惨劇の回避
ひどく残酷な未来…
変えられない運命…繰り返す時間の檻…
それはその物語の人間にとってはどのように映り、
そして…抗うのか…
今までになかった最大のイレギュラー、地震…それによって引き起こされた船を沈めるほどの津波…
逆らえぬ運命が今牙を剥いたかのような大波となって押し寄せてきていた…
真琴達は船内を走っていた。
「くっそ、何がどうなってるんだ!」
俊が答える。
「恐らく、今までの彼の口調から察するとこの今の時間は何度も繰り返された時間でその今までの時間の中で地震が起きたというイレギュラーは初めて…ということになります。」
するとアルカが言う。
「今この船が沈もうとしている原因は津波と聞いた…なら波の位置情報から計算して波が来ている方に船首を向ければ沈むことはまずないと思うんだが…」
階段を駆け降りながら未りえは答える。
「そうです。そのことはすべての船員が知っています。本当の問題はミサイルです…」
俊が続ける。
「ミサイルが落着、爆発し、起きる津波と先程の地震による津波、その二つはお互いに逆方向でこの船を囲むように起こると推測されます。しかも完全に逆方向なら問題はないのですがそうもいかずに…」
霧子は言う。
「成程…つまりもし地震の津波に耐えられてもミサイルの津波により沈んでしまう…かと言ってミサイルの津波に耐えられても地震の津波でアウト…ミサイルの迎撃は不可能なんですか?」
すると俊が答える。
「既にミサイルについては迎撃部隊が向かっていますが本当に迎撃できるかどうかは不透明…それに他国の物ですから迎撃するには色々と手続きがありますのでそれにより申し上げにくいのですが可能性はほぼ0に近いと思われます…」
学生たちがいる客室フロアにたどり着くと未理恵が言う。
「アルカさんと霧子さんはこのすぐ下にある救命ボートフロアで黒い華原さんが細工を施していないかの確認をお願いします。香崎さんと久留さんと華原さんと江利奈は生徒の皆さんと先生方を避難誘導、私と俊で黒い華原さんを捜索します。船内の船員も精鋭ぞろいですが黒い華原さんに行動不能にされている可能性もありますのでよろしくお願いします。」
すると…
「えっと、じゃあ私も手伝ってあげる。この船ヤバイ状況ってことなんでしょ?」
それは丁度近くの自販機からジュースを購入して手に持っていた茉絵だった。優美は言う。
「誘導の手伝いしてもらっていいの?」
茉絵は言う。
「だって人手不足してるんでしょ?それに私なら友達多いから他にも手伝える人呼べるし、その代わり、ちゃんと事情は聞かせてもらうからね。」
優美は嬉しそうな顔をして茉絵の差し出した手と握手した。
カフェトトリアにて…マスターはコーヒーを飲んでいた。
「えらく騒がしいですね…お客様も来ませんし…」
すると目の前に黒い影が現れる。
「いらっしゃいませ、華原真琴様…ご注文は何でしょうか?」
黒い影は黒い真琴の姿になり言う。
『呑気だな、逃げなくていいのか?この船、沈むかもしれないのに、あとレモンティーで』
するとマスターは手を動かしながら言う。
「畏まりました。私はここのマスターを任されておりますので最後の一秒までここに居るつもりですよ。あなたと違いましてね。」
黒い真琴は椅子に座ると言う。
『まさかとは思うがお前…今までの世界全ての記憶を持っているのか?』
不思議そうな顔を見せる真琴に出来立てのレモンティーを差し出しながらマスターは言う。
「お待たせしました、レモンティーです。…今までの世界とはどういう意味だかはわかりかねますね。」
黒い真琴はレモンティーを飲んで言う。
『…なら、お前はこの船の末路はどうなると思う?』
マスターは言う。
「旅行は最後まで楽しく終わるのではないんでしょうかね?お客様のその片目の涙は、それを望んでの涙だと私は思いますが。」
すると黒い真琴は片目をポケットにあったハンカチで拭く。
『…マスター、美味しかった。では俺は本職に戻る。』
マスターはお金を受け取ると言う。
「ありがとうございました。それではいってらっしゃいませ。」
黒い真琴は影に消える。そしてその直後荒々しく二人が入ってくる。
「おや、お客様、どうされましたか?」
すると俊は言う。
「黒いコートを着た青い目の華原真琴様…この方をご存知ですか?」
するとマスターは俊の見せる写真を見て答える。
「その方なら先程までここに居られましたが今丁度入れ替わりで退店されました、彼は結構単純な方で一度上手くいかなかった所には行かず、良く似た場所を好みます。」
未理恵は尋ねる。
「あなたは…逃げないんですか?」
マスターは答える。
「なぜ逃げる必要が?フフ…運命は変えられるものです。過酷な条件でも諦めなければ。」
俊はその言葉の意味を察すると深いお辞儀をして言う。
「分かりました、お言葉ありがとうございます。それでは行きましょうお嬢様、時間がありません。」
二人はまた荒々しく退店した。
「俊?何故逃げるよう言わなかったんですか?」
俊は答える。
「この運命、もしかするとですが霊的に因果が絡まっているのかもしれません…黒い華原様はおそらく船尾にいます。もう津波到達まで6分しかありません、急ぎましょう。」
俊はそう言うと未理恵を抱えて凄まじい速さで船尾へ向かう。
…スタ!
