99 ▼爽香の「腰タンタン」(前編) ~初めての1コース~
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【あらまし】(ボートレーサー奮闘記)
「ボートレースは『恐怖』と『欲望』のスポーツだ」――。 デビューから2年、若手レーサーの速水爽香に、ついに「1号艇・1コース」の出番がやってくる。
先輩の佐郷から聞かされたのは、1コース特有のプレッシャーと、失敗すれば背中にボートが突き刺さるという恐ろしい事故の現実だった。
悪夢にうなされながら迎えた本番。スタート勘も定まらない爽香が繰り出したのは、隣の選手を完コピする「ミラースタート」と、先輩の言葉を勘違いして編み出した謎の技(?)「腰タンタン」。
果たして爽香は無事に完走し、夢の賞金をゲットできるのか? 勘違いが奇跡を呼ぶ、波乱のインコース・デビュー戦!
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【主な登場人物】
1. ボートレーサー(選手)
練習小部屋での会話からレース本番まで、物語の中心となるメンバーです。
速水爽香
本作の主人公。デビュー約2年の若手。今回、初めての「1号艇(1コース)」に挑戦し、独自の解釈を加えた「腰タンタン」という技を使う。
志摩真波
爽香の同期。実家が裕福で、爽香からは「稼がなくても生活できる」と揶揄される場面も。1コースの恐怖心を感じている。
佐郷大翼
27歳。爽香・真波の先輩。1コースでの「1マークの重要性」や「事故回避の心得」を後輩たちに論理的に説く良き兄貴分。
外山研悟
21歳。爽香たちの後輩。先輩たちの話を熱心に聞き、シミュレーションを行う。
友田千加
爽香・真波の同期。一足先に初イン(1コース)を経験するが、格上の川道選手に捲られ6着。無事に完走。
川道正之
41歳、A1級。友田のレースに出場。格の違いを見せつけ、虎視眈々と狙った捲りで勝利。
荒瀧朝香
41歳、A1級。爽香の初インレースの2号艇。緊張する爽香をいじって和ませる余裕のあるベテラン。
大城千夏
爽香のレースの6号艇。ターンで失敗し転覆。
2. 観戦・応援メンバー(市役所側)
茂木の部屋に集まり、テレビ越しに爽香を応援しているメンバーです。
茂木数魔
爽香を温かく見守る。インタビューでの彼女の独特な発言にもフォローを入れる優しい性格。
丹沢純也
爽香の技術不足を心配しつつも、結局は熱心にモニターを見つめる。「金の話をするな」と毒づきながらも彼女を応援している3人のうちの1人。
由利源吾
爽香のインタビューに鋭いツッコミを入れる。彼女の勘違い(虎視眈々→腰タンタン)を面白がり、「流行語大賞」を期待するなどノリが良い。
3. その他
インタビュアー
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【前書き】
●この小説には多くの数字が出てきます。そこで読者の皆様が読み易いように横書きとなっております
●多人数での会話も多いことから、誰が話しているのか、すぐにわかるよう会話の頭に台本形式で、氏または名を付けて表現しました
●この物語はフィクションです。実在の個人・団体、実際のレースとは一切関係ありません。ボートレーサーと市役所職員をモデルに、フィクションとして制作されたものです
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【01】 同期3名、初の1コース
朝10時。『ボートレース戸田』の選手練習小部屋。
練習用の小部屋には、レース用モニター、電子レンジ、小型冷蔵庫、椅子が置いてあり、練習に来た者がこの小部屋でプロペラを叩いたり、実際のレースの模様をモニターで観察する。13時を過ぎれば、実際にボートに乗り、水面で実戦練習することも出来る。
この日は、速水爽香、志摩真波、佐郷大翼(さごう・だいすけ・27歳)、外山研悟(そとやま・けんご・21歳)の若手4人が練習に来ていた。
女性2人、男性2人。速水爽香、志摩真波から見て、佐郷大翼は先輩、外山研悟は後輩である。
今、速水爽香と志摩真波は自己練習に来ており、開催中のレースには同期である友田千加が出場していた。
