第107話 とある少年の冒険譚 転
少年は冒険者ギルドに辿り着くことができた。
案内してくれた親切な獣人とハーフエルフはクエスト完了を伝える為に受付カウンターに向かった。
「どこでも同じ感じだ……」
ほぼ規格統一されている冒険者ギルド館、それだけに少年は魔物の国でも同じなんだと驚かされる。
けれどよく見れば、受付カウンターに座っているのは、コボルトやゴブリン。
カフェはオークの店主が営んでいる。
本当に、本当に魔物が冒険者ギルドを運営しているなんて、衝撃的過ぎる。
「あの、冒険者ギルドになにか御用でしょうか?」
ゴブリンの女性に優しく話しかけられた。
少年は顔を真っ赤にして、しどろもどろ。
まさかゴブリンを美しいと思う日がくるなんて思わなかった。
それほど目の前のゴブリン女性は美しく気品さえ感じさせるような出で立ちで。
「あの? どうかしましたか?」
女性は心配までしてくれた。
少年はブンブンと首を横に振り、頭を整理した。
「ぼ、冒険者です、仕事を探しに」
「あら冒険者さんですね、失礼ですが格付は?」
少年はしょんぼり顔で胸元に縫い付けた証明品を提示した。
「原石級、初心者ですね」
「………はい///」
羞恥心を隠せきれず、されど開き直ることもできない少年。
軽蔑されただろうか、田舎丸出しで恥ずかしい。
「ではあちらに依頼は張り出しております……ですが、このパイソー支部では特殊なルールがあり、原石級は必ず上位等級の冒険者を一名以上、三人以上のパーティを組んでください」
「え? は、はい……」
聞いたことないルールだな、と少年は思う。
それだけパイソー周辺は危険なのだ。
モーアの大森林から遠く離れた国からやってきた少年にはまだこの森の危険性が分からない。
とりあえず依頼を見てみよう、少年は女性に会釈し、依頼の貼り付けられた木版の前に向かう。
【胡椒の実の納品:難易度低】
【デススパイダー討伐:難易度中】
【アビスパイソン討伐:難易度高】
……まるで聞いたことない依頼ばかりだ。
というより、聞いてぞっとするような魔物ばかり、村では聞いたことがない種も多い。
この胡椒の実の納品が、自分の等級と合っているようだが、そもそも胡椒っていったい?
うーんうーんと頭を悩ませていると、不意に少年の隣に、奇妙な白蛇が並び立った。
少年はビクッと背筋を震わせ、仰け反ってしまう。
白蛇は光の翼まで生えていた。
「うーん、ラインー、どの依頼やるー?」
白蛇は少年など気にも留めず、後ろにいたミスリル装備で固めた人族の冒険者に話しかけた。
ほぼ最上級のような装備に身を包む冒険者に少年は思わず息を呑む。
いつか自分もと心に誓うが。
「そうですね……無難に胡椒にしません?」
「えー、あんなの子供用だぜ?」
「パイソーの子供と比べんでください、ただでさえやばい魔物も多いっつーのに!」
聞く限り、この上等な装備の冒険者でも、警戒するほどなのか。
少年の視線、やがて白蛇が気付く。
にゅっと顔を近づけてくると、少年は顔を青くした。
「んー、君人族だね、見ない顔だけどー?」
「えと、あの……」
「だーアンタは初見は相手を萎縮させるっていい加減気付け! えっと君は?」
上等な装備の冒険者は直ぐに少年を品定めする。
ボロボロの剣に、粗末な胸当て、トドメに原石級の証だ。
泣きたくなる気分だったが、その冒険者は。
「君原石級か、この街の特殊ルールはもう知っているかい?」
「はい……その、一応」
「えーと、初心者は三人以上のパーティって奴か」
白蛇はうろ覚えなのか、うーんと思い出すように言った。
先のゴブリンの女性も言った通り、この街周辺は桁違いに危険だからこそのルールだが。
「丁度良い! この少年を連れて胡椒の実を採取しましょう、はい決定!」
え? あれ? なんだか勝手にこの珍妙な二人(一人と一匹)と組むことになった?
白蛇はまだぶぅ垂れているが、冒険者は手を叩き、有無を言わさない。
「手前勝手だが、これも経験、今回だけ俺らと組んでくれ少年!」
随分と切実、少年は「はい……」と小さな声で頷いた。
「それじゃ俺はライン、見ての通りの剣士だ」
「俺はリュウイチー、まぁよろしく!」
ん? リュウイチ?
少年はどこかで聞いた名前に首を傾げる。
冒険者はそのまま依頼状を剥がすと、すぐに受付へと向かった。
「君名前は?」
「トスカ、です」
「トスカ君かー、えへへー、パイソーにようこそ!」
白蛇は愛らしく蛇顔のまま微笑む。
だが、少年トスカには、蛇が捕食対象に見せる顔にしか見えなかった。
その辺りはまだまだのリュウイチである。
「おーし、それじゃあ冒険しますよ冒険! 畜生め!」
受付で依頼の受託を完了させた冒険者ラインは、苛立たしげにギルドを出る。
少年は慌てて付いて行く。
「胡椒の実は、街の周辺に自生しているから、直ぐ見つかるでしょ」
「そのすぐ近くにマーダーグリズリーとか、デススパイダーとか出てくるのが不味いんでしょうが!」
因みにマーダーグリズリーでさえ、危険度ではCランクに分類される危険な魔物だ。
何故かこの街では手頃で食べれる部位の多い美味しい奴くらいに扱われているが、充分対策が必要なのである。
少年はただオロオロ、この珍妙な者たちに付いていくと、やがて都市から農村のような雰囲気に変わっていった。
旧市街、主にネレイド族やダークエルフ族が住まう街の食料需給の要である。
奇妙に張り巡らされて水路では、美しい人魚が歌い踊っている。
「あっ白蛇様だ!」
あるネレイドが白蛇に気付くと、ネレイドたちは集まりだした。
少年はビックリ、もしかして白蛇はとても偉い魔物なのか?
「やーやー、ネレイドの皆、ちょっと冒険してくるよー」
「どうかご武運を!」
「白蛇様に海の御加護を」
ネレイドたちは見たことのない踊りをし、白蛇に祈祷する。
それを細目にして眺めるハイエルフの女性は、気だるそうに白蛇に挨拶した。
「おいーっす、なによ白蛇、冒険って」
「おっすフレイア、なんか疲れてる?」
「疲れるっつーか、自分がどんだけ井の中の蛙か思い知ったわ」
なんの話か、少年にはまるで理解出来ない。
だがフレイアという女性の流麗な視線はあるダークエルフへと注がれると。
「本当、怠惰に生きるだけじゃ駄目ね」
「まー、期待の大型新人だからな」
「このままじゃ農場がダークエルフに乗っ取られちゃう! ああもう兎に角勉強よ勉強! 白蛇も冒険に行くなら、夜前には帰りなさいよっ! じゃ!」
フレイアはそう忠告すると、果樹園の方に向かっって行った。
そこで働く背の高いダークエルフとやいのやいの会話しながら、なにか議論していたようだ。
「……リュウイチさん、もしかして凄いの?」
「ん? たはは、俺なんてちっぽけなただの白蛇だよ」
リュウイチは少年に振り返ると、そう言う。
「さて、フレイアに言われた通り、日が暮れる前に終わらせるぞー!」




