81 ■麗華(れいか)さん、紙で指を切る 編
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【あらまし】(市役所での対比コメディ)
住民課の朝、若手職員の白石麗華が紙で指を切ってしまう。すると、課内の男性陣が消毒スプレーやガーゼ付き絆創膏を手に、まるでお姫様を救うかのように一斉に駆けつけた。
しかし翌日、ベテランの君本早苗が同じように指を切ると、状況は一変。男性陣の反応は冷ややかだった。
市役所で生きる女性の哀愁をユーモラスに描いた日常コメディ。
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【主な登場人物】
住民課 職員一覧
■ メインキャラクター
白石 麗華(しらいし・れいか・25歳)
住民課の若手職員。日課の異動届整理中に指を切る。
同僚男性陣から「住民課のアイドル」として扱われ、手厚い看護を受ける。
君本 早苗(きみもと・さなえ・42歳)
麗華の翌日に同じく指を切る中堅職員。
麗華との対応の差に憤慨するが、実は自前の救急セットを完備しているしっかり者。男性陣からは「単なる中年(おばさん)」と弄られる。
■ 麗華に駆け寄った男性職員
若石 元気(わかいし・げんき・28歳)
行動派。消毒スプレー担当。早苗に対しては「(指が太くて)死なないから大丈夫」と毒舌を振るう。
戸部 考一(とべ・こういち・42歳)
ケア担当。麗華には丁寧にガーゼ付き絆創膏を貼るが、早苗には「ふーっ」と息を吹きかけるだけで済まそうとする。
高品 雄介(たかしな・ゆうすけ・37歳)
麗華が散らした書類を片付けるサポート役。早苗の時は動かなかった。
山本 和弥(やまもと・かずや・36歳)
高品と共に書類を拾い、麗華の机に丁寧に整頓する。同じく早苗の時は静観。
■ その他 職員
住民課長・鬼塚厳司(おにづか・げんじ・57歳)
遅れてやってくる上司。「なめて消毒する」という問題発言を繰り返し、早苗にセクハラ・差別だとツッコまれる。
宮入 芽衣(みやいり・めい・24歳)
早苗の近くに座る職員。自力で手当てを始めた早苗に、最後に優しく声をかける。
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【前書き】
●この小説には多くの数字が出てきます。そこで読者の皆様が読み易いように横書きとなっております
●多人数での会話も多いことから、誰が話しているのか、すぐにわかるよう会話の頭に台本形式で、氏または名を付けて表現しました
●この物語はフィクションです。実在の個人・団体、実際のレースとは一切関係ありません。ボートレーサーと市役所職員をモデルに、フィクションとして制作されたものです
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【01】 麗華、紙で指を切る
住民課の朝。
白石麗華(しらいし・れいか・25歳)がプリンターから出力された異動届の紙を揃えていた。異動届とはその日受付をした転入・転出・転居の内容を端末機に入力し、端末機からその内容を活字として印刷された書類のことである。
届出者の名前や電話はもちろんのこと、前の住所と新しい住所、家族全員の名前と性別と生年月日、国民健康保険の番号と取得日、国民年金の番号と取得日などが細かく記載されている。
その異動届は、関係する課があればその課の分も出力されるので、国民健康保険に入っている世帯は『国保用』というタイトルで同じ物がもう一枚、国民年金に加入している者がいれば『年金用』というタイトルでもう一枚出力される。また小学校に通っている子供がいる世帯なら教育委員会の『学務課用』ということでさらにもう一枚というように、関係課に配るために複数枚出力されるシステムとなっている。
白石麗華は毎日、前日出力された異動届を集め、内容チェックし、配付する課ごとに仕分けし、届書を揃えるのが日課であった。
この日も麗華が異動届の内容をチェックし書類を揃えていた。A4サイズの届出書は一日に百枚以上にもなる。それを両手で束ねて机の上に立て、両手で束の両脇を持ち机に上下に軽く打ち付けると紙が揃っていった。
トントンと紙の束が机に当たる音がした。そのときだった。
麗華「痛っ!」
麗華が小さく叫んだ。と、同時に反射的に異動届の束を手から離した。
異動届が、床に散らばった。麗華の左手中指の第一関節あたりが紙で少し切れていた。
若石元気(わかいし・げんき・28歳)が消毒スプレーを持ってすぐにやって来た。戸部考一(とべ・こういち・42歳)はガーゼ付き絆創膏を持ってすぐにやって来た。高品雄介(たかしな・ゆうすけ・37歳)もすぐにやって来た。山本和弥(やまもと・かずや・36歳)もすぐにやって来た。住民課長も遅れてやって来た。君本早苗(きみもと・さなえ・42歳)も心配してやってきた。
