91 ▼女子選手の特技 編 ~水面の舞と、地上の回し蹴り~
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【あらまし】(女子ボートレーサーたちの痛快エピソード)
ボートレース下関で初勝利を挙げた計良光帆。元シンクロ日本代表という異色の経歴を持つ彼女が水面で見せた「V字の足」のパフォーマンスに、ファンもピットの選手たちも歓喜に沸いた。しかし、その興奮冷めやらぬ帰路、平穏な空気は一変する。
ひとり駅へ向かう志摩真波の前に現れたのは、こん棒を手にした暴漢だった。絶体絶命の危機に駆けつけたのは、さっきまで同じ水面で戦っていた仲間たち。
「私たち、彼女のSPなの」 美しきレーサーたちが隠し持っていた「世界レベルの武器」が、暗闇で炸裂する。女子レーサーの絆と強さが光る、痛快エピソード。
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【主な登場人物】
1. 主要人物(ボートレーサー)
●志摩真波
埼玉支部所属。美人レーサーだが「男運がない」と自称している。
レース後、帰宅途中にホームレスの男に襲われるが、持ち前の冷静さ(時間稼ぎ)と仲間の助けで難を逃れる。
●計良光帆
大阪支部所属。元シンクロナイズドスイミング日本選手権優勝者。
190走目にして初勝利を挙げ、水神祭で鮮やかな「V字の足」のパフォーマンスを披露する。
●藤倉亜希
空手の世界チャンピオンという経歴を持つレーサー。
真波を助けるために「SP」を名乗り、鮮やかな右回し蹴りで犯人の肋骨を折る(疑い)。
●野坂彩水
空手(組み手)で日本一の経歴を持つレーサー。
亜希と共に真波を助け、左回し蹴りで犯人を撃退した。
2. 観戦者(茂木の部屋)
●茂木数魔
計良光帆のファン。自宅の55インチテレビでレースを観戦している。
●丹沢純也
茂木、由利と共にレースを観戦。計良のパフォーマンスに「ブラボー!」と喝采を送る。
●由利源吾茂木、丹沢と共に観戦。計良の初勝利を待ちわびていた。
3. その他
●ホームレス風の男
60歳前後、身長180cm。こん棒を持って真波を襲った強盗犯。
亜希と彩水の蹴りによって返り討ちに遭い、後に「女から蹴られた」と恥じ入る。
●下関署の警察官
事件現場に駆けつけたパトカー3台の乗員。
女子レーサーたちの蹴りの威力に驚き、後日、真波に犯人の様子を電話で報告する。
4. 会話の中で言及されるレーサー
●福屋果穂:元重量挙げ高校王者。「怪力美人レーサー」。
●山北美涼:元プロスノーボーダー。
●友田千加:真波の知人レーサー。以前、真波たちに「レーサーも船乗り」と語った。
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【前書き】
●この小説には多くの数字が出てきます。そこで読者の皆様が読み易いように横書きとなっております
●多人数での会話も多いことから、誰が話しているのか、すぐにわかるよう会話の頭に台本形式で、氏または名を付けて表現しました
●この物語はフィクションです。実在の個人・団体、実際のレースとは一切関係ありません。ボートレーサーと市役所職員をモデルに、フィクションとして制作されたものです
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【01】 水神祭でV字の足?
ボートレース下関、最終日。
この日、初めて、1着を取った女子レーサーが居た。計良光帆(けら・みほ、大阪支部。第6レース計良光帆は4コースからマクっていった。 そして、190走目にして初めて勝利したのだった。
最終日、全12レースが終わり、夕方近く、女子選手9人がレスキュー艇に乗ってコース水面に出た。
茂木の部屋。日曜日。
丹沢、由利、茂木がいつものように55インチテレビを見ていた。パソコンで『ボートレース下関』のLIVE中継をテレビに映して3人は見ていた。
計良光帆の初勝利を祝う水神祭が始まった。女子選手9人がレスキュー艇に乗ってコース水面に出て行く。
由利「ついに、このときが来たか」
茂木「相変わらず可愛いよね、好きなんだ、この選手」
レスキュー艇がコース水面に出ると、女子選手8人で計良光帆選手を水面へと投げ入れた。
ドボーン!
