77 ♡爽香、ナマコカレーを作る 編
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【あらまし】(グルメコメディ!)
ボートレース徳山に出場した爽香は、山口支部の先輩から「ナマコは海の珍味」と聞き、ある名案を思いつく。
日頃お世話になっている丹沢に、感謝を込めて最高級の「ナマコカレー」を振る舞おうというのだ。 しかし、料理の知識が空回り。届いた最高級の赤ナマコを、あろうことか「丸ごと一本、生の状態」でカレーにトッピングして提供してしまう。
目の前に現れた異様な料理を前に、丹沢の決死のディナーが始まる。爽香の純粋な想いと、丹沢の不器用な優しさが交錯する、衝撃の(?)グルメ・コメディ!
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【主な登場人物】
速水爽香
職業: ボートレーサー(埼玉県在住)。
性格: 行動力があるが、料理に関してはかなり独創的で天然。
丹沢純也
職業: 市役所職員。
性格: 非常に誠実で、忍耐強い。
■ ボートレーサーの仲間
佐久裕子
年齢: 38歳。所属: 山口支部。
役割: 爽香に山口の特産品としてナマコの美味しさを教えた人物。爽香と瑞枝にナマコをクール便でプレゼントする太っ腹な先輩。
蜂屋瑞枝
年齢: 24歳。所属: 群馬支部。
役割: 爽香の仲間。居酒屋で食べたナマコの美味しさを語り、爽香が「ナマコ=美味しい」と思い込むきっかけを作る。
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【前書き】
●この小説には多くの数字が出てきます。そこで読者の皆様が読み易いように横書きとなっております
●多人数での会話も多いことから、誰が話しているのか、すぐにわかるよう会話の頭に台本形式で、氏または名を付けて表現しました
●この物語はフィクションです。実在の個人・団体、実際のレースとは一切関係ありません。ボートレーサーと市役所職員をモデルに、フィクションとして制作されたものです
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【01】 ナマコのカレー
爽香が『ボートレース徳山』に出場した時のことだった。選手合宿所で山口支部の佐久裕子(さく・ひろこ・40歳)からこんな話を聞いた。
裕子「山口県では、結構ナマコを食すのよ。ここでは、主に赤ナマコと青ナマコの2種類が水揚げされ、どっちもおいしいから絶対に食べてみて」
爽香「ナマコって、あの海に居るグニョっとした生き物でしょう?」
裕子「そうよ、それ」
群馬支部の蜂屋瑞枝(はちや・みずえ・26歳)が、
瑞枝「ナマコって、なんかヌルヌルして見た目グロいけど、この前居酒屋でたまたま口にしたのよ。そしたら意外とおいしいんでびっくりしたわ」
爽香「ええっ! あのナマコがおいしいの?」
瑞枝「うん、コリコリしておいしかった!」
爽香「そうなんだ。二人が言うんだから間違いないわね」
裕子「そうよ、ナマコの卵巣は「ウニ」「カラスミ」と並び日本三大珍味って言われてるのよ」
その話を聞きながら、爽香の頭の中に丹沢の顔がよぎった。
爽香(そうだ! 丹沢さんに、ナマコのカレーを作ってあげよう)
爽香(ナマコはシーフードよねぇ)
爽香(なら、立派なシーフードカレーよね)
爽香(丹沢さんなら、きっと『うまい!』と言って食べてくれるわ)
爽香(それに、ここんとこ、カラス事件やらで迷惑かけちゃったし)
爽香が、そう決意した。
爽香「でも、ナマコなんて売っているのかなぁ?」
裕子「売ってるわよ。山口県では、道の駅でも売ってるのよ」
爽香「私、埼玉県に住んでいるけれど、魚屋さんで見たことないわ。そうだ、水族館なら売っているかも」
瑞枝「水族館じゃ売ってないと思うよ」
裕子「そうね、速水さんの家の近くじゃ売ってないかもね」
爽香「なーんだ、がっかり」
裕子「わかったわ。じゃぁ、お近づきの印に、私から二人にプレゼントするわ」
爽香「えーっホント! うれしい!」
瑞枝「あれ、高いんでしょう? すみません、ありがとうございます」
裕子「今週中に着くようにクール便で送るから、この紙に、住所、電話、受取日時を書いておいて」
爽香「はい」
瑞枝「はい」
二人は、言われた通り必要事項を紙に書いた。
それから数日後。爽香の部屋にナマコが届いた。
爽香は、今晩夕食を作るから丹沢にひとりで来るように電話した。
夕方6時半。丹沢が爽香の部屋にやって来た。
爽香「ねぇ、市役所から真っ直ぐ来たの?」
丹沢「うん」
爽香「なにか食べた?」
丹沢「いや、何も食べてない」
爽香「じゃぁお腹空いているでしょ」
丹沢「うん」
爽香「カレー作ったの、食べる?」
