105 ◎『ボートレース浜名湖』の舟券師(後編) ~地元選手を狙う~
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
【あらまし】
第二部:舟券師の哲学と「浜名湖」の攻略法
●ギャンブルの本質: 舟券は運営(胴元)との勝負ではなく、参加しているファン同士での「お金の奪い合い」であるという冷徹な現実。
●浜名湖攻略の鍵: 水面が広く、チルト角度や気象条件の変動も激しい浜名湖は、遠征組が即座に攻略するのは極めて困難な場所です。
●結論: 複雑な環境をすべて熟知しているのは、一年を通じてその水面で練習を重ねる「静岡支部の地元選手」たちであり、彼らを狙うことこそが勝機であると結論付けます。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
【02】 第二部『ボートレース浜名湖』の舟券師、杉山坊人
富田「『(ボートレース)浜名湖』で会った舟券師が『ボートレースで当てるって言うのは、つくづく難しいと思ったね。特にここの水面は難しい、関東の人が来たって当たらないだろう』って、そんなことを言ってたね」
由利「どういう意味だろう? 関東と言いますか、東京の人がわざわざ『ボートレース浜名湖』まで行きますかね? しかも、今はスマホで全国のボートレース24か所の舟券が買えるというのに?」
富田「うん、私も同じことを思った」
由利「ですよね」
富田「その後、『ボートレース浜名湖』について、いろいろ調べたし、彼が言ったことも断片的に思い出し、自分なりにそれを結び付けてみたんだ」
由利「それで、謎が解けましたか?」
富田「完璧な答えかどうかはわからないけれど、自分なりに推測が立ったんです」
由利「どんな?」
富田「彼は、独身でこんなことを言ってたんです」
由利「ちょっと待ってください。その舟券師は何歳ぐらいなんですか?」
富田「年齢は聞きませんでしたが、見た目では、80歳ぐらいでしょうか?」
由利「えっ! そんなに」
富田「ええ。すごいですよね。その年齢までボートレース一本で生きてきたのですから」
由利「ある意味、ボートレーサーもすごいけれど、舟券師っていう職業もすごいですね」
富田「彼は、独身でひとり暮らしだそうです。結婚したこともないし、35歳で会社を辞めてからは、ボートレースがすべてだったと言ってました」
由利「もともとは会社員だったんだ」
富田「ええ。面白いことを言ってました。『こんな職にもつかないどうしようもないギャンブラーに寄って来る女性も居ないし、それ以上にこちらから声を掛けられるはずもない』って」
由利「耳が痛いです。ギャンブラーの宿命でしょうね」
富田「由利さんも独身ですか?」
由利「当然です!」
富田「ははははは、笑っちゃいけないか?」
由利「いいえ、どんどん笑ってください」
ここから舟券師(仮名)杉山坊人の直接な会話で表現。
富田「それで舟券師がね、」
杉山「盆も暮れも正月も誰も来ないし、親戚付き合いもない。行くところは盆も暮れも正月もボートレース場だけさ」
富田「そうかい、う~ん、わかるけれどね」
杉山「独身にクリスマスと正月は要らないね」
富田「ははははは」
杉山「もっと要らないのは、バレンタインデーだ」
富田「ははははは」
杉山「正月ってのは、ボートレース場の駐車場に横浜ナンバーや、東京のナンバーが多いんだよね。やっぱり、独身でやることがないんだろうな」
富田「はぁー、そうですか。横浜なら東名高速で一本だ。3時間ぐらいで着くんじゃないですか?」
杉山「どこにも、ボートレースが好きな人間が居るんだね。お陰で、こっちも儲けさせてもらっているんだけれど」
富田「ボートレースで儲けられるんだからたいしたもんですよ。私なんか、いいとこトントンです」
杉山「配当金って、みんな、レース場からもらっていると勘違いしているんだけれど、あのお金って、みんなの賭け金をみんなで取り合っているわけですよね」
富田「ふむ? 何が言いたいのでしょう?」
杉山「昔、どんぶり1個用意して、その中でサイコロを振りましてね、」
富田「ええ」
杉山「サイコロの目をみんなで当てるんですよ」
富田「ほおー」
杉山「胴元がひとりいて、客が5人。客はそれぞれ好きなサイコロの目をひとつ言う」
富田「うん」
杉山「例えば、百円を出して『3』と言います。1回に5人で5百円集まる訳です。そして、当たれば5百円が入ってきます」
富田「なるほど」
杉山「5人が1~5までの数字を言って、サイコロの目が『6』だったら、胴元が場代としてもらいます。そして、場代が多くなったら酒をふるまったりするわけです」
富田「なるほど」
杉山「まぁ、サイコロ賭博のやり方は色々あるでしょうけれど、ボートレースも簡単に言えば、売上がひとレースで4千万円あったとして、1千万円は開催者がもらいます。そして、残りの3千万円をみんなで取り合っているのです」
富田「そうですね」
杉山「私が言いたいのは、結局、ボートレースも麻雀なんかと同じで、仲間内のお金を取り合っている、ってことです」
富田「ええ、そうですね」
杉山「ただ違うのは合法であり、胴元は人件費や選手賞金などの必要経費を除き、社会に貢献するよう使っているということです」
富田「国内の寄付はもちろん、今は世界貢献もしてますね。」
杉山「昔の『チンチロリン』というサイコロ賭博ゲームや『手本引』という札を使った賭博ゲームに比べたら、ボートレースは大人から子供まで、大勢の人間が、元気に楽しく、そして社会貢献が出来る近代的なギャンブルと言えるでしょうね」
