第123話 防衛戦、膠着を制するのは
アンデット軍団との接触から数日が経過した。
リュウイチの予想は正しく、パイソー軍は徐々に押されパイソーの城門前まで押し込まれていた。
ドラゴンでさえ簡単には崩せないパイソーの城壁の上にはダークエルフ達が魔法を唱える。
「魔法陣展開、戦術レベルⅣ! 《灼熱の大地》!」
高位のダークエルフ複数人が魔力を合算して放つ古代魔法、南門から攻めてくる不死の軍団はマグマの海に飲み込まれた。
さしものアンデットでも、融解するほどの高熱には堪えられず次々と脱落するが。
「はぁ、はぁキリがねぇぞ」
「ディオーネ、頑張ろう……!」
疲れた表情のディオーネに、年少のリリアンが励ます。
「リリアン、お前は避難しても良かったんだぞ?」
「う……でも、皆、ま、守らなきゃ」
リリアンはパイソーで友達が出来た。
コボルトの少女モモや、ゴブリンに、オーク、ネレイドの友達も。
学校に通うようになって出来た友達たち、リリアンは健気に学校を守る為に守備隊に参加したのだ。
「ディオーネこそ、牧場はいいの?」
「よくねぇ! あんな味覚もわからんような化け物にくれてやる鶏はいねえ!」
「無駄口叩けるとは余裕だな、魔力の補充急げよ」
そんな二人をある青年ダークエルフが咎める。
二人は直ぐに反省して、次の敵を迎え撃った。
ズガァァァン!
凄まじい雷撃の嵐が街の東部の門方面から放たれた。
ディオーネは改めて、あの魔法をぶっ放したゴブリンの聖女様に恐れ戦く。
「あっちも激戦だ、気合入れねぇとな!」
§
東部門にも当然というようにアンデット軍団が終わりない進撃を繰り返している。
それを懸命に守っていたのはオークを筆頭としたオークゴブリンコボルトの連合軍。
城門上では聖女アイの唱える強烈な雷魔法がアンデット軍団を蹴散らしていた。
「本当にキリがないわね」
だが言葉の割には疲れた顔を見せることなく、淡々と言った。
無限に思えてくるほどの物量戦、けれど無限ではない。
敵は周囲の魔物を殺してアンデット化し、戦力を補充しているだけに過ぎない。
それだけでも大概チート地味た戦術だが、アイの予想では今アンデット軍団は増加より減少の方が速い筈だ。
今は敵プレイヤーが前線まで出てこないのは、余力がある為だろう。
だが急速に戦力を喪失していけば、アンデット軍団といえど進撃の手は止まる筈。
なによりこの予想が当たらなければアイがやっていることは、単なる無駄な行為となってしまう。
「こっちも負傷者が増え続けている……根比べ、ね」
アイは細い目を更に細くし、遠くにいる敵プレイヤーに念を送る。
届くことはないだろうが、もし届くなら神々の雷をお見舞いしてやるのに。
§
アンデット軍団後方に、この軍団を指揮する死霊使いの青年はいた。
死霊使いは見えない霊子の糸で全てのアンデットを直接操っている。
だが……芳しくないことに、死霊使いは苛立っていた。
「ククク……手こずっておるようじゃな」
首だけのリッチクイーンは死霊使いを嘲笑う。
今やただの喋るだけの頭と化したリッチクイーンなど、些かも脅威ではないが、鬱陶しいとは思ったのだろう。
「少し黙れ」
「大方、戦力補充のつもりが、予想外に強敵で損をした、と言ったところじゃろう?」
「黙れと言っている!」
死霊使いはリッチクイーンをサッカーボールめいて蹴ると、リッチクイーンの頭がとあるスケルトンの頭のぶつかった。
スケルトンは頭が外れ、その上にリッチクイーンが乗ってしまうと。
「おおっ、視界が高いのお!」
「チッ……一筋縄ではいかないアンデットめ」
アンデットであるが故にリッチクイーンでは死霊使いには勝てない、とはいえ転生者として十数年の生きた程度の相手と千年を実際に生きたリッチクイーンでは年季が違う。
死霊使いの固有スキル【生ける屍の進撃】は、死神より授けられた。
その権能は絶大であり、あらゆる死体を即座に使役することが可能なのだ。
このスキルにより戦場を広げるほど、急速に戦力を増やすことが出来た。
今や大森林を喰らい尽くすほどの勢い、だがパイソー攻略に手こずっている。
「ククク、先に暗黒竜を狙ってはどうか?」
あのリッチクイーンが提案?
当然答えはノーだ、ありえない。
「お前の狙いは暗黒竜を怒らせ、俺を始末する狙いか?」
「ククク……どうだかのう?」
実際のところ、死霊使いの戦力では大森林中央部の侵略は叶わなかった。
あの地域の魔物は異常に強く、運良く特記戦力とでも言える魔物を数匹手に入った程度。
本気で喰らい尽くすならばSSランク級の魔物の死体が欲しいところだ。
「クハハハ! 貴様も大森林の主には足りえんか!」
大陸でも異常な環境といえるモーアの大森林。
歴史上この大森林を直接統治出来た国はない。
白蛇でも、オーガでも、あくまで森に生かされただけ、大森林の支配者は未だ存在しないのだ。
「大森林の主? そんなの興味はないね」
「じゃがお前の死でこの世界を埋め尽くすだったか? 上手くいかんのう」
リッチクイーンは嘲笑う。
だがその事実が死霊使いを苛立たせる。
無窮の魔法使い等ではないのだ、彼もヒトであるが故に。
「もういい! 俺自ら行く、全戦力でパイソーを落とす」
リッチクイーンは目を細める。
多少苛立たせて、平常心を奪ったが、これが運命を分岐させるのか?
今も必死に戦っている二人の弟子は無事だろうか?
リッチクイーンにも未来までは見通せない……ただリュウイチならば、と淡い期待を込めてこの戦争を見守ろう。




