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女子ボートレーサーと市役所職員  作者: 池井 けい
第6章 ボートレーサー、神林流星(かんばやし・りゅうせい)
51/57

51 ▼ボートレーサー神林流星 編

01 ▼神林流星登場 編

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【あらまし】(ボートレーサーとの恋の話)

 経験の浅い彼女が整備場で溜息をついていると、肩まで伸びた髪と髭を蓄えた浮世離れした風貌のレーサー・神林流星から声をかけられる。

 神林は「チルト角度を3にしてみてはどうか」と意外な助言を残して去っていく。その独特の姿から、爽香は彼を密かに「キリスト様」と命名。半信半疑ながらもチルトを3度に跳ねてレースに挑む

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【主な登場人物】

速水爽香 21歳女 女子ボートレーサー

神林流星 28歳男 男子ボートレーサー

丹沢純也 31歳男 美浦市役所住民課主事

由利源吾 31歳男 美浦市役所税務課主任

松木四朗 61歳男 ボートレーサー養成所教官

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【01】ボートレーサー神林流星との出会い


 ボートレース浜名湖。前検日(開催前日の試走)。


 速水爽香は、抽選で割り当てられたモーターとボートで試走に臨んだ。他の艇との足合わせ(並走)を試みるが、結果は散々だった。

爽香(嘘でしょ……。直線だけで1艇身も置いて行かれるなんて!)

爽香(全然伸びが足りない。これじゃ、まるっきり勝負にならないわ。ただでさえ技量が無いのに……)

 ピットに戻った爽香は、掲示板で自分の展示タイムを確認した。

爽香(タイムも下から3番目。がっかりだわ)

爽香「タイムがワースト級で、腕も最下位じゃ、勝てるわけがないよね」

 爽香は重い足取りでエンジンを整備場へ運び、本体を眺めながら途方に暮れた。

爽香「どこをいじればいいのやら?」

爽香「ピストンの交換?」

爽香「ピストンリングの交換?」

爽香「シリンダケースの交換?」

爽香「クランクシャフトの交換?」

爽香「キャブレターの交換?」

爽香「それともギヤケースの交換?」

爽香「あーぁ、わかんない! 最初に交換しなければいけないのは、あたしの頭ね」

爽香「なんで、こんなバカに生まれて来ちゃったんだろう」

爽香「点火プラグや点火コイルなど電気一式変えた方がいいのかな?」

爽香「それより、頭脳や腕力などあたし一式変えた方が早そうだわ。」

爽香「あーあ、やんなっちゃう。ふーっ……」

 爽香は独り言をこぼしながら、深く大きなため息をついた。


 前検日の整備場は、開催中で最も活気があり、時には殺気立つ場所だ。その中で、右も左も分からない爽香は、周囲の視線も構わずにぶつぶつとぼやき続けていた。

 正直なところ、経験の浅い爽香には、どの部品を扱えば足がどう変化するのか、プロペラの形状がどう影響するのか、さっぱり理解できていなかった。


爽香(養成所時代、あんなに一生懸命『整備日誌』を付けていたのに。デビューしたら頭からすっぽり抜け落ちてる……)

爽香「はぁ……。バカがいじったら、余計に悪くなるかも。ふーっ」

 爽香が再び深いため息をついた、その時だった。


 隣で静かに作業をしていた男子レーサー、神林流星(かんばやし・りゅうせい・28歳)が顔を上げた。これ以上、彼女の嘆きを聞き流すわけにはいかないと思ったのか、あるいは他のベテランから叱責される前に助け舟を出そうとしたのか。彼は機転を利かせ、爽香に声をかけた。

神林「深いため息だね。湖の底まで届きそうだ」

 神林は、ふっと穏やかな笑みを浮かべた。


爽香「えっ?」

神林「あちこちいじるより、ここ浜名湖の水面は広いから『チルト3』を試してみたらどうかな。練習だけでもいい、一度乗ってみるといいよ」

 それだけ言い残すと、神林は自分のモーターと共にその場を去っていった。あまりに唐突なアドバイスに、爽香は呆然と立ち尽くした。


爽香(えっ? 今の声……神のお告げ?)

 爽香は、遠ざかる神林の背中を盗み見た。あまりの驚きに顔を直視できなかったが、肩まで伸びた無造作な髪と、キリストを彷彿とさせる長い髭が強く印象に残った。

爽香(髪も髭も伸び放題……。キリスト様? それとも何かの教祖?)

