68 ◎『ボートレース戸田』の舟券師(その2)
【03】 舟券師が自分の予想を人に教えるだろうか?
数日後。茂木の部屋。
茂木の部屋に由利が来て、次に丹沢が来た。いつものように3人が自然と集まった。
由利は、女性社長が舟券師から舟券のアドバイスをもらった話を二人に話した。
由利「……と言う訳なんだよ。おかしいだろう?」
由利は舟券師の予想が的中し、配当が7千円付いたことを伝えた。
茂木「舟券師からすれば、配当金が減りますからねぇー」
丹沢「だいたい舟券師というものは孤独で、人を避け、息を殺して生活しているもんだと思っていたよ」
由利「それが女性社長に自分の予想を教えるなんて、考えられないんだ」
茂木「その女性社長の正体ってわかるんですか?」
由利「竹林建設の社長だよ」
丹沢「竹林建設!?」
由利「何か心当たりが?」
丹沢「何かで見たなぁ、何だったろう?」
由利「茂木さんは、竹林社長を知ってるの?」
茂木「いや、まったく知りません」
丹沢は天井を見て何かを思い出そうとしていた。
丹沢「そうだ! 美浦市の市報に名前が載っていたんだ」
茂木「市報にですか?」
丹沢「うん、確か竹林時子と言う名前が載ってたと思うんだけれど」
由利「どんな内容の記事なんだい?」
丹沢「それがまったく思い出せないんだ。思い出せないというより、そこは素通りしたんだと思うな」
由利「それほど大した記事じゃないってことだ」
丹沢「多分」
茂木「早速パソコンで検索かけてみます」
茂木がパソコンのキーボードを素早く打ち始めた。
茂木「出ました!」
3人がパソコンの画面に顔を寄せた。
茂木「これですかねぇ? 」
市報に『交通遺児関連団体への寄付、竹林時子、百万円』の記事。
丹沢「えっ、百万円!!!」
茂木「すごい額ですねぇ」
由利「と言うことは、親が交通事故で亡くなったお子さんのために寄付しているってことだ」
丹沢「なんで交通遺児関連団体? 寄付する相手先なんて、数え切れないほどあるのに?」
茂木「寄付金は、ボートレースで儲かったお金ですかねぇ?」
由利「う~ん、考えれば考えるほどわからない」
丹沢「いいよ。明日私が、担当の社会福祉協議会に行って話を聞いてくる」
翌朝。住民課。
丹沢純也と明石春菜が並んで座っている。
丹沢「おはようございます」
春菜「おはようございます」
丹沢「朝から悪いんだけれど、ちょっと席外してもいいですか?」
春菜「いいけれど、何か急ぎの仕事?」
丹沢「社会福祉協議会に行って、竹林時子さんについて調べてきたいんだ」
春菜「竹林時子さんて、美浦市で『建設業界の珍獣』って呼ばれてるんでしょう?」
丹沢「『建設業界の珍獣』?」
春菜「えっ? 何かおかしい?」
丹沢「『珍獣』じゃなくて『重鎮』じゃない?」
春菜「そうとも言うわね」
丹沢「言わない、言わない」
丹沢が手のひらと顔を同時に横に振った。
春菜「ははははは。どっちでもいいのよ。わかるでしょ?」
丹沢「うん」
春菜「なんで『重鎮』って言うの? 『重鎮』の意味がよくわからないわ」
丹沢「竹林さんは重い文鎮みたく、重みがあって抑えの利く人物だからじゃないの?」
春菜「なるほどね。でも、あの社長、見た目、珍獣に見えない?」
丹沢「ははははは。でも失礼だよ」
春菜「そうね」
美浦市社会福祉協議会。
丹沢は、社会福祉協議会職員の福寄尚幸(ふくより・なおゆき・28歳)と話をした。
丹沢「ちょっとお聞きしたいのですが、」
福寄「はい、なんでしょう?」
丹沢「寄付金の事なんですが、」
福寄「はい」
丹沢「竹林建設の社長さんが交通遺児関連団体へ寄付をされていますよね」
福寄「はい、市報で見られたのですか?」
丹沢「まぁ。紙のではなく、インターネットの市報ですけれどね」
福寄「ありがとうございます」
丹沢「あの竹林建設の社長さんって、毎年寄付をされているのですか?」
福寄「ええ、毎年ご寄付をいただいております」
丹沢「すごい!」
福寄「ええ、交通遺児関連団体の施設側としては、とても助かっているみたいですよ」
丹沢「そうですか。社長さん、良いことをしてるんだなぁ」
福寄「ええ」
丹沢「何年前ぐらいからされているんですか?」
福寄「ええと、私じゃわからないなぁ。会長なら知ってるかも?」
丹沢「そうですか」
福寄「ちょっと会長を呼んできますね」
すぐに社会福祉協議会の会長がやって来た。
会長「寄付を始めた年ねぇ?」
丹沢「はい」
会長「年はわからないけれど、ほら、」
丹沢「はい?」
会長「竹林建設って、女性の社長だろう?」
丹沢「はい」
会長「実は、元々は旦那さんが社長だったんだけれど、旦那さんが交通事故で亡くなったんだよ」
丹沢「えっ! そうなんですか」
会長「うん、それで奥さんが社長になった訳なんだ」
丹沢「はぁ」
会長「旦那さんが亡くなったのはいつだったかなぁ。それから5年後ぐらいに寄付を始めたんじゃないかな?」
丹沢「なるほど、そういうことで、交通遺児関連団体なんですね」
