騎士
治療所になっている宿屋の二階に向かうと誰もいない廊下を歩く。
しまったな~どの部屋に騎士がいるのか聞いてない、適当に探してもいいんだが久しぶりにあれを使うか。
俺はこの頃使っていなかった液体感知を使い人を探す。
スキルを使って二階を見渡すと階段から一番近い部屋に二人の人を感知する。
うん、性別は分からないけど人がいるのは分かるな。
感知にはベッドに寝る人の反応とそれに寄り添い横に座る人の反応があった。
その部屋以外にもベッドに寝かされている人の反応があり一部屋に一人寝かされている様だった。
俺は一番近くの部屋の前に付くと扉を叩く。
しばらく待つと部屋の中から返事が有ったので扉を開き入る。
中に入ると女性が寝かされていて寄り添っていた金髪の男性が憔悴した顔で俺を見詰めて来た。
「君は確か・・・センだったか?どうして君がここに?」
名前を呼ばれて金髪の騎士をよく見ると野党事件で村に来た騎士のサルトだった。
そしてベッドに寝かされているのはサルトに付き従っていた女性騎士だった。
「お久しぶりです。ここに怪我人がいるというので来たのですが・・・」
俺は部屋を訪れた理由を述べるとサルトは女性騎士に目を向け手を握る。
俺も女性騎士に目を向け容体を見るために観察する。
女性騎士は特に足に怪我を負ったのか両足を包帯で巻かれ、その包帯には幾つもの血の沁みが出来ていた。
他にも至る所に包帯が巻かれていた。
「う、うぅ・・・」
女性騎士は痛みに苦しむように呻くとサルトは心配そうに手を握りながら顔を覗き込んでいた。
「サルト様、今から回復魔法の様な物を掛けますので包帯を取るのを手伝ってもらえますか?」
俺がサルトに声を掛けるとサルトは俺に向き直り怪訝そうな顔をした。
「センは魔術師だったのか?まあどうでもいい彼女の怪我が治るのならやってくれ」
サルトはそう言いながら包帯を慎重に取っていく。俺も一緒に包帯を取っていきながら怪我の状態を確認する。
女性騎士の状態は幸いにも下で治療していた人たちの様に肉を抉り取られている箇所は無かった。
だけど明らかに骨が折れたために腫れ、メニーラビットの前歯の後だろう二つの穴が開いていた。
包帯を取り終わると俺は立ち上がり右手を向けながら魔法を使っている様に魔法名を唱える。
「アクアヒール」
魔法名を唱えると同時にハイポーションを作り出し液体操作で傷口に掛けていく。
ハイポーションが掛かった場所が淡く光ると傷も骨折の腫れも綺麗に無くなっていた。
それを見ていたサルトは口を半開きにして呆然としていた。
「う、ん、痛くない?」
怪我が治った女性騎士は目を開け、痛みが無いことに気付くと体を起こし自分の足を触って確認していた。
「サフィーナ!」
唖然としていたサルトは女性騎士の様子を見て名前を呼びながら抱きしめた。
「サルト様?」
女性騎士サフィーナは一瞬驚いて硬直していたが自分の抱き着いているサルトを優しく抱きしめ微笑んでいた。
俺はそんな二人に何も言わずに部屋を後にする。
せっかくの恋人同士存分にイチャついて居ればいいと思うよ、別に嫉妬では無く大人の対応としてお邪魔虫は退散しますよ。
サルトたちの部屋を離れた後も他の部屋を回り怪我人を治癒していく。
下にいた人より怪我が軽いのはやっぱり装備の差だろうか?
騎士は大体金属鎧に身を包んでいたから噛みつかれても鉄の脛当てに当たって食い千切られることはなかったんだろう。
でも無傷ではないってことはそれだけメニーラビットの顎の力は強いんだろうな。
鉄の脛当ての上からでも骨折するぐらいだからな~。
それにしても騎士の怪我人は若い人が多かった。
まあ年が上の騎士はそれだけ訓練を積んでるんだろうな、メニーラビットが大量に来たとしても対処できたんだろう。
俺が騎士たちの治癒を終わらして下に降りる。そこには新しい怪我人が運び込まれていた。
うわ~マジか、籠城してるのに何で怪我人が増えてるんだ?
