表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
公爵家のちびっ子愛され令息は、喋るクマさんと無自覚に運命を変えていく 〜ねえねえ、なにか、こまってりゅ?(なお、わるものは勝手に滅びる模様)〜  作者: 由畝 啓
第2部 小公子エルくんのピクニック

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
50/54

6. せふぃねえさまとの冒険 2


今日は良いことばかりである。

エルはとてもご機嫌だった。

朝、起きた時から上機嫌だったが、ずっとうなぎ登りだ。

美味しい朝ご飯を食べて、カートン卿と一緒に屋敷を探検してお昼寝をして、お昼ご飯も存分に楽しんだ。

食後はロレッタやセラフィーナに遊んでもらい、眠たくなったところで、お日さまが燦燦と照り付ける窓際でお昼寝をした。


そして、今のエルは、ロレッタやセラフィーナと共に、屋敷の居間にいる。

普段より少しばかり、お日さまの力でふかふかになった、良い香りのカートン卿は、エルの隣で行儀よく座っていた。


「エルくん、カートン卿、良い匂いがするわぁ」


セラフィーナが少し面白そうに笑う。

エルはなぜか得意げになった。


「ひなたぼっこ、したの!」

「素敵ねぇ。気持ちよかったぁ?」

「うん。かーとんきょーも、きもちよかったの」


満面の笑みを浮かべて、エルは自分の隣に座るカートン卿と手を繋いだ。

カートン卿は、何となく遠い目をしている。


『……まぁ、日向ぼっこは嫌いじゃないがな。なんとなく、毛が縮れるような気分になる時も、無きにしも非ずというか……』


どうやら、カートン卿には素直に喜べない事情があるようだ。

だが、エルは気にしなかった。

カートン卿が良く分からない独り言を漏らすことも、結構よくあることなのだ。

こういう時は、エルがどういう意味かと訊いてもちゃんとした答えがないことの方が多い。

エルは賢い子なので、良く理解していた。


「せふぃねえさま。まだ、おもちゃやさん、こないの?」

「もうすぐだと思うわよぉ」


のんびりと、セラフィーナが笑う。


──もうすぐって、あとどれくらいだろう。


エルはそわそわとして、足をぶらぶらさせた。

ロレッタやセラフィーナにとっては短い時間なのかもしれないが、エルにとってはかなり長い時間を待っている気がする。

落ち着かないエルを見て、セラフィーナとエルの対面に座ったロレッタが顔を緩ませた。


「ほら、エルくん。あそこに、時計があるでしょう? そう、鳥さんとウサギさんの絵が描いてある時計よ」


そう言って、ロレッタは壁際にある暖炉の上を指差した。

そちらに顔を向けると、確かに、可愛らしい鳥とウサギの絵が描かれた時計がある。

エルの膝に載せたら溢れてしまうほど大きな時計だ。もっとも、父ヒューバートであれば片手で軽々と持つだろう。とはいえ、陶器製で重たそうである。


「長い針と、短い針が見えるかしら?」


ロレッタは、どうやら時計の読み方をエルに教えようとしてくれているらしい。

だが、エルは既に時計の読み方を知っていた。

何のことはない、エルの大好きな絵本に時計が出て来たのだ。

そのお話では、紳士のウサギが懐中時計を持って、時間がない時間がないと騒ぐところから始まるのだ。

そして、色々と知りたがりのエルは、カートン卿に時計のことを根掘り葉掘り質問したのだった。


「みえるよ」


でも、エルは大人しくロレッタに頷いた。

これからロレッタが何を教えてくれるのか、エルはわくわくした。

ロレッタは「偉い子ね」と言ってから、悪戯っぽく目を輝かせた。


「もしかして、エルくん、今が何時何分か、わかる?」

「む」


エルは唇を尖らせた。

時間の読み方は、ちゃんとカートン卿に習ったのである。

だが、いつも時計を見て時間を気にするような生活はしていない。

慎重に、エルは時計の針と、文字盤に書かれた時を確認した。


エルの眉間に皺が寄る。

そして、エルはがっくりと肩を落とした。


「じ、よめない」


ちゃんと、エルは文字を習った。簡単な言葉なら読むこともできる。

だが、あいにくと文字盤に書かれている数字は、エルが習った数字とは違った。

エルが昔教わった数字は、棒や曲線でできていたのだが、文字盤の数字は全部直線で出来ていたのだ。

長針の先っぽは、二本の棒がクロスしたバツのような形だし、短針が指し示す文字は縦の棒が三本並んでいる。


ロレッタとセラフィーナは、顔を綻ばせた。

しょんぼりとしたエルの表情が、とても可愛らしい。


「今はね、二時五十分なの。あと十分で、三時よ。おやつの時間だから、おやつが終わったら、おもちゃ屋さんが来るわ」


優しくロレッタが教えてあげる。

エルは首を傾げた。


「さん、かいてないの」

「そうね。エルくんが習っている文字とは、ちょっと違う文字なのよ」

「ちがう?」

「遠い国で使われている文字なの。ちょっとおしゃれに見えるでしょう?」


ロレッタが教えてくれるが、エルには良く分からない。

どうやら、文字にはおしゃれとかおしゃれじゃないとか、そういうのがあるらしい。

知らないことがいっぱいだと、エルは生真面目な顔で頷いた。


(あのカクカクしたの、おしゃれなんだね)

『人によると思うぞ』


心の中で呟けば、カートン卿が律儀に言葉を返してくれる。

はて、とエルは首を傾げた。


(おしゃれ、ちがう?)

『いや、おしゃれだと思うのも間違ってはない。ただ、エル坊はおもちゃ屋さんで海賊の──船長さんの帽子が格好良いと言っただろう? でも、セラフィーナやロレッタは、船長さんの帽子よりも他のものを選んだ。おしゃれかどうかっていうのは、そういう風に、人によって違うんだ』

(むずかしーね)