真波「今、開催中のレースで、同期の(友田)千加さんが初めて1コースに入るのよ!」
佐郷「友田(千加)さん、1コースに入るのは、初めてなんだ?」
真波「そうなのよ」
佐郷「そうですか」
真波「ちょっと心配で……」
佐郷「志摩さんと速水さんは、1コースの経験があるんですか?」
真波「次の開催で爽香さんが。その次の開催で私が初めての1号艇に組まれるみたい」
佐郷「そんな情報があるんですか?」
真波「情報はないけれど、今回が千加さんだから、恐らく次は速水さん、って感じかな?」
佐郷「じゃぁ、3人ともデビューして2年ぐらいが経つんですね」
真波「その通り」
佐郷「そうなんだ」
真波「佐郷先輩の初めての1コースはどうでしたか?」
佐郷「もちろんドキドキしましたよ」
真波「やっぱり!」
佐郷「1コースに入れば、私がいくら下手でも舟券を買ってくれる人が増えるでしょうからね」
真波「そうそう」
佐郷「一緒に走るメンバーと言うか先輩方からは『こいつ、本当に大丈夫か? まともに走れるのか?』という目で見られているような気がして」
真波「そうよね」
佐郷「お客様と選手と両面からの圧を感じてしまって震えてましたよ」
爽香「ふふふ」
聞いていた速水爽香が、先輩に対して遠慮なく笑った。
真波「佐郷先輩ほどの腕があってもそうなんですか?」
佐郷「腕なんか無いですよ。今ほどうまくもなかったし」
真波「そうですか?」
佐郷「ええ」
真波「どんな所を気を付けて走りましたか?」
佐郷「絶対に気を付けなければいけないのはただひとつ!」
真波「えっ!」
爽香「なになに?!」
佐郷「1マークのターンで失速しないことです!」
真波が黙って頷いた。
爽香「うんうん」
佐郷「みんな、わかっているんだろうけれど、それでもやっちゃうんだ」
真波「そうなんですか?」
佐郷「うん、まくられそうになって、慌ててハンドルを切り、失速。そこに、5号艇、6号艇が避け切れずにぶつかって来る。1号艇選手の背中にボートがドーンと突き刺さる!」
爽香が真波の背中を
爽香「ドーン!!」
両手で軽く叩いた。
真波「キャッ!!」
真波が驚いた。
真波「やめてよぉー、うん、もう!」
佐郷「ははははは」
外山「ははははは」
男性2人が笑った。
佐郷「いいかい、聞いてくれる?」
真波「はい」
佐郷「1コースで1マークの失速は命取りになる」
真波「……」
爽香「……」
外山「……」
佐郷「万が一、1マークで失速したら、自分の命を守ることだ!」
真波「……」
爽香「……」
外山「……」
佐郷「間違いなく、次々と舟が突っ込んでくる!」
爽香「避けられないの?」
佐郷「無理だ!」
真波「……」
爽香「……」
外山「……」
佐郷「避けるどころか(周りを)振り向く時間さえない!」
真波「……」
爽香「……」
外山「……」
3人が一瞬固まった。
真波「じゃぁ、どうすれば?」
佐郷「ハンドルを握って隠れる!!!」
外山「隠れる?」
佐郷「まず、体が宙に飛ばされないよう、瞬間的にハンドルを強く握りしめる。それと同時に船底に身を隠す」
外山「うん???」
佐郷「船底からカウリング(サイドの盾)のてっぺんの間に、体を沈めるんだ」
外山が前かがみになって、佐郷の言う態勢をとった。
外山「こうですか?」
佐郷「うん。低ければ低いほどいいね。ボートの深さが40センチぐらいしかないからね」
真波「カウリングは、人間を守る盾なんですね」
佐郷「うん、そうだ」
真波「1コースって、怖いわ」
佐郷「そう、その通り!」
爽香「でも、一番稼げるんでしょう?」
佐郷「そう。ボートレースは『恐怖』と『欲望』のスポーツだからね」
爽香「『恐怖』と『欲望』かぁ~」
真波「でも、それはどんなスポーツでも同じよ」
佐郷「うん。ただボートレースはその度合いが高いのかも知れないな」
爽香「なるほどね。でも私は稼ぎたいから1コースで頑張らないと!」
真波「う~ん」
佐郷「志摩さんは、1コースが怖いんだ?」
真波「今の話を聞いて、背中にボートが刺さるかと思うと、」
爽香「志摩さんちは、お金持ちだからよ。稼がなくても生活が成り立つからね」
それを聞いて、真波がムッとした。
佐郷「その言い方はまずいな」
佐郷が真波の気持ちを察して、爽香の口撃を止めに入った。
爽香「……」