爽香(もしかして、散髪代も出ないくらい勝ててないの? あたしと同じ、貧乏神タイプ……?)

爽香(あんな選手いたっけ。誰だろう?)

爽香(選手は1600人もいるんだもん、覚えきれないわよ。埼玉支部の先輩だって、まだ怪しいんだから)

 爽香は勝手に自分を納得させた。

爽香(あのキリスト様、埼玉じゃないわね。どこの支部かしら。……まぁいいか、宿舎の食堂に行けばテーブルに支部名が書いてあるし、そこで確認すればいいわ)

爽香(さてと……。あたしみたいなバカが下手に部品を変えるより、『チルト3』にする方が手っ取り早いってことね)


『チルト(角度)』とは、モーターをボートに取り付ける際の角度を指す用語だ。養成所で学んだはずの知識を、爽香は必死に呼び起こした。

 通常、モーターを水面と平行に近い角度で取り付けると推進力は安定する。しかし、レーサーが後方に座ることで舳先が浮き、推進力が逃げてしまう。そのバランスを調整するのがチルト角度だ。

 プロペラが水を吐き出す方向を、水底に向けるのか、あるいは空へ向けるのか。その選択がボートの伸び(最高速)や出足(加速)を大きく左右する。


爽香「……あれ? そもそも『チルト』って何語? どういう意味?」

 思わず声に出してしまった。ちなみに「tilt」は英語で「傾ける」という意味だが、今の爽香にそんな余裕はない。

 すると、隣で作業をしていた別の選手が「そんなことも知らないのか」と言わんばかりの冷ややかな視線を向けた。

爽香(やばっ! 聞こえちゃった!)

爽香(『こいつ、本物のバカだ』って思われたに違いないわ……。よし、無視しよ!)

 爽香は慌ててモーターに顔を近づけ、作業に没頭するフリをした。隣の選手も、呆れたように自分の作業に戻っていった。

爽香(ふぅ……。危なかった)

爽香(でも、『チルト3』にするってどういうこと? いつもみんなと同じ『マイナス0.5度』にしてるけど……)


 現在のボートレースでは、多くの選手が操縦安定性の高い『マイナス0.5度』を選択する。角度を上げる選手は少数派だ。

 『マイナス0.5度』にすると、ボートの先端が水面に抑えつけられ、小回りが利き、加速も安定する。対してチルト角度を上げると、水面との抵抗が減るため、直線での伸び足が飛躍的にアップする。ただし、その分ターンは著しく困難になる。


爽香(どうせいつも5着か6着なんだもん。騙されたと思って、あのキリスト様の言う通り『チルト3』で走ってみようっと!)

 爽香は迷いを捨て、整備に取りかかった。心の中で、神林に「キリスト様」というあだ名を定着させながら。

爽香(角度の調整だけなら、あたしでも簡単。ふふふ、楽しみだわ)


 特訓のために水面に出た爽香は、初めて『チルト3』の衝撃を味わった。

爽香「……すごい、悪くないわ!」

 スリットを過ぎてからの伸びが、明らかに今までと違う。

 そこへ1艇のボートが近づき、第2ターンマークを回ったところで並走状態になった。

爽香(ん? 誰?)

 カウル(側面カバー)の氏名札に目をやる。

爽香(『神林』……?)

 バックストレッチの直線。爽香のボートは神林を1艇身近く引き離した。

 第2ターンマーク。爽香は慎重にスピードを落として旋回した。隣の神林もゆっくりと回る。その瞬間、ヘルメットの隙間からなびく長い髪が見えた。

爽香(やっぱり、キリスト様だ!)

 再び直線。やはり爽香の伸びが勝っている。

 神林はそのままピットへと戻っていった。


爽香(『チルト3』、これすごい! 伸びる、伸びるわ! あたしの武器になるかも。……でも、本番でちゃんとターンできるかな。問題はそこね)

 モーター整備が未熟な自分でも戦える方法を見つけた爽香は、今節を「チルト3」で通す決意を固めた。


●初日。

 6号艇の爽香は、大外6コースから「チルト3」でレースに挑んだ。

 スタートの瞬間、スロットルレバーを力いっぱい握り込む。

爽香(えっ、速い! 伸びる!)

