61 ◎ボジョレー会、4度目勝負!編
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【あらまし】(ボートレース予想エピソード)
同期入所3人で結成されたボートレース予想プロ集団『ボジョレー会』。精緻な予想プログラムを操る茂木、鋭い観察眼を持つ由利、そして楽天的な丹沢。
彼らは、過去のデータと執念の取材に基づいたプログラムによる「完璧なはず」の予想を弾き出す。しかし、レースにはいつも魔物が棲んでいる……。
「理論上、外れるはずがない」そう思っている彼らは、果たして勝負の神様に「ツキ」を呼び戻せるのか? 笑いと悲哀が交錯する、公務員3人組の真剣なボートレース予想ストーリー!
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【主な登場人物】
丹沢純也 31歳男 美浦市役所住民課主事
由利源吾 31歳男 美浦市役所税務課主任
茂木数魔 31歳男 美浦市役所情報統計課主任
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【前書き】
●この小説には多くの数字が出てきます。そこで読者の皆様が読み易いように横書きとなっております
●多人数での会話も多いことから、誰が話しているのか、すぐにわかるよう会話の頭に台本形式で、氏または名を付けて表現しました
●この物語はフィクションです。実在の個人・団体、実際のレースとは一切関係ありません。ボートレーサーと市役所職員をモデルに、フィクションとして制作されたものです
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【01】 無傷の3連勝でA級の選手を狙え!
日曜日。茂木の部屋。
茂木数魔(もぎ・かずま・31歳)の部屋に、同期入所の丹沢と由利がやって来た。
3人で立ち上げたボートレース予想集団『ボジョレー会』の集まりだ。
丹沢「前回はひどい目に遭ったな」
由利「悪夢だった。まさか最終ターンでターンマークにぶつかるとはな」
茂木「あれから、眠りが悪いんです」
丹沢「そうだろうな。でも、茂木さんは、まったく悪くないんだよ」
由利「そう、予想は完璧だった!」
茂木「お気遣い、ありがとうございます。それで、今回は予想プログラムを改良しませんでした。もっとも、やる気が起きなかったのです」
丹沢「そりゃぁ、そうだろう。あれじゃぁ、落ち込むよ」
茂木「すみません」
由利「そんなに謝らないでくれ」
丹沢「寿司で言えば、大トロが目の前に出てきたので手を伸ばして取り、手から口へと向かってポーンと投げた瞬間、空中でシャリがくずれて、床に落ちてしまった感じだな」
由利「今日こそは、寿司が食いたい」
茂木「あの4万円負けた時の夜は、トースト1枚になってしまいました」
丹沢「あわれだなぁ~」
茂木「そう言う丹沢さんは?」
丹沢「私は、夕飯だというのにシリアルに牛乳をかけて食べ、すぐ寝たよ」
茂木「あわれですね」
由利「私は、カップ麺だ」
丹沢「それは豪華だ!」
茂木「すごいですねぇ」
由利「カップ麺でか?」
丹沢「そうだよ。カップ麺は最高だよ」
茂木「ええ、カップ麺なら充分ですね」
丹沢「逃げた魚は、でかかった!」
由利「魚が寿司ネタになるのが嫌で逃げたんだろうな」
丹沢「あの時、茂木さんの言った通り、本当に『捕らぬ狸の皮算用』になってしまったな」
茂木「独走しながら最終ターンで落水した選手ですが、」
丹沢「なにかあった?」
茂木「私の取材情報を参考までに申し上げますと、」
丹沢「ああ、」
由利「言ってくれ」
茂木「あの選手の好きな言葉は、」
丹沢「好きな言葉は?」
茂木「『魅力たっぷりな走りを!』です。サインでも色紙にそう書くそうです」
由利「確かに、魅力たっぷりな走りだった」
丹沢「そうだな。独走していても攻めのターンで、いいタイムを出そうとしてたんじゃないか?」
茂木「これで、あのレーサーを嫌いになったんじゃないですか?」
由利「いや、とんでもない。ますます好きになったよ。2分間の走りにいっさい手抜きなし。最高のターンを目指す彼女は、将来きっと大物になるぞ」
