114 ♡牛丼店
【06】 牛丼店
博之は、警察を出た。
博之「あ~~~っ、腹が減ったー」
自宅までの帰り道、博之は最初に目にした外食店に入った。気持ちが落ち着いたら急に腹が空き、食べられればどこでも良かった。
博之(どこでもいいや。おっ、牛丼店がある。よし、ここで食べよう)
博之は牛丼屋に入った。
店員「いらっしゃいませ」
博之「注文は食券ですか?」
店員「いえ、口頭で承ります」
博之「そうですか、ちょっと考えさせてください」
店員「はい、決まりましたら、お声を掛けてください」
博之「はい」
博之はメニューを見始めた。そして
博之「すみませーん」
店員「はい」
博之「牛丼の並と、しじみ汁と、半熟卵と、キムチをください」
店員「はい。牛丼並、しじみ汁、半熟卵、キムチ」
店員が繰り返した。
博之(牛丼店かぁ、久しぶりに来たなぁ)
博之(そうだ、)
博之は、ふと思い出した。
博之は、今まで自分してきたことを思い返していた。
博之「今まで随分ひどいことを言ってきたからなぁ」
【回想の始まり】
税務署で納税相談を担当していたとき。
滞納者「食費はどうしても一日千円はかかるだろう。だから月3万円」
博之「えっ、そんな高いもんを食べてるんですか?」
滞納者「高いかな?」
博之「高いですよ。牛丼や立ち食いのかけそばなら一食280円で済みます。3食食べても840円ですよ。差額の160円は納税に回せるでしょ。一年中、牛丼だけを食べてればいいんですよ」
滞納者「毎日牛丼かい?」
博之「最高じゃないですか。大体、今、3食食べない人も多くなっているんですよ」
滞納者「それは、3食食べるな、って言ってるのか?」
博之「完納するまで、我慢も必要でしょ」
【回想の終わり】
博之(こんなときもあったなぁ)
【回想の始まり】
滞納者「子供が産まれて、そっちに随分と金がかかるんだよ」
博之「子供が産まれちゃったんですか?」
滞納者「めでたいだろう」
博之「どこがですか?」
滞納者「なんだと!」
博之「なぜ、子供を作っちゃったんですか?」
滞納者「出来たもんは、仕方ないだろう。自然な流れよ」
博之「普通、税金を全部支払ってから子供を作るんじゃないですか?」
滞納者「誰がそんなことを決めたんだよ」
博之「納税は国民の義務です。憲法にそう書いてあるでしょ」
滞納者「ふん」
博之「督促状は持ってきましたか?」
滞納者「いや」
博之「不持参ですね」
滞納者「何が富士山だって?」
博之「『不持参』の意味もわからないんですか? そんなことだから滞納するんですよ」
【回想の終わり】
【07】 あの子(店員)は、国民を幸せにするなぁ……
そんなことを思い出しているうちに、すべての注文が目の前に並んでいた。
博之(はやっ!)
そして、
博之(これじゃ、一食280円じゃすまないな。ざっと700円ぐらいか?)
博之(しかもこればっかり一年中ずっと食べてるわけにはいかないし)
博之(『一年中、牛丼だけを食べてればいいんですよ』誰がこんなこと言ったんだ?)
博之(俺かぁ)
博之(ひどいことを言ったもんだ)
博之(日本国憲法で『公務員はすべて国民全体の奉仕者』となっているが、俺は、国民に、いったい何を奉仕してきたんだろう?)
博之(国民を不幸にしてきただけなんじゃないだろうか?)
博之(こんなんでいいのだろうか?)
博之(家族のために『公務員』という地位と安定した収入にしがみついていただけなんじゃないか?)
博之(今回のことは『天罰』。そう、『天罰』がくだったんだよ)
博之(こんなことが無かったら、もっともっと人としての道を外していたかも知れないな)
色々思いを巡らしていたら、博之の目尻に涙がにじんできた。
涙が流れないよう牛丼店の天井の灯りを見た。
博之(う~ん)
今度は子供、海斗の顔が浮かんできた。我慢していた涙がどんどん流れ出した。
店員の女子は、博之の涙を見て、見ないふりをしてそっと奥へと下がって行った。
博之(シジミ汁がこんなにうまいと思わなかったなぁ)
博之は、4品を交互にゆっくりゆっくり噛み締め味わっていった。
食べ終わり博之はレジに進んだ。先ほどの女子店員がレジに行った。
店員「730円です」
博之(やっぱり、700円かぁ~)
博之はポケットから財布を出した。
女子店員が、チラッと博之の顔を見て、
店員「大丈夫ですか?」
博之「うん、大丈夫。とても美味しかったよ」
店員「ありがとうございます」
博之「シジミ汁が心にシジミ、いやシミジミと来て、涙が出ちゃったよ」
店員「ふふふふふ。そうだったんですね。頼んだカイ(貝)がありましたね」
店員が手の5指で貝がパクパクするような動きをやって見せた。
博之「ははははは。うん」
店を出るとき、博之の顔は明るい顔になっていた。
博之(あの子(店員)は、国民を幸せにするなぁ……)