俺が怪我人たちを見て途方に暮れているとジェフが宿屋の入口から怪我人を担いで入ってきた。
そして怪我人を寝かせると俺の所に走り寄って来た。
「旦那!これで怪我人は全部です!他の奴らは旦那の出した樽を外壁の上から落としたり石を落して応戦してます」
ジェフの言葉に俺は頷き怪我人たちを癒す為に魔法名を唱える。
「分かった!エリアアクアヒール!」
俺が幾つもの水球を作り出し怪我人たちに掛けていく、その姿を見たジェフは目を丸くして呟いていた。
「旦那・・・魔法も使えたんすね」
注意、何度も言うが魔法ではない。
ジェフの呟きを聞かなかったことにしながら怪我人を治癒し、新しく来ていた怪我人もすぐに治療が終わるのだった。
俺が怪我人を治療し、ひと段落した所で西門の方から悲鳴に近い叫び声が聞こえて来た。
「門が!門が破られたぞ!」
冒険者らしい装備の男が声を上げる。
俺とジェフはその声に弾かれた様に振り向くと宿屋を出て西門へ走った。
西門では侵入してきたメニーラビットと近接戦闘を繰り広げる人々でごった返していた。
門には傷は無かったがその下の地面に大きな穴が開いていた。
あ~ウサギだもんな穴掘るのは得意か、こりゃ早めに群れの統率をしているブラックロップって魔物を倒さないと数の暴力で犠牲が増えちまう。
回復だけしていれば終わるって物でもなさそうだから参戦するしかなさそうだな。
俺は覚悟を決めると壁へ上るための階段に走り出す。
それにつられてジェフも一緒について走りながら質問してきた。
「旦那!どこに行くんです?」
「戦況が見通せる位置に行く、それからは見てのお楽しみだ。
俺の実力を見てくれ、いつも守られているだけの男じゃないって所を・・・まあ楽しみにしてくれ」
俺は不敵に笑いながら壁へと走る。
西門に侵入されたことにより近接戦闘ができる者は西門を包囲していて壁の上には弓使いと魔導士が今もなお押し寄せてくるメニーラビットに攻撃を仕掛けていた。
「クッソ!次から次へと押し寄せてきやがる!弱いから一撃で倒せるからまだいいがこのままじゃ弓が無くなっちまう!」
「こっちももう魔力が空だよ!マジックポーションも底をついちまたよ!どっかにマジックポーション余ってないかい?」
「あの樽に入った粘液、少しの間は足止めできたけどこれじゃあ焼け石に水だぜ!もっとねーのか?」
壁の上で戦う者たちは口々に愚痴を漏らしながら自分にできることを実行していた。
そんな中俺は西門の上まで急いで走り寄ると下を覗き込む。
下では今まさに侵入してくるメニーラビットを食い止めようと戦っていた。
「下にいる方気を付けてください!今から穴を塞ぎます!」
俺は下に向かって声を掛けると穴を囲んでいた人たちが穴から少し離れた。
穴から離れるのを確認した俺は直ぐに穴を塞ぐために溶けた鉄を穴へ流し込む。
流し込むと同時にメニーラビットたちの悲鳴が穴の中から聞こえ外側の穴からは逃げ出すようにメニーラビットたちが走り出してきた。
それを追いかける様に溶けた鉄があふれ出してきたので少しあふれた所で止めて置いた。
穴からはいまだに肉の焼ける匂いと鉄の匂いがあたりに充満する。
それを見て下で戦っていた者たちは一息つくものやその場で座り込む者まで様々だった。
俺は下の様子に大きく息を付くと今度は壁の外へと目を向けた。
壁の外には今だに無数のメニーラビットが大挙して門へと押し寄せていた。
その様相はさながら真っ白な絨毯を引いたように白かった。
だが目線を群れの奥へと向けると一点だけ白一色に染まる大地に黒い点があった。
そのメニーラビットより一回り大きい姿は遠くにいても見つけることができるほど異様だった。
「糞が!弓のギリギリ射程をチョロチョロと動きやがって!アイツさえ倒せばメニーラビットの凶暴性も無くなるのに・・・」
俺が黒い点を見詰めていると弓を持った冒険者が大きく曲射するように弓を空に向けて撃つ。
そのたびに黒い点は横にズレてまたその場で停止していた。
その少し後に空に向けて曲射された矢が先ほど黒い点があった場所に落ちていく。
それを見た弓を持った冒険者が当たるように胸壁を蹴り悪態をついた。
その様子を見ていた周りも口々にブラックロップを罵っていた。
いやいや頭良すぎりゃしませんか?魔物だって言ってもウサギだよね?
なんで飛んでくる矢に気付いて避けてるんですかね?しかも弓撃ってる冒険者の話し方から射程も把握されてるみたいだ。
普通に考えればたかが動物がそんな頭がいいわけないだろ!
ブラックロップの頭の良さに驚愕してしまい俺はその場で唖然としてしまった。
その間も弓や魔法が撃たれるがブラックロップに当たる様子はなかった。
スゲーなあれだけ狙われて避けてるよ、なんて関心してる暇は無いな。
どうにかあそこ迄攻撃を届かせて当てないと、でもどうやって当てたらいいんだ?
俺の液体操作でもあそこまでは届かない、魔法もブラックロップまでは届いていないようだった。
今の所ブラックロップに届く攻撃をできるのは弓のみだ。
なら矢に細工をするしかない、ブラックロップが矢を避けることは分かってるので先ずは音でひるませてから毒矢で止めを刺す。
俺はそのための準備をするために瓶に二つの液体を作り出すのだった。
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