丹沢「ははははは、そうだな、絶対に一流選手になるさ。ただ、攻めすぎて大ケガさえしなければいいけれど……」
茂木「そうですね、常に攻めの姿勢ですからね。でも、初優勝もすぐに出来ると思います」
丹沢「そうだな。今の内、落水しておけば、優勝戦では、最後のターンまで落水に気を付けるだろうからな。ははははは」
由利「ははははは」
茂木「二人とも太っ腹ですね」
由利「くよくよしたって、しょうがないって」
丹沢「そうさ、時間の無駄、無駄、無駄」
【02】 当たりは確実! あとは払戻金が高いか安いか? だけ
茂木「さて、今日は前回の悪夢を振り払うために、なんとしても当てたいと思います」
丹沢「そうだね」
由利「同じく」
茂木「今日は、ズバリ、下関の第3レース、3号艇が狙い目です」
茂木がパソコンで出走表を出し、55インチ大型テレビに映し出した。
【テレビ画面】
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【出走表】
下関 4日目 第3レース 予選 男女W優勝戦
1号艇 津賀利絵 31歳 A1級 勝率6.31 モーター○ 11524
2号艇 城本咲姫 21歳 B1級 勝率2.86 モーター- 556 5
3号艇 金浜幸栄 38歳 A2級 勝率5.53 モーター◎ 2 111
4号艇 志水亜樹 31歳 B1級 勝率5.33 モーター× 3 254
5号艇 赤石映美 19歳 B2級 勝率1.28 モーター- 6 6 6
6号艇 角丸ひな 50歳 A2級 勝率5.85 モーター△ 42315
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丹沢「狙い目の根拠は?」
茂木「二日目から3連勝しているんですよ」
由利「ホントだ。でも3連勝ぐらいなら、たまにあるんじゃないか?」
茂木「そうですね。でも、この選手のすごいのは、昨日6コースから1着を取っているんです」
丹沢「ほーっ、6コースからか。そいつはすごいや」
由利「相当伸びているんだな」
丹沢「今回は、口直しではないが、払戻が安くても良いから一度当てたいな」
茂木「私もそう思って、このレースを選びました」
由利「3連勝しているのが3号艇だろ。そして1号艇がA1級・勝率6.31、しかも地元選手、このメンバーでは別格だ。『3―1』『1―3』で、まず間違いないんじゃないか?」
茂木「どう考えても、それしか考えられないですよね」
由利「うん。それしかない! 出場選手が2人だけだと思えばいい」
丹沢「なるほど。でも『1』が絡んだら、払戻が付かないだろう?」
茂木「そうですね」
丹沢「あれっ! IF関数で、1号艇が1着という結論が出たら、舟券購入を見送るんじゃなかったっけ?」
茂木「はい、そうです。でも、今回は特別です。先ほど丹沢さんが言ってましたが『口直し』です」
由利「言わば『景気付け』だな」
茂木「はい!」
丹沢「下手すると、配当が200円とか?」
茂木「確かに安いでしょうね」
由利「『1―3』『3―1』の裏表を買っても、元返しだったりして」
茂木「そこまではいかないでしょうけれど?」
丹沢「よし、オッズをみてみよう!」
55インチ大型テレビにオッズが映った。
茂木「『1―3』で2.7倍。『3―1』で4.6倍です」
丹沢「予想通り、配当がつかないね」
由利「それだけこの2人で堅いってことだ」
丹沢「2.7倍かぁ」
茂木「それなら、『3連単』にしますか?」
丹沢「『3連単』って? 3着までピタリと順位を当てるということ?」
茂木「そうです。3着は誰が来てもおかしくありませんから」
丹沢「へえー、そんな手があるんだ」
由利「そうだな。1、2着が堅いんだから、『3連単』を全部、8通り買えばあたりだな」
丹沢「へえー、全部で、8通りでいいんだ」
茂木「『132』、『134』、『135』、『136』。それと『312』、『314』、『315』、『316』の8通りです」
由利「テレビの『3連単オッズ』で、赤色の所と白色の所を見ればいい」
丹沢「なるほど、見やすいな。『315』は165倍だぞ! うひゃー!」
茂木「ええ、5番は新人なので人気薄です」
