第2話:『夜間限定の用心棒』
日中のオフィス。キーボードを叩くリクの右肩には、でかでかとサロンパスが貼られていた。
リク「いっ……てて……。なんだってんだよ、この筋肉痛は……」
上司「おい黒金! 昨日の資料、グラフのフォントが気に入らんな! 全部作り直せ!」
リク「(頭を下げつつ)……かしこまりました。すぐ修正します」
画面に向かいながら、リクは深いため息をつく。
リク「(……やっぱりあの夢のせいか? でも、まさかな。夢の中のバールぶん回した衝撃が現実に残るわけ……いや、でもあのバールの感触、妙にリアルだったな……)」
仕事をなんとか終え、定時に這うように帰宅したリク。
リク「ハァ……今日も疲れた。早く寝て、身体休めよ……」
ベッドに潜り込み、リクは吸い込まれるように意識を落とした。
目を覚ますと、そこは再びあの異世界の王都・路地裏だった。
月明かりの下、スーツ姿でポツンと立つリク。
リク「……あ、またこの夢か。連続で同じ世界観の夢見るとか、俺の脳内どうなってんだ」
アルティナ「あーーーーっ!! やっぱり出たぁぁぁ!!」
路地裏の影から、昨日の少女・アルティナが飛び出してきた。
アルティナ「探しましたよ! 突然消えちゃうから、幽霊かと思いました!」
リク「まあ、俺からしたら君は夢のNPCだからな。
ところで、なんか食うものない? 夢の中でも腹は減るみたいだ」
アルティナ「えっ、あ、はい! うちの貧乏ギルドでよければ、温かいスープくらいなら……!」
アルティナの案内で、ボロボロのギルド本部に到着した二人。
リクは出された温かいスープとパンを美味そうに平らげる。
リク「うまっ……! 会社近くのコンビニ弁当より全然うまいわ」
アルティナ「本当ですか!? あの……もしよろしければ、これからも夜の間だけでいいので、うちのギルドの用心棒になっていただけませんか!? お礼に、毎晩美味しいご飯を作りますから!」
リク「夜限定の賄い付きバイトか。まあ、夢の中の暇つぶしなら悪くないな。交渉成立だ」
その時――パンッ! とギルドの窓ガラスが割れ、暗闇から素早い影が舞い降りた。
漆黒の衣装を纏った無口な少女・シルヴィア。その手に握られているのは、殺意に満ちた二本の短剣だ。
アルティナ「ひっ……! 殺し屋!? 昨日の悪徳魔法使いの仲間ね!?」
シルヴィア「……ターゲット確認。口封じを開始する」
超高速の踏み込み。一瞬でリクの背後に回り込んだシルヴィアは、無防備なリクの首元目がけて短剣を振り下ろした。
アルティナ「危ないっ!!」
リク「(……ん? 夢だから刺されても痛くないだろ)」
避けようともせず、無反応で突っ立っているリク。
次の瞬間――
ガッキィィィィン!!!!
金属同士が激しくぶつかり合う凄まじい高音が室内に響き渡った。
シルヴィアの短剣は、リクの首元に触れた瞬間――木っ端微塵に粉砕された。
シルヴィア「……なっ!?」
リク「……? なんか首の後ろがチクッとしたな」
シルヴィア「ば、化け物……! 私の魔力強化された短剣が……首の筋肉に弾かれて折れた……!?」
リクは日課の筋トレ(鍛え上げられた僧帽筋)をさすりながら、不思議そうに振り返る。
リク「夢の判定基準、どうなってんだマジで……」
暗殺失敗の衝撃に青ざめ、ガタガタと震えるシルヴィア。
すると突然――
グゥ〜〜〜〜〜〜……
静まり返った部屋に、盛大なお腹の虫の音が響いた。
シルヴィアの顔が真っ赤になる。
リク「お前、腹減ってんのか?」
シルヴィア「……くっ、殺せ。ここ数日、まともな依頼がなくて何も食べていない……殺し屋の恥だ……」
リクはアルティナから貰ったパンの残りとスープの器を、シルヴィアの前に置いた。
リク「ほら、食えよ。腹減ってちゃいい仕事できないぞ」
シルヴィア「……!毒、入ってない……?」
恐る恐る口に運ぶシルヴィア。
一口食べた瞬間、瞳を輝かせ、凄まじい勢いでスープを貪り食い始めた。
シルヴィア「んぐっ、うま……! こんな温かいご飯、久しぶり……!」
一滴残らず平らげたシルヴィアは、口元を拭うと、リクに向かって深々と頭を下げた。
シルヴィア「……ごちそうさま。今日からアンタが私の『ボス』だ。ターゲットの変更を完了した」
アルティナ「順応が早すぎるでしょーーーーッ!?」
リク「いや、俺は別にボスになりたくないんだけど……あ、やば。そろそろ目覚ましの時間だ」
ピピピピ! ピピピピ!
リク「じゃ、また明日の夜な」
シルヴィア「了解、ボス。良い夢を」
アルティナ「だから夢だって言ってるでしょ!?」
光となって消えていくリクを見送りながら、ツッコミを破裂させるアルティナだった。
「……ふぁ」
目覚ましを止め、ベッドから起き上がるリク。
リク「……今日は首周りが猛烈に凝ってるな。サロンパス追加で貼っとくか……」
湿布を貼りながら出勤準備をするリクの日常は、こうして続いていくのだった。