 第1ターンマークに到達するまでに、爽香は他艇を置き去りにして先頭に立っていた。しかし、そこから大きく外を回る「全速旋回」を試みるも、ボートがバタついて外へ膨らんでしまう。その隙を内側の艇に突かれ、バックストレッチでは混戦に。

 結局、さばき切れずに4着でゴールした。

爽香(神林さんの言った通りだわ。この開催、全部これでいく!)


●2日目。

 この日は2回乗り。いずれも6コースから「チルト3」を貫き、結果は共に4着。

爽香(通算で4着3回。このモーターで4着なら上出来よ。完走手当だって、6着よりはずっといいんだから!)


 一方、ボートレーサー養成所の教官・松木は、自宅でリプレイ動画をチェックしていた。

松木「ほう、速水のやつ、4着に食い込んでるな」

 松木は不思議に思い、レース映像を再生した。

実況『スタートしました! 6番の速水、好スタートから伸びていく、伸びていく!』

実況『第1ターンマーク、大外の速水は捲りに行くが、わずかに流れ気味か!』

実況『バックストレッチ、2番手争いは大激戦! 6番、速水の伸びが目立つ。チルト……3度の勢いか!』


松木「……ん? チルトだと?」

 松木は直前情報のデータをクリックした。

松木「ありゃりゃ! 本当だ、あいつ『チルト3』で跳ねてやがる。……あの速水が、自分でこんな作戦を思いついたのか?」

 松木は不敵に笑った。

松木「なかなかやるじゃないか。4着なら、褒めてやらんとな」


●そして3日目。

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【出走表】『ボートレース浜名湖』3日目 7レース 予選 男女混合一般戦


1号艇 前山 泰彰 41歳 A1級 勝率7.42 モーター - 6263

2号艇 小曽川 学 31歳 B1級 勝率4.03 モーター △ 526 

3号艇 谷後 広幸 42歳 A2級 勝率4.58 モーター - 5 65

4号艇 鈴森 詔子 52歳 B2級 勝率3.75 モーター ◎ 36 5

5号艇 速水 爽香 20歳 B2級 勝率0.00 モーター - 644

6号艇 神林 流星 28歳 A2級 勝率5.86 モーター ×  534

   ※『モーター』のうしろの印はモーターの予想印。その後の数字は前走成績

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 デビュー1年半。爽香はいまだに新人の扱いで、毎レースが必死だった。

 第7レース。ピット離れの瞬間、6艇が水面へ飛び出す。

爽香(新人だから、6コースまで引かなきゃ……)

 そう思って外へ出ようとしたが、6号艇の神林がゆったりとコースを主張せず、爽香の内側に構えた。

爽香(あれ? 神林さん、6コースに回ってくれるんだ。……あたしに気を遣ってくれたのかな? じゃあ、お言葉に甘えて5コースに入らせてもらおう)

 進入は枠なりの3対3。爽香は5コース、神林が6コースとなった。


実況『ファンファーレと共に、6名が水面に現れました。風はなく穏やかなコンディション。第7レース、予選競走が始まります』

実況『進入は枠なり、3対3。……今、スタートしました!』

実況『インの前山が踏み込む。外から伸びてくるのは4番の鈴森と5番の速水!』

実況『第1ターンマーク、前山が先制! そこへ4番の鈴森が握って攻める! 前山がこれを張っていく!』

実況『おーっと、2艇が大きく外へ流れた!』


爽香(あ、インがガラ空き!)

爽香(絶好の差し場!)

