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麒麟将  作者: 花鏡
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第七十三話「単眼将モノフタルモス」

いつもお読みいただきありがとうございます。

励みになります。


新章突入です。



 薄暗い空間、壁沿に設置されたいくつかの機械の光しかないような広大な部屋。

 中央に設えられた円卓には四つの椅子が存在するが、その椅子は三つしか埋まってはいない。


「お集まりの諸氏」


 その内の一つに腰掛けた女性、元老院議長にしてアルディス大陸を統括する総督、パウリナ・イェンセンは空間内に居並ぶ三人の女性に目を向けた。


「こうして女王陛下が治められる四大陸の補佐官を集めての大陸間会議が行える幸運に感謝しますわ」


「……前置きは結構よパウリナ、さっさと本題に入って頂戴」


 好戦的な言葉をパウリナに放ったのは痩せた体躯の女性。ヴァスタ大陸の総督であり、パウリナとは政敵であるセオディア・ジェイゲン。


「それからアーカル大陸代表である宰相クララ・ガドウィンがいないのはお家騒動が原因と見て良いのかしら?」


 空席のいすを眺めながら、せせら笑うようにそのようなことを言うセオディアに対して、さすがのパウリナも眉をひそめる。


「……宰相は忙しいの。加虐趣味があるどこかの誰かさんとは違ってね」


 今度はセオディアが眉を釣り上げる番だ。二人の応酬に室内の空気が一気に悪くなったが、無言で話しを聞いていた女性が円卓を叩きつける。


「辞めないか二人とも! そのような無用なことを話すために集まった訳ではないだろうがっ!」


 すさまじい剣幕で一喝した女性は義眼の片目に軍服を身につけた金髪の美女。

 EMS正規軍元帥にしてガリアス大陸の総督たるメアリ・デルフィア、クララの義理の姉だ。


「……議長、大陸間会議を、しかも女王陛下抜きで召集するなどただごとどはないと思ったのだが?」


 いい加減本題に入れと言外に急かされ、ようやくパウリナは重苦しい口を開く。


「例の一味は『禁断の大陸』たるデモニア大陸にいるという情報を得たわ」


「っ! 確かか?」


 目を見開くメアリ。デモニア大陸ことラクィア大陸はずいぶん昔から侵入が不可能となっている未知の大陸。

 そんな場所の情報を得たばかりかそこにEMSに牙向く者たちがいるということが信じられないのだ。


「ええ、最近この大陸から帰還された『さるお方』からの情報、しかも貴女の元部下、ヴィルヘルミナ・ガドウィンもその一味に加入しているようね」


「……ヴィルヘルミナ・ガドウィン、ふうん、宰相家の令嬢が随分落ちぶれたわね」


 衝撃のあまり声を出せないメアリとは違い、セオディアは攻撃する口実が出来て嬉しいのかニヤニヤと笑みを浮かべる。


「それで議長? ヴィルヘルミナ元大佐は反逆者として見つけ次第拘束して良いのかしら?」


「もちろんよセオディア、EMSに反抗する者は根絶やしにしなければならないわ」


 ヴィルヘルミナの処遇に関してはセオディアもパウリナも意見が同じなのか、特に反目はしない。


「……(血迷ったかヴィルヘルミナ、しかし……)」


 ただ一人メアリのみはヴィルヘルミナが何を考えてそのような行動をとったのか何となく察しているため、何も発言せず唇をひき結んで黙考していた。


「……(とにかくこれで彼女が即座に極刑になることは防がれたな)」


 政治が専門ではないとは言え、EMS内でも高い地位にいるメアリは元老院周りがグルになってメアリを処刑しようとしていたことは知っている。

 しかもそこに自分の弟であるウィレム・ガドウィンが関わっているとも聞いているため心中穏やかというわけではない。


 だが同時にヴィルヘルミナはEMSを逐電しなければ犯していない罪で裁かれ極刑になることもわかっていたため、安堵している部分もあった。


「……(どちらにせよヴィルヘルミナにとっては厳しい状況が続きそうだな……)」


「それでデモニア大陸のことだけど、内側に攻撃することが可能となったわ」


 パウリナの言葉に色めき立つのはセオディア、信じられないとばかりに目を見開く。


「本当かしら?」


「ええ、デモニア大陸から帰還したさるお方からの技術提供によるものよ。転移座標もバッチリ、あとはマルクトの腕利きを送り込めば良いわ」


 大陸を浄化し、新たなフロンティアの開拓というわけだ。しかしラクィア大陸には冥月や莉乃、ヴィルヘルミナといった強者つわものもいることはわかっているためメアリは難色を示す。


「……粛清するのは結構だがな、デモニア大陸にヴィルヘルミナがいるという話が出たばかり。安直に決めるべきではない」


「あら、元帥閣下ともあろうお方が、怖気づいたのかしら?」


 嘲弄するセオディアに答えることはせず、メアリは顔の前で手を交差させた。


「それに議長、ヴァスティーユに拘留されているロベルト・イェンセンをこのタイミングで処刑するという話しも聞いている。あまりにも手広くやり過ぎではないか?」


「ロベルトの処刑はすでに元老院議会でけつは出ていること、今更詮議する必要などないわ」


 ヴィルヘルミナ同様EMS貴族の変容を強く警告していたパウリナの愛人ロベルト。現在はセオディアの管理するヴァスティーユに拘留されているらしいが、死刑に決まったらしい。


 しかしヴィルヘルミナが逐電し、挙句クララも連絡が取れないというこの混乱しているタイミングで行うというのはあまりにも性急が過ぎるのではないか?


