第六十三話「不死身のオリンフィア」
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謎めいた復活劇。
「やはり貴様か……」
現れた敵対者を見て流石の冥月も絶句するしかなかった。
「……オリンフィアよ」
四メートル近い巨体に鍛え抜かれた筋肉、身につけるのはわずかな布切れと金属質な胸当のみで、青灰色の異色な肌を惜しげなくさらした姿。目の前にいるのはまず間違いなくアラドラキアス郊外で撃破したオリンフィアである。
「……ん?」
しかしふと冥月は、不可思議な違和感に首を傾げていた。
どういうわけだかわからないが、オリンフィアの纏う理気の質が、少しばかり変わったような気がするのである。
理気の気配というものは一人一人で印象が異なり、一人の人間の細胞から生まれたであろうノリスのクローンたちでさえ全員違う気運の理気を秘めていた。
逆に言えば誰かの理気が違う気配を備えた理気に変わるというのはありえない
そう考えると理気の質が異なる彼女はオリンフィア本人ではなく、双子の姉妹か何かのような、そのような印象を受ける。
「確かにあの時お前は消滅させたと思っていたが……」
内面の疑念は外側に出さず、そのようなことを尋ねる冥月。あの戦いで内側から理力剣を放ったためオリンフィアの肉体はチリ一つ残らず消滅したはずだ。
どんな手段を用いたとしてもあそこから再生するのは不可能ではないか?
「鈍いなあ冥月よ。アタシは選ばれた民、お前を倒すまで何度だって蘇るんだよ!」
オリンフィアは手にした金属の棍棒で自分の肩を叩きながらニヤニヤと笑みを浮かべる。
「……死者を復活させることなど誰にも出来はしない。一体どうやって再生した?」
「はんっ! いちいちてめぇみたいな奴に話す筋合いはねぇよっ!」
次の瞬間その巨体に見合わないような恐ろしい速度で飛び上がると、オリンフィアは棍棒を振り上げて冥月に襲いかかった。
「っ! 話すつもりはないわけか……!」
即座に後ろへ下がって攻撃をかわすとともに、冥月は左手から雷を放ってオリンフィアを牽制する。
あくまでも牽制用に意識を集中せずに放った雷だったが、『七識』を越えた冥月の牽制は牽制にならず、オリンフィアの脇腹に傷を作った。
「ちっ! 雑魚虫は雑魚虫らしく大人しく死んどけってのっ!」
瞬時に理気で止血すると大振りな動きで棍棒を振り回すオリンフィア。これに対して冥月はその動きを掴むために攻撃を仕掛けることはせず、回避に専念する。
「……なるほど、動きに関しては先程よりも鋭くなっている。強化再生、というわけか……」
この短時間で完全な状態まで再生することも驚嘆すべきことかもしれないが、再生前よりも明らかに動きが良くなっているのもまた驚異的だ。
「ぎゃはははは……。逃げるだけかよ冥月、だらしねぇ奴だな」
攻撃してこない冥月を見て気分を良くしたのか、下卑た笑いを浮かべながらオリンフィアは棍棒を振り回す。
「……確かに強くなってはいる。しかし……」
次の瞬間、冥月は左手をかざすとともに理気を収束、理法念力でオリンフィアを突き飛ばした。
「ぐえっ!」
「他人を侮る悪癖は治っていないな」
素早く地面を蹴るとともにオリンフィアに肉薄し、彼女が起き上がる前に黒刃の剣をその腹部に突き立てて大地と縫い付ける。
「ぎあ……!」
なんとか剣を引き抜こうとするオリンフィアだったが、その前に冥月の理力剣が炸裂した。
「理力剣っ!」
収束された理気は瞬時に雷へと変換されてオリンフィアの肉体を内側から焼き尽くす。
「ぐああああああ……! ま、またしてもおおおおお……!」
断末魔の悲鳴を残してまたしても内側から理気の雷によって焼き尽くされ、オリンフィアは一瞬にして粉塵と化した。
「……戦った感じはオリンフィアそのものだったな。しかし……」
どうにも腑に落ちないことがいくつもある。一つは先程も考えていたように、肉体のかけらすら残さないほどに焼滅させたはずが、何故か完全に再生していたこと。
オリンフィアが冥月の知らない技術で再生された可能性もあるが、それにしてもあの状態から再生させるなど不可能な気がしてならない。
また、この短時間で再生を遂げ、さらにはリバスアウルムに現れたというのもおかしな点だ。
冥月がアラドラキアスでオリンフィアを倒してからまだ二十四時間も経ってはいない。
こんな短い期間で身体を再生させ、さらにはリバスアウルムに到着するなど、どれだけ早く動いたとしても無理ではないか?