 爽香は反射的にハンドルを急激に内側へ切った。

 しかし、「チルト3」のボートは、その急角度の旋回に耐えられる設計ではない。

『バチャッ!!!』

 水面を叩く激しい音と共に、爽香の5号艇がひっくり返った。

神林「うわっ!!!」

 すぐ外側にいた神林の叫び声が響く。爽香の転覆艇に乗り上げる形となった神林の体は、慣性に従って宙を舞い、背中から激しく水面へ叩きつけられた。


 黄色い底を見せて漂う爽香のボート。

 水面には、大の字のまま動かない神林が浮いていた。

 爽香は転覆したボートの下から這い上がり、必死に顔を上げた。


 救助艇が到着する。救助員が先に神林の救助を試みた。カポックの襟を掴み引き上げようとするが、神林はぐったりとして自力では動けず、なかなかデッキに上がらない。

 それを見た爽香は、無我夢中で神林のもとへ泳いだ。

爽香「あたしも手伝います!」

 水面から爽香が神林の体を押し上げ、デッキの上の救助員が引き上げる。三人がかりで、ようやく神林の体が収容された。


 デッキの上で、神林は苦痛をこらえるように顔を歪めている。大きな怪我のない爽香は、震える声で神林に近づいた。

爽香「……すみませんでした」

 何度も何度も頭を下げる。

爽香「大丈夫ですか……っ?」

神林「……うん。大丈夫だ」

 絞り出すような、か細い声だった。

 神林は横たわったまま、爽香を手招きした。耳を寄せるよう促され、爽香が口元に顔を近づける。

神林「……失敗しても、後悔だけはしないで。失敗は、上手くなるための唯一の手段なんだから」

 爽香は言葉を失い、ただ深く頷いた。

 神林の手が、ゆっくりと親指を立てる。サムズアップの形だ。

爽香(握手……?)

 爽香がその手を握ると、驚くほど冷たかった。

神林「……頑張って」

 神林が爽香の手を強く握り返し、そのまま静かに目を閉じた。

爽香(嘘……死んじゃったの? そんな、嘘でしょ!)

 爽香の目から大粒の涙が溢れ出した。

爽香(嘘よ、嘘!)

 神林の手を両手で握りしめ、必死に顔を近づける。微かに、吐息が聞こえた。

爽香(……生きてる。よかった……)


 ピットに戻ると、神林はすぐに医務室へ、そして近くの病院へと搬送された。

 後になって、爽香は整備員から教わった。「チルト3」で鋭角な差しを狙うのは、物理的に不可能な自殺行為なのだと。


爽香(角度を戻すか、そのまま全速で外を回っていれば……。神林さんに、あんな大怪我をさせずに済んだのに)

