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女子ボートレーサーと市役所職員  作者: 池井 けい
第7章 舟券師を探せ! 『戸田』編
63/70

63 ◎ボジョレー会、6度目勝負!(前編)

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【主な登場人物】

丹沢純也 31歳男 美浦市役所住民課主事

由利源吾 31歳男 美浦市役所税務課主任

茂木数魔 31歳男 美浦市役所情報統計課主任

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【前書き】

●この小説には多くの数字が出てきます。そこで読者の皆様が読み易いように横書きとなっております

●多人数での会話も多いことから、誰が話しているのか、すぐにわかるよう会話の頭に台本形式で、氏または名を付けて表現しました

●この物語はフィクションです。実在の個人・団体、実際のレースとは一切関係ありません。ボートレーサーと市役所職員をモデルに、フィクションとして制作されたものです

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【01】 4連敗はあるのか?


 日曜日。茂木の部屋。

 負けが続き、熱くなって今週も3人が集まった。

丹沢「いやぁー、ここ2週間、ひどい目に遭ったな」

由利「悪夢だった」

茂木「ここ2週間、眠りが悪いんです」

丹沢「『二度あることは三度ある』ということわざがあるが『三度あることは四度ある』ということわざはないから、今度こそ絶対あたるぞ!」

茂木「プラス思考ですね」

丹沢「くよくよ考えるより、良く、良く考える」

由利「なんだ、そりゃ?」

丹沢「ははははは」


 3人は、パソコンを55インチ大型テレビにつなぎ、大画面で見ていた。この日に開催している女子だけのレースを真剣に探し始めた。

丹沢「『BOAT RACE』のサイトを開けて、と」

 テレビに、24個所のボートレース場の名前が映った。ボートレース場の下にピンクのハートマークが付いているのは、女子だけのレースである。


 しばらく3人は、各自のスマートフォンも使いって『レース一覧(出走表)』に見入っていた。それは、まるで獲物を狙う獣のように。

丹沢「資金が、ついに50万円を切っちゃったなぁ」

茂木「この辺で、負けをストップしないとズルズル行っちゃいますよ」

丹沢「そうだな」

由利「今まで何がいけなかったんだろう?」

茂木「言わば『敗因』ですね?」

由利「うん」

茂木「前回の場合、まくりに来た選手を1号艇が張って二艇が飛んでしまうケース」

由利「うん」

茂木「前々回の場合、選手が風や波に弱く、転覆や落水してしまうたケース」

由利「うん」

茂木「3週間前の場合、選手がターンマークに謎の衝突をしました」

由利「ふむふむ」

茂木「以上3つのケースだったのですが、どうしてそんなことが起きたのかという解明は、まだできておりません。ただ、一応その対策として、プログラム改修は行いましたが」

丹沢「さすが茂木さんだ。対応が早いね」

茂木「ありがとうございます」

丹沢「今の二人の話を聞いていると、我々の予想にまったく落ち度はないな」

由利「ふむふむ」

丹沢「単に選手たちが、我々の言う通りに走らないだけだよ」

由利「反抗期の子供みたいなものか」

茂木「なるほど。プラス思考ですね」

丹沢「もし今回ハズレたら、みんなでさいたま市の『調ツキ神社』にお参りに行こう」

茂木「『調ツキ神社』って?」

丹沢「その名前のとおり、ツキが来るってことじゃないのか?」

由利「我々が一番欲しがっている物ですね」

丹沢「そうだろう、そうだろう!」

茂木「そんな神社があるんですか?」

丹沢「私の友人が、ずうっと競馬でハズレていたんだが、たまたま『調ツキ神社』の近くを通ったので、ついでに『調ツキ神社』で『競馬が当たりますように』と祈願したら、次のレースで当たったんだよ」

