122 ★五郎と志乃のシュークリーム(その2) ~妻、志乃の診断結果~
【02】 課長、井手五郎の妻
昨日、国民年金課長の井手五郎は、診察室に座っていた。その向かいに医師の塩山雄二(しおやま・ゆうじ・60歳)が座っていた。
医師「奥様の診断結果は、ガンです」
五郎「……はい」
一瞬詰まってから返事をした。
医師「膵臓ガンです。このまま入院ということになりますが、よろしいでしょうか?」
五郎「はい」
五郎の妻、志乃は検査のため3日前から入院していた。検査入院という名目だった。
そして今日、検査結果が出た。
五郎は、ガンという可能性があることは認識していたが、実際医師からその病名が告げられ、病名が確定してみるとなんとも言えない気持ちになった。
医師「奥様に告知しても大丈夫ですか?」
五郎「はい」
医師「では明日、定時の診断で奥様にお話しします」
五郎「よろしくお願いします」
翌日、五郎の妻、志乃に医師から膵臓ガンであることが告げられた。
志乃は、特に動揺した様子も見せずに医師の言葉を受け止めていた。
病室にもどった志乃は、いろいろなことを考えていた。
これからの病院生活のこと、なぜこんな病気になったのか、五郎のこと、家事のこと、順番に考えていた。
考えざるを得なかった、志乃にとってすべての生活が一変するのだから。
その日の夜、五郎が病室に来た。志乃は医師から告げられた病名を五郎に伝えた。
志乃「検査の結果、膵臓ガンですって」
五郎「そうか、で?」
志乃「『すぐにどうってことはないので、入院して治療に専念してください』って」
五郎「そうか、良かった。先生の言うとおりにして早く治そう」
病室は6人部屋だった。五郎は志乃の耳元で、他の入院患者に聞こえないように、
五郎「こんなところ、早く出なきゃな」
小声で言った。
検査だけの入院のはずが、本格的な入院となってしまった。
五郎「少々窮屈な生活になるなぁ」
志乃「大丈夫よ、心配しないで」
五郎「そうか」
志乃「そうですよ、入院なんてホテルに行ったようなものよ、食事をベッドまで運んでくれるのよ」
五郎「なるほどな」
志乃「注射は蚊に刺されたようなものよ。でも蚊みたいにかゆくないから助かるわ」
五郎「ならいいが」
志乃「もし手術になったとしても、手術なんて爪を切ってもらうようなものよ、痛くもなんともないわ」
五郎「頼もしいよ」
志乃「だから心配しないで」
五郎「ああ」
志乃「あなたは、お仕事に専念してください」
五郎「うん、そっちも治療に専念して、早く退院してくれよ」
志乃「ええ」




