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女子ボートレーサーと市役所職員  作者: 池井 けい
第7章 舟券師を探せ! 『戸田』編
61/70

61 ◎ボジョレー会、4度目勝負!編

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【あらまし】(ボートレース予想エピソード)

 同期入所3人で結成されたボートレース予想プロ集団『ボジョレー会』。精緻な予想プログラムを操る茂木、鋭い観察眼を持つ由利、そして楽天的な丹沢。

 彼らは、過去のデータと執念の取材に基づいたプログラムによる「完璧なはず」の予想を弾き出す。しかし、レースにはいつも魔物が棲んでいる……。

「理論上、外れるはずがない」そう思っている彼らは、果たして勝負の神様に「ツキ」を呼び戻せるのか? 笑いと悲哀が交錯する、公務員3人組の真剣なボートレース予想ストーリー!

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【主な登場人物】

丹沢純也 31歳男 美浦市役所住民課主事

由利源吾 31歳男 美浦市役所税務課主任

茂木数魔 31歳男 美浦市役所情報統計課主任

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【前書き】

●この小説には多くの数字が出てきます。そこで読者の皆様が読み易いように横書きとなっております

●多人数での会話も多いことから、誰が話しているのか、すぐにわかるよう会話の頭に台本形式で、氏または名を付けて表現しました

●この物語はフィクションです。実在の個人・団体、実際のレースとは一切関係ありません。ボートレーサーと市役所職員をモデルに、フィクションとして制作されたものです

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【01】 無傷の3連勝でA級の選手を狙え!