一丁前に大人の気分で、エルは重々しく頷く。

なんとなくカートン卿の言いたいことは分かった気がするが、エルには少し難しかった。

その時、エルはピンと来る。

五十の方は分からなかったが、右上にある二つと右の真ん中にある文字は、簡単だ。


「える、わかったよ」


エルは隣のセラフィーナを見上げる。

セラフィーナは首を傾げた。


「なぁにぃ?」

「ぼうがね、いっぽんで、いちなの。にほんで、に。さんぼんで、さん」

「あらぁ」


思わずセラフィーナは目を丸くする。ロレッタも驚いて、両手で頬を抑えている。


「なんて、お利口さんなの……!」


相変わらず弟妹に対してはでろでろに甘いロレッタは、そう言って悶えた。

セラフィーナもまた、「本当にねぇ」と言いながらエルの頭を撫でる。


「エルくん、本当に頭が良いのねぇ。びっくりしたわぁ」


むふん、とエルは得意げな表情を浮かべる。心なしか、胸も張った。

それが一層可愛らしくて、ロレッタはソファーの隅に置いていたクッションを手に取り思い切り抱きしめる。思い切りひしゃげたクッションは、エルの身代わりだ。


「──っ! 可愛いわ……!!」


ロレッタは悶えているが、もはやセラフィーナにとってもエルにとっても見慣れた姿である。

通常運転だと、二人は一旦ロレッタを無視した。


『だいぶロレッタへの扱いが適当になってるな、この姉弟』


カートン卿がぼやく。だが、エルは今一つ意味が良く分からなかった。

それに、声の響きからは、エルに話しかけている感じでもない。だから、エルは気にしないことにした。



☆☆☆☆☆



満を持して、エルは居間のソファーに座っていた。

隣には、エルと同じ大きさのカートン卿が鎮座している。

斜め前の一人掛けソファーにはセラフィーナが座っていた。

ロレッタは、勉強のために自室に戻っている。


おやつを食べて、普段だったらお眠の時間なのだが、エルは目を爛々とさせていた。

昨日から待ちに待ったおもちゃ屋さんが来るのだ。

おもちゃ屋さんは──お店自体は雑貨屋さんなのだが、エルには玩具の記憶しかない──エルが選んだ、お人形を持って来てくれる。


お人形が届けば、エルはセラフィーナとロレッタのお人形さんやぬいぐるみさんを正体して、ブレニアム・ハウスの中庭でピクニックをするのである。

本当のピクニックは、大きな式布を持って、たくさんのご飯や飲み物と一緒に、家族みんなで原っぱに出かけるのだ。

だが、今はまだ逃げ出した狼さんが捕まっていない。

だからピクニックは駄目らしい。


もうそろそろお腹が空いた狼さんはお家に戻っているのではないかと、エルは思う。

エルだったら、何日も一人で遊びに出かけられる気がしない。なにより、お腹が空いてしまう。

朝とお昼と夕方、そしておやつがなければ、エルは悲しくてどうにかなってしまいそうだ。

そう思っておやつの時に尋ねたのだが、母ソフィアは少し困った表情で、まだ狼さんは見つからないのだと教えてくれた。


「あのね、うさぎしゃんとね、くましゃんと、わんちゃんなの」


そわそわして、エルは近くで本を読んでいたセラフィーナに声を掛ける。

雑貨屋の店員が人形を届けに来たら、アルマたちもこの部屋に来る予定だ。

だが、まだ居間にはエルとセラフィーナの二人しかいなかった。


本を読んでいる時に話しかけたら駄目だと分かっていたが、堪えられなかった。

