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麒麟将  作者: 花鏡
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第六十九話「首都奪還任務」

いつもお読みいただきありがとうございます。

励みになります。


前世の想起




 ステンドグラスの美しい光が照らす午後の教会。一人聖堂で祈りを捧げていた青年は後ろに気配を感じて静かに瞳を開いた。


「……シスターエリザベート、か?」


 振り向くことなく青年に名前を当てられたその修道女はびっくりしたように目を見開く。


「どうしてわかるのですか?」


「……気配を読む、とだけ言っておこうか」


 司祭でありながら親友、清一きよかずから剣術も伝授されている青年、詠冥よみくらの実力は中々のもの。

 気配を察知することはもちろんのこと、目を閉じていても誰が近づいているのかすらわかるらしい。


「……私に何か用事かな?」


 沈鬱な表情で詠冥が振り向いた先にいたのは彼と同い年くらいの若い修道女だ。

 碧眼に長い銀髪、修道女らしく清楚な出で立ちをしているもののどことなく活発な印象を受ける女性である。


 シスターエリザベート、本名はレナーテ・ガドウィンというらしいが詠冥を始め教会の関係者はもっぱら『エリザベート』の名前で呼んでいた。


 シスターエリザベートは詠冥の問いかけには答えずに、彼が先程まで跪いていた場所にまで至ると天を見上げる。


「……何を祈っていたのですか?」


「君と同じだ。清一が無事でありますように、とな」


 そう告げた詠冥の表情は暗く、その目も沈んでいた。


 詠冥の親友である清一。彼が留学先の大学で現地で出来た恋人とともに行方不明になったという知らせを受けてからすでに五年以上が経過していた。


 下宿先の近くにあった湖を二人で見に行く姿が最後の証言とのことで、それ以降の足取りは五年経過しているにもかかわらず全く掴めてはいない。


「……歯がゆいですね。祈ることしか出来ないというのは……」


 そう呟くエリザベートの瞳もまた暗い。実は清一とともに消息不明となった彼の恋人とはエリザベートの妹。

 両親を早くになくしてこれまで姉妹2人で協力しながらやってきたのだが、それ故に失踪時エリザベートの落胆ぶりは尋常ではなく、それなりにあった資産も土地も、何もかも捨てて修道女になってしまったのである。


「……あれから随分経ったからな。生きているにしても姿はだいぶ変わっているかもしれぬな」


「妹はたしかに優しいのですが、押しに弱い上に気弱なところもある女の子、無事だと良いのですが……」


 心配そう呟くエリザベート。すぐ近くに清一という剣術の使い手がいるのならばよほどのことがない限り生死の問題にはならないだろうが、行方不明である以上確かなことは何も言えない。


 情報を集めることも出来ず、さりとて警察に何の協力も出来ないことが二人には歯がゆいのだ。


「……なに、きっと清一が助けてくれている。心配はいらぬよ」


 随分時間は経っており、国内でも現地でも事件は風化しつつあるのだがどうにか真実を掴んで欲しいというのが二人の本音である。


 しかし同時に、言葉にこそ出さないが、もう手遅れではないかという考えもまた二人のうちには潜んでいた。


 これほどの長い期間操作が続いているにもかかわらず何の手がかりもないならば、それは尋常な事態ではない何事かに巻き込まれた可能性もある。


「……そう言えば司祭、あの話しは聞きましたか?」


 相変わらず沈鬱な声音でシスターエリザベートは口を開いた。


「二人が消える前後、湖に謎の発光体が確認されたというあれか?」


 唯一の手がかりと言うべき情報は、湖近辺にテントを張っていたという青年の証言。

 すなわち清一らが最後に目撃されてから数時間後にまるでUFOのような発光体が湖から現れ、どこかへ消えたという眉唾ものの証言である。


「信用出来ると思うのか?」


 詠冥の言葉にエリザベートは微かに頷いてみせた。


「……ダメ元ですがね。でも証言が本当だったとしても妹の失踪に関係があるかどうかは不明ですし……」


 唯一の身内が消えてもうすでに五年、エリザベートも詠冥同様、精神的に参っている。


「……歯がゆいのは事実だが、今の私に出来ることは、祈ることだけかもしれない、な」


 そうひとりごちると、詠冥はエリザベートに倣って光が差し込むステンドグラスを見上げた。

 