佐郷「言葉も胸に突き刺さるから注意だな。イエローカードだよ」
爽香「……、ゴメン」
真波「ううん、大丈夫」
佐郷「とにかく、1コースに入ったら焦らないことだ」
真波「でも、人気に応えないと、思うじゃない?」
佐郷「余計な考えだね」
真波「えっ?」
佐郷「1コースに入ったからって、必ず1着になれる訳じゃない」
真波「まぁ、そうだけれど、」
佐郷「1マークで『焦る』のには、理由が2つある」
真波「???」
爽香「???」
外山「???」
佐郷「ひとつ目は、自分が実力も無いのに、実力以上を期待する時」
3人が一緒に頷いた。
佐郷「まだたった2年しか走ってないのに、そして1コースを走ったこともないのに、なぜ1着が取れると思うんだい?」
真波「……」
爽香「……」
外山「……」
佐郷「それが大事故を招くんだ」
3人が一緒に頷いた。
佐郷「ふたつ目は、想定外の事が起きた時」
真波「???」
爽香「???」
外山「???」
佐郷「まくり勢が思ったより速く、その引き波にはまってしまったとか、」
3人が一緒に頷いた。
佐郷「突然の向かい風とか、」
3人が一緒に頷いた。
佐郷「まくり差しの舟がぶつかって来たとか、」
3人が一緒に頷いた。
佐郷「例を挙げたら切りがない」
3人が一緒に頷いた。
佐郷「それを避けるには、今までの事故レースをインターネットなどで出来る限り見ておくことだね」
3人が一緒に頷いた。
佐郷「過去の事故レースを頭の中に引き出しとして持っていれば、対策も出来るし、それを避けようと努力する」
3人が一緒に頷いた。
佐郷「『知る』と言うことが、恐怖心を無くすことにつながる」
3人が一緒に頷いた。
佐郷「もし、スタートで遅れをとっても焦らないことだね。その時点で、素直に負けを認めることも重要だと思うよ」
真波「なるほど、勉強になります」
外山「事故で一番多いのは、スタート直後、最初のターンですもんね」
佐郷「うん」
外山「そこで1号艇が止まったら、大事故ですよ」
爽香「減点と事故点になるし」
佐郷「うん、それはもちろんだけれども。とにかく何があっても全員ケガせずピットに戻って来て欲しいな」
【02】 友田千加、初の1コース
朝11時。第2レースが始まろうとしていた。
真波「そろそろ第2レースが始まるわよ」
真波が室内にあるモニターを見ながら言った。
爽香「千加さんの1コースデビューですね」
真波「事故が無ければいいけれど……」
モニター画面に出走表が映し出された。
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【モニター画面】
戸田 4日目 2レース 予選 男女一般戦
1号艇 友田千加 25歳 B1級 勝率3.34 モーター× 65653
2号艇 川道正之 41歳 A1級 勝率6.44 モーター- 11421
3号艇 水巻慎一 32歳 B1級 勝率3.24 モーター◎ 46454
4号艇 山添正寿 39歳 A1級 勝率6.70 モーター△ 53114
5号艇 川延芽具 29歳 A1級 勝率6.61 モーター- 11422
6号艇 森野弘志 35歳 B1級 勝率4.97 モーター○ 13414
※『モーター』のうしろの印はモーターの予想印。その後の数字は前走成績
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佐郷「ほぉー、みんなベテラン揃いだ」
真波「その方が安全ですか?」
佐郷「だと思うよ。良かった、良かった!」
真波「友田さんの目標は、勝負よりも、無事完走ですね」
佐郷「その通り! 『無事これ名馬』だからね」
爽香「???」
外山「2号艇の川道さんが何かやらかしそうですね」
佐郷「うん、このメンバーなら格上だからなぁ」
真波「本当だ! 『勝率6.44』ですものね」
♪ファンファーレと共に、6名のレーサーが水面に出てきた。
実況「進入は枠番通り」
真波「いよいよね」
実況「10秒前、5秒前、スタート!」
スタート。
爽香「わっ! (千加の)スタート、遅れた!」
佐郷「『遅れた』と言うより、他が早いんだろう?」
真波「1マーク、大丈夫かしら……?」
佐郷「見守るしかない」
真波が両手を組んで握り締めた。そして力を込めた。
真波(ケガしないでよ!)
