第118話 より強大な邪気
パイソー北東部よりアンデット出現。
直ちに軍はアンデット軍団の迎撃に出撃した。
かくしてパイソー軍はアンデット軍団を前にするのだ。
「団長、敵未だ増加中!」
「怯むな! 絶対にここを通してはならぬ! パイソーを守るのだ兵士たちよー!」
団長の鼓舞、兵士達は皆鬨の声をあげる。
最前列の槍兵隊は一斉に槍を構えた、それと同時、アンデット軍団に無数の矢が降り注ぐ。
「総員突撃ーっ!」
団長指示の下、槍兵が突貫する。
敵はスケルトンにゾンビなど様々だ、並大抵では倒せない。
槍兵はアンデット軍団を串刺しにするが、アンデットはそれでは死なない。
槍に突き刺されたスケルトンは窪んだ眼孔から怪しい光を放ちながら、折れた剣を構える、が。
「いと星の神々よ、不浄なる者に裁きを、《サンダーストーム》!」
最後方にいたのは対アンデットを想定した星聖教の魔法使いたちだった。
数十人が息を合わせ、巨大な魔法を操れば、雷の嵐がアンデット軍団を蹴散らす。
団長はその手応えに拳を握り込んだ。
「よしっ! アンデットといえど不滅ではない!」
不死であっても、足を砕けば身動きは取れない。
全身をバラバラにされれば、死んだのと変わらない。
星聖教の魔法は通用する、それが分かれば戦略は決まった。
「いいか! 絶対に通すな! 必ずここで殲滅する!」
だが……それでも森の奥から無数のアンデットが出てくる。
その中には見覚えのあるアンデットもいた。
「あの巨大な蛇のスケルトン……まさかミズチか?」
「あっちの蜘蛛のゾンビ、デススパイダーだ」
「まさか……手当たり次第魔物を襲いアンデット化しているのか?」
そのまさかだ、アンデット軍団の謎の数、その実体は森の魔物を徹底的に襲撃し、アンデット化させているのだ。
アンデット軍団が通る道全てで魔物が殺され、アンデット軍団に加わる。
おぞましいまでの負のループ、さしものパイソー軍も恐れ慄いた。
「くっ! 怯んではならん! 食い止めろ!」
とは言うが前線はスケルトンやゾンビはともかく、上級の魔物のスケルトンやゾンビでは話が異なる。
ミズチスケルトンは、しなやかに尻尾を振るうと、前線が一気に崩れた。
更にデススパイダーゾンビは長い脚を槍のように扱い、兵士達を踏み潰していく。
「くっ、このままでは……魔法使い、魔法はまだか!?」
「今少し!」
魔法使いたちは必死に精神を統一し、強大な魔法を放とうとしている。
だが、それを察知してか、上空からデスワイバーンが急降下してきた。
あわれゴブリンの魔法使いがデスワイバーンの脚爪に掴まれた。
まさか飛行型までいるとは報告されていない。
そのままゴブリンの魔法使いは握り潰され、悲鳴を上げる間もなく、血を吹いた。
「くっ、この!」
団長は剣を構え、デスワイバーンに斬りかかる。
だがゾンビ化したワイバーンは痛みに怯むことがない。
そのまま暴れて、団長は後ろに倒れた。
「ぅぅぅ、くそ……このまま、やられるなど」
「そこを退けニャ!」
突然影が差す、巨大な白い猫が爪を輝かせて、デスワイバーンを強襲した。
「《聖爪斬》ニャーッ!」
聖なる斬撃は、一撃でデスワイバーンを引裂き、不浄の肉体を浄化する。
ベヒーモスが新たに得た聖魔法はアンデットに特効であった。
「べ、ベヒーモス殿!」
「あっちこっちにアンデットが現れて面倒なのニャ、さっさと終わらせるニャア!」
まさかベヒーモスの増援、ベヒーモスは電撃を纏うと、一瞬で飛び出した。
閃光が走ると、斜線上のアンデットは次々と浄化、セラフィムベヒーモスの聖なる力に触れたことで、昇天していく。
あまりに圧倒的、それには兵士も魔法使いも呆然だった。
だが、なんとか立ち上がった団長は剣を掲げて叫んだ。
「ベヒーモス殿に続け! アンデットを殲滅するのだ!」
軍が、ベヒーモスの圧倒的な力に助けられるなんてあってはならない。
せめてベヒーモスが取り落したアンデットを始末せねば。
軍は一気に指揮を取り戻し、戦線を押し上げる。
一方ベヒーモスはアンデットを駆逐しながら、疑問を覚えた。
(どれも下級の魔物ばかりニャア、大森林中央の魔物は見当たらないニャアね)
あのタイラントレックスや雷龍のような存在は見当たらない。
ということは、アンデットといえど、暗黒竜の眠る中央部は避けたということか。
「所詮その程度かニャア、まぁ暗黒竜の瘴気に当てられればアンデットも異常をきたすかニャ」
時々目を張る魔物のゾンビも現れるが、それさえベヒーモスの敵ではない。
アビスパイソンのゾンビはベヒーモスに噛みつこうとするが、聖なる皮膚に噛み付いたアビスパイソンのゾンビは、逆に浄化されてしまう。
なんともつまらない、相性差もあるがベヒーモスには退屈な相手であった。
《ベヒーモス、妾の愛おしいベヒーモスや》
ニャニャ!? 突然戦闘中にも関わらず、ベヒーモスの脳内に聞き覚えのある声がした。
(師匠! どうせこれも師匠の差し金ニャーでしょ! 手を引けなんて聞く気はないからニャア!)
