60 ▼『ボートレース多摩川』最終日(6日目) 編
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【あらまし】(ボートレーサーの奮闘記)
シリーズ最終日。
前日の1着という快挙に沸く速水爽香は、後半第7レースで再び6号艇として水面へ。同期の友田千加も出走する中、爽香は連勝を狙って強気の「まくり差し」をイメージし、自信満々でスタートに臨
んだ……
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【主な登場人物】
速水 爽香
所属・級別: B2級(勝率2.78)
状況: 本作の主人公。前日の1着で自信をつける。
性格: 負けん気が強く、少し調子に乗りやすい一面も。市役所の丹沢に対しては「嫌な奴」と言いつつ、彼の助言をターンのヒントにするなど影響を受けている。
友田 千加
所属・級別: B2級(勝率2.80)
状況: 爽香の同期で同支部。今節はエンジンに恵まれず苦戦。
役割: 爽香のツッコミ役。「二匹目のドジョウ」の意味を勘違いする爽香をフォローしたり、丹沢のことを「いい人」と評したりと、爽香とは異なる視点を持つ。
里見 千鶴
役割: 爽香の師匠。ベテランの余裕があり、弟子を車で送迎する面倒見の良い人物。
性格: 爽香のフライングを頭ごなしに叱るのではなく、「イメージがつかめて良かった」と前向きに捉えさせる懐の深さを持つ。一方で、爽香と丹沢の関係を「恋人?」と、からかうなど茶目っ気もある。
千鶴の息子
役割: 千鶴の車の運転手。西東京市から三郷市まで、3人を送り届ける。
丹沢 純也
属性: 市役所職員。
状況: 本エピソードには直接登場しないが、会話の中で言及される。爽香に「ジャングルジムターン」のヒントを与えた人物。爽香からは「嫌な奴」、千加からは「いい人」と思われている。
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【前書き】
●この小説には多くの数字が出てきます。そこで読者の皆様が読み易いように横書きとなっております
●多人数での会話も多いことから、誰が話しているのか、すぐにわかるよう会話の頭に台本形式で、氏または名を付けて表現しました
●この物語はフィクションです。実在の個人・団体、実際のレースとは一切関係ありません。ボートレーサーと市役所職員をモデルに、フィクションとして制作されたものです
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【01】 6日目(最終日)
前半戦、第2レースは6号艇、大外から行ったが、満足できるスタートが切れず最下位に終わった。
そして後半戦、爽香にとってこの開催最後のレースが始まった。第7レース、再度6号艇に組まれた。
爽香(前半戦はスタートで出遅れたから、今度はみんなより前に行かないと)
爽香(次の開催につなげるためにも出来れば1着、悪くても2着で終わりたい)
後半戦、第7レース。
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多摩川 6日目 7レース 予選 オールレディースシリーズ
1号艇 山科美登 46歳 A1級 勝率6.45 モーター× 1531153
2号艇 中筋宏予 25歳 B1級 勝率3.54 モーター◎ 3566522
3号艇 登坂みち 46歳 B1級 勝率3.53 モーター- 5626551
4号艇 高窪梨湖 19歳 B2級 勝率1.80 モーター△ 6456665
5号艇 友田千加 25歳 B2級 勝率2.80 モーター- 2556555
6号艇 速水爽香 21歳 B2級 勝率2.78 モーター○ 4443431
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5号艇には、同支部同期の友田千加がいた。千加はエンジンに恵まれず、良い成績が残せなかった。
爽香(このメンバーなら、いい線行くかも?)
爽香(スタート一気にまくって、1号艇の内側を差す! まくり差しで悪くても2着!)
爽香は自信に満ちていた。それもこれもすべて昨日の1着から来るものだった。
14:44、第7レース予選が始まった。
スタート100秒前。
ピットのランプが『始動』→『出走』に変わった。
速水はピットを出てコースを主張することなく、いつものように外の景色を見ながら水面の淵をゆっくり艇を進めた。
爽香(いい天気だわ。風も無いみたい)
爽香は、ボートをゆっくりと走らせることにより、風の強さを測っていた。
スタート15秒前。
ピットを出て85秒が経過していた。
爽香は、スタート水面一番奥に艇を着けた。
スタート12秒前。
艇を起こし、初動開始。そこから爽香はグングンスピードを上げて行った。
スタート5秒前。
爽香(うっ!!!)
突然の追い風が、爽香のボートに襲い掛かった!
爽香は、とっさに背中をかがめスロットルレバーを放した!
爽香(まずい!!!)
3秒、2秒、1秒、スタート!!
爽香(やっちゃった!!!)
爽香は即座にフライングだとわかった。
爽香(あーあ……、)
第一ターンマークトップで旋回し、バックストレッチに入った。その瞬間、
放送「6番フライング!」
爽香(言われなくても分かってるわよ!!! うるさいわね!)
爽香は、自分が悪いにも関わらず怒っていた。
爽香が正面を見るとフライング艇を知らせる表示灯に『6』の数字が、これでもかと言うほど輝いていた。
爽香(はいはい、私が6番ですよ! 悪うございましたね!)
