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第38話 ゴブリンの聖女の視線

 魔物街は日々発展している。

 オーク族とゴブリン族が署名し結束することで成立した魔物街、これにコボルト族を加え、三種族が主に暮らしている。

 ここ最近は西区ゴブリン街ではゴブリン族の伝統的な祝祭が大々的に行われようとしていた。

 聖女アイは忙しそうに指示を出し、星聖祭の準備は進んでいる。


 元々この星聖祭は穴蔵に住む永遠の光を切に願ったゴブリンが、星の神にお祈りしたことが発端だとされている。

 アイが転生するよりも更にずっと昔、この日はご馳走を食べ、ゴブリンたちは夜通し踊るのだ。

 魔物街で行われるのは今年が初、開拓村でも行われていたので、それほど問題は起きていないが。


 ――お祭り? 折角なら街のお祭りとしてやらない?


 一ヶ月前、街の領主でもあるリュウイチの鶴の一声が、ゴブリン族の祭りから魔物街の祭りへと昇格する事態となった。

 元来オークは祭りと宴を愛する種族、星聖祭については無知であったが、祭りの実行においてオーク族は好意的であった。

 コボルト族は祭りを行う習慣こそないが、祭りそのものは代表のオストも賛成してくれた。

 柴犬(シバイヌ)種のオストは、祭りに必要な物があれば、なんでも申し付けてくれと言ってくれた。

 大変ありがたいことだ、しかしお陰でアイは困惑しっぱなしである。


 「ここが祭りのメイン会場となります」


 そう説明してくれたのは、オーク族の方であった。

 オークといえば、半裸か着ても見窄らしい服というイメージだったが、このオークは真っ白いシャツに、黒いスーツを着ている。

 シャツはきっちりオーク体型に合わせて採寸され、ボタンは貝殻を加工した物が使用されている。

 本当に、本当に驚くべき変化だ。

 たった数ヶ月での変化、自分たちは二〇年掛けてやってきたのに、オーク族は白蛇という神を得て、ここまでの文明社会を手に入れるに到ったのだ。


 「えぇ、けれど本当に良いの?」


 オークはにこやかに微笑む。

 アイが困惑したのは、ここが新市街中央庁舎前という事だった。


 「ええ勿論、リュウ様の承認も得ていますのでご安心を」


 街で最も大きな建物といえば中央庁舎、(まつりごと)を行う会議場を備え、かつリュウイチの住まいでもある。

 リュウイチには王宮(パレス)を捧げるべきという声は、オークだけでなく、ゴブリンからも出たが、リュウイチは「必要ない」と、この質実剛健な鉄筋コンクリート製の白亜の屋敷三階に今でも寝泊まりしているのだ。


 「ここならば、充分な広さも確保出来ます」

 「えぇそうね……千人はいけるでしょうね……」


 中央庁舎前はリュウイチの要望に従い、広場となっている。

 街の開発に関して、魔物街では中央庁舎の前に建物は建ててはならないとした。

 その理由が実にリュウイチらしく、なんらかの災害的被害を被った時、中央庁舎と共に充分な避難民を受け入れる為なのだ。

 事前の検証では、この広場で凡そオーク族二〇〇〇人を受け入れられると試算されている。

 最も現実的に言えば、一〇〇〇人程度が現実的であろうが、発展途上なこともあり、魔物街は大分意欲的な設計がなされている。

 やはりリュウイチの命令ならば、即時に採決されるこの街の運営の仕方に影響はあるだろう。

 船頭は一人で良い、良識のある独裁者の国は平和なものだ。

 アイもゴブリン族を束ねる身として、各族長クラスとの折衝では大分苦労した身だ。

 リュウイチの無自覚なカリスマ性がある限り、どこまでも魔物街は繁栄するのだろう、などとぼんやりアイは想像する。


 「アイ様、こちらに資材を搬入してもよろしいでしょうか」

 「貴方は?」


 小柄なコボルト族が寄ってくる。

 たしか猪犬(ブルドック)種、厳つい相貌をしているが、(つぶら)で黒い瞳は優しさを帯びている。

 この種は背がゴブリンよりも小さいが、嘗めると凄まじい形相で噛み付いてくる凶暴性があると噂で聞いたことがある。

 そんなまさかと思うが、思わず萎縮してしまう。


 「あの、アイ様どうしましたか?」

 「あっ、いえ……資材はもう用意出来たのでしょうか?」


 聖女は偏見を持った自分を嫌悪した。

 ブルドック種の彼がそんな凶暴だろうか。

 先ずは誠実さを見せるべき、アイは資材について質問すると。


 「はい、大方用意出来ております」

 「何から何まで申し訳御座いません」


 ペコリ、彼の目線よりも下まで頭を垂れると、彼は慌てて手を振った。


 「とんでもないっ! それがコボルト商会の仕事ですし、なにより商会長のご命令ですから」

 「聖女様、リュウ様は好きにやっていいと仰ったのですから、遠慮はいらないでしょう?」


 隣で滑稽そうに見ていたオークは優しく微笑む。

 コボルトは早速、後ろに待機していたコボルトやオークたちに指示し、資材を搬入してきた。


 「祭りの会場の組み立てはお任せを聖女様」


 魔物街の大工たちは、すぐに祭りに必要な櫓を組み立て始める。

 聖女は生き生きと働く魔物街の住民たちを見回した。


 (皆手を取り合っている、この選択は間違っていない、そうよね)


 なれば、アイも一層やる気を持とう。

 星聖祭の実行責任者はアイだ。

 必ず祭りは成功させなければならない。

 神々へと、そして協力してくれた全ての魔物たちへ感謝を捧げるために。


 「おーい、リュウ様が帰ってきたぞー!」


 誰かが叫ぶ。

 アイは振り返ると、ケートゥの姿でマーダーグリズリーを背負って運ぶリュウイチが見えた。

 直ぐにオークもゴブリンもコボルトも関係なく、彼らの愛するリュウイチの下へと駆け寄っていく。

 聖女はクスリと微笑むと、そんな彼らの後を追った。

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