丹沢「カレーか、いいね! カレー大好きなんだ」
爽香「私オリジナルのシーフードカレーなの」
丹沢「いいね! いいね!」
爽香「きっと今までに食べたことのない味よ」
丹沢「それは楽しみだな」
爽香がカレー鍋の所に立ち、弱火でそれを温めている。
丹沢「いい匂いだ」
爽香「でしょ、でしょ!」
丹沢「ボートレースだけでなく、料理もやるとは知らなかったよ」
爽香「いひひひひ」
満面の笑みを浮かべた。
やがてナマコ入りのカレーライスが丹沢の目の前に出された。生のナマコの上にカレーがかかっている。
丹沢「これエビフライ?」
カレーのもっこりした部分を指さして言った。
爽香「いえ、エビフライじゃないわ。おいしいから食べてみて、」
丹沢「爽香さんは食べたことあるの?」
爽香「もちろんないわ」
丹沢「食べたことがない???」
爽香「そうよ、だって気持ちわ……、気持ちいいでしょう? お客様にまず食べてもらった方が」
丹沢「そ、そうかなぁ。まぁいいや」
と、そのカレーの中の物体を箸でつまみ上げた。
生のナマコに濃厚なカレーがべったり付いている。
丹沢「何かに似ているなぁ~」
丹沢が、自分のお尻の方を見た。
爽香「何かに? そうねぇ、そう言われれば確かに。でもおいしいから食べてみて。私の友達二人が『おいしい』って言うんだから、間違いないわよ」
丹沢「じゃぁ、間違いないね。でも、『おいしい』と言っても、爽香さんは食べたことないんだろう?」
爽香「食べたことなくてもわかるわよ、値段の高い良い食材を使っているんだから」
丹沢「あれっ爽香さんの分はないの?」
爽香「あるわよ。丹沢さんが食べてから後で食べるわ。まだ、お腹が空いてないのよ」
丹沢「変なの???」
爽香「食材が高いから、空腹にして、より美味しく食べるわ」
丹沢「そうか。なんだかひとりで先に、悪いなぁ」
爽香「気にしないで、」
丹沢「そうか、じゃぁなんだかわからないけれど、ガブリと豪快に食いつくか、」
爽香「うん、ここね」
爽香は、箸で丹沢が持っているナマコの上の部分を指さした。
丹沢「その言葉が気になるなぁ」
爽香「何か?」
丹沢「まさか、排泄物じゃないよね」
爽香「そんなことあるわけないでしょ」
丹沢「ほんとに、これなんなんだい?」
爽香「ひ・み・つ」
丹沢「闇鍋よりもドキドキするなぁ」
爽香「気にしすぎよ」
丹沢「食べるときに、こんなにドキドキしたの初めてだよ」
爽香「冷めるから早く食べて」
丹沢が目をつぶってガブッといった。
丹沢「おえっ! うっ!!!」
爽香「そんなぁ!」
丹沢「おえっ!」
爽香「もどさないでよ、高いんだから」
丹沢「これ、いったいなんなんだ?」
爽香「赤いダイヤ」
丹沢「赤いダイヤ?」
爽香「ナマコよ。しかも丸ごと1本」
丹沢「1本じゃなくていいよ、普通、切るんじゃないの? しかも内臓付きだし。おえっ!」
ナマコの内臓は、塩辛にして食すことが出来、とても珍味であるが、丹沢も爽香もこの時は知る由もなかった。
爽香「アナゴとか1本で出すとみんな喜ぶじゃない」
丹沢「アナゴと一緒にするな」
爽香「アナゴより高いのよ」
丹沢「高くてもだ」
爽香「1本3000円もするのよ。最高級のナマコよ」
丹沢(1袋100円のレトルトカレーの方がうまいよ)
丹沢はそう思ったが、口に出さず言葉も飲み込んだ。
丹沢「うっ!」
そう言って箸をテーブルの上に置いた。
突然爽香が涙を流し始めた。
爽香(こんなに一生懸命作ったのに、丹沢さんに喜んでもらえなかった)
爽香がエプロンを顔に当て泣き始めた。
爽香「えーん、え~ん」
丹沢が爽香に近寄り、エプロンごと爽香の体を抱きしめ爽香の耳にささやいた。
丹沢「おいしいよ。こんなにおいしいカレー食べたことない。調理の仕方も最高! ただ貧しく育った私には高級すぎたのかも知れない。私のためにありがとう」
爽香「クスン、クスン」
丹沢「爽香さんが僕のために一生懸命作ってくれたんだもんな。本当にありがとう」
爽香の泣きがシクシクに変わってきた。
爽香が泣き止んだところで、丹沢は再び爽香が作ったカレーを食べ始めた。
爽香「無理して食べなくてもいいのよ」
丹沢「ううん、せっかく作ってもらったカレーだもん、全部いただくよ」
丹沢がカレーとナマコとライスを全部ごちゃ混ぜにし、飲み込むようにすべてを平らげた。
丹沢「あ~、美味しかった、満足!」
丹沢はそう言うと最高の笑みを浮かべた。
爽香「良かった!」
丹沢「そうだ、今日はすぐに帰るよ。ちょっと家に帰ってやり残した仕事をしないと」
爽香「うん、わかった」
丹沢は物凄い急いで爽香の部屋を出て行った。
丹沢は爽香の家から一番近い公園に寄ると、トイレに飛び込み
丹沢「おえっ!」
いきなり食べた物を嘔吐し始めた
丹沢「おえっ!」
丹沢「うっ!」
丹沢「げっ!」
丹沢(どいつだ! こんなもん食べさせやがって!)