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「……う、ん?」


 目を開くと冥月は簡易式のベッドの上で天井を見つめながら、先程まで見ていた夢について考えてみた。

 細かいところは全く思い出せないが、あの教会での情景はおそらく冥月の前世の記憶なのだろう。


 冥月はそもそも前世の記憶を引き継いで転生したのではなく、ノリス・イェンセンの実験により偶発的に一部の記憶を取り戻したに過ぎない。

 そのため大部分の記憶は思い出すことすら出来ず、失われた状態なのだ。


 しかしどうやら頭、否魂に記憶は焼き付いているらしく、場合によっては過去の断片的な記憶が夢として現れることもある。


 先程まで見ていた光景もまた、冥月の前世の記憶で間違い無いだろうが、どういう情景なのかよくわからないため微かに戸惑った。


「……そろそろ、始まるか」


 さほど休めたというわけではないが、作戦決行時間を遅らせるわけにはいかない。


 冥月は微かに頭を振るとベッドから上体を起こして、軽く身体の筋を伸ばす。

 それが終わると弾かれたように立ち上がり、ブリーフィングルームへと向かった。




「来ましたね」


 すでにブリーフィングルームにはアルルを始めフリューゲルにいる主だったる面々が集まっている。


「……作戦については、前回決めた通りです」


 彼が席に着くのを確認するとアルルはそう前置きし、冥月を始めとした突入班に視線を向けた。


「冥月さんたちが研究施設でオットー=ティーネ・オフィルアスを制圧するのが作戦となります」


「そしてそれまでに多種多様な罠が設置されてる可能性が高いというわけだな」


 冥月の言葉にアルルは無言で頷くと、今度は突入班の後ろにいるベルゼルトにスサノオ、フォルネスの方に目を向ける。


「その間私たちはリバスアウルムにて研究施設の調査をします。フリューゲルでの指揮はベルゼルトさんにお願いしています」


 アルル、スサノオ、フォルネスはリバスアウルムに向かい、ベルゼルトが代わって指揮を執るらしい。

 難しい作戦には違いないが、準備に関してはアルルのおかげでスムーズに進んでいた。



「とにかくまずは生き延びること、冥月さん、あとはよろしくお願いします」



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「例の一味はいよいよこちらに攻めてくるようです」


 研究施設内部にあるティーネの私室、彼女は通信機に映し出されている何者かと会話をしていた。


「ですがご安心を、全ての汎用タンパク質を使用して制御集結態を用意しました。連中は施設の半分も行けずに全滅するかと思われます」


『侮りすぎですわね。オットー=ティーネ・オフィルアス』


 通信機から聞こえてきた声はどことなくティーネに似ていながらも、彼女よりもはるかに冷徹な声である。


『連中に何度煮え湯を呑まされたか、もう忘れたのかしら? だとしたら貴女の頭は鶏以下と言わざるをえませんわね』


 蔑むようなその声に、ティーネは額に青筋を浮かべた。王族たる彼女はこのような無礼極まりない言葉をぶつけられたことがないのである。


「……言わせておけば……!」


 瞬間ティーネは怒りに身を任せて右手から雷を放ち通信機を破壊した。


『意外と気が短いですわね』


 しかし通信機を破壊したにもかかわらず、今度は直接頭の中に声響いてきたため、ティーネは顔を真っ青に染める。


「っ! どこに……?」


 次の瞬間天井から大量の雷が降り注ぎ、かわす術がないティーネはそのまま全身に食らった。


「ぎああああああああ……!」


 威力は調整されているのか、瞬時に身体が焼き尽くされることはなかったが、そのために長々と苦痛を受ける羽目になり、ティーネは断末魔の叫びをあげる。


『忘れてはなりませんわよ? 貴女に力を、知識を与えたのはこの私ということ。貴女程度の存在いつでも片付けられるということを肝に銘じなさい』


「は、はい、申し訳ありません」


 よろよろと立ち上がると、ティーネは近くに置かれていた椅子に腰掛け、深く息を吐いた。


『まあ、これ以上あの麒麟族が調子に乗るのも面白くはありませんわね』


「ですがあの数の制御集結態でも御せないとなると、手がつけられないかと。オリンフィアも今は使えませんし……」


 もちろんティーネとしては制御集結態でどうにでもなると思っている。

 しかし下手なことを言えばまた機嫌を損ねてしまいそうなため、敢えてそう上申することにしたのだ。


『『超越者アイヌア』に不可能はありませんわ。貴女の子飼いのクローン兵たちに施された『制御因子リミッターを解除しておきます』


 『制御因子リミッター』と聞いてティーネの表情が気色ばむ。


「外側からそのようなことが可能なのですか?」


『ええ、本来なら無理でも私には出来ますわ。自立心を大幅に削ったクローンでは、『魔螂虫まろうちゅう』の成長を待つには時間がかかり過ぎますものね』


 この施設内にいるクローンの数は甚大、それら全てが『制御因子』を解除されることを想像し、ティーネはほくそ笑んだ。


「そうなれば『七識まなしき』の境地にある兵士が大量に私の傘下に入る。さすれば失地を取り返すことすら出来るかと……」


『不可能ではないでしょうが麒麟族を倒すまでは油断してはなりませんわよ?』


 咎めるような口調に一応ティーネは頭を下げたが、その口元には苛立ちが浮かぶ。


「……もちろんわかっています。奴らを見事討ち取ってご覧にいれます」


『ならば結構。貴女にはまだまだやってもらわねばならない仕事があります。麒麟族の末裔どもに手をかけている暇はないと自覚なさい』


 それだけ告げるとティーネは頭の中に潜んでいた気配がフッと消えるのを感じた。どうやらもう言うことはないらしい。


「……ふん、明らかに過剰戦力ですわね」


 ティーネとしては自分の手柄であるクローンに手を加えて欲しくなかったが、口答えすれば何をされるかわからない。


「……(まあ良いですわ。せいぜい利用させて貰おうかしら?)」


 気に食わないことだらけだが、戦力の補給に関しては迷惑というわけではなくむしろ好都合である。

 ならばいっそこの機会に与えられた戦力を利用し、戦況を立て直してしまうべきだ。


「来るなら来なさい冥月メイプル、私に楯突いたこと、必ず後悔させてやりますわ……!」


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