↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
103/126

第103話 二人の神の駒

 宴が開始される頃、負傷兵が運び込まれた病院にイーリス族のユズはいた。

 彼女は清潔なベッドで眠るイーリスの民を見て、ただ呆然と掌を握りこんでいる。

 灯りも今はなく、窓から射す僅かな月明かりを受け、ただどうしてと、彼女は困惑を滲(にじ)ませずっと自問する。


 「……そこにいても今日は目覚めないわよ」


 病室の入口、ゴブリンの聖女がそっとユズに声を掛けた。

 ユズは死人のような顔でアイに振り返る。


 「聖女、様……っ」

 「全員無事、だから安心しなさい」


 アイは本来病院勤務でもないにも関わらず、負傷した者の治療に走り回ってくれた。

 イーリスも多くが、彼女の神聖なる治癒魔法で治療され、今は穏やかに寝息を立てている。


 「正直……もっと気丈だと思っていたけれど、意外と脆いのね?」

 「っ! これが私です、同胞が傷付いて平然となど!」

 「その傷付けた張本人たち、今は宴の主賓ね」


 アイはしゃなりしゃなりと、病室の窓辺に向かうと、夜の街を眺めた。

 ユズは唇を噛む、そうあのダークエルフ共がだ。


 「アンタ、怨みを基準にするのは止めた方が身の為よ」

 「聖女様ったら、仰る意味が分かりませんわ」

 「あら、貴方ほど聡明なら十分理解できると思ったのだけれど」


 アイはユズの心に黒い物があると見抜いた。

 ユズは大人で、誰より周りが見えて、余裕がある……そんな印象だったけれど。


 「ユズさんって、意外と子供っぽいのね」

 「っ! さっきから何なんですか図々しい! ここで始末してやりましょうか!」


 ユズは感情を発露、だが対照的にアイの表情は冷めていた。


 「神々の遊戯……やっぱりアンタも神の駒(プレイヤー)なの?」


 ユズは口を紡ぐと、迷わず風の魔力を集めた。

 ビリビリ、アイも雷の魔力を集め、全身を帯電させた。

 その対応こそ答えである、アイにとっては半信半疑だったが。


 「千年に一度、神々が世界を崩壊(リセット)させ、新生(リボーン)させる神々の遊戯(ウォーゲーム)……正直私は興味ないけれどね」


 アイにとって、目の前の転生者が、相容れない天敵だったとしてもどうでもいいことだ。

 神々の遊戯? それがなに? アイにとってゴブリンの繁栄は既に約束されている。

 白蛇が約束したのだ、ゴブリンにも。

 だからもう神々の遊戯に真面目に勝つつもりもない。


 「ユズさんはどうなの? ここでゲームを始める?」

 「……ここには守るべき者がいます、止めておきましょう」

 「賢明な判断、やっぱり地頭は良いわね」


 二人は魔力を霧散させた。

 アイはもうユズには興味もないように夜空を眺めた。


 「私たちは神にはなれないわ、戦略、戦術、失敗だって山程ある」

 「……だから私に怨むなと?」

 「少なくとも白蛇様は哀しむわね、と言ってもそろそろ――」


 その時窓から光の翼が瞬(またた)いた。

 高速で何かが迫る、それは白い蛇、リュウイチであった。


 「やっほー、お見舞い……だけど、あれ? アイにユズ?」


 ユズは顔を真(ま)っ赤(か)にすると、両手で覆った。

 白蛇はなにかタイミングが悪かったか首を傾(かし)げるが。


 「も、もう白蛇様ったら! 宴はまだ続いているのでしょう? 速くお戻りになったら!?」

 「なぁーユズ、もしかして泣いてるの?」


 ユズは動揺、泣いている――然り一筋の零落にユズは気付いた。

 天才的超人に見えて、泣いて笑って俗っぽい、アイは呆れながら病室を出て行く。


 「あっ、アイも宴来いよー!」

 「それが命令なら行くけど、私は静かな場所で読みかけの本を読みたいの」

 「……っ、あら? もし宜しければオススメがあれば私、調達しますが?」


 ユズは咄嗟に涙を拭い、表情を決めるとビジネススマイルで伺う。

 アイはガバッとユズに振り返ると至って真剣な顔で。


 「冥探偵シリーズ、魔列車殺人事件下巻って手に入る!?」


 さっきまで凛とした聖女様が一変した。

 因みに冥探偵シリーズとは、謎のミステリー作家ゴルデンエスト・コナンの作品で、西方諸国で既に絶版になり久しいレア物である。

 アイの書庫には古今東西の書物が高く積もっているが、この魔列車殺人事件下巻だけが、未だ手に入っていないのだ。

 この二年、モリブデンと正式な交易を行うようになって、色んな古本が輸入されるようになった。

 それでも! 絶版になり早二〇年……もう初版はおろか再販版でさえ見当たらない。

 凄まじい読書欲を持つアイの鬼気迫る顔、ユズは軽く退いてしまうほどであった。


 「は、ハハッ……見つけてみせますわ、マルファの名に掛けて」

 「本当に、本当にお願いね! それじゃ怪我したら私を呼ぶのよー!」


 そう言うとアイは上機嫌に「ルンルン♪」と鼻歌を歌いながら病院を出ていった。

 なんだったんだ一体、白蛇は舌を出しながら呆れていた。


 「あー、ユズ、えーとすまん」

 「? なにがでしょうか?」

 「助力してもらって今更だが、今回の被害、その責任は俺にある!」


 なんと、白蛇は今回の事件、傷ついた一兵士にまで頭を下げるつもりなのか?

 ユズは慌てて、両手を振り白蛇に待ったをかける。


 「お、お待ちを! それは白蛇様がすべきではありません!」

 「だが事実、今回は怪我人まで出ている、全部俺のミスだ」

 「であるならば! 迂闊にも敵の戦力を把握していなかった私にも責任があります!」


 傷ついたイーリスを巡って、二人の意見はぶつかり合う。

 イーリス族はあくまでも客人である、であれば客人を傷付けた以上、これは国際問題だとしたのが白蛇で、イーリス族はユズの命令で動いただけ、だから責任は自身にあるとしたのがユズ。

 二人はしばし折れず「あーだこーだ」とどっちが悪いか言葉をぶつけ合うが、やがて白蛇の方が笑った。


 「ハハッ、ともかくさ、ちゃんと今回の功労者には褒美が出される、ここで眠っている英雄たちにも、起きたら説明してくれ」

 「白蛇様……あの、ダークエルフについてなのですが」

 「ん? やっぱり気不味い?」


 当然真正面から見れるかと問われればユズ自身答えられない。

 憎いかと問われれば憎くもある。

 けれどダークエルフは本日付けで魔物の国の臣民となったのだ。

 イーリス族はあくまで外様、ここでダークエルフを追い出せなど、外圧になってしまおう。

 それだけは駄目だ、ユズの最終的な目標はイーリスも魔物の国に巻き込むことなのだから。


 「一度さ、ダークエルフと話してほしい、場所はそうだな……牧場で!」


 はい? 牧場?

 その時ほどユズが間抜け顔を見せたのは、きっと生涯で唯一だったであろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。