 爽香の心に、深い後悔の傷が刻まれた。


●4日目〜最終日。

 転覆の恐怖を抱えながらも、爽香は「チルト3」を使い続けた。

 それが、自分を庇ってくれた神林への、唯一の償いであり恩返しだと信じて。


【02】爽香のおのろけ


 6日間の開催を終え、自宅に戻った爽香だったが、頭の中は神林のことで一杯だった。このやり場のない思いを誰かに聞いて欲しくて、丹沢と由利を食事に誘った。


 レストランで注文を終えるなり、爽香は切り出した。

爽香「あたし、ボートレーサーに恋をしたかも」

丹沢「なんだ、のろけ話を垂れ流すために我々を呼び出したのか?」

爽香「えへへへ、そうかも」

丹沢「いやらしい笑い方だな、おい」

由利「そうか、速水さんにもついに春が来たんだね」

爽香「ふたりとも、がっかりした?」

丹沢「ああ、ショックすぎて、注文した料理が喉を通らなそうだ」

由利「僕もだよ」

爽香「……本当? ふたりとも、あたしに気があったんでしょ?」

丹沢「もちろん。いつかエッチが出来ると思ってたのに」

爽香「ばーか」

由利「結婚できると思ってたんだけどな」

爽香「ごめんね」

 爽香がおどけて頭を下げると、ちょうど料理が運ばれてきた。丹沢は宣言とは裏腹に、運ばれてきた料理をバクバクと食べ始めた。

爽香「ちょっと! 嘘つきじゃない!!!」


由利「それで、そのお相手は誰なの?」

爽香「神林流星さん」

由利「……えっ! あの『キリスト様』?」

爽香「そう! 由利さん、知ってるの?」

由利「データとしてはね。……神林流星か、意外だな」

丹沢「誰だかさっぱりわからん」

 由利がスマホで検索し、画像を表示させた。

由利「これだよ。髪が長くて、髭ぼうぼうの男」

丹沢「ああ、だからキリスト様か。……でもこれ、髭を剃って整えたら、かなりのイケメンじゃないか?」

由利「確かに、素材は良さそうだね」

丹沢「今の写真はキリストっていうより、ロックシンガーかホームレスに見えるけどな」

爽香「ひどーい! でも、そう見えるわよね」

丹沢「まあ、好みは人それぞれだ。速水さんがいいなら、それでいいんじゃないか」

爽香「ありがとう」

由利「丹沢さん、意外とあっさり引き下がるんだね」

丹沢「本人が好きになったんだから仕方ないさ。私は流れに逆らわない主義なんだ」

由利「……いつもそうだよね、丹沢さんは」


丹沢「ところで、その男は本当に独身なのか?」

爽香「えっ? そんなの考えたこともなかったわ」

丹沢「戸籍謄本は見たか?」

爽香「見るわけないでしょ!」

丹沢「じゃあ、せめて『独身証明書』を出させたほうがいい。本籍地の役場で取れる。300円くらいだ」

由利「すぐに仕事の話に持っていくんだな」

丹沢「悪い悪い、職業病だ。世の中には悪い奴も多いからな」

由利「大丈夫、神林流星は独身だよ」

爽香「あ〜、よかった!」

由利「……本当に、入れ込んでるみたいだな」

爽香「うん、どこまでも追いかけてみたいの」


由利「ところで、『心』の語源って知ってる?」

爽香「知らない」

由利「気持ちがコロコロ動くから、『コロコロ』が転じて『ココロ』になったという説があるんだ」

爽香「へぇー、そうなの?」

丹沢「由利さんは教養があるんだなぁ。いつから?」

爽香「今日よう!(教養)」

丹沢「なんで速水さんが答えるんだよ!」

爽香「由利さんとの大事な話に水を差すからよ! 強制終了!」

丹沢「ははは、参りました」


由利「心は動くものだから、速水さんもまた別の人を好きになるかもしれないよ」

爽香「それはないと思う。だって、本当に優しくていい人なんだもん」

丹沢「本当にそうか?」

爽香「だって、あたしのミスで大怪我をさせたのに、『失敗は上手くなるための手段だから、後悔しないで』って言ってくれたのよ。あんな状況でそんなこと言える人、他にいないわ」

丹沢「……。それは、確かにいい男だな。見る目があるよ」

爽香「でしょ!」

丹沢「もし私だったら『お前のせいで入院だぞ!』って叫んで、速水さんを蹴飛ばして水面に沈めてるところだ」

由利「あははは!」

爽香「よかった、そんな人を好きにならなくて」

丹沢「ははは、お互い様だよ!」


爽香「あたし、あの一言で、この人に一生ついていきたいって決めたの」

丹沢「……我々は、その覚悟を聞かされるために呼ばれたわけだ」

爽香「えへへ、そういうこと。だからふたりも、早くいい人を見つけてね」

由利「無理だな」

丹沢「同じく」

爽香「なんでよ。積極的に行けばいいじゃない」

由利「苦手なんだよ」

丹沢「私は、好きな人を追いかけるより、好きな人がいつでも帰ってこられる場所を作っておきたいタイプだからな」

爽香「……受け身なのね。男らしくないわね」

丹沢「ははははは。人それぞれだからね」

爽香「どんどん行く人じゃないと、ボートレーサーには向かないね」

丹沢「うん、わかっている。だから公務員でちょうどいいんだよ」

由利「丹沢さんは、意外と公務員に向いてるのかもね。上司に逆らってばかりだけど」

爽香「上司じゃなくて、市民の方を向いて仕事してるってことでしょ?」

丹沢「……! ありがとう。まさか速水さんからそんな殊勝な言葉が出るなんてな」

由利「最高の褒め言葉だね」

爽香「えへへへへ」

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【後書き】

 今節は浜名湖での戦いでした。今回はボートレースの重要な調整要素の一つ「チルト角度」がテーマとなりました。「-0.5度」と「3度」。ボートの挙動やスピードには大きな違いが出ます。爽香にとっては、その違いを身をもって(文字通り、痛い失敗として)学ぶ、ほろ苦い経験となりました。

 そして、ついに新キャラクター「キリスト様」こと神林流星が登場しました! 爽香のミスで負傷させてしまったにもかかわらず、あの優しい言葉……。これは惚れてしまうのも無理はないかもしれません(笑)。

 物語はここから、爽香の淡い恋心と、レーサーとしての成長が絡み合っていきます。 果たして爽香の想いは届くのか、そして神林との再会は……?

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【作者よりお願い】

 整備に悩み、失敗を経験しながらも、神林の言葉を胸に前を向こうとする爽香。そんな彼女の成長と、密かに芽生えた恋の行方を応援したい!と思ってくださった方は、ぜひ下の**【☆☆☆☆☆】**から評価や、ブックマークをよろしくお願いいたします。

 皆様のポイントが、執筆の大きな励みになります!

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