第39話 魔物街の今
トンテンカンと街中で工事する音がする。
現在魔物街は星聖祭に向けて準備中だ。
街の上空から俯瞰すると、市庁舎前のメイン会場の他に、各街区にも会場を設けている。
ゴブリン以外にとっては馴染みのない行事なので、司祭服のゴブリンたちがあちこちで見かけられた。
この世界に来て一番リュウイチが驚いたのは、ゴブリンがとても教養のある知識人だということだろう。
ゴブリンと言えば野蛮で短絡的、多くのファンタジー作品において最弱のザコ、そういう認識だった。
しかし、現実の彼らは多少気の早いところはあるかも知れないが、非常に理知的だ。
オークが穏やかで牧歌的な種族だとすれば、ゴブリンは勤勉で努力家の種族。
改めてその小さな身体で働くゴブリンたちの健気さには感心する。
「コボルトの数も増えたよなぁ」
商才に長け、統率力のあるコボルト族。
あまり膂力に優れる種族ではないが、全体を通して機動力に長ける為、交易を伝統的に生業としている。
その為か利口な者も多く、計算を得意とし、街で私塾もいくつか見かけるようになった。
とはいえ個体差がかなり激しい種族でもあり、ブルドック種は見た目が怖いと言われたり、大金犬種なんかは、大きな身体で走り回るから、衝突事故もまま発生している。
更に最近はコボルト同士で喧嘩まで起きていると苦情も出ているのだ。
実に頭が痛い問題だ。最近聞いたのは警黒犬種と大羊犬種が縄張り争いしていると言うのだ。
この二種は後から仕事を求めて魔物街へとやってきた、いわゆる後期組だ。
元来ドーベルもシェパードもそれほど喧嘩っ早い種ではない(オスト談)とのことだが、身体がコボルト族としては大型で、見栄がある。
なにより新天地である魔物街でまだ気が置けない時というのが問題ともなっているようだ。
「最悪俺がやるしかないのかな?」
コボルト族の問題は現状はオストに丸投げしている。
定期的にオストから報告も上がっているし、当面はなんとかしてもらうしかないか。
「さってと、とりあえず獲物を降ろさないとな」
リュウイチはゆっくり降下する。
何人かリュウイチに気づくと、両手を上げて歓待した。
「おおーっ、リュウ様のお帰りだー!」
「あはは、大袈裟だって」
リュウイチは苦笑する。
彼の周りはあっという間にオークやゴブリンに取り囲まれた。
「これお土産」
リュウイチは獲物を地面に下ろすと、オークたちが持ち上げる。
「加工場へ運びます!」
「リュウ様、どうぞこちらへ!」
「あぁうん」
リュウイチの手はゴブリン族の青年の手に取られた。
マーダーグリズリーは直ぐに旧市街の加工場へと運ばれていく。
即日解体して、今日の夕食にでも振る舞われるだろう。
リュウイチはゴブリンに連れられると、次々と市民たちが集まりだした。
流石にこれはリュウイチも困惑する。敬われるのは悪い気分ではないが、しかしやり過ぎは好ましくない。
「あっ、そういえばお祭りって」
市庁舎前の大広場には櫓を建てる為の資材が置かれている。
もう間もなく星聖祭は開催される。
これからリハーサルの予定があった筈だ。
星聖祭に関してはアイとオストの二人に丸投げしている。
どの程度人員がいるか、裁量はオスト、運営はアイに一任だし問題はないだろう。
街全体でお祭りというのは、学芸会とは訳が違う。
リュウイチにとっても、これは初体験となる大きな行事となるだろう。
「白蛇様お帰りなさいませ」
リュウイチの前に司祭服姿の美しいゴブリンの女性が現れた。
彼女は恭しく頭を下げると、優しく微笑んだ。
聖女アイ、星聖祭の用意で忙しい筈だが。
「うん、ただいまー。アイ、星聖祭はどう?」
「今のところは……ただなんとかなるよう星の神にも祈りましょう」
人身事故はいつだって起きる。
ある意味で皆違うからこそ、魔物も神へと祈るのかも知れない。
神頼み、出来ることなら遠慮したいが。
「そっかー、必要な物とかあったらなんでも言ってよ? 遠慮なんていらないんだからさ」
「はい、けれど当面は問題もないかと……あ」
ふと、アイは思い出したように顎に細い人差し指を当てた。
「白蛇様、我々ゴブリンは星聖祭には必ずあるご馳走を食べるのですが」
「ご馳走かー、なになに?」
「フレイムコーチンという魔物がいます」
火吹鶏、体長は六〇センチメートル程度、腐葉土のような色合いの体毛を持ち、モーアの大森林の全域に分布している魔物だ。
群れで生活し、身の危険を感じると口から火を吹くという。
「毎年フレイムコーチンを狩猟するのですが、流石に狩人の数が足りず」
「なるほどなー、因みに味は?」
「蛋白ですが食べやすく、フライドチキンにすると絶品です」
まるでクリスマスチキン、想像するとリュウイチは涎を垂らす。
食い意地張ったリュウイチは、アイの言いたいことを予測し、光の翼を広げた。
「つまり、いっぱい狩ってくればいいんだな?」
「白蛇様にこのような雑事をお任せするのは忍びないのですが」
「いいよいいよ! 皆助け合わないとさ!」
従来ならば、開拓村ごとにフレイムコーチンを狩猟していたが、魔物街となると必要な頭数も遥かに多い。
ゴブリンたちは、このご馳走を食べてこそ星聖祭と思っている者も多いほどだ。
「それじゃ直ぐにでも探してみるよ」
リュウイチは白蛇に身体変化すると、飛び上がった。
住民たちは皆喝采を上げる。
彼は森へと視線を向ける、だが入口でバルボとゴブリンたちを見つけた。




