表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
麒麟将  作者: 花鏡
82/170

第八十一話「人機一体」

いつもお読みいただきありがとうございます。

励みになります。


サイボーグ兵士戦、決着。




「き、貴様、よくも……!」


 衛兵センチネルの激突により荒廃した『ヴァスタグロリアス』の艦橋。

 かなりの衝撃だったため窓際にいたオペレーターたちは軒並み吹き飛び、艦橋内部にいた士官たちもその殆どが地面に倒れていた。


「……話し合いを一方的に破棄して私の命を奪おうとしたのだ。相応の反撃を覚悟するべきではなかったか?」


 冷ややかな瞳で腰を抜かしたまま動くことも出来ないキャロルを見つめる冥月。

 彼自身ここまでのことをするつもりはなかったのだが、結果的に凄まじい破壊行為をしてしまったためにその表情はどこか暗い。


「……補佐官キャロルよ、もうこうなっては戦う意味はない。降伏せよ、命まで取るつもりはない」


「……き、貴様、下等な、下等な家畜風情が……!」


 悔しさのあまり歯が砕け散らんばかりに奥歯を噛みしめるキャロル。しかしガラガラという音を立てて、艦橋後部の瓦礫の山から現れた衛兵センチネルを見て表情を緩める。

 先ほど冥月の理力剣を立て続けに食らったためか胸甲にバツ印の傷跡こそ残るものの、まだまだ戦えるのか、センチネルは大刀を構えた。


「はっ! あれだけの攻撃でもまだ戦えるなんて、さすがはティーネ様の作品……!」


 しまったと言った表情で口をつぐむキャロルに対して、冥月の方は聞き覚えのある名前に目を細める。


「……何? ティーネ、だと……?」


 意識的にではなく、無意識的なものだろうが、キャロルが口走った言葉に冥月は微かに眉をひそめた。

 オットー=ティーネ・オフィルアスはラクィア大陸に転移したEMS王族であり科学者。しかしその実態はクローンだの培養兵士オリンフィアだの非人道的な実験をなんの躊躇なく行うようなマッドサイエンティスト。


「……(だが、奴は我々がエルリクムで討ち取ったはず、ということは奴が生前、ラクィア大陸に行く前に携わっていた研究か?)」


 いや、衛兵センチネルが完成したのはごく最近のことだろう。もしもっと前に完成していたのならば、同じ反女王連盟であるキャサリン・フリューゲルの戦いに現れなかったのは不自然だ。


「……(どういうことだ? オットー=ティーネ・オフィルアスはあれほどの攻撃でも死なず、ヴァスタ大陸にまで逃れたというのか?)」


「はっ! よそ見していると死ぬわよ? 麒麟将……!」


 次の瞬間、せせら笑うキャロルの声とともに、冥月の鍛え抜かれた理気が警告を発する。


「っ!」


 無言のまま高速で接近してきたセンチネルが手にした大刀を振り上げて冥月に斬りかかってきたのだ。


 すぐさま理気を集中させて双剣でセンチネルの大刀を阻む冥月。


「むっ! こやつは……!」


 先ほどまでのセンチネルはさほど洗練された動きで攻撃することは出来なかったが、今の動きは間違いなく一流のものである。


 冥月は理気による危険予知と先読みによって攻撃を見切ることに成功したものの、もしも視力で攻撃されていたならば、理気による反射力の補助があったとしても捉えきれないような動きだった。