茂木「本当ですか?」

丹沢「本当だとも」


由利「『調ツキ神社』は別名があって、『調宮つきのみや神社』とも呼ばれているんだ」

丹沢「そう、そのとおり。で、その競馬で当たった友人が、あまりの喜びで、こう叫んだんだ」

茂木「なんて?」

丹沢「ツキ()()や!」

茂木「それ、作ってないですか?」

丹沢「叫んだのは本当の話だよ」

茂木「ウケますね」

丹沢「それが由来で、そう言う愛称になった訳ではないけれどね。ははははは」

茂木「わかりました。もし、今日当たらなかったら、みんなでその『調宮つきのみや神社』に行きましょう」

由利「できれば、今日はしっかり当てて『調ツキ神社』へ行かないで済めばいいんだがな」


茂木「さて、じゃぁ、今日は、先程の3点のケースに気を付けて買いましょう」

丹沢「賛成!」

由利「そうだ! 挽回するぞぉー」

茂木「一応、この一週間で、『張り』の多い選手と、『波風に弱い選手』をデータベースに入力しました」

由利「そいつはすごい!」

丹沢「『ターンマークに、よくぶつかる選手』は、入力しなかったのかい?」

茂木「それは無理です」

由利「誰がどうやって選ぶんだよ!」

丹沢「ははははは」


茂木「インコースのときに張る確率、インコースでつぶれる確率、風と波に強い選手・弱い選手を100点満点で入力しました」

丹沢「やることが早いね」

茂木「ハズレた悔しさをバネに頑張りました」

丹沢「やはり、負けることが人間を成長させるんだね」

茂木「でも、まだ今月に行われたレースと、私の持つ印象だけで入力したので、これからの一週間で過去のレースの実績を入力します」

丹沢「私も手伝うよ」

由利「私も」

茂木「ではお願いします。後で依頼する内容をお話しします」

丹沢「了解!」

茂木「それで、今日の狙い目ですが、」

丹沢「どこのレース場?」

茂木「浜名湖です。2日目ですね」

丹沢「何レース?」

茂木「第3レース。男女W優勝戦の予選ですね」


 茂木がテレビ画面に第3レースの出走表を映し出した。


【テレビ画面】

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【出走表】

浜名湖 2日目 一般戦 第3レース 予選 男女W優勝戦


 1号艇 入間幸恵  46歳 B1級 勝率4.20 モーター× 46

 2号艇 花嶋万貴  37歳 A1級 勝率7.22 モーター- 21

 3号艇 上西裕子  34歳 B1級 勝率4.19 モーター- 2 

 4号艇 森浦愛以  21歳 B2級 勝率1.79 モーター△ 55

 5号艇 寺方千景  49歳 A1級 勝率7.49 モーター○ 34

 6号艇 諸橋悠月  26歳 B1級 勝率3.12 モーター◎ 4 

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茂木「このレース、選手6人の勝率だけ見てください」

丹沢「どれどれ?」

 丹沢が勝率に目をやった。


   1号艇 勝率4.20

   2号艇 勝率7.22

   3号艇 勝率4.19

   4号艇 勝率1.79

   5号艇 勝率7.49

   6号艇 勝率3.12


由利「なんだ、このレース?」

茂木「やはり、そう思うでしょう?」

丹沢「どうかした? 私にはわからないけれど?」

由利「勝率が6.00でもすごいのに、勝率7点台の選手が居る」

茂木「しかも二人です!」

由利「『二人です』と言うより、『二人だけ』だ」

丹沢「なるほど。そう言われれば」

茂木「番組編成員は『鉄板番組』を意図して、番組編成したのでしょうね」

由利「だろうな。意図的としか考えられない」

丹沢「『鉄板番組』? って料理番組のことかい?」

由利「わざとボケてるんだろう? 誰がどこで料理するんじゃ?」

丹沢「場内モニターで、レースが始まるまでの間『どこどこのお店で焼きそばを作ってますよ! 食べてちょ!』って場内飲食店の宣伝をするのさ」