富田「比べるのが間違いかも?」
杉山「ははははは。これは手厳しい」
富田「すみません」
杉山「いえ、いいんですよ。……で、仲間内の賭博ゲームというのは、結局のところ、一番強い者が勝利するんです」
富田「うんうん」
杉山「だから、みんなが出し合った金を握るためには、参加している仲間たちより、ゲームに強くならなければならないということです」
富田「ゲームに強くなるためには?」
杉山「このレース場の特性を知ることでしょうね」
富田「うんうん」
杉山「旅行だって、知らない土地をただ歩いたって観光地には着きません。でも、観光ガイドが居れば、複数の観光地を短時間で効率よく回れます」
富田「うんうん」
杉山「ここ浜名湖は、ターンした後の水面がとにかく広いです。そんなこともあって、エンジンのチルト角度も全国24場の中で最も種類があります」
富田「確かに水面が広い!」
杉山「水質は『海水』と『淡水』が混ざっていますし、水面が広いので『まくり』や『まくり差し』もガンガン来ます。関東の5場と比べて、当てるのが一番難しいんじゃないですか?」
富田「確かに。だから、私は主に『(ボートレース)戸田』で買ってます」
杉山「それは、賢明です。浜名湖は、関東5場より、平均配当がいいような気がします」
富田「その分、当たらないということですね」
杉山「そうですね。でも『浜名湖が得意』という選手を狙っていけば、けっこう儲かりますよ」
富田「そうか、『インが得意』という選手も、ここではつぶされてしまう訳だから、センター勢を狙うのもひとつの手であり、高配当につながるわけですね」
杉山「その通りです」
富田「教えてはもらえないでしょうけれど、『浜名湖が得意』という選手って誰ですか?」
杉山「年に1回か2回斡旋されて、浜名湖に来ても、このレース場のコツをつかむのは無理です」
富田「と、なると?」
杉山「やはり、夏でも冬でも一年中ここで練習している選手にはかないませんね」
富田「そうか、そう言うことか。よくわかりました。ありがとうございます」
富田「浜名湖の舟券師(杉山)とは、そんな感じで最後別れたんだ」
富田は少し間を置き、
富田「彼と別れてから、ある年の大晦日のことだったんだ。テレビは紅白歌合戦が付いていたんだが、頭の中は、明日のボートレースのことでいっぱいだった。『(ボートレース)戸田』は元日やってないので、平和島、多摩川、江戸川、桐生の順番で見たんだが、どこもやってないんだよ」
由利「そうそう、元日ってやってないんですよね」
富田「ところが、過去もさかのぼって調べたら、他の地方は結構開催していて、関東だけが毎年元日はやっていないんだな。更に調べたら、関東のボートレースファンは、元日に限って、結構な人数が浜名湖へ行くんだよ。びっくりしたね」
由利「そうでしたか」
富田「そして、ついでに言えば、みんな浜名湖でやられてくるらしい」
由利「ははははは。そんなら行かなければいいのに」
富田「それが、ギャンブラーの性なんだろうなぁ」
由利「ははははは。性で静岡に行っちゃうのかぁ。そんな性は要らないなぁ」
富田「『浜名湖が得意』という選手って誰だかわかりましたか?」
由利「ええ、」
富田「本当に?」
由利「『浜名湖が得意』という選手っていうのは、静岡支部の選手たちですよね」
富田「さすがです!」
由利「他の支部の選手が、1コースから6コースまで。チルト-0.5度から3度まで。レースの時間である11時から17時まで。そして、春夏秋冬。すべてのケースを練習するなんて、地元の選手しか出来っこないですからね」
富田「その通り。季節、時間、天気、そしてどのコースで、どのチルトなどの組み合わせを考えたら、何の何乗? になるのか、膨大な数字になることだけは間違いないです」
由利「ええ、いい勉強になりました」
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
【後書き】
本編をお読みいただき、ありがとうございました!
今回は富田先生がボートレース浜名湖で遭遇した、二人のプロフェッショナルな「舟券師」のエピソードをお届けしました。
前半の(仮名)望月猛太が語った「ランチタイム戦のデータ」や「スタート展示のフライング(F06)から読み解く心理戦」、そして後半の(仮名)杉山坊人が語った「サイコロ賭博の例えから紐解く、地元・静岡支部のアドバンテージ」など、ボートレースの奥深い魅力と独特の空気を少しでも感じていただけていれば幸いです。
広大な水面を持つ浜名湖ならではの難しさと魅力、そしてギャンブラーの悲しい「さが」……(笑)。富田先生の「たられば」の後悔には、思わず共感してしまった方も多いのではないでしょうか。
今後も富田先生とボートレースを取り巻く、一癖も二癖もある人間模様を描いていきます。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
【作者よりお願い】
「おもしろかった」「続きが気になる!」「富田と舟券師の掛け合いが良かった」と思ってくださった方は、ぜひ下部にある**【☆☆☆☆☆】**から、作品への評価と応援ポイント(最大5ポイント)をいただけますと大変励みになります!
ブックマークやご感想もお待ちしております!
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■