さらにある疑問としては、前回使用したような蟷螂の怪物への変化を一切使わなかったこと。
変容しても冥月に押されていたのを覚えているならば、変容前なら圧倒されるのは目に見えている。
少しでも勝率を上げるために変容しそうなものだが、何故かしなかった。
しなかったのか出来なかったのかは不明だが、どうにも不自然な気がしてならない。
そして最大の謎が変わるはずのない理気の質が変わっていたことである。
オリンフィアが纏う理気は前回と今回では随分と質が異なるため、見た目と実力が同じ他人と戦ったかのような、そんな感覚すらあった。
傍目から見れば大きな変化でこそないが、本来変わるはずがないものが変わるのはなんとも不気味なものである。
「……(あまりにもおかしな点が多いな……)」
解き明かせない事象が多すぎるため、強敵を撃破した直後にもかかわらず冥月の顔は暗い。
「……ひとまず任務は達成したのだ。あとは……」
拠点を制圧したのならばやることは、留守番となる兵士たちを置いて各地を警戒させることだ。
そうは言っても現在リバスアウルム全域には冥月の落とした雷の影響で電磁波障害が発生しており、無線の使用は出来ないだろう。
「……ふむ、時間を開ける必要があるな」
しかしリバスアウルムを留守にしてまたクローン兵に奪い返されてしまえば苦労も水の泡。
万全を期すために冥月は電磁波の影響がなくなり、無線連絡が可能となりアラドラキアスから駐屯兵がくるまでは街にいることにした。
「……(さて、ならばその間やるべきことは……?)」
冥月の視線の先には公会堂の地下へと繋がる穴がある。ティーネが残した施設ならば、もしかするとオリンフィアがこの短期間で再生した謎もわかるかもしれない。
軽く頷くと、冥月は穴に身体を滑り込ませ、公会堂の地下へと進んでいった。
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リバスアウルムから離れた場所、北東に位置する新星都市エルリクムにある研究室では、ちょうどオットー=ティーネ・オフィルアスがクローンから報告を受けていた。
「何ですって? オリンフィアが?」
「はい、敵の手にかかって武運拙く……」
なにかの実験中にクローンの報告を受けたティーネは決して驚くような素振りは見せなかったが、意外そうな表情で何やら考えこむ。
「冥月の力は私の予想をはるかに上回るようですわね。まさかオリンフィアを幾度も退けるなんて……」
どこか他人事のようにそのようなことを言うティーネだったが、冥月の力に関しては興味が湧いたらしく、手元の端末に何らかのデータを入力した。
「……それにしてもおもしろいというか何というか、現在冥月の近くには莉乃とヴィルヘルミナがいると言ってましたわね?」
「はい、どうやら二人とも冥月の仲間だったようです」
厳密に言うならばヴィルヘルミナは元々冥月の仲間でも何でもないのだが、ティーネにしてみれば行動をともにしている時点でどちらでも構わない。
「莉乃とヴィルヘルミナの組み合わせも面白かったけど、これに冥月が加わるとなればさらに興味深いわね……」
「はい?」
ティーネの呟きはコマンダーには聞こえなかったらしい。
「いえ、何でもありませんわ。そうそうコマンダー、タイプΟとタイプΦの調整が終わっているから、今後のために必要な実戦データをとってきて」
「適当な拠点に派遣して、反抗勢力に当たらせますか?」
冥月ら以外にもラクィア大陸の各地で根強く反抗作戦を行う勢力は多い。
新戦力が入ったならば冥月らと連合される前に叩くべきというコマンダーの上申だったが、さほど迷うことなくティーネは却下する。
「いえ、アラドラキアスにぶつけなさい。新戦力だけでなく、ついでに冥月と莉乃、ヴィルヘルミナたちのより詳細なデータも取れれば御の字ですわね」
「了解しました。すぐに準備いたします」
敬礼してコマンダーが立ち去ると、ティーネは手元の端末を操作した。
しばらくすると研究室の一角が開き、地下へと繋がる階段が現れる。
「……理気に関してはそれなりに調整したつもりだったけど、冥月に対峙させるにはいささか足りなかったようですわね」
静かに階段を降りながらひとりごちるティーネ。彼女にとって見れば和人も爬人も、EMS人すらも研究資材でしかない。
「……いつの時代にもはねっかえりはいるものですけど、冥月たちに関しては群を抜いているかもしれませんわね」
階段の下に広がっていたのはティーネの保管庫。いくつもの貴重な品が納められている彼女しか立ち入れない場所だ。
「とにかく、しばらくはデータを取りたいところですわね。せっかくこのような場所に来れたことですし……」
彼女が歩く通路にも様々な品が並んでいるが、ティーネはそのうちの一つの前で足を止める。
「貴女にもまだまだ働いてもらいますわよ?」
ティーネが見る先にあるのは『N』とだけ書かれたラベルが隅にある二つのカプセル。緑の溶液に満たされたそこに納められているのは、人間の両手であった。
「さて、私の研究が終わるまでエルリクムにまで来られても困りますわね」
そのようなことを呟くティーネではあるが、真剣に困っているわけではないのかクスクスと笑みを浮かべる。
「さてさて、どうしたものかしら?」
笑みを浮かべつつ、戸棚に置かれた品を取り出すティーネ。
「……それにしても、見れば見るほど惚れ惚れする剣ね」
ティーネが手にしているものは青白い光を放つ諸刃の剣。シンプルな形状ではあるが、それ故に癖がない拵えをしていた。
「理気の伝達率も異様に高いですし、出来ればなんとか利用してみたいところですわね」
うっとりとした表情でティーネは剣を掲げる。その柄には五つの丸と月の図案を持つ目貫が取り付けられていた。