「お嬢様、着きました。」
俊が見据える先には船尾の手すりの上に立つ黒い真琴がいた…
『この運命、もはや話し合いで解決しないことはわかっているはずだ。何故来た?』
俊は答える。
「この世界を終わらせないためです。」
黒い真琴は手すりから降りてゆっくりと歩いて近づきながら言う。
『終わらせない?俺だって俺の手のひらで廻るこの世界を終わらせたくはないね』
未理恵はなんと実銃を構えて言う。
「あなたに何があったのかは分かりません…私はすべての世界の記憶を持っていませんしあなたがいた世界で何があったのかも知ることはできません…ですが人は神になれません…神様ごっこはもう辞めにしませんか?」
すると黒い真琴は懐から紫色に輝く欠片を取り出す。
『ここでは時間が足りない…それに全てを知りたいんだろ?なら見せてやるよ!』
欠片の発する光は一気に強くなり辺りを飲み込んだ。
「ここは…!?」
そこは確かにさっき自分たちがいたところだ…だが何か違う…全てが白くまるで時間そのものが止まっているかのような世界…
『驚いたか?ここは俺の広げた世界。俺が神でいられつづける場所だ、安心しろ、外の時間は止まっている。それより記憶だったな?知りたいと…なら見せてやるよ』
そう言うと黒い真琴の持っているプラスドライバーが青色に光る。
『そらよ!』
黒い真琴はドライバーを未理恵に向けて投げる。もちろん俊が止めようとするが…
「!?お嬢様!!」
ドライバーは俊の体をすり抜け未理恵の頭に突き刺さる…そして消える…未理恵は倒れる…
『安心しろ、死にはしないし傷は負ってない、あくまでショックで気を失っただけだ…ほら、起きるぞ?』
未理恵はゆっくりと起き上がる…
「真琴…真琴!?…私が…全て…思い出した…」
俊は駆け寄り尋ねる。
「お嬢様、大丈夫でございますか!?」
すると未理恵は俊に言う。
「思い出しました、私が全て悪かったことも…責任を軽んじていたことも…だから、これは私が終わらせないと…」
黒い真琴は言う。
『最初の世界…俺はお前らをマークしていた繰り返す世界…その書物をアルカの研究所で見つけた時には驚いたよ、そしてトリガーとしてA-15が使えることも俺は理解していた。霧崎俊、案ずるな。この世界を出ればこの記憶は消える。』
俊は怒りが少し顔に出て尋ねる。
「何故お嬢様を苦しめるようなことをなさるのですか!?」
すると黒い真琴はめんどくさそうな顔をしてマイナスドライバーを突きつける。
『俺は十分こいつのせいで苦しんだ…俺を作った大元の原因だからだ。こいつの家系があんなことしなければこんなに因果が重なり合うこともなかったんだよ?まぁ、神になれる機会を作ってくれたのには感謝しているつもりだが神の座から引き摺り下ろそうとする行為は許せないということ…単純な動機だが問題でもあるのか?』
すると未理恵は言う。
「私が死ねばいいんですよね?全ての責任を私が負えば…」
黒い真琴はそれを聞くと待ってたと言わんばかりの狂気の顔をして言う。
『そうだなぁ?ハッハハハ!だから絶望して死ねよ!アハハハ!!』
黒い真琴は躊躇なくマイナスドライバーを俊に投げる。勿論かわそうとするが投げたドライバーは複数に増えていった…そして全方位からドライバーが襲いかかった。
「…ここは彼の世界…ですか…」
俊は抵抗をやめ目を閉じた…
「らしくないぞ、俊!幻は幻に…虚飾によって生み出されし虚構は虚無へ帰る!ファントムキラー!」
俊を囲んでいたマイナスドライバーは何故かは分からないが今そこに確かに存在する霊能力の使えないはずの真琴が霊紙を使って無効化していた…しかもその右手には…霊紙を使って作ったと思われる剣があった。
『馬鹿な!?何故貴様がここにいる!?貴様を招いた覚えはないぞ!』