1周1マーク。
2号艇川道が1番まくり、6号艇森野が2番まくりから差しに行った!
1号艇友田は、スタート直後の直線から置いて行かれた。1マークでは、1艇身遅れた。
1周1マーク、友田は2号艇の引き波に飲まれ、大きく膨れて旋回した。
その内側を他艇が次々走り去って行く。
佐郷が2号艇の早いスタート、そして1号艇をつぶすまくりを見てつぶやいた。
佐郷「1号艇が初インだとわかって、2号艇が『虎視眈々』と狙っていたんだな」
2号艇川道は、旋回すると同時に腰を浮かせ2度ほど前後に腰を動かした。
爽香(ふーん、あれが『腰タンタン』と言う技なんだ?)
2号艇川道が腰を動かすと艇はグンと伸びた。爽香にとってそれは、さざ波を押しつぶして進む感じに見えた。
爽香(あの技は使えそうだわ)
真波「千加、1マーク相当流れたけれど、ケガしなくて良かった」
佐郷「そうだね」
千加の初インは、6着の成績で終わった。
佐郷「初インで1着を取る選手なんてまず居ないよ」
爽香「そうなんですか」
佐郷「デビューしてまだ2年だろう、『石の上にも3年』ってことわざがあるじゃないか。ボートレースで言えば、『水の上にも3年』ってとこだね。3年は毎日が我慢の日々さ」
真波「うーん、そうね。耐えるしかないわね」
佐郷「デビューして3年間は、いくら成績が悪くても、引退勧告の対象にならないのだから、この期間に基礎技術をしっかりと身につけておけば良いと思うよ」
真波「そうか、逆にこの制度を利用して、いろんなことを試して行けばいいのね」
外山「そうか、4年目からは成績を落とせないもんなぁ」
佐郷「うん。観客の見る目も厳しくなってくるからね」
爽香「……」
【03】 速水爽香、初の1コース
数日後。
爽香は、次回出場の前々日に自宅で夢を見た。
夢の内容は、
爽香「初めての1コースだわ」
爽香は水面に浮かんだボートに乗り、他の5艇をぐるっと見渡した。
爽香「こういう景色が存在するのね。他艇って自分の左側に存在するものだとばかり思っていたけれど、他艇って右側にも存在するんだ……」
爽香にとって初めて見る光景だった。
レースコース中央の大時計が回り始めた。
爽香も時計の針の動きに神経を集中させた。
白い針、スタート1分前から動き始める。そしてスタート15秒前に白い針が隠れて消えた。
爽香「うっ! 黄色い針だ!」
白い針に代わって、黄色い針が動き出した。スタート12秒前!
爽香「ドキドキする! そろそろ舟を起こさないと、」
爽香の背後からうなりを上げてダッシュ勢が迫って来た。
爽香「1コースだと、他艇のエンジン音が背中から伝わって来るんだ……」
爽香がスロットルレバーを握り締め、臨戦態勢に入った。
黄色い針が真上を指した。スタート!!!
