56 ♡千加の外泊 編
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【あらまし】
丹沢純也、由利源吾、茂木数魔、速水爽香、志摩真波、友田千加の6人で合コンを行った。男性は市役所の同期、女性はボートレーサーの同期。
爽香の進行で、最初に会った時点で誰が好みなのか言うことになり、友田千加は丹沢純也を選ぶ。
飲み会の後、丹沢の部屋に泊まることになった千加。丹沢の部屋で風呂に浸かりながら千加は……
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【主な登場人物】
丹沢純也 31歳男 美浦市役所住民課職員
速水爽香 21歳女 女子ボートレーサー
志摩真波 27歳女 女子ボートレーサー、爽香と同期
友田千加 24歳女 女子ボートレーサー、爽香と同期
新人女子ボートレーサー
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【前書き】
●この小説には多くの数字が出てきます。そこで読者の皆様が読み易いように横書きとなっております
●多人数での会話も多いことから、誰が話しているのか、すぐにわかるよう会話の頭に台本形式で、氏または名を付けて表現しました
●この物語はフィクションです。実在の個人・団体、実際のレースとは一切関係ありません。ボートレーサーと市役所職員をモデルに、フィクションとして制作されたものです
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【01】 千加、丹沢の部屋に泊まる
丹沢の部屋。
丹沢「どうぞ、お先にお風呂にお入りください」
千加「いいえ、お先にどうぞ」
丹沢「では、先にお風呂に入らせていただきます」
丹沢は、湯船にお湯をためて自分はシャワーだけ浴びて15分ほどで出てきた。
丹沢「友田さん、どうぞ」
千加が風呂に入った。
千加は湯船に浸かりながら、先日のレースで関西の先輩に怒鳴られたことを思い出していた。スタート直後の第1ターンマーク、千加はターンに失敗し先輩の舟に思いっきりダンプしてしまったのだった。
確かに自分が悪かったのだが、ピットに戻るやいなや、先輩は千加に詰め寄り、
先輩「へたくそ! あんなターンをするなら辞めちまいな!」
と怒鳴り散らして去っていった。周囲の選手たちも凍りつき、現場は静まり返った。千加は悔しさで目が潤んでいた。
湯船の中で、千加は自問する。
千加(なんで今、あんなこと思い出したんだろう。忘れようとしていたのに。これからもずっと、あの屈辱を思い出し続けるのかしら。あー、嫌だ嫌だ……)
その時、ふと丹沢の言葉が頭をよぎった。
『3秒経ったら遠い過去、10秒経ったらすべて忘れた、ですよ』
その独特な言い回しを思い出し、千加の口元が自然と緩んだ。
千加「ふふっ……」
20分後、千加が風呂から上がった。
その間に、丹沢は布団を二組、部屋の隅と隅に、可能な限り距離を離して敷いていた。丹沢はすでに自分の布団に入り、目をつぶって横になっている。
そこへ千加が歩み寄り、丹沢の耳元で囁いた。
千加「ねぇ、しない?」
丹沢「いいですけれど……あとで引きずったりしませんか?」
千加「大丈夫。私、引きずらないから。明日になったら全部忘れちゃうわ」
丹沢「そうですか。じゃあ、楽しみましょう」
千加「ええ」
千加が丹沢の布団へ滑り込む。
丹沢「久しぶりだなぁ」
千加「私も。何年ぶりかしら」
千加から抱きつき、キスを交わす。丹沢もそれに応えるように、彼女を力強く抱きしめた。
1ヶ月後、丹沢と爽香がスーパーマーケットで偶然顔を合わせた。
丹沢「やぁ、久しぶり」
爽香「あの後、どうしたのよ?」
丹沢「あの後って?」
爽香「1ヶ月前、飲み会の後に千加さんを泊めた時よ」
丹沢「ああ、あのことか」
爽香「あれからまた飲み直したの? 」
丹沢「先にシャワーを浴びて寝ちゃったよ。ははははは」
爽香「千加さんは? 」
丹沢「後のことはさっぱりわからないよ」
爽香「で、彼女はいつ帰ったの? 」
丹沢「翌朝帰ったよ」
爽香「そうだったんだ」
スーパーマーケットからの帰り道。
爽香(『先にシャワーを浴びて』ってことは『後に千加さんがシャワーを浴びた』ってことよね)
それから2週間後のことだった。同じ開催のボートレースに爽香と千加が出場していた。
選手宿所で二人は一緒に風呂に入りながら、
爽香「丹沢さんの部屋ってどうだった?」
千加「思ったよりは、きちんとしていたかな?」
爽香「あの人の性格からすると、もっと汚いかと思ったけどね」
千加「私もそう思ったけどそうでもなかったわ」
爽香「お風呂場とかはどうだった?」
千加「化粧だけ落としてすぐ寝ちゃったからわからない」
爽香「丹沢さんは何してたの?」
千加「私、先に寝ちゃったからわからないわ」
爽香「そう。でも良かったわ、彼が泊めてくれて。私の方はあの後、真波さんと一時間も反省会して大変だったんだから」
千加「反省するところなんかあったの?」
爽香「笑っちゃうぐらいいっぱいあったわ。でも反省点は10秒で忘れることにしたわ」
千加「そうよ、10秒たったらすべて忘れないとね」
爽香「アハハハ!」
その夜。爽香は自室に戻り、消灯と同時に布団に入った。天井を見つめながら、爽香はふと思った。
爽香(千加さんは、丹沢さんの部屋のお風呂場には行かなかったのかしら?)
