第100話 戦う理由
「伝説……て?」
白蛇はフレイアの傍まで飛来すると、伝説について質問した。
フレイアは実につまらなさそうに。
「昔も昔、ダークエルフは迫害対象でね、迫害から逃げるように、国を出て行ったってだけのお話」
「な、何だよそれ……ダークエルフってのは、どんな悪さをしたんだ?」
「なんにも、けど当時の白肌主義だと、黒い肌の子供が産まれたら、呪いだなんだ大騒ぎだったんでしょ?」
無論現代では肌が黒かろうとエルフはエルフと判断されるが。
だが今よりずっと呪いの類を恐れた古代には黒はそれだけ忌み嫌われたのか。
「それじゃあなんでアイツらフレイアをあんなに睨んでんだ?」
「それこそ知らないわよ、大方迫害を指導してたのが当時のハイエルフだったんじゃない?」
そんなあっけらかんと、フレイアは魔法で矢を生成するとダークエルフに狙いを定める。
「ま、過去なんざどうでもいいわ、重要なのはアイツらが畑を荒らしているということよ!」
フレイアの参戦理由、戦士でさえないただの農業長官を怒らせたのは、彼等が土足で踏み潰す作物たちだ。
フレイアが丹精込めて育てた愛しい作物を台無しにされれば、まるで親を殺されたかのような怖い顔でフレイアは矢を放つのだ。
「危ない! 《マジックシールド》!」
小さな少女は杖を掲げて、ダークエルフの一団を護る。
あんな小さな子でさえ戦う理由、それはなんなんだ?
「フレイア、彼等を殺しちゃ駄目だ」
「あら、向こうは殺す気よ?」
「それでも、殺したらもう止まれなくなる」
白蛇はあくまでも停戦を求めている。
彼等が素直に街を出ていけば、白蛇はなにも彼等を責めるつもりはない。
ただ理由が知りたい、何故パイソーを侵略するのか。
彼等は本気でパイソーを占領出来ると思っているのか?
巨狼五〇、ダークエルフ三〇、合わせても百にも満たない小部隊で一万人も住む都市をだぞ?
彼はどうしても彼等にはなにか切迫する事情があるのではないかと疑ってしまう。
こうなれば、意を決して飛び込むしかない。
「ダークエルフ、今なら俺はなにも責めない! 軍を退いてくれないか!」
ダークエルフたちは飛び込んでくる白蛇に向かって無慈悲に魔法を唱える。
「彼の者に大地の裁きを、戦術レベルⅠ、《大地の束縛》!」
突然白蛇に重力が降りかかる。
古代魔法には重力さえ操るのか、白蛇は苦悶の表情を浮かべた。
「こ、この……バッキャロー……!」
「このまま押し潰し……!」
「星の神々よ、穢れ浄めたまえ《レスト》」
最後尾よりゆっくりと杖を構えたゴブリンの聖女が歩み出る。
白い司祭服を纏ったゴブリンたちまで参戦するというのか。
聖女アイの魔法により、白蛇は重力の呪縛を逃れた。
「無様ね白蛇様、この程度で」
「ケホッ、アイ……助かったけど、お前まで」
「ここは私の住む街、無粋な奴らに本を燃やされたら嫌だもの」
どうやらアイは巨狼とダークエルフが教会にまで災禍を振りまくのではないか、恐れているらしい。
ともあれパイソーから次々援軍が来ている。
「もう一度言う、軍を退け、俺たちは君たちを罪には問わない!」
段々旗色悪くなっていくと、小さなダークエルフの少女が呟いた。
「アタシも嫌だよ……こんなの」
「クッ! それでもウチ等にはもう後がないんだ!」
フレイアと同じくらいの少女が杖を構える。
「雷よ閃光となりて――!」
「遅い、《ライトニング》」
雷のスペシャリストと、雷神に愛されしアイに、同じ雷魔法は悪手でしかない。
実際アイは一瞬で魔力を杖に込め、電撃が少女を襲った。
「あああ!? あ……っ」
一瞬で意識を刈り取られ、少女は崩れ落ちる。
それを支えたのは青年だった。
「ディオーネを後退させろ! あれがゴブリンの聖女アイか……!」
「次、ビリビリされたいのはどいつ?」
アイら修道士たちは神聖魔法で味方を支援していく。
やはり……どうあっても彼等はこの状況を覆せるとは思えない。
「なぁ聞かせてくれよ、なんで侵略なんて愚かな真似をしたんだ?」
「……愚か、か……その通りだ、だが!」
恐らくリーダーと思われる長身の美男子は杖を構え、魔法を構えた。
白蛇は全身震え、怒りと困惑を綯い交ぜにする。
「なんで教えてくれねぇんだー!!! このバッキャロー! 《天辰剣》!」
突如ダークエルフに空から一振りの雷の剣が振り下ろされた。
白蛇は雨竜の象徴たる雷の剣により、男に痛烈な一撃が与えられた。
感電に加え炎上、男は全身が燃え上った。
「《天候操作》、雨よ降れ」
彼は最後の慈悲と言うように、その場に土砂降りの雨を降らせた。
男は鎮火されると、周囲を彼を慕うダークエルフたちが取り囲んだ。
「こ、これが白蛇の魔法、か……すさまじい、な」
「兄ちゃん喋っちゃ駄目だ、直ぐ治療を!」
「もういいだろ? お前たちがこの街は無理だ、そんなに世の中甘くない」
白蛇は憐れむ。
ダークエルフたちがそこまで悪人にはどうしても思えなかったのだ。
巨狼もそうだ、彼等は正々堂々としており、侵略の意図がわからない。
「もう停戦しろ! じゃなきゃ皆死んじまうぞ!」
白蛇は盛大に叫びをあげる。
それには濡鼠のようになった巨狼でさえ動きを止めた。
「クックック、誰だって死にたくはねぇな」
ある一匹の巨狼が肩を揺らして笑った。
白蛇は振り返る。
だが。
「それじゃあ停戦――」
「だがそれじゃあ俺は納得出来ねぇ! 俺を従わせたいなら、俺を屈服させてみやがれぇ!」