「……(『七識まなしき』、否『八識あらやしき』クラスでなければあの動きは見切れぬぞ)」


 この短期間で一気に強くなったセンチネル、その潜在能力には計り知れないものがありそうである。


 連続で仕掛けてくるセンチネルの攻撃をなんとか双剣でいなしながら隙を伺う冥月。

 しかしその動きはやはり素早く、同時に洗練されたものであり、クローン兵はもちろんのこと敵対した際のヴィルヘルミナすらも上回る信じられないような技能だ。


「あはははは……! どうかしら? センチネルは機械と生物を融合させた新兵器、お前のような家畜では勝ち目はないわ!」


 哄笑するキャロル。このような状況では彼女に『戯法理術ぎほうりじゅつ』を仕掛けるほどに集中力を割くことは出来ない。

 すなわち交渉で武装解除を要求するにしても、先にセンチネルを止めてからでなければどうにもならないと言うことである。


「……(なんとか奴を止める必要があるな。人間が作った以上は完全なものなどないはずだが……)」


 つまりは完全に見えたとしても必ずどこかに隙があると言うこと。センチネルの力は驚異的だが、どうにか勝ち目を拾おうと集中する冥月。


「ふふふ……。やはり家畜風情ではセンチネルを倒すことなど不可能みたいね」


 すでに勝利を確信しているのか、先ほどまでの及び腰などいざ知らず、キャロルの姿勢は悠然としたものだ。


「それはどうかな? たしかにセンチネルの力は侮れないがこんな切り札を切ってきた以上、もはや貴様にも後はないのではないか?」


 センチネルさえ倒せばもはやヴァスタ艦隊に戦う力はない。そう告げられキャロルの顔がみるみる赤くなる。


「減らず口を……! やれ、センチネルっ!」


 赤い単眼モノアイが不気味に光ったかと思うと、センチネルの動きがより激しくなり、冥月にとどめを刺さんと波状攻撃を仕掛けた。


「……くっ! さすがに厳しくなってきたか……?」


 双剣を巧みに操りながらなんとかセンチネルの攻撃を捌く冥月だったが、その動きが追い込まれていると思ったらしいキャロルはほくそ笑む。


「さあさあ死になさいっ! お前を殺せば私の武名は否が応でも高まる。そして反女王連盟はその勢いのまま、世界を支配するのだ!」


「……そのようなことをやらせるわけにはいかないな……」


 次の瞬間冥月の握っていた双剣の軸がブレたかと思うと、一秒後にはセンチネルの握っていた大刀が真っ二つに折れていた。


「……なっ!」


 理気を使って動きを見切ることすら出来ないキャロルには何が起きたのかすら見えない。


「……はっ!」


 続いて理法念力りほうねんりきを用いてセンチネルを突き飛ばす冥月。


「……!!!?!」


 冥月の放った理法念力はあまりにも強く、脆くなっていた壁を突き破り、そのままセンチネルを『ヴァスタグロリアス』から追放する。


「あ、ありえない、こんなことが……」


 絶句するキャロルを尻目に、飛行能力を持たないのか、センチネルは艦橋から吹き飛ばされ、そのまま海の底へと消えていった。


「……さて、これで貴様にはなんの手立てもないわけだな」


 麒麟剣の切っ先をキャロルに突きつける冥月。艦隊は壊滅し、今センチネルは海の底へと沈んだのだ、キャロルには最早戦う手立ては残されていないはずである。


「……み、みとめない、このようなこと……」


「貴様が認めようが認めまいが結果は変わらない。今一度言う、降伏しろ、命まではとらない」


 冷淡な表情の冥月とは異なり、キャロルの表情は屈辱と怒りに満ちた極めて激しいものだった。


「ふ、ふざけないでっ! 家畜に好きにされるくらいならば、潔く死を選ぶわっ!」


 腰に下げていた拳銃を引き抜くと、己のこめかみに当てる。理気の感じから言ってよほどがない限り自ら命を絶つことはしなさそうだが、あまり良い気分もしないため冥月は静かに理気を集中させた。


「そのようなことに意味はない、違うか?」


「……意味はない、違わない」


 それだけ告げると拳銃を放り投げてから、ハッとしたようにキャロルは目を見開く。


「い、いま、私どうして……?」


 どうやらキャロルに関して言えば『戯法理術ぎほうりじゅつ』は普通に通用するらしい。


「私はどうあってもヴァスタ大陸に行かねばならない、ロベルトを救うためだ、わかるな?」


「お前はどうあってもヴァスタ大陸に行かなければならない。理由はロベルト・イェンセンの救出」


 意識に無理やり働きかける行為、場合によっては洗脳に近い手法だ。しかしここまできた以上、この際贅沢は言うべきではないだろう。


「そのために協力してほしい。ロベルトはどこに捕まっている?」


「ヴァスティーユの大監獄ダイオンプリズン第五層、兵士がたくさんいるため処刑まで誰も近くことは出来ない」


 なるほど、どうやら重要な死刑囚ということもあってか警備もかなり厳重なものらしい。


「潜入するには?」


「周囲は壁に囲まれ特別の許可がなければ内部に侵入は出来ず、脱出も不可能」


 どうやら大監獄の異名らしく、内部に潜入するためには普通ならば用意周到な準備が必要らしい。


 だが今の冥月は『八識あらやしき』の境地にいる麒麟将、潜入するための方法はいくらでもあるはずだ。


「……ロベルトの幽閉場所についておおよそのことはわかった。なら次はセンチネルのこと、あれは一体なんだ?」


 キャロルは機械と生物の融合した姿と称していたが、高い理気に理力剣、さらには属性攻撃も使いこなすと明らかに異質な存在である。


「つい先日ヴァスタ大陸に現れたオットー=ティーネ・オフィルアス様から齎された技術で作られている。具体的なテクノロジーは知らないが、衰弱したネクロスを使うと聞いている」


「ネクロスを、だと?」


 和人が変異させられた姿であるネクロス。冥月はかつてゲネシスソイミートタワーで見かけた、身体中がただれたゾンビのような異質な姿を思い出していた。

 しかし驚くべきは、衰弱したネクロスを部品に使いながら、あれほどの力を引き出すその技術。


 おそらくだが素体にされるネクロスは発電機や時空捻転現象じくうねんてんげんしょうを起こすためにパーツとして酷使され続けた人々だろう。

 消耗されていた資源の再利用と言わんばかりの技術だが、冥月はあまりの不快感に険しい表情を浮かべていた。


「かなりの数が生産されているのか?」


「……日夜衰弱したネクロスは廃棄される。セオディア様はそんな連中を回収してヴァスティーユに新たに作られたゲネシスソイミートタワーでセンチネルを生産されている」


 つまりはこれも反女王連盟の戦力を向上させるための策なのだろうが、まさかネクロスを利用していたとは……。


 いずれにせよあれほどの生体兵器を放っておくわけにはいかない。

 早い段階で生産プラント、ヴァスティーユのゲネシスソイミートタワーを破壊せねば危険すぎる上、寝覚めも悪い。


「……(可能な限り早めにヴァスタ大陸に行かねば、取り返しのつかないことになるかもしれぬな)」


 そのために『ヴァスタグロリアス』にある艦載機を利用しようとまたキャロルに冥月が話しかけようとしたその刹那。

 すさまじい気配を感じて、冥月は双剣を構えた。


「……誰だ?」


「いついかなるときも油断せぬか、なかなかの気の入りようだ」


 ふわりとした動きで、先ほどセンチネルを突き飛ばした際に生じた穴から入ってきたのは予想しなかった人物である。


「ようやくわしと戦えるようになってきたらしいな」


 漆黒の鎧に龍馬のごとき仮面と真紅の瞳、『ヴァスタグロリアス』の艦橋に現れたのは『太陽を喰らう者』ギラファだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