丹沢「うえっ!」
丹沢「おえっ!」
丹沢は胃の中が空っぽになるように吐き続けた。
丹沢「ふーっ」
丹沢「やれやれ、恐るべし、生ナマコ」
丹沢「赤ナマコ、青ナマコ、生ナマコ。早口言葉に出来そうだな」
丹沢が帰ってから爽香もカレーライスを食べ始めた。
爽香が箸を持ち、ナマコを持ち上げ、垂れ下がったナマコの下部を噛みちぎった。
「カプッ!」
爽香「おえっ!」
すぐにナマコを吐き出した。
爽香「ウーッ、気持ち悪い!!!」
爽香(口の中がぐちゃぐちゃ、ヌルヌル)
爽香(なに、これ?)
その内、ナマコの切れ端から水が垂れ、ヌルヌルが垂れ、茶色っぽい物がぶら下がり始めた。
爽香(グエッ!)
爽香(これ、食べ物? どこが美味しいの?)
爽香(丹沢さん、これ完食したの? 信じられない!)
爽香(誰がこんなの作ったのよ?)
爽香(あっ、あたしか……)
爽香は、ナマコが触れてない部分のカレーとライスを食べ始めた。
爽香(ナマコって、調理してからカレーに混ぜるんじゃないの?)
爽香(ナマコ、そのままの形で、後乗せじゃダメみたい?)
爽香(テヘッ! 後で『YouTube』でナマコの調理方法を見てみようっと!)
爽香(丹沢さん、『あ~、美味しかった』って全部食べてくれたけれど、)
爽香(あの人、あんなにやさしくなったんだ。人って変われるんだ。丹沢さん、いい人!)
爽香(次は本当に美味しい物を作って出してあげたいなぁ)
爽香(でも、誘ってもこれに懲りて、絶対に来ないだろうな)
そのころ近くの公園。
丹沢「『あ~、美味しかった』なんて言っちゃったもんだから、速水さん、また変なものを作って私を呼ぶのかなぁ?」
丹沢(う~ん、どうしよう、誘われたら?)
丹沢(う~ん?)
丹沢「おえっ!」
丹沢は考え事をしていたら、またえずいてきた。
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【後書き】
お読みいただきありがとうございました!
まさかの「ナマコの丸ごとカレー」でした。山口の名産「赤ナマコ」といえば非常に高価で美味しい食材なのですが……さすがに「生のまま」「丸ごと」「カレーに後乗せ」というのは、爽香さん、なかなかの暴挙です(笑)。
せっかくの高級食材も、調理法を間違えると凶器になってしまうという悲劇。 そして、それを根性と愛で完食し、公園でリバースしてしまった丹沢さんの優しさが、今回一番の読みどころです。
爽香: 「ナマコはシーフード!」という謎の自信。
丹沢: トイレに駆け込みながらも「人は変われる」と評価される。
この二人の温度差を楽しんでいただけたら幸いです。 ちなみに、ナマコは正しく下処理(塩揉みやスライス)をして、酢の物などで食べると本当にコリコリして絶品なんですよ! 決してカレーに丸ごと乗せてはいけません。
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【作者よりお願い】
最後まで読んでいただきありがとうございます! せっかくの高級食材が……とんでもない大惨事になってしまいました。
体を張って完食した丹沢さんの優しさに免じて、「面白かった!」「丹沢さん、お疲れ様……」と思ってくださった方は、ぜひ下の広告の下にある「☆☆☆☆☆」から評価や、ブックマークをいただけると嬉しいです! 執筆の励みになります!
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