爽香は開き直り、頭がおかしくなっていた。そしてそのままピットへと向かって行った。
ピットに着くと、
係員「『08』のフライングで即日帰郷だ!」
係員が冷たく言い放った。
爽香はそれに返事もせず、
爽香(はいはい、言われなくたって帰りますよ。最終日ですからね。自分の出番も終わったし、誰が残るかって! あんたは一生残ってろ)
すべてのレースが終わり、開催が終了した。
千鶴「千加に爽香、一緒に帰ろう」
爽香の師匠は車で来ていたので、同県支部の二人を誘った。
爽香がフライングをした後だけに、返事に窮していると、
千鶴「長い道のりでしょう。ひとりじゃつまらないのよ。話し相手がいないとね」
千加「はい」
千加が先に返事をしたので、爽香も合わせて返事をした。
3人は選手宿舎の駐車場に置いてある千鶴の車に乗った。この日も千鶴の息子が車で迎えに来ていた。千鶴の息子が運転する車は、一般道で西東京市から埼玉県三郷市へと向かった。
千鶴「爽香、」
爽香「……」
爽香(来たっ! 説教だ!)
爽香は後部座席で黙っていた。
千鶴「爽香、やるわね! 『08』のフライングだって」
爽香「……」
千鶴「『01』のフライングも『08』のフライングも同じフライングよ。『08』のフライングがどういうものか、イメージをつかめて良かったわね」
爽香「……」
爽香(これ、イヤミ? 褒められているの? それとも私をおとしいれる罠?)
千加「ふふふふふ」
爽香の隣に座っている千加が笑いながら爽香の顔を見た。
爽香「すみません。前日の1着で、ついつい調子に乗っちゃって」
爽香が頭を下げた。
千鶴「ははははは」
千加「ははははは」
二人が大笑いした。
爽香「夢よもう一度、と思って(助走でアクセルを)握って行ったら、追い風に遭っちゃって、」
千鶴「二匹目のドジョウはいなかったのね」
爽香「えっ! 多摩川ってドジョウが出るんですか?」
千加「いやいやいや、そういうことではないでしょ」
千鶴「そうだ! 今度3人で柳川鍋を食べに行きましょうか?」
爽香「えーっ、ちょっと遠くないですか? ボートレーサー養成所(福岡県柳川市)の方でしょ? いや! いや! いや! もう二度とあそこには行きたくないわ、苦しかったことを思い出すから」
千加「いやいやいや、それは福岡県の柳川市でしょう。柳川鍋は、ドジョウを使った鍋料理のことよ。江戸っ子の料理だったかな?」
爽香「なら、いいわ」
千加「変わり身の早いこと!」
千鶴「ドジョウって、すっごく体の栄養になるのよ」
爽香「そうなんですか?」
千鶴「それにしても、昨日の爽香のターンは良かったわよ」
爽香「ははははは。そうですか? ははははは。やっと私の才能が花開いて来たのかしら?」
千加「それが調子に乗ってるって言うのよ」
千鶴「いいじゃないの、調子に乗ったって。でも『才能』は花開かないからね」
爽香「えっ?」
千鶴「花開くのは『努力』よ。爽香は(ボートレース)戸田で一生懸命ターンの練習をしたんでしょ、市役所の人から教わった『ジャングルジムターン』を」
千加「えっ! 市役所の人にターンを、」
爽香「いえいえ、市役所の人から聞いた話が、たまたまターンのヒントになっただけよ」
千加「市役所の人って、誰?」
爽香「う、うん、丹沢さん」
千加の手前、爽香が少し言い淀んだ。
千加「そうなんだ」
千鶴「その、丹沢さんって、爽香の恋人?」
爽香「とんでもない! 嫌な奴です。市役所に転居届を出した時に、大喧嘩したんです」
千鶴「そう、なぁ~んだ恋人じゃないのかぁ~」
爽香「単なる知り合いです」
千加「えっ、そうなの? 仲良さそうに見えるけれどなぁ?」
千鶴「えっ、千加も丹沢さんって人を知ってるの?」
千加「ええ。いい人ですよ」
千鶴「あらまっ! わからなくなってきたわ。一方は『嫌な奴』で、もう一方では『いい人』。その丹沢さんて、フルネームは、『丹沢・ジキル・ハイド』っていうんじゃないの?」
千加「ははははは」
爽香「ははははは」
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【後書き】
最後までお読みいただきありがとうございます! 多摩川オールレディースシリーズ、これにて閉幕です。
昨日の1着で勢いに乗りたかった爽香ですが、最終日は手痛い「F」を喫してしまいました。コンマ08の勇み足……。天国から地獄、これもまた勝負の世界の厳しさですね。
しかし、師匠・千鶴さんの温かい(?)イジりや、同期の千加とのやり取りで、少しずつ前を向く爽香。 そしてラストに登場した「丹沢さん」の名前。二人の関係が今後どう変化していくのか、作者としても楽しみなところです。
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【作者よりお願い】
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