丹沢「あれっ、すぐに浮いてこないね?」
丹沢「おっ出てきた。あれっ? 足!」
水上に計良光帆選手の両足だけがニョキッと出て、そのV字の足がクルクル回り始めた。
丹沢「すげえーっ!」
由利「なんだ、こりゃ?」
茂木「うわーっ!」
丹沢「見事!」
由利「綺麗!」
茂木「やっぱり、本物だ!」
計良光帆選手は、シンクロナイズドスイミングにおいて日本選手権で優勝した実力の持ち主である。それなのに現在は、シンクロナイズドスイミングを辞めてボートレーサーに転身したのであった。
計良光帆選手が、水面に一度顔を出した。そして左手を高く高く持ち上げ、手を振った。それにつられて3人も手を振った。相手に見えもしないのに。
丹沢「見えてないのに手を振っちゃったよ」
由利「うん」
茂木「振っちゃいますよね」
計良光帆選手が、また、水中に潜り、水面に足を出し、V字にして高速回転した。
丹沢「ブラボー!」
3人が盛大な拍手をした。
一方、志摩真波は、ピットにあるモニターで計良光帆のシンクロナイズドスイミングを見ていた。
真波(すごい! 水泳プールのような透明な水ではなく、ボートレース場の水でも、あんなパフォーマンスが出来るなんて。きっとボートレーサーとしても頭角を現して来るんでしょうね」
見終わると、ピットから歩いて30秒ほどのところにある宿舎に戻った。その後、交通費などの日当をもらい、宿舎を出たのだった。
【02】 真波、路上強盗に遭う
辺りはすっかり暗くなっていた。
ボートレース下関の帰り道、真波は駅に向かって小さめのスーツケースを引きずり、背中におしゃれなリュックを背負って1人歩いていた。
そのとき突然、道の脇からホームレスのような男が、右手にこん棒を持って飛び出してきたのだった。
見た目は 60歳くらい、身長は180 cm近く、髭を伸ばした男が真波の方に歩み寄って来た。
男「財布を出せ」
真波「うわっ!」
真波が後ろへたじろいだ。
1対1とは言え、相手は男だし背も高かった。
真波(まずい、財布を出さないとやられてしまう?)
真波(そうだ! 財布は背中のリュックの中だけれども、さっき支給された交通費がスーツケースの中に入ってるわ)
男「早く財布を出せ。殴られたいのか」
男が凄みを利かせ、こん棒を振り上げた。
真波「わかったわ」
真波(時間を稼ぐために)
真波「お金はこのスーツケースの中なの。ちょっと待って」
30m後方に、女性が2人歩いていた。しかし助けてくれそうな男性はどこにも見当たらない。スーツケースの中には、先ほど支給された交通費が何万円か入っている。
真波(これで許してもらえるだろうか?)
不安が募った。誰かが助けてくれるというあてもないのに、真波は時間を稼いだ。
30m後ろを歩いていた女性が時間とともに真美に近づいてきた。その時、真波は男の前でスーツケースから交通費の入った封筒を取り出していた。
ホームレス風の男はじっと真波の行動を見て真波がスーツケースから封筒を取り出した時、男は封筒に手を伸ばし始めた。
後方から近づいてきた2人の女性、藤倉亜希と野坂彩水、真波と同じボートレーサーである。
その内のひとり、藤倉亜希が近づいてきて声をかけてきた。
亜希「おじさん、何してるの? 」
真波はその声のかけぬしの女性の顔を見た。
真波「あっ! 」
さっきまで、同じ『ボートレース下関』で一緒に走っていたメンバーだった。
近づいてきたもう1人の女性、野坂彩水が声をかけた。
彩水「うちのお嬢様に何をする気なの? 」
男「お前らの知ったことか」
亜希「東京から来た大事なお嬢様なのよ。手を出したら承知しないわよ」
男「うるせーな」
亜希「私たちはSPなの」
真波はスーツケースから交通費の入った封筒を取り出し相手に差し出そうとしていた。しかし、真波は『私たちはSPなの』の会話を聞いて、封筒ごと腕を引っ込めた。