 日曜日。茂木の部屋。

 茂木数魔(もぎ・かずま・31歳)の部屋に、同期入所の丹沢と由利がやって来た。

 3人で立ち上げたボートレース予想集団『ボジョレー会』の集まりだ。


丹沢「前回はひどい目に遭ったな」

由利「悪夢だった。まさか最終ターンでターンマークにぶつかるとはな」

茂木「あれから、眠りが悪いんです」

丹沢「そうだろうな。でも、茂木さんは、まったく悪くないんだよ」

由利「そう、予想は完璧だった!」

茂木「お気遣い、ありがとうございます。それで、今回は予想プログラムを改良しませんでした。もっとも、やる気が起きなかったのです」

丹沢「そりゃぁ、そうだろう。あれじゃぁ、落ち込むよ」

茂木「すみません」

由利「そんなに謝らないでくれ」


丹沢「寿司で言えば、大トロが目の前に出てきたので手を伸ばして取り、手から口へと向かってポーンと投げた瞬間、空中でシャリがくずれて、床に落ちてしまった感じだな」

由利「今日こそは、寿司が食いたい」

茂木「あの4万円負けた時の夜は、トースト1枚になってしまいました」

丹沢「あわれだなぁ~」

茂木「そう言う丹沢さんは?」

丹沢「私は、夕飯だというのにシリアルに牛乳をかけて食べ、すぐ寝たよ」

茂木「あわれですね」

由利「私は、カップ麺だ」

丹沢「それは豪華だ!」

茂木「すごいですねぇ」

由利「カップ麺でか?」

丹沢「そうだよ。カップ麺は最高だよ」

茂木「ええ、カップ麺なら充分ですね」


丹沢「逃げた魚は、でかかった!」

由利「魚が寿司ネタになるのが嫌で逃げたんだろうな」

丹沢「あの時、茂木さんの言った通り、本当に『捕らぬ狸の皮算用』になってしまったな」

茂木「独走しながら最終ターンで落水した選手ですが、」

丹沢「なにかあった?」

茂木「私の取材情報を参考までに申し上げますと、」

丹沢「ああ、」

由利「言ってくれ」

茂木「あの選手の好きな言葉は、」

丹沢「好きな言葉は?」


茂木「『魅力たっぷりな走りを!』です。サインでも色紙にそう書くそうです」

由利「確かに、魅力たっぷりな走りだった」

丹沢「そうだな。独走していても攻めのターンで、いいタイムを出そうとしてたんじゃないか?」

茂木「これで、あのレーサーを嫌いになったんじゃないですか?」

由利「いや、とんでもない。ますます好きになったよ。2分間の走りにいっさい手抜きなし。最高のターンを目指す彼女は、将来きっと大物になるぞ」

丹沢「ははははは、そうだな、絶対に一流選手になるさ。ただ、攻めすぎて大ケガさえしなければいいけれど……」

茂木「そうですね、常に攻めの姿勢ですからね。でも、初優勝もすぐに出来ると思います」

丹沢「そうだな。今の内、落水しておけば、優勝戦では、最後のターンまで落水に気を付けるだろうからな。ははははは」

由利「ははははは」

茂木「二人とも太っ腹ですね」

由利「くよくよしたって、しょうがないって」

丹沢「そうさ、時間の無駄、無駄、無駄」


【02】 当たりは確実! あとは払戻金が高いか安いか? だけ


茂木「さて、今日は前回の悪夢を振り払うために、なんとしても当てたいと思います」

丹沢「そうだね」

由利「同じく」

茂木「今日は、ズバリ、下関の第3レース、3号艇が狙い目です」

 茂木がパソコンで出走表を出し、55インチ大型テレビに映し出した。


【テレビ画面】

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【出走表】

下関 4日目 第3レース 予選  男女W優勝戦


 1号艇 津賀利絵  31歳 A1級 勝率6.31 モーター○ 11524

 2号艇 城本咲姫  21歳 B1級 勝率2.86 モーター- 556 5 

 3号艇 金浜幸栄  38歳 A2級 勝率5.53 モーター◎ 2 111

 4号艇 志水亜樹  31歳 B1級 勝率5.33 モーター× 3 254 

 5号艇 赤石映美  19歳 B2級 勝率1.28 モーター- 6 6 6 

 6号艇 角丸ひな  50歳 A2級 勝率5.85 モーター△ 42315

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丹沢「狙い目の根拠は?」

茂木「二日目から3連勝しているんですよ」

由利「ホントだ。でも3連勝ぐらいなら、たまにあるんじゃないか?」

茂木「そうですね。でも、この選手のすごいのは、昨日6コースから1着を取っているんです」

丹沢「ほーっ、6コースからか。そいつはすごいや」

由利「相当伸びているんだな」

丹沢「今回は、口直しではないが、払戻が安くても良いから一度当てたいな」

茂木「私もそう思って、このレースを選びました」

由利「3連勝しているのが3号艇だろ。そして1号艇がA1級・勝率6.31、しかも地元選手、このメンバーでは別格だ。『3―1』『1―3』で、まず間違いないんじゃないか?」