由利「ボートレースの3着というのは、展開次第で、何が来るかわからないからな」
丹沢「へえー、そうなんだ。『315』だと、1万円買って、払戻金が165万円かぁー」
由利「可能性、あると思うよ」
丹沢「165万円なら回転寿司、店一軒、貸し切りで食えるな」
由利「他の客が食べられなくなるから、それはいいよ」
丹沢「さすが、地方公務員だ。市民のためを思っている」
由利「まぁな」
茂木「回転寿司で165万円は、大食いタレントのギャルなんとかさんでも無理でしょうね」
丹沢「165万円だと、110円の皿で何枚だ?」
由利が電卓で計算した。
由利「1万5千枚だね」
丹沢「いくらギャルなんとかさんでも、1万5千枚は食えんだろう?」
由利「ははははは」
茂木「では、1万円ずつ、8通り買いますか?」
丹沢「うん。この買い方には、夢があるなぁ」
由利「何が入るのか楽しみだ。当たるのは確実! あとは安いか高いかだけだ?」
茂木がパソコンでオレンジ色の「投票」ボタンから入り、8通りの舟券を購入した。
【テレビ画面】
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【出走表】
下関 4日目 第3レース 予選 男女W優勝戦
1号艇 津賀利絵 31歳 A1級 勝率6.31 モーター○ 11524
2号艇 城本咲姫 21歳 B1級 勝率2.86 モーター- 556 5
3号艇 金浜幸栄 38歳 A2級 勝率5.53 モーター◎ 2 111
4号艇 志水亜樹 31歳 B1級 勝率5.33 モーター× 3 254
5号艇 赤石映美 19歳 B2級 勝率1.28 モーター- 6 6 6
6号艇 角丸ひな 50歳 A2級 勝率5.85 モーター△ 42315
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♪ファンファーレとともに、6名の女子レーサーが水面に現れた。
実況「進入はインから1.6.2.3.4.5」
50歳の選手が2コースに入ってきた。
丹沢「6号艇が2コースに入ったよ」
茂木「準決勝進出のために、割り込んできましたね」
丹沢「うーん、大丈夫かな?」
茂木「ちょっと嫌な予感がしますね」
由利「まさか勝率通り『1―6』になってしまうんじゃないだろうね?」
茂木「いや、3号艇の伸びと腕を信じましょう!」
由利「そうだな」
実況「大時計が回り、10秒前、5秒前、スタート!」
6艇がスタートラインを通過した。
実況「3号艇だけが、少し遅れた」
5艇がコンマ『20』のスタートに対して、3号艇だけがコンマ『43』のスタート。
丹沢「ひぇーっ! 3号艇だけひどい出遅れだな」
由利「これで本当に3連勝しているのか?」
実況「全艇が1マークへ向かう」
実況「おーっと、3号艇が転覆!」
1マークの手前、3号艇が向かい風4mをまともに受け転覆した。
丹沢「ぎゃーっ!」
由利「うわーっ!」
茂木「おえっ!」
獣のような声が部屋中に響き渡った。
丹沢「なんなんだ!」
由利「うわーっ! ダメだ!」
茂木「いったい何があったの?」
実況「先頭は、インコースからの1号艇、二番手に6号艇」
丹沢「ひとり勝手に転覆したぞ」
由利「1マークまで持たなかったぞ」
茂木「なんで、なんで?」
2周目1マーク付近。
実況「事故艇の外を5艇が回っています」
丹沢「3番の選手、泳ぎたかったのかな?」
由利「魚を取りに、潜ったんだろう」
丹沢「昨日、風呂に入れなかったとか?」
由利「ボートの上でお漏らしして、ごまかすためとか?」
茂木「二人とも、何をごちゃごちゃ言っているんですか?」
丹沢「すぐに、この状況を受け入れられないんだ」
由利「うん、だから大喜利遊びをしているんだ」
丹沢「現実から逃避するために……」
茂木「ダメです! ボジョレー会、2連敗、確定です」
丹沢「随分はっきり言うんだな」
由利「血も涙もない奴だ」
実況「先頭1番ゴールイン、6番、4番ゴールイン」
丹沢「寿司屋まで、道のりが遠いなぁ」
由利「うん。歩いても歩いても、寿司屋が見えないなぁ」
丹沢「今日はコンビニでおにぎりにするか?」
茂木「8万円は痛いですねぇ」
今回3人は、さすがに笑いも出なかった。