男「怪我をしないうちに封筒をよこすんだな」
真波はそれに従って、再度お金の入った封筒を男の前のほうに差し出した。
男は2歩前に出て、右手を伸ばしその封筒をもぎ取ろうとした。
まさに、その瞬間だった。藤倉亜希の右回し蹴りが男の左肋骨に炸裂した。
男「ぐっ!」
男は両方の手で左脇腹を抑え始めた。
その瞬間今度は野坂彩水が左回し蹴りで男の右脇腹を思いっきり蹴りつけた。
コロン、コロン。こん棒が路上に転がった。
男は両手をついて地面に四つん這いになった。
その隙を突いて真波は急いで警察110番に電話した。
真波「助けてください! ひったくりです」
警察「場所はどこですか? 」
真波「近くに長府北郵便局と家具屋さんがあります」
警察「すぐに行きます」
電話をしている間に、男が脇道を通って線路の方へ逃げていった。
間もなくして警察のパトカーが3台やってきた。
警察「皆さん大丈夫でしたか? 」
真波「私たちは大丈夫ですけれど…」
警察「犯人はどうしましたか? 」
亜希「逃げました。私たちは大丈夫ですけれども、犯人はひょっとしたら肋骨にヒビが入ってるかも」
警察「えっ! 」
亜希「仲間を助けるために、ついケリが強く入っちゃったみたいなんです」
彩水「私もなんです。へへへへへ」
彩水が頭をかいた。
警察「あなたたちは、いったい誰なんですか? 」
警察官が真顔で質問した。
亜希「ボートレーサーですが、それが何か? 」
警察「3人ともですか? 」
亜希「そうですよ」
警察「と言うことは、女子ボートレーサーの人はみんなケリが強いということですね」
真波「違う、違う」
慌てて、真波が手を横に振った。
警察「でも肋骨にヒビが入る位のケリができるんですよね」
亜希「まぁ」
警察「いったいどのようなケリなのかちょっと見せてもらってもよろしいですか? 」
亜希「まぁ、見せてくださいと言うのであればお見せしますが」
警察「ではお願い致します」
亜希「あなたの脇腹の方へ回し蹴りを入れます。当てませんのでよけないでくださいね」
警察「はいわかりました」
亜希は右足で回し蹴りの形をした。
『シュッ』と言う風を切るすごい音が聞こえた。
周りにいた警察官全員が、
警察「おーっ!!!」
一斉に驚いた。
【03】 空手の世界チャンピオンと日本一
彩水が言った。
彩水「この人、空手の世界チャンピオンなんです」
真波「えっそうなの?」
亜希「この人だって、空手組み手で日本一なんです」
そう言って彩水のほうを手のひらで指した。
彩水「まぁ」
真波「ふたりともチャンピオンなんだ」
警察「ほーっ」
真波「すごーい。そうだ、助けてくれてありがとう」
真波は、すっかり御礼を言うのを忘れていた。
亜希「いいえ、どういたしまして」
警察「それは頼もしい! ボートレーサーを辞めて、警察官になってほしいくらいだ」
亜希「それはダメよ」
警察「なんで?」
亜希「だって、警察官は給料が安いんだもの」
警察「ははははは。言われちゃったな。 ボートレーサーはそんなに給料がいいのかい?」
亜希「これ次第ね」
亜希は前腕を二度軽く叩いた。
警察「ははははは」
真波「ところで、犯人の姿をスマホの動画に撮ったんですが見ますか?」
警察「そうか、それはお手柄だ。すぐ見せてください」
真波が動画を見せた。周りに居た警察官全員が顔を寄せて、真剣に見始めた。
警官A「こいつか」
警官B「知っているのか?」
警官A「ええ。この辺に居るホームレスです」
警官B「そうか」
警官A「あした、市役所のホームレス巡回員と一緒に行ってきますよ」
真波「えっ、居場所がわかるんですか?」
警官A「ええ。市役所のホームレス巡回員は、定期的にホームレスを回って、話を聞いたりしていますから」
真波「そんな仕事があるんですか?」
