125 ★五郎と志乃のシュークリーム(その5) ~作曲家リストとシュークリーム~
【05】 ピアニストのリストは6本指?
志乃「話がもどりますが、ヨーロッパのピアニストでリストさんという方がいるんです」
五郎「へぇ、会ったことないですねぇ」
志乃「そうね、会うのは無理かも」
五郎「ヨーロッパは遠いですからね」
志乃「そうじゃなくて、遠い近いの問題じゃなくて」
五郎「あぁ、わかった! その人、人嫌いなんですね?」
志乃「人嫌いじゃなくて……、『リスト』の話になると、なんで話がおかしくなるのかしら?」
志乃が小声で言った。
そして、五郎が笑いながら、
五郎「何か言いました?」
志乃「いつも笑いながら『何か言いました?』って、いうんですね」
志乃が小声で言った。
五郎が笑いながら、
五郎「何か言いました?」
志乃「ほら、また」
五郎「何か?」
志乃「い、いえ。そのピアニストのリストさんが作った曲って、4オクターブの音が多用されているから、両手の指が長くないと弾けないんです。彼は12度の音程も軽々と押さえられるの」
五郎がめずらしく神妙な顔で、
五郎「なるほど。じゃぁ、リストさんの両手の指は長かったって訳ですね」
志乃「そうなんです。しかもピアノの弾き方は、抜群のテクニックを持っていたから『指が6本ある』という噂も飛んだくらいなんです」
五郎「じゃぁ、シュークリームを落とすことはなかったでしょうねぇ」
志乃「そこなの!」
志乃があきれて言った。
そこに、注文したシュークリームと飲み物が来た。
五郎は、今来たシュークリームを指に挟みながら、
五郎「もし、リストさんが6本指だったら、指と指の間は5カ所。しかも指が長いから、指の谷間に2個ずつ挟めますね。片手で10個はいけますね」
志乃「なるほどねっ」
五郎の手を見つめている。
五郎「両手だと20個は、挟めます」
五郎と志乃は、リストが両手にシュークリームを10個ずつ、挟み持っている姿を想像していた。
志乃「なるほど、なるほど」
志乃が軽く突き出した唇を結び、神妙にうなずいた。
五郎「感心している場合か!?」
五郎が小声で言った。
志乃「何か言いました?」
志乃が笑いながら言った。
五郎「いえ何も」
志乃(巧みで説得力のある話術、頼もしい!)
五郎(まったく純真なんだから、可愛い!)
志乃「リストさんが作曲家でピアニストであることはわかっていただけました?」
五郎「はい、お陰様でよくわかりました」
志乃「よかった」
志乃が額の汗をぬぐう仕草をし、頭を前方に出しほっとした。
五郎「わかったところで、ひとつだけリストさんについて質問していい?」
志乃「はい」
五郎「志乃さんはリストさんについて詳しいから、こんな初歩的な質問じゃ笑われそうで」
志乃「どうぞ」
五郎「本当に笑わないでくださいね」
志乃が、わざと怒りながら低い声で、
志乃「『どうぞ』って言ってる、だ、ろ、う、に」
五郎「じゃぁ言います。リストさんってシュークリームの食べ過ぎで相当太っているんじゃないですか?」
志乃が突然笑い出した。
五郎「やっぱり笑われてしまった」
五郎が下を向き、がっくり肩を落とす。
志乃「リストさんは、とてもスタイルの良い素敵な方ですよ」
五郎「恋がたきだな」
志乃「大丈夫、リストさんは、もう亡くなっています」
五郎「そうなんだ。ところで志乃さんは、いろいろな人の名前を覚えるのが得意のようですが、リストさんのフルネームも知っているんですか?」
志乃「はい」
五郎「まさか名字が『ブラック』じゃないですよね」
志乃「おしい!『フランツ・リスト』です」
五郎「ふーっ、良かった!」
志乃「どうして?」
五郎「ブラック・リストという名じゃ、消費者金融からお金も借りられませんからね」
志乃「ピアニストは生活が苦しいものね」
五郎「ナイスフォロー!」
五郎は、夜寝る前に、百科事典で調べていた。
五郎「ホイップクリームはサラダ油などの植物性油脂。生クリームは牛乳などの動物性油脂か。さて寝よう」
【回想の終わり】




