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第101話 覚悟の決闘

 巨狼たちは、士気を維持している。

 彼等は優れた統率と、闘争心を持つ修羅だ。

 武具を持たず、ただ鍛え抜かれた肉体で戦う闘神。

 白蛇は俯く、もううんざりだ。


 「だったら掛かってこいド三流! 格の違い教えたらぁ!」


 白蛇はケートゥの姿へと変化すると、自慢のマッスルボディを見せつける。

 巨狼は雄叫びを上げて、襲いかかった。

 お互い拳を硬め、フルスイング!

 ドグシャア! 二人の顔が陥没した。

 巨狼はたたらを踏む、白蛇も顔面真っ赤だ。


 「ぐふ、いい拳してんじゃねぇか……だがまだぁ!」

 「うらぁぁ!」


 技もない、ただの喧嘩であった。

 巨狼もダークエルフも、兵士たちも、ただ見守った。

 再びクロスカウンターがお互いの顔面に突き出さる。

 巨狼は口から血を吐きながら、ボディブロー!

 リュウイチは悶絶、だが直ぐにアッパーカット!

 巨狼の顎がかち上げられる。


 「ぐわ……が、ああああっ!!」


 すささずハンマーブローがリュウイチの頭部に押し潰す。

 これは駄目か! アイも手を握り熱くする中、リュウイチは巨狼の腰を掴んだ。


 「どおおおりゃああああああっ!!!!」


 巨狼の巨体が浮かび上がる。

 リュウイチは綺麗なアーチを描き、巨狼を地面に頭から突き刺した。

 その鮮やかなジャーマンスープレックスに、アイは思わず「ワン、ツー」とカウントしていた。

 巨狼はもう動かない、リュウイチは満身創痍になりながら、両腕を天へと上げた。


 「ダーッ!! 俺の勝ちだぁぁぁ!」


 大雨の降る中、その音にも負けない喝采が兵士たちから上がった。


 「白蛇様バンザーイ!」

 「我らが白き守り神バンザーイ!」


 巨狼は前のめりに倒れると、獣人から狼に变化(へんげ)する。

 白蛇はそんな益荒男(ますらお)を見つめると。


 「力を示したぞ、どうだまいったか?」

 「グフフ……流石だ、この灰色の巨狼と恐れられた俺が力で敗れるとは」

 「俺は巨狼をなんにも知らない、侵略しないなら俺は巨狼族を迎えてもいいんだぞ?」

 「魅力的だなそれは……だが我々には退けぬ理由とてある」

 「それはなんだ? いい加減教えてくれ」

 「それは……」


 その時、パチパチパチとどこからか拍手が鳴る。

 突然二人の前に闇を携えた魔女が現れたのだ。

 リッチクイーン、白蛇とベヒーモスの師匠でもある。


 「いやー、いい勝負であった、リュウイチも衰えちゃいないようだな」

 「師匠……まさかと思いますけど」


 巨狼、そしてダークエルフはリッチクイーンに平伏した。

 その様子を見て、いくら愚鈍といえどリュウイチは確信した。


 「この襲撃の黒幕、師匠ですね?」

 「ピンポーン! 大正解ー! 修行を怠る馬鹿弟子にちょっと発破を欠けたまでよ」


 恐らくだが……巨狼族とダークエルフ族はリッチクイーンになにか脅され、パイソー侵略に参加したのだろう。

 彼等が恐れていたのはリッチクイーンだ。

 相変わらず無茶苦茶する師匠に白蛇は。


 「やり方が無茶苦茶過ぎます、だから友達出来ないんでしょ」

 「なにをこの馬鹿弟子! 二年も経ってまだ進化もしてないお主に言われたくはないわー!」


 この二年、本当に多忙であった。

 師匠はそれが大層不満で、今回の事件の黒幕となった。

 全ては白蛇を今一度鍛えるため、その為に巨狼もダークエルフも踊らされたということか。


 「諸君ら、これで充分じゃ! もう矛を収めよ!」


 リッチクイーンに言われれば、巨狼もダークエルフも従うしかない。


 「怪我人の治療急げ! 巨狼とダークエルフも例外じゃないぞ!」


 白蛇は直ぐに号令をあげる。

 アイはそんな白蛇の下に向かうと。


 「《ヒール》、貴方も怪我しているでしょ」

 「アイ……助かる」

 「やれやれ……それにしても貴方の師匠、とんでもないわね」


 それには白蛇も渋い顔をせざるを得なかった。

 恐らくベヒーモスが現れなかったのは、師匠に事前に止められていたのだろう。


 「それで師匠……街も俺も強くなったでしょ」


 リッチクイーンはネクロな顔でリュウイチに振り返る。