「黒い華原くん?観念してね?バインド!」
なんと黒い真琴の後ろの物陰には優美が隠れていた、そして優美までもが霊術を使っていた。
『馬鹿な!?神たるこの私が!一般人如きに!』
黒い真琴は動けなくなっていた…
「どうしてここに?」
俊がそう尋ねると真琴は答える。
「救助誘導してたらなんか茶色いコートの探偵のような帽子をかぶったメガネの先生だっけ?その人に船尾に忘れ物したから取りに行ってきてくれって頼まれたんでとりにいったらなんか紫色の光に吸い込まれてこんなとこに飛ばされたわけ、で優美と隠れて様子を見てたら杏芽條のお嬢さんがドライバー頭に撃たれた時だっけ?その時に突然頭痛がして何故かは分からないんだけど霊紙の使い方とかを思い出して今に至る」
すると黒い真琴は慌てる。
『くっそ、一時的とはいえ俺と記憶を共有したっていうのか!?くそ!この!』
だが動けない…優美の術式による効果だ…
「諦めてもうやめにして…もうこんなのやめるべき。」
優美がそう言うと黒い真琴は言う。
『ふん!どうせ貴様らが術式を使えるのはこの空間だけ!なら外に出ればいい!!』
黒い真琴の懐から紫色の光が溢れる…
「お覚悟を…華原真琴さん…」
そこにいたのは銃を構えた霧子だった…先程黒い真琴が外へ出るまでの間時間は止まっているはずだ…・だが確かに霧子とアルカはそこにいた…そしてすぐ近くに永子の姿も…
『クク…どうせ俺をこの世界で捕らえる事などできない…お前らの負けだ…』
すると永子は言う。
「なら…その涙は何?…」
黒い真琴は直ぐに右目を手で確認する…一筋の涙がそこに流れているのは事実だった…
「お前が…いやA-14がすでに死んでいることは容易に察しがついた…何故ならお前のその姿はこの世のものであってそうでない…他の世界線のものだろうからな…」
アルカはゆっくり銃を下ろしながら言う…霧子もそれを聞くと銃を下げた。
「姿だけでなくその感情すらも取り込んだお前は、必然的に同化を始めた…そしてA-14の意識は完全…とは言い切れないが死んだんだろ?だからお前は俺ってことになる…本質は違うが俺だ…だからお前は俺が一番憎い、一番嫌ってるのは杏芽條家なんてのははなっからの嘘なんだろ?」
真琴はゆっくり立ち上がりながらそう言うと黒い真琴は答えた。
『フフフ…ハーッハハハハ!!そうだよ!俺が憎いのはお前だよ!!華原真琴!!!いや…この世界の俺!未理恵を苦しめることでお前が苦しむ姿を永遠と見続けていたいんだよ俺はぁ!』
すると未理恵は立ち上がって言う。
「誤解を招かないために言っておきますが…今の私は、華原さんをそういう目では見ていません。以前の世界の私と私は違います。そして苦しめるとおっしゃっていましたが…今回の世界では、私は楽しかったですよ、いろいろトラブルはありましたが…あなたのことについて考え、色んな事をして…」
黒い真琴はそれを聞くとドライバーを投げながら言う。
『嘘だ嘘だ!俺はお前らの脅威だったはずだ!悪夢だったはずだ!』
すると俊は身軽な動きでそれを海に蹴り落とす。
「本心でございますよ、お嬢様はあなたと出会われて今までにない笑顔をよく見せるようになりました。色々な調査をなさったりとても楽しそうに何かを調べるなどと、全て、貴方様が与えてくださったことです。」
すると黒い真琴は頭を抱えて苦しみ出す…
『くっそ…やめろ、消えたくない!俺はまだ消えたくない…ぬぐううう!!またループすれば…』
しかしその言葉とは裏腹に黒い真琴の姿はどんどん光の粒になって消えていく…存在が保てなくなっていっているのだ…そしてそれは惨劇の未来が変わろうとしていることを意味していた…