今回ばかりは冗談じゃ済まされない。
リュウイチのアニキもカンカンに怒っているし、ベヒーモスも師匠を許すつもりはない。
一度師匠は痛い目にあって反省するべきニャアなんて、プリプリ怒っていると。
《生憎これは妾の試練などではない。それよりもリュウイチを救え、お前にしかこれは出来ない》
「どういうことニャア!? 師匠が犯人じゃないニャら、一体誰が!」
《いいかベヒーモス! 敵を侮ってはならぬ! 神々の見守るゲームは始まった!》
神前試合、千年に一度、世界をリセットする神々の遊戯の話は師匠から聞いたことがあった。
つまりもう神前試合は始まったのか。
だとしても……ベヒーモスは神々の駒になるつもりはない!
「アニキを救え……信じてもいいニャね?」
《……すまん、ベヒーモス……妾は……もう》
それっきり、テレパシーが途切れてしまう。
ベヒーモスは空中で静止したまま、リュウイチの気配を探した。
まだ街の方、ベヒーモスは周囲のアンデットを粗方掃除すると、直ぐに街の方へと飛翔していった。
§
ベヒーモスよ、白き獣の伝説を語る存在よ、今はリュウイチを救え。
リッチクイーンのマーシーは大森林で第三位の実力者、それは世界でも有数の実力だと言えよう。
そのリッチクイーンが今では、首から下が亡くなっている。
「ククク……凄まじい力だ、犠牲には見合うな」
「……死靈使いめ、妾を操れるなどと思うなよ」
リッチクイーンの髪を掴んでぶら下げるのは、昏いフードを被った青年だろうか。
死靈使い、アンデットを意のままに使役する者には奇妙な気配がした。
「無駄だ、死の神の加護を持つ俺に操れぬアンデットはいない、リッチクイーン貴様とて例外ではない」
死を超越したのは、研究の為、それが巡り巡ってこんな強大な力を持つ死靈使いと遭遇するとは思わなんだ。
フードから僅かに覗く相貌からは赤い光が僅かに溢れている。
(死霊使いそのものが、ニンゲンじゃない、まさかリッチか?)
リッチクイーン、マーシーと同じリッチの気配。
だとすれば、強大な死の気配にも頷ける。
リッチクイーンを正面から打倒し、死霊術にて支配する。
リッチクイーンは首から上をなんとか切り離し、支配を逃れるが、死霊使いはそれさえ楽しそうだ。
「……のお、なぜ不死の軍団を動かす? 不死者なら不死者らしくのんびり怠惰に生きてもよかろう?」
「よく喋る……お喋りなリッチクイーンだな、俺の目的は世界を滅ぼす、俺を迫害し、俺の大切な物を奪った世界を俺は許さない」
死霊使いの怨念には、リッチクイーンも押し黙る。
凄まじい怨みのエネルギー、だとするとリッチクイーンは死霊使いに寄り添うあるアンデットの少女に視線をやった。
とても綺麗な少女だ、まるで生きているかのよう。
だが血が止まっているから、血色は悪い、そういう意味では人形だ。
「その人形みたいな娘が大切な物か?」
リッチクイーンがそれとなく聞くと、死霊使いは、リッチクイーンを地面に叩きつけた。
そのまま死霊使いはリッチクイーンを蹴り飛ばす。
頭部だけのリッチクイーンは抗うこともままならず、視線を死霊使いに送った。
「穢らわしいビッチが! 彼女を侮辱するな!」
死霊使いが激昂した?
それほどあの少女が大切なのか。
リッチクイーンは静かに目を閉じる。
諦めたのではない、ただ彼女なりに抗うのだ。