爽香(丹沢さんも千加さんも『自分の方が先に寝た』って言ってたけれど……それって、おかしくない?)
翌日の第2レース。予選最終日の4日目。
千加は、今節最良のモーターを引き当て、3号艇、3コースに構えていた。
千加(今日は2回乗り。2着・2着で行けば、初めて準優に乗れるはず……!)
本番12秒前。
実況「10秒前、5秒前、3、2、1、スタート!」
実況「横一線のスタート。第1ターンマーク、3号艇がまくって行った」
実況「1号艇がインから逃げる。バックストレッチ、内に1号艇、外に3号艇のラップ状態だ!」
千加(1位か2位か? 次のターンで差してやる!)
千加の持つスロットルレバーに力が入る。
第2ターンマーク。1号艇の懐を狙って差しにかかった、その瞬間。
――ドン!!!
後方から突っ込んできた新人・6号艇が、千加のボートにダンプした。
千加のボートはスタンド側へと大きく弾き飛ばされる。なんとか落水とエンストは免れたが、立て直した時にはすでに最下位。
千加(……ここから一つでも順位を上げなきゃ!)
必死に追い上げるも、結果は最下位のままゴール。
ピットに戻った千加は、静かにため息をついた。
千加(あーあ、これで準優進出は消えたわ。……まぁ仕方ない。もう3秒経ったから遠い過去の話。あと7秒で忘れよう!)
そこへ、今のレースでダンプしてきた新人が血相を変えて駆け寄ってきた。
新人「友田さん、本当にすみませんでした!」
新人が深々と頭を下げる。
千加「いいのよ、顔を上げて」
新人「私のせいで、友田さんの準優が……」
千加「あら、そうだったっけ?」
千加は10秒以上前の出来事は忘れた。
新人「お怪我はありませんか?」
千加「この通り、ピンピンしてるわよ。大丈夫」
新人「私のターンミスで、本当に、本当にすみませんでした……!」
千加「バカねぇ。ミスなんて誰にでもあるわよ。失敗して当たり前じゃない。……そんなことより、早く忘れた方がいいわよ。ねっ?」
千加が軽くウインクしてみせると、その優しさに触れた新人の目に涙が溢れた。
千加は照れくさそうに、その涙を見ないよう素早くその場を去った。
歩きながら、千加は独りごちる。
千加(10秒ルール、か。……丹沢さんのおかげで、私、少し優しくなれたみたい。あ、それともあの『エッチ』が良かったのかな? またしたいなぁ。ふふふ)
数日後、爽香と真波がLINEをしていた。
爽香:この前の開催、千加さんと一緒だったよ
真波:うん、知ってる
爽香:なんか、千加さんが優しくなった気がするんだよね
真波:そうなんだ?
爽香:丹沢さんのところに泊まったからかな。何かあったのかな
真波:何もないでしょ。……もしかして妬いてる?
爽香:まさか。ただ、あの二人お似合いなのかなって
真波:どうかな。交際宣言でもしてた?
爽香:してないけど
真波:私も誰か男性の部屋に泊まればよかったな
爽香:泊まってどうすんのよ
真波:朝食でも作ってあげれば、男子のハートを掴めるんじゃない?
爽香:でも、うちに布団が2組あるから、男性から「爽香の所に泊まりな!」って言われちゃうわよ。
真波:ねぇ、布団一組、捨ててくれる?
爽香:アハハ、今度捨てとくわ
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【後書き】
今回のエピソード、いかがでしたでしょうか? 「3秒たったら遠い過去、10秒たったらすべて忘れた」という丹沢の言葉。 千加にとっては、嫌な思い出を上書きするだけでなく、新しい一歩を踏み出す魔法の言葉になったようですね。
「しない?」からの展開は、読者の皆様の想像にお任せ……しつつも、千加の最後の独り言が全てを物語っていますね(笑)。……とはいえ、千加の「10秒たったらすべて忘れないとね」の使い方が、爽香へのアリバイ作り(?)にまで応用されているのにはニヤリとしてしまいました。
新人に優しくなれた千加の変化、そしてラストの真波の「布団一組、捨ててくれる?」という過激なお願いに思わず笑っていただけたら幸いです!
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【作者よりお願い】
丹沢との「あの夜」の秘密が、彼女を少し大人にしたのかもしれませんね。
「二人の関係が気になる!」「10秒ルール、いいな」と思ってくださった方は、ぜひ下にある【☆☆☆☆☆】**から評価やブックマークをいただけますと幸いです! 執筆の大きな励みになります。
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