警官A「ええ、ありますよ。警察官のOBなどが採用されているようです。今いる巡回員も、元々は、私らの上司です」
真波「そうなんですか」
警官A「はい。ですから、明日行ってとっちめておきますよ。二度とやらないように」
警官B「そうだ。『今度やったらまた怖いお姉さんを呼ぶよ』ってね」
そこに居た全員が、
全員「ははははは」
大笑いした。
その後、
警察「被害届は、出されますか?」
真波「どうしよう?」
警察「出すようでしたら、3人に署の方へお越しいただき、書類を作成してもらいます。2、3時間かかるかもしれません」
真波「じゃぁ、いいです。お金も取られなかったし。このおふた方に、ご迷惑かける訳にも行きませんし、私たち遠くから来ているもので」
警察「そうですか。では3人の連絡先だけお聞きして、また何かありましたら連絡いたします。今後も皆様の地元地域の安全にご協力いただければと思います」
そう言うと、警察官が紙と筆記用具を出した。3人はそこに住所、電話、名前を書いた。
書き終わると、その場で警察官たちとは別れた。
そして、真波は他の2人の女性に、
真波「良かったら駅前で食事でもどうですか? 助けてもらったお礼にご馳走します。」
亜希「いいの? 奢ってもらっちゃって」
真波「ぜひ、そうしたいんです。助けていただかなかったら、あのままホームレスに支給された交通費を渡すつもりでしたから、それを思えば安いもんです」
亜希「そうね。じゃぁご馳走になるわ」
3人は、駅まで行き、適当なレストランに入った。
まずはビールを頼み、乾杯した。
一同「カンパーイ!」
グラスを軽く合わせた。
真波「お疲れ様でした」
亜希「お疲れ様でした」
彩水「お疲れ様でした」
3人が6日間のレースの労をねぎらった。
真波「くーっ! やっぱり管理解除後のビールは最高ね」
『管理解除』とは、開催中の拘束された期間が終わり、管理下から外れ開催場を出ることである。
亜希「志摩さんは東京支部の方でしたっけ?」
真波「私は埼玉支部です。『ださいたま』と言われている埼玉です」
亜希「『ださいたま』って聞いたことある」
真波「本当に『ださい』ですから。東京の人から『埼玉県人にはそこらへんの草でも食わせておけ!』と言われているので、私、毎日、ほうれん草やパセリを食べています」
亜希「嘘でしょう。ははははは」
真波「それに、埼玉県民と他の県民と見分ける方法として、草加せんべいを踏み絵の代わりに地面に敷き、それを踏めるかどうか試されるんです」
亜希「ははははは」
真波「埼玉県民は、絶対に死んでも草加せんべいは踏めませんね」
亜希「すごい! やっぱり埼玉を愛しているのね」
真波「ええ、埼玉県民にとって埼玉は、いとおしいふるさとです。生まれ変わっても埼玉に住むでしょうね」
亜希「へぇー、そうなんだ。そんなに愛しているんだ」
真波「変でしょう。他の県民の方にはわからないと思いますが、あのダサいところが居心地いいんです」
亜希「そうかぁー、でも私、さっき間違えて『東京から来た大事なお嬢様』と言ってしまったわ」
真波「いいんですよ。その方が身元がばれなくて安心です」
亜希「それもそうね」
真波「それにしても『私のSP』とは良く思いつきましたね」
亜希「だって、女子ボートレーサーとは、言えないでしょう?」
真波「なるほど」
亜希「変に恨みを買っても困るし」
真波「再度お聞きしますが、ふたりは空手のチャンピオンなんですか?」
彩水「この人は、空手の世界チャンピオン」
亜希「こちらは、空手組み手で日本一」
真波「えーっ、すごーい!」
彩水「へへへ」
真波「そんなすごい人に私、守られたのね。恵まれているわ」
亜希「だって、見過ごすわけにいかないじゃない」
彩水「ええ、そうですよ」
真波「でも、そんなあなた方なら、ボートレーサーにならなくたって」
