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女子ボートレーサーと市役所職員  作者: 池井 けい
第7章 舟券師を探せ! 『戸田』編
62/70

62 ◎ボジョレー会、5度目勝負!編

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【主な登場人物】

丹沢純也 31歳男 美浦市役所住民課主事

由利源吾 31歳男 美浦市役所税務課主任

茂木数魔 31歳男 美浦市役所情報統計課主任

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【前書き】

●この小説には多くの数字が出てきます。そこで読者の皆様が読み易いように横書きとなっております

●多人数での会話も多いことから、誰が話しているのか、すぐにわかるよう会話の頭に台本形式で、氏または名を付けて表現しました

●この物語はフィクションです。実在の個人・団体、実際のレースとは一切関係ありません。ボートレーサーと市役所職員をモデルに、フィクションとして制作されたものです

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【01】 1号艇は、つぶされるのかい?


 次の日曜日。茂木の部屋。

 茂木数魔(もぎ・かずま・31歳)の部屋に、同期入所の丹沢と由利がやって来た。

 3人で立ち上げたボートレース予想集団『ボジョレー会』の集まりだ。

 3人は先週負けた8万円を取り戻そうと2週連続で集まった。


丹沢「ここのところ、ひどい目に遭っているな」

由利「悪夢だ」

茂木「ここ一週間、眠りが悪いんです」

丹沢「そうだろうな。先週もこんな会話しなかったっけ? でも、茂木さんは、まったく悪くないんだよ」

由利「そう、負けた2回とも、予想は完璧だった」

茂木「ありがとうございます。ですので、今回も予想プログラムは、改良しませんでした」

丹沢「うん、まったく先週と同じ会話だ。しかし、スタートして、すぐ転覆なんてあるのかな?」

茂木「あったから不思議です」

由利「まったく謎の転覆だったな」

茂木「不思議ですよね、それまで無傷の3連勝で、A級の選手ですからね」

由利「考えられない! 8万円が165万円となり、回転ずしで15,000枚食べるはずだったのに」

丹沢「またもや『捕らぬ狸の皮算用』になってしまったな」

由利「もう、狸は出なくていいよ」

丹沢「そうそう、狸は見たくない」

由利「見たいのは、虎の子供だよ」

丹沢「ん? 『虎の子供』?」

由利「『虎の子』さ」

丹沢「『虎の子』ってどういう意味?」

由利「大事に隠し持ってるお金とか、まぁお金だね」

丹沢「へぇー、そうなんだ。由利さんて、」

茂木「はい、カット! そこまで」

 茂木が手刀を切る仕草で丹沢の会話を止めた。


茂木「次行きますよ」

丹沢「なんだ、やらせてくれないのか?」

茂木「どうしてもやりたいんですか?」

丹沢「うん」

茂木「わかりました。じゃぁ、私トイレに行ってきますから、その間にやっておいてください」

丹沢「冷たい奴だなぁ」

 茂木が席を立った。


丹沢「へぇー、『虎の子』ってお金の意味なんだ。由利さんって教養あるね、いつから教養があるの?」

由利「今日よう!」

丹沢「ははははは」

由利「客が居ないのに、これをやるのは、辛いものがあるなぁ」

丹沢「ははははは」


 茂木が戻って来た。

丹沢「ところで、ボジョレー会の残高はいくらだい?」

茂木「52万2千円です」

丹沢「そうか、まだそんなにあるんだ」」

茂木「はい」

丹沢「ボートレースって面白いもんだな。まぐれで40万円が当たり、確実なレースで、いつだったか4万円、先週が8万円、合計12万円も損するんだから」

由利「100%確実なレースなんてないってことだな」

茂木「そうですね。これからはボジョレー会の残高が0円にならないように頑張ります」

丹沢「うん、まだ儲かっているだけ、我々は有利な立場にある訳だからな」

由利「そうそう、まだまだこれからよ」

茂木「はい、頑張ります!」


丹沢「で、今日の狙い目は?」

茂木「多摩川男女W優勝戦予選の第9レース、2号艇です」

丹沢「メンバーは?」

 茂木がパソコンを操作して、多摩川第9レースの出走表を55インチ大型テレビに映し出した。


【テレビ画面】

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【出走表】

多摩川 2日目 一般戦 第9レース 予選 オールレディース戦


 1号艇 八谷桜子  39歳 A2級 勝率5.63 モーター△ 2 3

 2号艇 廣永悠衣  37歳 A1級 勝率6.34 モーター◎ 21 

 3号艇 足立詩帆  42歳 B1級 勝率4.08 モーター○ 1

 4号艇 中台朋実  41歳 A1級 勝率7.51 モーター- 441

 5号艇 翠川理江  51歳 A2級 勝率5.47 モーター- 51 

 6号艇 栃矢百江  36歳 B1級 勝率5.27 モーター× 3 2

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茂木「プログラム予想では、2号艇の頭と出ましたが、」

丹沢「1号艇もA級だけれど、1着になれないのかい?」

由利「1号艇も2号艇も共にA級だけれども、1号艇は『A2』、2号艇は『A1』だからな」

丹沢「インの1号艇は、つぶされるのかい?」

由利「2号艇の『A1』レーサーにマクられるか、差されるか、自由自在にさばかれちゃうんじゃないか?」

茂木「私もそう思ってこのレースをお二人に推奨しました」