会長「うん。時折は交通遺児関連団体に顔を出してるみたいだよ」
丹沢「へえーっ、あの社長さん、本当にいい人なんだなぁ」
会長「うん、本当にいい人だよ」
丹沢は、美浦市社会福祉協議会を後にした。
後日。茂木の部屋。丹沢、由利、茂木が集まった。
丹沢が社会福祉協議会で聞いてきた内容を由利と茂木に報告した。
由利「ってことは、ひょっとして舟券師の新井さんは、交通遺児関連団体の援助を受けて育ったのかな?」
茂木「そう考えられますよね。その恩返しで、竹林建設の社長に舟券のアドバイスをし、竹林建設の社長は、当たったお金を交通遺児関連団体に寄付している」
由利「そういう流れが推測できるな。うん」
丹沢「確かめる方法ってあるのかな?」
由利「竹林建設社長の旦那さんが、いつ交通事故で亡くなったか、だな」
丹沢「20年ぐらい前じゃないのかな?」
茂木「新井さんって、何歳ぐらいなんですか?」
由利「見た目、35歳ぐらいかな?」
茂木「だとしたら、新井さんの親の事故の記録ももうないし、知る者も居ない。確かめるのは無理でしょう?」
丹沢「そうだよね」
由利「うん」
由利も頷いた。
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【04】 20年前、竹林建設
20年前、竹林建設社長の自宅。
『トゥルルル、トゥルルル』電話が鳴った。
時子「はい、竹林でございますが」
警察「こちら守奈警察署ですが」
時子「あ、はい?」
警察「ご主人が交通事故に遭いまして、」
時子「えっ!」
夫の尊は、仕事の関係で朝から車で茨城方面へと出かけていた。
警察「ご足労をおかけして申し訳ないのですが」
時子「はい」
警察「こちらまでお越し願えないでしょうか?」
時子「主人の具合はどうなんですか!?」
警察「まだ、病院にいらっしゃいますので、何とも言えませんが、」
時子「生きているんですよね!?」
警察「だと思いますが、その辺もまだわかりません。とにかくお越しいただけないでしょうか?」
時子「わかりました。今から伺います」
時子はすぐに出かける準備をした。
埼玉県美浦市から茨城県守奈市へ向かう電車の中で時子は嫌な予感がした。
時子(なぜ、警察に行くの? 病院じゃなくて?)
時子(『生きているんですよね?』って聞いて、『まだわかりません』って、どう言うこと?)
時子(おかしくない?)
時子(まさか……)
時子(やっぱり、おかしいわ)
時子(やっぱり……)
時子は考えれば考えるほど不安に襲われていった。
時子が警察に着き、先程電話をもらった名取巡査長と会った。
名取「では、一緒に病院に行きますか?」
時子「はい」
時子と名取ともうひとりの警察官、合計3人で病院に向かった。
守奈総合病院。ロビー。
名取「ちょっとお待ちください」
しばらくすると病院の事務員が来て、3人は相談室で待たされた。
時子がここに来てから20分以上が経っていた。
時子「結構待たされるんですね」
名取「そうですね」
それからしばらくして、医師が相談室に入って来た。
医師「奥さまですか?」
時子「はい」
医師「驚かないでくださいね」
時子「……」
医師「ご主人様は、当病院に運ばれましたが、先程死亡が確認されました」
時子「……」
時子は黙ってその医師の言葉を受け止め、気丈に振舞った。
医師「損傷が激しいのですが、ご遺体をご覧になられますか?」
時子は黙って頷いた。
病院の霊安室。
時子が夫の遺体を見た。遺体は見るに堪えられないほど損傷していた。
時子「う、ううっ……」
時子の目から涙がこぼれた。
時子(こんなになるなんて、ひどい!)
時子「即死ですか?」
医師「ほぼ、そうかと推測されます」
【05】 高齢者の運転免許証
守奈市の警察署。
時子と警察署の名取巡査長が警察に戻って来た。時子は駐車場に停めてあった夫の車を見た。前面がつぶれて、その痛々しさを物語っていた。
時子「正面衝突ですか?」
名取「はい」
時子「相手の運転手は?」
名取「死亡しました」
時子「原因は?」
名取「相手の車が中央線を越えて」
時子「飲酒運転?」
名取「いいえ」
時子「じゃぁどうして?」
名取「まだ分かりませんが、高齢者ではありました」
時子「何歳?」
名取「90歳です」
時子「90歳でも運転できるんですか!?」
時子は、怒りと疑問が同時に湧いた。
名取「はい」
時子「警察が免許更新を認めたんですか?」
時子は、怒りの気持ちを抑えて、冷静に話した。
名取「……」
名取は返事をしなかった。
時子「何歳まで免許更新を認めているんですか?」
名取「特に決まりは、……無いです」
名取の答えに間が空いた。
時子「おかしくありませんか?」
名取「……」
時子「だから夫は死んだのです」
名取「……」
時子「相手の方に、運転能力があったんですか?」
名取「……」
時子「相手に、健康上の問題は無かったんですか?」
名取「……」