茂木「どう考えても、それしか考えられないですよね」

由利「うん。それしかない! 出場選手が2人だけだと思えばいい」

丹沢「なるほど。でも『1』が絡んだら、払戻が付かないだろう?」

茂木「そうですね」

丹沢「あれっ! IF関数で、1号艇が1着という結論が出たら、舟券購入を見送るんじゃなかったっけ?」

茂木「はい、そうです。でも、今回は特別です。先ほど丹沢さんが言ってましたが『口直し』です」

由利「言わば『景気付け』だな」

茂木「はい!」

丹沢「下手すると、配当が200円とか?」

茂木「確かに安いでしょうね」

由利「『1―3』『3―1』の裏表を買っても、元返しだったりして」

茂木「そこまではいかないでしょうけれど?」

丹沢「よし、オッズをみてみよう!」


 55インチ大型テレビにオッズが映った。

茂木「『1―3』で2.7倍。『3―1』で4.6倍です」

丹沢「予想通り、配当がつかないね」

由利「それだけこの2人で堅いってことだ」

丹沢「2.7倍かぁ」

茂木「それなら、『3連単』にしますか?」

丹沢「『3連単』って? 3着までピタリと順位を当てるということ?」

茂木「そうです。3着は誰が来てもおかしくありませんから」

丹沢「へえー、そんな手があるんだ」

由利「そうだな。1、2着が堅いんだから、『3連単』を全部、8通り買えばあたりだな」

丹沢「へえー、全部で、8通りでいいんだ」

茂木「『132』、『134』、『135』、『136』。それと『312』、『314』、『315』、『316』の8通りです」


由利「テレビの『3連単オッズ』で、赤色の所と白色の所を見ればいい」

丹沢「なるほど、見やすいな。『315』は165倍だぞ! うひゃー!」

茂木「ええ、5番は新人なので人気薄です」

由利「ボートレースの3着というのは、展開次第で、何が来るかわからないからな」

丹沢「へえー、そうなんだ。『315』だと、1万円買って、払戻金が165万円かぁー」

由利「可能性、あると思うよ」

丹沢「165万円なら回転寿司、店一軒、貸し切りで食えるな」

由利「他の客が食べられなくなるから、それはいいよ」

丹沢「さすが、地方公務員だ。市民のためを思っている」

由利「まぁな」

茂木「回転寿司で165万円は、大食いタレントのギャルなんとかさんでも無理でしょうね」

丹沢「165万円だと、110円の皿で何枚だ?」

 由利が電卓で計算した。

由利「1万5千枚だね」

丹沢「いくらギャルなんとかさんでも、1万5千枚は食えんだろう?」

由利「ははははは」

茂木「では、1万円ずつ、8通り買いますか?」

丹沢「うん。この買い方には、夢があるなぁ」

由利「何が入るのか楽しみだ。当たるのは確実! あとは安いか高いかだけだ?」

 茂木がパソコンでオレンジ色の「投票」ボタンから入り、8通りの舟券を購入した。


【テレビ画面】

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【出走表】

下関 4日目 第3レース 予選  男女W優勝戦


 1号艇 津賀利絵  31歳 A1級 勝率6.31 モーター○ 11524

 2号艇 城本咲姫  21歳 B1級 勝率2.86 モーター- 556 5 

 3号艇 金浜幸栄  38歳 A2級 勝率5.53 モーター◎ 2 111

 4号艇 志水亜樹  31歳 B1級 勝率5.33 モーター× 3 254 

 5号艇 赤石映美  19歳 B2級 勝率1.28 モーター- 6 6 6 

 6号艇 角丸ひな  50歳 A2級 勝率5.85 モーター△ 42315

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♪ファンファーレとともに、6名の女子レーサーが水面に現れた。


実況「進入コースはインから1.6.2.3.4.5」

 50歳の選手が2コースに入ってきた。

丹沢「6号艇が2コースに入ったよ」

茂木「準決勝進出のために、割り込んできましたね」

丹沢「うーん、大丈夫かな?」

茂木「ちょっと嫌な予感がしますね」

由利「まさか勝率通り『1―6』になってしまうんじゃないだろうね?」

茂木「いや、3号艇の伸びと腕を信じましょう!」

由利「そうだな」


実況「大時計が回り、10秒前、5秒前、スタート!」

 6艇がスタートラインを通過した。


実況「3号艇だけが、少し遅れた」

 5艇がコンマ『20』のスタートに対して、3号艇だけがコンマ『43』のスタート。

丹沢「ひぇーっ! 3号艇だけひどい出遅れだな」

由利「これで本当に3連勝しているのか?」


実況「全艇が1マークへ向かう」

実況「おーっと、3号艇が転覆!」

 1マークの手前、3号艇が向かい風4mをまともに受け転覆した。

丹沢「ぎゃーっ!」

由利「うわーっ!」

茂木「おえっ!」

 獣のような声が部屋中に響き渡った。


丹沢「なんなんだ!」

由利「うわーっ! ダメだ!」

茂木「いったい何があったの?」


実況「先頭は、インコースからの1号艇、二番手に6号艇」

丹沢「ひとり勝手に転覆したぞ」

由利「1マークまで持たなかったぞ」

茂木「なんで、なんで?」


 2周目1マーク付近。

実況「事故艇の外を5艇が回っています」


丹沢「3番の選手、泳ぎたかったのかな?」

由利「魚を取りに、潜ったんだろう」

丹沢「昨日、風呂に入れなかったとか?」

由利「ボートの上でお漏らしして、ごまかすためとか?」

茂木「二人とも、何をごちゃごちゃ言っているんですか?」

丹沢「すぐに、この状況を受け入れられないんだ」

由利「うん、だから大喜利遊びをしているんだ」

丹沢「現実から逃避するために……」

茂木「ダメです! ボジョレー会、2連敗、確定です」

丹沢「随分はっきり言うんだな」

由利「血も涙もない奴だ」


実況「先頭1番ゴールイン、6番、4番ゴールイン」


丹沢「寿司屋まで、道のりが遠いなぁ」

由利「うん。歩いても歩いても、寿司屋が見えないなぁ」

丹沢「今日はコンビニでおにぎりにするか?」

茂木「8万円は痛いですねぇ」

 今回3人は、さすがに笑いも出なかった。

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