麗華は右手で左手の少し切れた中指だけを持ち、傷口を見ていた。若石元気が近づいて麗華の切れた指を左手で軽く持ち、自分の方へ寄せると右手で消毒スプレーのキャップを指でパチンと開けた。
若石「少し、しみますが我慢してください」
麗華「はい」
若石が、シューっと1回スプレーをした。麗華は少し眉を寄せて痛がったが、声を出すほどではなかった。
若石「消毒終わりました」
麗華「ありがとう」
次に戸部が手にガーゼ付き絆創膏一枚を持って麗華に近づいた。
戸部「○○○○(商品名)を貼りますね」
戸部は麗華の中指の傷口を見ながら丁寧にガーゼ付き絆創膏を貼った。
戸部「これでもう大丈夫」
麗華「ありがとうございます」
若石が消毒し、戸部がガーゼ付き絆創膏を貼っている間に、高品雄介と山本和弥は床に散らばった異動届を拾い集めて揃えて始めた。揃え終わると山本和弥が、
山本「異動届、ここに置いておきますね」
と、言って麗華の机の上に異動届の束を丁寧に置いた。
麗華「みなさんありがとうございました」
そう言ってみんなに向かって丁寧にお辞儀した。
そこに課長の鬼塚厳司が来て、
課長「また指切ったら、私がいつでもなめて消毒するから言ってください」
課長が席に戻って行った。
若石「それって、逆に猛毒が入りますよ」
早苗「課長の発言は明らかにセクハラでしょ!」
【02】 君本早苗の場合
翌日のことだった。
今度は、君本早苗が紙を揃えていると昨日の麗華と同じように左手中指の第一関節あたりを紙で少し切った。
早苗「あ、痛っ!」
住民課の職員全員に聞こえるぐらいの声でわざと言った。しかし、高品雄介も山本和弥も早苗の所にやって来ない。
早苗が再度「痛ーい」とわざとらしく言った。
戸部「しょうがねぇーな」と言って席を立ち上がった。
若石「行ってやるか」と席を立ち上がった。
戸部と若石が早苗に近寄り早苗の中指を掴みあげ二人でじっと見た。
戸部「太い指だな」
早苗「うるさいわね!」
若石「死なないから大丈夫ですよ」
そう言って、二人が帰りかけた。
早苗「それだけなの。ねぇー」
戸部「何かして欲しいの?」
早苗「昨日の麗華さんのときと偉い違いね」
戸部「彼女は住民課のアイドルだからなぁー」
若石「そうそうアイドル、アイドル」
早苗「じゃぁわたしは?」
戸部「単なる中年」
若石「単なるおばさん」
早苗「その発言は明らかに差別でしょ!」
戸部「そうかなぁ、そりゃぁゴメン! 愛情を持って言ったつもりだけど」
若石「そうそう、愛情はあるけど事実は事実だし」
早苗「んんもう! 傷口が痛いわ」
戸部が早苗の指の傷口に向かってフッと吹いた。
戸部「もうこれで大丈夫」
早苗「ええーっ、昨日は消毒スプレーで消毒してたじゃない」
戸部「消毒スプレーがもったいないからな」
早苗「随分じゃぁない、ねえっ戸部! 若石さん、ガーゼ付き絆創膏は?」
若石「そんな太い指用は買い置きが無いんだ」
周りに居た職員が笑った。
早苗「ひどいこと言うのね」
そこに後から課長がやってきた。
課長「あれっ指切ったんだ、でもなめる気にはならないな」
早苗「まったくもう! みんな向こうへ行って!」
早苗はみんなが向こうへ行くと自分の机の引き出しを空け、自分の消毒スプレーとガーゼ付き絆創膏を出した。
早苗「まったくみんな冷たいんだから。仕方ない自分で手当するか」
と、言ってスプレーで消毒し始めた。
近くに座っていた宮入芽衣が
宮入「なぁーんだ、消毒スプレーとガーゼ付き絆創膏持っていたんですね。私やりましょうか?」
早苗「いいの、いいの。あいつらの冷たさが良くわかったから。『中年おばさん』という脊椎動物は、ひとりで生きていかなくてはならない哺乳類動物なのよ」
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【後書き】
住民課の日常のひとコマをお届けしました。
麗華さんへの過保護すぎる手当てと、早苗さんへの雑すぎる扱い。「消毒スプレーがもったいない」というパワーワードには、作者としても早苗さんに同情を禁じ得ません。
ですが、自前の救急セットですぐに処置ができる早苗さん、実は一番仕事ができる女性なのかもしれませんね。
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【作者よりお願い】
最後までお読みいただきありがとうございます。 麗華さんと早苗さん、同じ「指を切る」でもこれほど対応に差が出るとは……(笑)。住民課の賑やかな日常を楽しんでいただけたでしょうか?
もし「早苗さん、強く生きて!」「この掛け合いが面白い」と思っていただけましたら、下にある広告の下の【☆☆☆☆☆】からポイント評価や、ブックマークをいただけますと、執筆の励みになります!
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