由利「なんで、CMの言葉が名古屋弁なんだ?」

丹沢「親近感があって、なんか食べたくなるじゃない?」

茂木「確かに! おまけに、鉄板のジュージューする音がモニターから流れてきたら、焼きそば食べに行っちゃいますね」

丹沢「だろう?」

由利「焼きそばなら、紅ショウガと青のりもアップで映して欲しいな」

茂木「紅ショウガは、要らないでしょう?」

由利「えっ! 絶対必要だろう?」

茂木「紅ショウガよりも鰹節でちょ」

丹沢「なんで名古屋弁なんだ? それに、今はレースに集中しないと、二人とも!」

由利「誰が『焼きそば』の話を振ったんだ!」

茂木「丹沢さんでしょう!」

丹沢「そうだっけ?」

由利「まぁ、いい」

茂木「なんか変ですね?」


由利「それでだ、」

丹沢「うん、」

由利「全国24のレース場には、レースのメンバーを組む『番組編成員』という職員が居るんだ」

丹沢「テレビ局みたいだね」

由利「『番組編成員』は『番組マン』とも呼ばれ、観客が興味をそそるような、そして売り上げが伸びるようなレース作りに、日々努力している訳だ」

丹沢「やっぱりテレビやラジオと同じだね」


 ここから茂木が説明に加わった。

茂木「『鉄板番組』とか、『鉄板レース』と呼ばれているのは、鉄板のように 堅いレースのことです」

丹沢「なぁーんだ」

茂木「『鉄板レース』と同じ意味で『銀行レース』という言葉があります」

丹沢「ふーん、どうしてそう言うんだ?」

茂木「『銀行預金の利子ぐらいしか配当が付かない』という意味です」

丹沢「ふむふむ」

茂木「やはり、堅いレースということです」

丹沢「ふむふむ」


茂木「昨日と今日開催の『オールレディース戦』全12レースと、『男女W優勝戦』全12レース中の女子戦全6レース、合計18レースを、私が作った予想プログラムで、レースごとにレーサー6人ずつ選手登録番号を入力して行ったら、このレースに『インがつぶれる』と表示されたのです」

由利「私が、目で見てもそう思うよ」

丹沢「そんなレースを、なんでわざわざ組むのかい?」

茂木「ボートレースファンの中には、絶対当たる堅いレースを待ち望んでいる人がいるんですよ」

丹沢「配当が低いのに?」

茂木「その分、賭け金を多くするんじゃないですか? このレースの場合、普通なら『2―5』が堅いと思うでしょう?」

丹沢「うん」

茂木「それで、お客様により多くの勝舟投票券を買ってもらえれば、ボートレース場の売り上げは増えますからね」

丹沢「番組編成する人もたいへんだなぁ」

由利「やはり、売り上げは大事だからな。それで、関係職員の人件費、選手への賞金、学校など各種団体への寄付にするわけだから」

丹沢「そうか。じゃぁこのレースは、『2―5』で決まりか」

茂木「いえ、そこをあえて逆らいます」

丹沢「えっ! 逆らうのか?」

由利「丹沢さんの市役所生活と同じだな」

丹沢「余計なお世話だ!」

茂木「ははははは」

由利「ははははは」


丹沢「コンピューターの予想は?」

茂木「ズバリ『2―6』です!」

丹沢「『2―6』で来たら、鉄板がアルミホイルになっちゃうぞ」

丹沢「ははははは」

由利「ははははは」

茂木「ははははは」

由利「そうだ。ふにゃふにゃだ」

丹沢「フォローありがとう」

由利「いいってことよ」

丹沢「ははははは」

由利「ははははは」

茂木「ははははは」

由利「急に焼きそばが食べたくなったなぁ」

 『鉄板』と『アルミホイル』のキーワードが由利をそうさせた。


丹沢「『2―6』ということは、番組編成した人の『裏をかく』訳だな」

茂木「『裏をかく』ですか?」

 茂木が由利に振った。

由利「『裏をかく』の語源は、『武士が鎧を着て安心していたら、槍が鎧を貫いて裏側まで届いた』という説や『武士が着ている鎧の裏を。つまり背中側を刀で切り付けた』という説もあるみたいだ」