優しいセラフィーナは、顔を上げて優しく微笑む。


「エルくんの、お人形さんねぇ。楽しみねぇ」

「うん。ぴくにっくなの」

「そうねぇ。私、フルーツケーキが食べたいわぁ。風が気持ちよさそうよねぇ」


のほほんと言うセラフィーナは、優しくエルに尋ねた。


「エルくんは、ピクニックで何を食べたぁい?」

「えとね、さんどっちとね、あと、すこーんでしょ。かーとんきょー、じゃむすきだから、いちごのじゃむなの」


セラフィーナは目を瞬かせる。少し驚いた様子だった。


「あらぁ。エルくんは、オレンジのジャムが好きだったのじゃなかった?」

「うん、える、おれんじ。かーとんきょーが、いちごのじゃむなの」

「まぁ、そうなのぉ。エルくんは優しいわねぇ」


にこにこと笑いながら、セラフィーナはエルの言葉に納得する。

エルがカートン卿のために、イチゴのジャムを用意する気であるのは明らかだった。


その時、居間の扉が叩かれる。

エルはしゃっきりと背筋を伸ばした。


扉を開けたのはアルマだった。その後ろには、大きな荷物を抱えた見知らぬ男と女性が立っている。

女性の方は、雑貨屋でエルたちの相手をしてくれた店員だった。


「セラフィーナお嬢さま、エルお坊ちゃま。お待ちかねの、お人形が届きましたよ」

「おにんぎょ!」


エルはぴょこんと跳ねる。

ソファーの上で体が大きく跳ねて、そのまま器用にエルは床に降り立った。

そして、扉の方に駆け出そうとする。


『エル坊、待てだぞ!』


カートン卿が慌てて声を掛ける。同時に、セラフィーナがハッとしてエルの肩を掴んで止めた。


「あ」


エルはそこでようやく、あらかじめアルマとカートン卿に言われていたことを思い出した。

お店の人が来たら、その人はお客さまなのだから、ちゃんと礼儀正しく出迎えなければならないのだ。


もう小さい子ではない──もちろんロレッタやセラフィーナと比べるとまだ体も小さいが、エルはだいぶお兄さんになったつもりだった。

だから、言われた時は当たり前だと頷いたのだ。

それなのに、人形が来たという喜びで頭がいっぱいになって、すっかり忘れていた。

いけないいけないと、エルは、表情をきりっとさせる。


『やれやれ』


カートン卿が少し疲れたようにぼやく。アルマもエルの動きに気が付いたのだろう、少し眉をひそめたものの、すぐに穏やかな表情になっている。

セラフィーナもまた、エルの背後で頬を緩めていた。


だが、エルの視界には入っていない。

我に返ってちゃんとお客さまを出迎える体勢にはなったものの、やはりエルの心は、一目惚れして選びに選び抜いた、可愛い人形に向かっていた。







エルくんが読める文字はアラビア数字、文字盤の数字はローマ数字です。



そして別シリーズですが、「公爵令嬢は、死んで宿敵騎士と王国を盗むことにした~闇の女王と真贋の迷宮~」の第1部が完結しました。

婚約破棄後の異世界恋愛の皮を被りつつ、中身は由畝節のサスペンス風味な国家簒奪劇要素が入っております。

14万字ちょっとで読みやすい(?)作品となっておりますので、宜しければお茶請けにどうぞ。

https://ncode.syosetu.com/n4272lr/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