すると永子はゆっくりと苦しむ黒い真琴へ近づいていき黒い真琴の頭に右手を乗せる。
「…よく頑張ったね…もういいよ。もう、充分貴方は苦しんだ…そして楽しませてくれた…アルカも真琴も…みんなだって貴方が居たから打ち解けた…さ、私のところへお出て…」
それは、永子が薄れ切ったA-14の意識に語りかけていた…そしてその意識を自分の中へ統合しようとしていた…
「確かに、理論上はあれ程薄れきっている意識を取り込んだことで起きる統合の副作用はほぼない…だがあれは悪意の塊…そんなことをすれば…」
アルカがそう言うと江利奈が肩に手を乗せて言う。
「心配するより今はミサイルを迎撃できたかどうかが肝心じゃないの?それにあの子なら大丈夫よ、グレたらぶん殴るし」
するとアルカは苦笑しそして告げる。
「フフ…皆聞け!ミサイルの迎撃は間一髪だが成功した。つまり旅行は中止にならない!」
するともうほとんど形の消えかかった黒い真琴は膝をついて永子の方へ倒れ込む。
『どうやら…天はお前らに味方したか…知ってるとは思うが俺は時間が繰り返されないと死ぬ…ッハ!寿命ってやつかな…因果律の修正力…流石なもんだ…もう疲れた…丁度そう……思ってたし…な……』
…ドサ
黒い真琴の姿は永子…いや、アルカモデルの姿になっていた…だがその姿さえも光の粒になって消えていく…
『忘れ…るな……お前たちは…危険と……隣り合わせにいることを…』
すると永子は唱える。
「統合せよ…我が魂の片割れ…ソウルフュージョナル!」
永子とA-14が白く光る…そして次の瞬間A-14は消える…そして全てが終わったことを確認した真琴は永子に近づき尋ねる。
「…大丈夫か?」
永子は答える。
「うん…彼女も…私も…丸く一つに…収まってる」
それを聞いた未理恵は指示を出す。
「全て…長い長い全てがようやく終わりました…ですがまだ船内の人は把握していないでしょう…そこで今回の避難ですが…訓練だったということにしようと思います。」
俊は無言で頷く。
「じゃあ旅行の再開ってことよね?未理恵?」
江利奈がそう尋ねると未理恵は答える。
「はい、その通りです…」
真琴は言う。
「とりあえず俺は救命ボートのところに行く、母さんいるだろうし」
涼が言う。
「じゃあ俺も行く。」
すると優美が尋ねる。
「あの?部長さん…えっと…その…教師に茶色いコートの探偵のような帽子をかぶったメガネの先生っていました?ちょっと見覚えがなかったので…」
すると俊が答える。
「いえ、そのような服装の先生はおられませんが…どうかされましたか?」
優美はごまかす。
「い、いえ、なんでもないです!そういえば予定のことなんですけど…」
一同はそんな風に話しながら船内へ戻った。
「上手くいったんだね」
そう言いながらコーヒーを飲むカフェトトリアのマスター…そしてテーブルには紫色の…いや、今は輝きを失っている欠片があった。
「さて、永遠に続く物語…それは本当に終わったんだろうかな?」
マスターは欠片を手にとってそう言うとニヤッとして従業員用の休憩室に消えた…
バーテンマスター:大変残念なお知らせがあります…
バーテンマスター:連載中のこのループと傍観者の現実ですが来週、又は再来週で最終回とさせていただきます。
未理恵:いつも楽しみにしてくれていた皆様には申し訳ありませんがもう執筆者の方に時間がありません。
俊:計画としては第二部…といった感じに続編を書くつもりですが夏休み以降となるのが予想されます…
バーテンマスター:短い間だったが楽しんでもらえたら我々一同光栄の極みです
未理恵:それでは次回、最終回にはならないと思われますが…
俊:修学旅行の行方はどうなるのか
バーテンマスター:まぁ、ただのサービス回だな。
永子:次回へ続くー…