茂木「なるほど、そう言う語源だったんですか。由利さん教養が今日から身に着いたんですよね」

丹沢「ははははは」


由利「で、『2―6』の予想の話は?」

茂木「5号艇のA1級の選手、このメンバーを見て、相当プレッシャーを感じていると思いますよ」

丹沢「なぜ?」

茂木「メンバー表を見ただけで、自分が2着を取るように組まれているんだって、すぐにわかりますからねぇ」

丹沢「そんなものなのか?」

茂木「はい、結構どこのボートレース場でも、こういうレースを組みますからね」

丹沢「そうなんだ」

茂木「だから、5号艇は、相当重圧を背負っていますね」

丹沢「ふむふむ。ある柔道家が言っていたが『弱気と焦り』は禁物だと」


茂木「5号艇は、まさにそんな心境じゃないですか?」

丹沢「A級2人の『2―5』は、ないかな?」

茂木「はい、ないと思います。また、番組マンも必ず『2―5』で来るとは考えていない、と思いますよ」

由利「売上を増やすための作戦だものな。結果までは考えてないだろう」

丹沢「ふむふむ」

茂木「はい、そうだと思います」

丹沢「売り上げを増やす戦いが、水上とは別の所で行われている訳だな」

由利「丹沢さんも5年に一度ぐらいは、いいことを言うんだな」

丹沢「バカ言え! 3年に一度は言っているぞ!」

茂木「ははははは。どちらも五十歩百歩でしょう」

丹沢「四字熟語さえわからないのに、五字熟語の意味はもっとわからん。ところでオッズは?」

由利「ははははは。『五字熟語』とは、うまいことを言う」

丹沢「ほら、1分に1回ぐらいは、いいことやうまいことを言っているだろう」

由利「オッズは?」

丹沢「無視するな!」

 

 茂木がパソコンを操作して、オッズの画面をテレビに映し出した。

由利「おっ! 『2―6』で66.8倍だ」

丹沢「えっ! ウソだろう」

茂木「えーっ、そんなに付くんだ。付き過ぎですね」

由利「ほら、やっぱり『2―5』でかぶっているよ」

茂木「『2―5』で2.2倍です」

丹沢「番組マンの思う壺だな。みんな、大金をつぎ込んでいるよ」

茂木「『思う壺』ですか?」

由利「『思う壺』の語源は、『博打で壺にサイコロを入れ、思ったとおりの目を出せること』かららしい」

茂木「なるほど、そう言う語源だったんですか」


丹沢「しかし、ここに居る二人が居なかったら、私のような素人は、つぎ込んじゃうな」

茂木「素人だからつぎ込むのかも知れません」

由利「なるほど。一理あるかも?」

茂木「ちょっと、スタート展示のリプレイを見てみましょう」

丹沢「ふむふむ」

 由利が画面にスタート展示を映し出した。スタート展示とは、本番レースの20分ぐらい前に行われ、出場選手6名によるスタート練習である。この主な目的は二つあり、ひとつはフライングなどの事故防止、もうひとつは舟券を購入するための情報提供である。

 

 スタート展示は、インから1、2、3、5、6、4。

2号艇と5号艇が飛び出し、他の4艇が横一線だった。次に映ったスリット写真、つまりスタート時点の写真でも2号艇と5号艇が半艇身出ていた。


丹沢「やっぱり、見ればみるほど、この飛び出している2艇で決まりそうだけれどなぁ」

茂木「私の読みでは、」

丹沢「うん、」

茂木「1号艇は、スタートが慎重な選手ですし、エンジンもそれほど伸びていません」

丹沢「うん」

茂木「2号艇は、1号艇の外を全速ターンで回ってトップになると思います」

丹沢「そこまでは私でもわかる」

茂木「3号艇は、内側を差しに行くので2番手候補ですが、エンジンが6人の中で一番悪いです」

丹沢「じゃぁ、きびしいか」

茂木「4号艇は、新人なので6コースに出ましたから無視します」

丹沢「新人は、絶対に6コースに行くのか?」

茂木「決まりではないのですが、暗黙のルールです。その方が事故も起こさないし、ケガもすくないでしょう」

丹沢「まぁ、新人じゃ仕方ないか」

茂木「5号艇は、腕も良い、エンジンも良い、スタートも良い、そこで2号艇の外、2段まくりを敢行しますが、外へ飛んでしまいます」

丹沢「ふむふむ。そうなんだ」

茂木「6号艇は、5コースに入るのですが、スタートも早くないし、3段まくりなんてありませんから差し一本に決めてターンマークギリギリを狙って旋回してきます。幸いにもエンジンの伸びが良く、差し技が上手な選手ですから2着はあると思います」


丹沢「ほーっ!」

由利「素晴らしい!」

茂木「いかがでしょう?」

丹沢「完璧な推理力だ」

由利「5号艇の押さえは、要らないかな?」

茂木「はい。勝率7.49ですが、ここでは、申し訳ありませんが消えていただきます」

丹沢「千景さん悪いね。そういう結論に至りましたので、3着以下でお願いします」

由利「よし! 今回は『2―6』、ボジョレー会初の一点勝負だ!!!」

丹沢「66倍か。今日こそ寿司が食えるぞ!」

茂木「はい。会の発足以来、今までで一番良い狙いだと確信しています」

 茂木がパソコンを操作して『2―6』を1万円買った。

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