由利「悪くないな。しかも2号艇は、東京支部所属で、ここがホームコースだから、この水面は得意だぞ」

茂木「お二人の予想は?」

丹沢「私は単純に『1―2』『2―1』かと思っていたけれど、2を頭にするのなら1はつぶされて『2―3』、『2―4』かな?」

由利「私は2を頭に、ヒモはイン残りの『2―1』、それと2号艇と同じA1級の4号艇、よって『2―1』、『2―4』の2点」

丹沢「5号艇と6号艇はいらないかな?」

由利「特別にエンジンが良いわけでもないし、この外のコースじゃ要らないだろう」

茂木「同意見です」

由利「よし、じゃぁ、『2―1』、『2―3』、『2―4』でいくか?」

茂木「そうですね」

丹沢「オーケー」

由利「で、いくら突っ込む?」

丹沢「払戻はいくらぐらいつくんだい?」

茂木「『2―1』で6倍、『2―3』が22倍,『2―4』で9倍ですね」

丹沢「いまいち、つかないな」

由利「その分、堅いってことだよ」

丹沢「そうか、賭け方も難しいな」

茂木「今回は、支出をおさえる意味で1万円ずつにしませんか?」

丹沢「そうだね、あまり欲張ってもいけないし」

由利「まず、当て癖をつけよう!」

茂木「はい」

 茂木がパソコンを操作して勝舟投票券3万円を購入した。


 午後2時58分、ボートレース多摩川、オールレディース戦第9レース本番。 


【テレビ画面】

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【出走表】

多摩川 2日目 一般戦 第9レース 予選 オールレディース戦


 1号艇 八谷桜子  39歳 A2級 勝率5.63 モーター△ 2 3

 2号艇 廣永悠衣  37歳 A1級 勝率6.34 モーター◎ 21 

 3号艇 足立詩帆  42歳 B1級 勝率4.08 モーター○ 1

 4号艇 中台朋実  41歳 A1級 勝率7.51 モーター- 441

 5号艇 翠川理江  51歳 A2級 勝率5.47 モーター- 51 

 6号艇 栃矢百江  36歳 B1級 勝率5.27 モーター× 3 2

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♪ファンファーレとともに、6名の女子レーサーが水面に出てきた。


実況「進入はインから1、2、3、4、5、6、」

丹沢「よし、いいぞ」


実況「大時計が回り、10秒前、5秒前、スタート」


丹沢「よしっ! 2号艇行ったぞ!」

茂木「他艇より半艇身は出てますね」

由利「そのまま! 1マーク、マクれ! マクるんだ!」

丹沢「行け! 悠衣ちゃん頼むよ~ん」

茂木「……」

丹沢「あれっ?」


実況「1号艇が2号艇に横付けした!」 

実況「1号艇が2号艇を張りに出た!」

実況「2号艇のターンが大きく、大きく膨らんだ」

実況「1号艇も膨らんだ」

実況「2艇が外へと滑って行く」


由利「やめろぉー!」

茂木「張るな!」

丹沢「仲良くしろよ、仲間だろっ」

由利「ん?」


実況「インがガラ空きだ!」

実況「そこを4号艇が一番差しだ!」


茂木「ウソだろう」

丹沢「4号艇?」

実況「最インを6号艇が勢いをつけて、ズバッと差した、2番差しだぁ~!」

茂木「うわぁーっ!」

由利「ダメだぁ~! う、う、うっ」

丹沢「うーっ! 苦ちぃ……」

 またもや茂木の部屋にうめき声が響き渡った。


実況「バックストレッチは、内に6号艇、外に4号艇。並走状態」

実況「1周2マーク、内から6号艇、外の4号艇の順に回った」


丹沢「ほんまかいな」

由利「勘弁してくれよぉ~」

茂木「そんなぁ~」


 そこで、勝負は決まった。

 1分後、

実況「6番ゴールイン、4番ゴールイン」


丹沢「結果は、『6―4』だ」

由利「げっ、払戻金が15,680円だ」

茂木「超大穴です。やられましたね」

丹沢「3万円が、多摩川に沈んだ」

由利「立ち直れない」

茂木「予想が甘かったんですかねぇ? これで3連敗です」

由利「ハズレたってことは、そう言うことになるなのかなぁ?」

丹沢「1号艇も、あそこまで張ることは無いだろう」

由利「満身創痍の時の湿布じゃないんだから」

丹沢「うんうん。上手いけど、受けないね」

由利「……」


茂木「しかし、あの6号艇はうまかったですね」

丹沢「素人の私でも、それは思った」

由利「あの位置から気持ち良い差しだった」

茂木「ええ。あの選手、また、いつか狙えますね」

丹沢「うん」

由利「しっかりと、名前を覚えておくよ」

丹沢「()()()だっけ?」

由利「チャウチャウ。()()()だよ」

丹沢「お前はチャウチャウ犬か!」


 これで、ボジョレー会の残金は、19万2千円となった。

 負けた3人は、茂木の部屋で大量のそうめんをゆで、仲良く食べ始めた。

丹沢「うん、負けた時のそうめんはうまいなぁー」

由利「勝ったら、もっとうまいかもな」

茂木「まぁ、勝っても負けても、こうやって3人仲良く食べるとおいしいですよ」

丹沢「そうだな。負けて、ひとりでそうめんをすするとしたら、涙が出ちゃうかも。3人で良かったよ」

由利「うん。昔、ボートレース場の帰り、負けて涙を流しながら、とぼとぼ歩いて帰ったのを、今、思い出したよ」

茂木「それってギャンブラーが、必ず通る道ですね」

丹沢「しかし、そうめんっていうのは安いなぁ。食べきれないよ」

茂木「ええ、これだけ大量にゆでて、300円です。激安スーパーで。安いでしょう?」

丹沢「でも、来週は、もういいよ」

茂木「ですよね」

丹沢「ははははは」

由利「ははははは」

茂木「ははははは」

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