爽香は他艇と遜色なく、横一線のスタートを切った。
爽香「よしっ!!!」
爽香が思わず叫んだ。そして、1周1マーク、
爽香「V字にターンだ。負けないぞ!!」
爽香が思い切ってハンドルを切った。その瞬間、舟が水の抵抗に合い止まった。
爽香「あっ!」
そう叫んだ時、後ろの舟の先端が爽香の背中に突き刺さった!!!
爽香「ギャーーーッ!!!」
爽香は大きな叫び声を上げると同時に、自分の声で目が覚めた。
爽香「ふーっ、夢か」
爽香が悪夢を見てから5日後。爽香の初インの日がやって来た。
『ボートレース戸田』の開催。オール女子戦4日目、第1レース。
茂木の部屋には、茂木、丹沢、由利の3人が集まっていた。3人は、大型テレビで『ボートレース戸田』の開催を見ていた。
茂木「いよいよ速水さん、初の1枠ですね」
由利「この前の友田さんは6着だったけれど、速水さんはどうかな?」
丹沢「7着か、8着だろう?」
由利「ははははは」
茂木「友田さんより、下ってことですか?」
丹沢「フライング休みも多かったし、練習してるのかなぁ?」
茂木「してると思いますよ」
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【テレビ画面】
戸田 4日目 1レース 予選 オールレディース一般戦
1号艇 速水爽香 23歳 B1級 勝率3.33 モーター- 53543
2号艇 荒瀧朝香 41歳 A1級 勝率6.43 モーター- 26332
3号艇 入間幸恵 43歳 B1級 勝率4.00 モーター◎ 45554
4号艇 潮崎浩美 45歳 B1級 勝率3.90 モーター△ 45653
5号艇 藤咲美樹 43歳 B1級 勝率3.61 モーター× 62422
6号艇 大城千夏 24歳 B2級 勝率1.91 モーター○ 13414
※『モーター』のうしろの印はモーターの予想印。その後の数字は前走成績
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『ボートレース戸田』。4日目、第1レース、スタート展示が始まった。
戸田 4日目 1レース 予選 オールレディース一般戦
スタート展示(コース内から)123456
スタートタイミング内から、F11.03.09.10.12.05
速水爽香がピットに戻って来て、スタート展示のスリット写真を見た。
爽香「げっ!『F11』! 私だけ非常識なフライングだわ!」
2号艇の荒瀧朝香が、
朝香「速水さん、大丈夫? スタートが全然合ってなかったみたいだけれど?」
3号艇の入間幸恵が、
幸恵「ここまでハズすと、見事と言うしかないわね」
4号艇の潮崎浩美が、
浩美「本番もこのままだと、すぐ帰れるわよ。何か用事でもあるの?」
一同「ははははは」
それに反応してみんなが笑った。
爽香「本番は、調整します」
爽香がみんなに向かって、軽く会釈をした。
出場メンバーも爽香に対して、イヤミで言っているのではなく、肩の力を抜かせるためのトークだった。それほどまでに爽香の緊張と意欲がメンバーに伝わっていたのだった。
茂木の部屋。
丹沢「おいおい、大丈夫かな? 速水さんスタート展示、派手なフライングだったみたいだけれど?」
由利「あのまま行けば、1番だったかも知れないけれどなぁ」
茂木「ええ、6人の中で一番先に家へ帰れたでしょうね」
丹沢「相変わらずスタート感が無いんだな」
由利「うん」
丹沢「心配だよ。またフライングして長期休養に入るんじゃないかと、」
茂木「そうですね」
丹沢「黙って祈るしかないか?」
由利「大丈夫! 彼女だってそこまでバカじゃないよ。本番はゆるめて来るさ」
丹沢「だと、いいけれど」
茂木「でも、甘いスタートだとまくられちゃいますよ」
丹沢「そうだな」
由利「難しいところだな」
♪ファンファーレとともに、6名の女子レーサーが水面に出てきた。
実況「進入はインから1、2、3、4、5、6」
実況「大時計が回り、10秒前」