亜希「空手だけじゃ食べていけないし、ボートレーサーになるのなら、スポーツ推薦枠があるからね」
彩水「そうそう、私みたいな頭が悪い者にとっては助かるわ」
真波「とんでもない。二人とも優秀よ」
亜希「私たちよりもっともっと優秀なスポーツ推薦のレーサーがいっぱい居ますよ」
真波「例えば?」
亜希「賞金ランキングで常にトップクラスに居る福屋果穂さん」
真波「うん、あの人が?」
亜希「高校のとき重量挙げで、高校の選手権で優勝しています」
真波「そうなんだ」
亜希「付いたキャッチフレーズが『怪力美人レーサー』ですよ」
彩水「ははははは」
真波「それって、本人、喜んでいるのかなぁー?」
彩水「やっぱりそう思います?」
真波「ええ。他には?」
亜希「プロのスノーボーダーだった山北美涼さん」
真波「山北さんは、プロだったんだ」
亜希「ええ、すごいですよね」
真波「スノボの雪が解けて水となり、山北さんは水となって川や海へ降りて来たのね」
亜希「ええ、強敵です」
真波(うまく表現したけれど、無視されたわ……)
真波「私なんか、山北さんに一度も勝ったことがないわ」
亜希「他にも、フェンシング、エアロビクス、テコンドー、フィギュアスケート、ハンドボール、水球と挙げればきりがないわ」
真波「ボートレーサーだけで、オリンピック参加選手団が結成できるわね」
亜希「そうよ、しかも冬季と夏季の両方のオリンピック選手が揃えられるわ」
真波「知らなかったわー。女子ボートレーサーって、化け物と言うか、モンスターの集まりね」
亜希「手ごわい相手ばかりですよね。志摩さんは何をやっていたんですか?」
真波「男遊びかな」
亜希「ははははは。志摩さんじゃモテたでしょうね」
真波「うん、モテた」
亜希「すごい、そう言えるようになりたいわ」
真波「でも、まともな男はひとりとして寄って来なかった。今日もそう」
亜希「ははははは」
彩水「ははははは」
真波(これは、ウケた!)
真波「お金をせびりに来るか、私の体を求めて来るのか、とにかく男運はないわね」
亜希「美人もたいへんなんですね」
真波「美人かどうかわからないけれど、今まで男絡みでいいことはひとつもなかったわ。だから、この世界に身を投じたの。これからは、自分ひとりで、しかも実力で生きて行こうと思って。そしたらそんなに甘くなかったわ」
亜希「本当にそうですね。簡単に勝たせてくれないですものね」
真波「いつかクラスがA級になれて、何も言わずなんでもしてくれる男がそばに居たら最高なんだけれどなぁ~」
亜希「それは、無理です。そんな男、居ませんよ」
真波「オス犬でも飼おうかな」
亜希「ムリムリ。私たち船乗りには無理です。月の内、半分近くは家を空けていますから」
真波「レーサーも船乗りか。千加も同じことを言ってたっけ。そうよね。あ~あ、オス犬でさえも私には縁がないのね」
真波がテーブルに顔を伏せた。
亜希「ふふふふふ。いいじゃないですか。私たち女同士で、こうして話して楽しみましょう」
真波「うん。女同士って最高よ。男は最低」
亜希「あのホームレスのお陰で志摩さんと仲良くなれて良かったです」
真波「私も。でもレースになったら敵ですからね」
亜希「もちろんです。わざと負けたりしたら八百長ですからね」
真波「うん。また、どこかで一緒になったら飲みましょうね」
その後もいろんな話で盛り上がったが、帰りの時間もあり、3人は駅で別れた。
真波「じゃあね」
真波が二人に手を振った。真波にとってレースのことを忘れた憩いのひとときだった。
帰りの新幹線、真波は考えた。
真波(あーあ、レースが終わっての憩いのひとときだった。『憩い』という漢字は、自分の舌で味わったり喋ったり、その重みで心が落ち着くのね)
真波(あらっ? 私、いつの間にか由利さんの教養講座を真似している。なんで?)
