おしまい
今まで読んでいただきありがとうございます。
人間とは恐ろしいものだ。
知りもしない呪いを感情の変化によって作り、かけてしまうのだから。
人間とはその気になれば、魔王にだってなれる。
人間は恐怖そのものだ。
しかし、人間は・・・
赤く染まった室内には余と瞳を大きくさせ、口をあんぐりと開ける王国の男の二人しか立っていない。
「うそつき」
ポツリと余は小さく呟いた。
魔王が住み付いていた根城は実は余の城だった。
「余の留守中に物荒らしとは・・・よくやるなぁ人間が」
そして、その魔王は城の中にある、摩訶不思議な余の遊び道具共の一つ「杯」に手を付けた。「杯」に注がれた赤い液体を飲めば、どんな願いでも叶う。欲望の塊、人間にとって喉から手が出るほど欲しくなる代物だ。しかし、願いが叶うのはこの「城」の主である余のみ。もし、それ以外の者が飲めば副作用が起こる。
「・・・魔王の杯を飲んだものは望みを一つ叶えることができる、がそれはその資格があるもののみ。資格が無い者が飲めば、そやつはこの世ならざるモノへと変わり自我を失う」
これが「魔王の杯」だ。
そして、杯を手にしてしまった魔王と呼ばれる出来損ないは余の足元にいる。
先ほど殺した。
余の足元にも及ばないほどに呆気なく弱いモノだった。
「・・・・・」
部屋の端に目線を向ける。そこには人のまだ新しいバラバラ死体が転がっていた。
ゴポリッゴポリッと耳元で泡が吐かれる音が聞こえる。
「おい、小僧」
先ほどから全く動かない小僧に声をかけるが、返事が無い。どうやら魔王と呼ばれた出来損ないとの戦い、出来損ないが即座に殺されたことにショックでも受けて気を失ったのだろう。
ツンツンと突いても、足を蹴っても返事も反応も無い、暫くはこのままだとわかると余は自然と長いため息が出た。
「しょうがない・・・」
これから、汚れた部屋の掃除、暇つぶし道具の整理などやりたいことが山ほどある為。ここにずっと居て欲しくない。フッと息を吐く、息と共に小さな泡一つが風に誘われ男の元とへゆっくり飛んでいく。そして徐々に泡は大きく膨らみ、男の元に辿り着いたときには男がすっぽり入るくらいまで膨らんでいた。
そして、泡は男を包みそのまま男の祖国へと飛んで行った。
掃除も整理も終わった。城の中は長い間放置していたため塵と埃まみれでかなり時間がかかってしまった。そういえば、ある部屋を掃除していると埃まみれの女が着用する服を発掘。埃を落とすために手で叩いてみると、それは白く小さな宝石にレースがふんだんに使われた美しいドレスがあった。このドレスを丁寧に洗濯にすれば、もっと美しくなるだろう。
アリアが言っていた、花嫁衣裳というやつだ。
「・・・」
ヴィヴィオケスは無言で手にした花嫁衣裳を握りしめ、水場へと向かった。
時間をかけ丁寧に洗うとヴィヴィオケスが思っていた通り、先ほどよりも輝きがまし、美しい花嫁衣裳となった。
ヴィヴィオケスは乾いていない、濡れた花嫁衣裳を慣れていない手つきでそれを着る。
花嫁衣裳を着込んだヴィヴィオケスは傍に置いていた「杯」を手に取り、何処から現れるのか正体不明の赤い液体を全て飲み干し、空になった「杯」を遊び道具置き場に置き、先ほどの出来損ないがいた部屋へ行った。
出来損ないは巨体で邪魔だったため、掃除を始める前に水に変え、消した。
まだ掃除をしていないのはこの部屋だけだった。しかし、ヴィヴィオケスは赤く汚れた壁にも床にも目を向けず、部屋の端へと向かった。
そこには、見覚えのある人間のパーツが所々に転がっていた。ヴィヴィオケスは一つ一つ丁寧にその人間のパーツ別に分け集め、それを城の外庭に埋めた。埋め終わるともう一度部屋に戻る。
部屋の端にはまだ人間の死体があった。頭のない男の死体と少し離れたところに男の頭が転がっていた。
ヴィヴィオケスは男の頭をゆっくりと持ち上げ、抱きしめる。
呪いが突然消えた理由。それは、
「うそつきだよ、ナナセ君は」
愛する者が死ぬこと。
「なんで、僕を連れて行かなかったの?君たちが死んでまで倒せなった魔王に僕はすぐに倒せるくらい強いのに・・・」
君たちは知っていたはずだ、僕は君たちとは格が違うと、全て僕に任せれば君たちは死なずに済んだ。
君たち人間が考えることが僕にはわからなかった。
「ちゃんと僕は杯のお蔭で女の子になったのに、君は約束を破る」
気が付けば沢山の泡が僕との周りを浮いていた。
抱きしめていた君をゆっくりと持ち上げ、目と鼻の先に近づける。顔色が悪く、瞳を閉じた君の口は少し開いていた。このまま近づければ、君と本当の・・・
「・・・やめよう」
確かにこれは君だ、でも、もう君では無い。
人間とは恐ろしいものだ。
約束をそちらから提案した癖に
肩を落とし、君を床に置こうとした時だった
君から貰った僕と同じ髪色の色をした貝殻のペンダントが一瞬だが光った。
それがどういう意味かはわからない、でも、気付いたら僕は自然と笑っていた。
人間とは恐ろしいものだ。
しかし、人間は脆い、一瞬目を離せばあっという間に砕け散るのだから。
「君は僕を見つける、どこにいようとも・・・そう言った。だから、僕はここで君を待とう。何年でも何百年でも、信じよう。君と僕の約束を」
僕は手に持っている彼の額にキスをした。
「待っているよ、僕の愛するナナセ君」
瞳から泡が零れ、落ちる、そして僕はこれからもずっと、泡を、涙を、吐き続ける。