「せめてデモニア大陸の問題が片付き、ヴィルヘルミナの身柄を押さえてから改めて執行しても遅くはないのでは?」


 メアリの提言に対してパウリナは微かに顎を上げて、彼女を見下ろす。


「……このタイミングだからよメアリ、市井の間にもEMS貴族が怪物に変容するという風聞が流れていて、おまけにノリスやキャサリンを弑殺しいさつした卑猩どもを捕らえていないという事実もある」


 どうもEMS国内ではこの短期間で様々なことが起こり過ぎた結果市民の不安が高まっているらしい。

 かつてのEMS内乱でもあったように反女王連盟がこれを契機に活発な活動を行うかもしれないため、ロベルトとヴィルヘルミナ、さらには冥月らを粛清しEMSの力を示そうと言うわけだ。


「とにかくこれはもう決まったこと、メアリには元帥として正規軍を率いてもらうことになると思うわ」


「それは構わぬが、ラクィア大陸にいると言う冥月らは可能な限り生かして捕らえても構わないな?」


 かつてEMS内乱『双鎌大戦』に出て『太陽を喰らう者』ギラファに惨敗したメアリは、その再来と恐れる冥月とその仲間を非常に強く警戒している。


 パウリナを始め大半のEMS貴族が冥月を侮る中、これは極めて稀と言えるのかもしれない。


「……一介の卑猩に何の価値があるんだか」


「では、可能ならば冥月らは生かして捕らえると言うことに」


 冥月らを捕らえられればヴィルヘルミナを説得し、己の麾下に戻すことも可能なはずだ。

 その流れで冥月らの持つ異常な強さについて解明出来ればしめたものである。


「……好きにすると良いわ。もっとも、足下をすくわれないようにね」


 パウリナの嘲笑を受け流し、メアリは肝心なことを訊きたいとばかりに身を乗り出した。

 その瞳には強すぎる意思の光が宿っており、さすがのパウリナも面食らう。


「それから議長、前回私がヤーハンで冥月らを取り逃がしたことを覚えているな?」


 あの時、メアリはあと一歩で冥月らを倒せるはずだったのだが、パウリナの鶴の一声で撤退させられる結果となっていた。


「あのようなことが今後ないよう、冥月に関しては私に全て一任して欲しい」


 メアリの言葉にパウリナは微かに眉をひそめる。というのも彼女はメアリとは違う思惑で冥月を追っていたのだが、これを他人に一任してしまうと、それが果たせなくなるからだ。


「……メアリ、あいつらは……」


「まだ御身は彼らの実力を理解していないのか? 妹を弑殺され、挙句娘二人を行方不明にまで追い込んだ者たちだぞ?」


 冥月らの小物振りを明言して誤魔化そうとするパウリナの逃げ道を塞ぎにかかるメアリ。


 妹、そして娘という単語にパウリナは一気に顔色を変える。


「二人とも環境や時の運ではない、純然たる実力で冥月に敗れたと私は考えている」


「……へぇ、元帥閣下は卑猩どもがEMS貴族を弑殺出来ると本気で……っ!」


 メアリを嘲弄しようとしたセオディアだったが、最後まで言うことが出来なかった。

 あまりにも鋭い、それこそ敵対者に向けるようなすさまじい殺気をメアリからぶつけられたからである。


「ならば貴様なら冥月を倒せるのか? メギドで『太陽を喰らう者』ギラファを前にして、失禁しながら命乞いをして、なんとか慈悲を授かった貴様が?」


「う、うぐぐ……!」


 恐ろしいまでのメアリの剣幕に、セオディアは微かに股間が濡れ始めるのを感じたが、貴族としてのプライドからか涙目になりながらも目をそらすことはしない。


「言っておくがなセオディア・ジェイゲン、私は貴様らEMS内乱時に我々には敵対した『反女王連盟』を信用してなどいないし、クララを口実に国内を二つに割いたことも忘れてはいない」


 明確にセオディアに向けられた敵意。メアリの強すぎる理気が普段は彼女の強い意思で抑えられているのは、場合によっては周囲の空間に強い影響およぼすためだ。


 現在も彼女がセオディアに対して強い怒りを感じたため、すでに円卓の一部は徐々にではあるが空間に侵食されて穴が開き始めている。


「……辞めなさいメアリ、この場で始めるつもりかしら?」


 パウリナの制止にようやくメアリは怒りを納めたが、その敵意に満ちた瞳は依然セオディアに向けられたままだ。

 空間全体に満ちるすさまじい気運に耐えきれなくなったのか、セオディアの股座が決壊する。


「ひ、ひえ……!」


 おまけにこんな重要な会議で失禁した事実を認めたくないためか、セオディアは白目を剥きながらその場で放心した。


「……ラクィア大陸の制圧の際には私が自ら出向く、良いな?」


 そんなセオディアの惨状には見向きもせずにメアリはついに自らが前線に出るための出師表すいしのひょうを提出する。


 EMS正規軍の統括役にしてガリアス大陸の総督メアリ・デルフィアが出るとなれば大抵の事態は解決できるだろうが、危険もまた大きい。

 しかし以外なことにパウリナは反論せず、ただ意味深な笑みを浮かべていた。


「……期待してるわよ。EMS最強の戦士『単眼将モノフタルモス』」






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