揃えたいという訳だ。
「生息域は分かっているのか?」
「はっきりとは、ただ水場には必ず近寄るだ」
どんな魔物であれ、水場は重要だという。
フレイムコーチンでもセブンターキーでも、必ず水は必要なのだ。
「なら有力な水源に張り込むか?」
「時間が掛かるだ、それに見つけることが出来るとも……」
優れた狩人であるバルボでさえも、セブンターキーの確保は難しいのか。
「加えてセブンターキーは警戒心がとても強い、狩るのは並大抵ではない」
「フレイムコーチンじゃ駄目なのか?」
「無論フレイムコーチンも積極的に狩りますが、やはりセブンターキーこそ」
狩人というのも大変だな。
とにかくアイの依頼であるフレイムコーチンの納品を最優先にするべきだろう。
「フレイムコーチンの確保、俺も手伝うぞ」
「えっ? リュウ様が?」
「リュウイチ様が力を貸してくれるならありがてぇ」
「つっても、俺に狩人の才能はねぇーけどな」
バルボと違い、リュウイチにその才はない。
逆に言えば狩人の才を持つバルボはそれだけ凄いのだ。
「それじゃあバルボも狩人に復帰か」
「頼りにされるのは悪い気分はしねぇ、こんなオラでも必要になるってんなら、力くらい貸すさ」
バルボは本当に気の良いあんちゃんだな、と感心する。
ゴブリンたちは装備も万全、ご丁寧にバルボの装備まで用意されている。
「とりあえず俺は空から探してみる」
光の翼を広げると、白蛇は青空へと消えていく。
上空ではウイングスネークと見分けがつかない。
バルボはあの白蛇との馴れ初めを思い出した。
誤ってウイングスネークを射ったと思った時は、どうしていいかわからず混乱した。
今に思えば、あの出会いこそ始まりだった。
「オラになにが出来んのか、それはわからねぇけど、やるしかねぇだな」
バルボは矢筒を背負うと、大弓を手に持った。
近接用の手斧を腰に認め、準備を整える。
「それじゃバルボ殿、我々も出発しましょう」
「あぁ、行こうだ」
バルボ一行も出発する。
街の様子は平穏そのもの、着々と星聖祭の準備が進んでいる。
子供たちが、街の中を走り、よく戯れている。
大人たちはそんな子供を見守った。
白蛇は満足気だ。
やや性急にも感じる街の成長、だがそれもさながら愛し子のよう。
親の目線……というには、親心はまだ知りようもなく、その感情がなんなのかまだはっきりとはしない。
郷土愛なのだろうか、でもそれはバルボやオークたちが持つ郷土愛とはきっと異なるだろう。
ふと、白蛇は視線をバルボに移す。
守りたいな、そう素直に思えたのは、この蛇生が大切なものになってきたんだと思う。
もう人間じゃない。白蛇となって何ヶ月も経ち、それが当たり前になってくると、ふと疑問を浮かべる。
蛇の故郷とはなんなのか。
きっと、いや……間違いなく白蛇に故郷なんて存在しないのだろう。
蛇神の眷属の運命、きっと今ある想いも、いつかは風化していくのだろう。
少しだけ……恐ろしいな。
「さってと、フレイムコーチンはっと」
白蛇の優れたピッド器官からなる【熱源探知】は、森中を隈なく捜索する。
森は生きていると形容出来るほど、熱源は数多だ。
大きな熱源はマーダーグリズリー、小さな生き物だって熱を持つ。
逆に変温動物たる蛇は冷たく暗い色をしている。
虫や魚も同様だ、変温動物は陽の光と同化して判別し辛い。
だったら、陽よりも熱い異常な熱源はどれだ?
「おっ、バルボー! そのまま直進! フレイムコーチンだ!」
フレイムコーチンは体内に炎袋があり、体温が他の魔物よりも遥かに高い。
小さな群れだが、白蛇からは丸裸であった。
バルボはコクリと頷くと、矢を番えた。
同様にゴブリンの狩人たちもだ。
フレイムコーチンとの距離二〇〇メートル、フレイムコーチンはまだ気付いていない。
バルボは優れた視力と、狩人の才からなる感性で、弓矢を放った。
「コケッ!?」
見事一撃、バルボの放った鉄の鏃は、フレイムコーチンの喉元を貫く。
「ブラボー! おおーブラボー!」
「流石バルボ殿、この距離で当てるとは」
白蛇だけでなく、ゴブリンもその腕前を絶賛した。
☆☆☆☆☆にランクアップし、その技は更に磨きが掛かっている。
「やめてくれだ、オラの腕なんてフレイアさんに比べたらまだまだ」
仮にもハイエルフと比べるバルボ、どうかと思うぞとリュウイチは心の中で突っ込んでおく。
バルボの正確な強弓は魔物街でも一番であろう。
フレイアは別格……というか彼女曰く「弓なんてお遊戯でしか扱ったことないけれど、なんとかなるもんねー」だそう。
自分の体格に合わないオーク用の大弓でさえ、器用に使いこなす様を見れば、自信を無くす理由もわかるが。
「皆、散開するだ、フレイムコーチンを追い込むだ」
バルボはゴブリンたちに指示を送る。
ゴブリンたちは速やかにフレイムコーチンを包囲するように散開する。
一糸乱れぬゴブリンたちの連携こそバルボは感嘆する。
軍隊めいた規律を持つゴブリン、オークではまず不可能である。
ゴブリンは確かに体格に恵まれず、力もオークとは比べられない。
だからこそ集団戦こそ、ゴブリンの真価を発揮する舞台。
オークとゴブリンの連携、それは頭上から俯瞰する白蛇にとって、理想的でさえあった。
この姿こそ、魔物街の向かうべき理想の姿、オークに足りないもの、ゴブリンに足りないものを分かち合う。
何年か、何十年かもしれないが、いつか一民族になり得た時、この力は絶大となるだろう。
「おっし、俺ももっと精進しないとな」
白蛇リュウイチは直ぐに次のフレイムコーチンを索敵する。
だが不意に三日月の振り子が超自然的に振れた。
「ん? 振り子が反応している……東だって?」
東を指す……そっちはリュウイチが絶対に近づきたくない方角であった。
大森林西部にある魔物街、その東部には封印洞窟を中心に、凶暴で凶悪な魔物が跋扈する。
臆病者な彼が見ようともしない方角、しかし振り子は頻りに東部を示す。
「うー、なんだってんだぁ?」