 「そうじゃな、妾からすればまだまだじゃが、いい線いっとる」


 白蛇はニンマリ笑う。

 その後、敵も味方もなく治療は行われ、巨狼とダークエルフを隣合わせて、白蛇は向かいに座った。


 「巨狼族、そしてダークエルフ族、君たちは大森林に暮らしていたんだね」


 ダークエルフの族長あの美男子ビスマルクは厳かに頷いた。


 「国を追われ、魔の森に逃げ数百年……家族を護る為とはいえ、数々の無礼お許しください」


 続いて巨狼族族長バルガスは、両手を地面に着いてリュウイチに平伏した。


 「貴方様の強さと優しさに俺は惚れた! 俺の命白蛇様に預けやす!」


 巨狼は強さを尊ぶ種族だ。

 身長ニ五〇センチメートルの巨体が土下座しても圧迫感は凄まじい。


 「えと、よろしくバルガス?」

 「はいっ! 今後とも是非犬として扱ってください!」


 凄まじい熱血漢に白蛇は思わず苦笑いした。

 一方ダークエルフは気まずそうだ。


 「えとビスマルク、もし良かったらパイソーに移住しないか?」

 「しかし……そちらにはハイエルフが、黒(デック)など歓迎しないのでは?」


 黒(デック)……古エルフ語で黒を意味するが、その真意は蔑称であった。

 現代人のフレイアでさえ知らない蔑称がまだ現存していたこと、そのハイエルフも驚きを隠せなかった。


 「やっぱり伝説のダークエルフなんだ」

 「ハイエルフ……やはり断罪か」

 「はぁ? あのね……今のエルフ共和国では黒肌はただの色素異常よ、別に黒でも普通に暮らしているわ」


 ビスマルクは目を丸くした。

 彼は祖先から自分たちが不当に黒いというだけで迫害されたと教えられてきた。

 街にハイエルフがいるとは聞いていたが、ダークエルフはハイエルフを悪魔の権化と教えられてきたのだ。

 それ故にフレイアを憎悪し、誤解していた。

 フレイアはダークエルフを差別しない、迫害もしない。

 寧ろフレイアは爆笑したくらいだ。


 「むしろ私なんて他のハイエルフに疎まれて学園追放されて、奴隷落ちよ! アンタたちよりこっちは不幸だっての!」

 「……で、ではダークエルフを恨んではいないと?」

 「アンタらって、森に引きこもって、全然世情を調べなかったのね……自分たちがただのメラニンが多いだけのエルフってことも知らないんでしょ?」


 エルフは陸生二足歩行種族で最も長命な種族である。

 それ故にか、恨みというのも中々消えなかったのだ。

 だが……フレイアは確信した、同じ植物を愛しているエルフなんだと。


 「私はフレイアよ、都落ちしたハイエルフだけどね」

 「び、ビスマルクだ……こちらこそ光栄である」


 本当は、ハイエルフが羨ましかった。

 輝くほど美しく、もしあの白い肌さえ手に入ればどれほど良かったか。

 リュウイチからすれば、ダークエルフも大層美しいが、彼等のホワイトコンプレックスは凄まじいものであった。

 それでも……彼等は祖国を愛していたし、ハイエルフに八当りめいた感情をぶつけるしかなかった。


 「ねぇねぇビスマルク、アンタさ古代魔法の知識があるんでしょ、是非教えてよ!」

 「ハイエルフに教授するなど勿体なきお言葉……」

 「そういうのいいから! こっちじゃ色々古代魔法の魔導書も無くなってて、私独学なのよ、多分ダークエルフにはまだ古代魔法の数々が伝授されてるんでしょ?」


 実際彼等ダークエルフの使う古代魔法は千年前から変わっていない。

 本来エルフ族特有だったが、時代と共にエルフは科学を発展させる代わりに、魔法を失っていった。

 一方でモーアの大森林に逃げ延びたダークエルフたちは、失伝した数々の古代魔法を現代まで維持してきた。

 彼等が幼い子供に至るまで優れた魔法使いなのは、戦って実感できた。


 「それじゃあダークエルフはフレイアに任せていい?」

 「全然オッケー、むしろ色々教えてもらいたくらいよ!」

 「信じられない……あの神のような存在が、本当は我々と肌の色しか変わらないのか」


 エルフ族のハイエルフ信仰、それは白であろうが黒であろうが変わりない。

 なら黒がハイエルフを崇めるのも、また受け継がれたエルフらしさなのかもしれない。

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