そう思った後、真波はいつしか眠りに落ちて行った。
真波「スー、スー、スー」
その寝息が、前検日を含む7日間の疲れを物語っていた。
【04】 犯人の肋骨
数日後、下関の警察署から志摩真波の携帯に電話が入った。
警察「先日のホームレスの件ですがね、翌日に男の寝泊まりしている小屋に行ってみたんですよ。そしたら、脇腹を押さえて痛そうに横になっていまして。『どうしたんだ?』と聞いたら『駅の階段で派手に転んだんだ』と言い張るんです」
真波「ははははは!」
警察「自分から『女の子の回し蹴りを食らった』とは、プライドが許さなかったんでしょうね」
真波「ふふっ」
警察「だから、ちょっとカマをかけて言ってみたんですよ。『まさか、女の子から強烈なキックを食らったんじゃないだろうね?』って」
真波「そしたら、なんて?」
警察「『なんだ、見てたのか? そんなら先に言ってくれよ、恥をかかせるな』って、あっさり白状しましたよ」
真波「ふふふ!」
警察「なので、きつく言い含めておきました。『また今度お同じことをしたら、次は首か脊髄の骨を折られるぞ』ってね」
真波「ははは!」
警察「男も怯えていましたよ。『あの3人は、囮の婦人警官かい? 恐ろしい蹴りだった。絶対に肋骨が折れてる』って」
真波「やっぱり、相当効いていたんですね」
警察「ええ。『ああ、警視庁のSPだからもう二度と近づくな』と言っておきました」
真波「ふふふ、SPのままなんですね」
警察「さらに『どうしてあの女性を狙ったんだ?』と聞いたら、『大きなスーツケースを持っていたから咄嗟に逃げられないだろうし、最悪、荷物だけ置いて逃げ出すと思ったんだ』と供述していました」
真波「そうか、スーツケースが狙われる原因だったのね」
警察「『それに、美人だったから』とも言ってました」
真波「美人と言われて得したことは、ひとつもないですけれどね」
警察「あの男、私の『もう二度と襲うなよ』という言葉に対し『わかった、わかった。これ以上金に困るようなら、今度こそ役所に行って素直に生活保護を受けるよ』と言ってました。これで一安心です」
真波「そうですか、良かった! いろいろと動いていただき、ありがとうございました」
警察「いえ、こちらこそ。それにしても素晴らしい仲間をお持ちで良かったですね」
真波「ええ、本当に頼もしい仲間です」
警察「一応、その後のご報告まで。では、失礼いたします」
真波「お疲れ様でした!」
真波は感謝を伝えて通話終了のボタンを押した。
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【後書き】
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
今回、物語の前半に登場した計良光帆選手のエピソードは、ボートレース下関で実際に起きた出来事がモデルになっています。
元アーティスティックスイミング(旧シンクロナイズドスイミング)の日本代表という異色の経歴を持つ彼女が、190走目にして掴んだ初勝利。その際に見せた「水神祭」での見事なV字開脚ターンは、当時ファンの間でも大きな話題となりました。まさに「本物の技」がボートレース場の水面で輝いた瞬間でしたね。
さて、物語の後半では真波が災難に見舞われましたが、助けに入った亜希と彩水の「最強コンビ」には驚かされました。
作中でも触れた通り、女子ボートレーサーの世界には、他競技のトップアスリートから転身してきた「モンスター級」の身体能力を持つ選手が数多く在籍しています。可憐な外見の内側に秘めた、世界レベルの身体能力……。そんな彼女たちの強さを、少しでも感じていただければ幸いです。
「ださいたま」なんて自虐しつつも、最後は「自分の舌で憩う」と少し詩的に締めくくった真波。彼女がいつかA級に昇格し、理想の(?)オス犬や素敵なパートナーに出会える日は来るのでしょうか。
今後も、真波たちの奮闘をぜひ見守ってください。
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【作者よりお願い】
最後までお読みいただきありがとうございます!
華やかな水神祭のあとに待ち受けていた、まさかの路上強盗……。ですが、女子ボートレーサーたちの身体能力を甘く見てはいけませんでしたね(笑)。世界王者の回し蹴り、恐るべしです。
「スカッとした!」「女子レーサーたちの絆が良かった」と思っていただけましたら、ぜひ下にある【☆☆☆☆☆】から評価と、ブックマークをいただけますと、執筆の大きな励みになります!
今後も真波たちの活躍をお楽しみに!
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