第二十二話「運命との対峙」
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ようやく二十二話目、ボス戦、そして……?
現れたのは白衣に眼鏡をかけた美しい女性。長い金髪に美しい碧眼を備えたEMS人らしい姿の美女である。
「……ノリス・イェンセン……!」
機械戦車や集結態との戦いでは通信越しの会話で直接顔を合わせていないため、脱走時以来の再会ということだ。
「こうして会うのは久しぶりね冥月、いえメイプル……」
EMS人らしく見下すような表情でノリスは冥月、そして莉乃と清白を眺め、次いで膝をついているヴィルヘルミナと座り込むロベルトに視線を移す。
「……ふん、卑猩ごときに遅れをとるなんて、EMS貴族の面汚しね。帰ったら平民行きは確定かしら?」
「やめろノリス、この二人は必死に戦った」
冥月が敵であるはずのヴィルヘルミナとロベルトを庇い始めたため、ノリスは鼻を鳴らした。
「だから何? 要は結果が全てよ。目的を果たせなかったなら、それは単なる役立たずと同じことよ」
自分たちばかりか同族であるはずのロベルトらをせせら笑うように嘲るノリスに対して冥月の中で眠っていた感覚、すなわち怒りが目覚めそうになる。
「……ノリス・イェンセン、もうヴィルヘルミナは理解している。和人も爬人もない、我々は同じ人間なのだと」
何とか怒りを押し殺し、彼女を説得しようと冥月は言葉を紡いだ。
「もう辞めよう、互いに憎み合うことなど馬鹿げている。全てを水に流し、人類同士ともに前に進む道を探ろう」
「は、何を言い出すかと思えば……」
冥月の言葉にノリスは冷笑をたたえ、見下すように顎を上げる。
「あなたたち卑猩や隷爬は私たちのためにいる。私が死ねと言えば死に、必要があれば生かされる。それ以上の価値など不用、ましてや……」
じっと二人の言葉に耳を傾けていたロベルトとヴィルヘルミナにノリスは視線を向けた。
「卑猩や隷爬と同等に生きるなんてもっての他、下等生物は私たちを憎む権利すらないわ」
「……ノリス・イェンセン、それが貴様の答えか……!」
どうやら戦うしかないらしい。どのみちノリスを倒さねばここから脱出出来ないのだ。冥月が麒麟剣を引き抜くと、莉乃もまた戦斧を手に身構える。
「……清白、君はロベルトとヴィルヘルミナを守ってくれ、今の私では加減が難しい……」
冥月の言葉に頷くと清白は日本刀を具現化させ、ロベルトとヴィルヘルミナの前に立った。
「……ふうん、準備は出来たらしいわね」
上に羽織っていた白衣を脱ぎ捨てると、ノリスは両手から奇妙な音を響かせる。
「下等な卑猩ども、この私の芸術作品で屠殺されることを光栄に思いなさい」
ノリスが右手から放ったのはサイコランチャーと遜色ない威力の火炎弾。
すぐさま冥月と莉乃は攻撃をかわしたが、火炎弾を弾幕のようにばらまかれては接近することは難しい。
「ちっ! 物量によるゴリ押しか……!」
「あはははははは……苦しみなさいメイプル、貴方が苦しめば苦しむほどに私は愉快極まりないわ!」
火炎弾による攻撃を中断すると、今度は右の人差し指から炎の鞭を生成、遠距離からこれを伸ばして冥月に一撃を加えた。
「っ! あんな真似までできるのか……!」
「ほらほらほら、どうしたのかしら? 防戦一方じゃないの」
次々と振り下ろされる鞭、冥月と莉乃は回避しながらも、今まで見たことがない変則的な鞭の軌跡に微かに戸惑う。
「冥にい、何とかならないか?」
「……まずはあの鞭を無効化することが先決だな」
鞭の軌跡自体は非常に変則的なものだが、ノリス自身にも使いこなせてはいないらしく時折予想だにしない方向に先端があたることもあった。
付け入る隙があるとすれば、そこに存在するはずである。
「あの鞭、触れると思うか?……」
「案ずるな、奴が理気を使ったならこちらも理気で対処出来るはずだ」
ノリスの使用する鞭は反実体化している理気の武器、ならば同じように理気をぶつけてやれば干渉出来ると冥月は断じた。
「……そこか」
冥月は左手に理気を纏うとともにその動きを見切り、ノリスが嬉々として振り上げていた鞭の先端を掴み取る。
「ははは……はっ?!」
「動きは見切った。いつまでも同じような攻撃ばかりしているからだ」
力任せに鞭を引くと指先から鞭が生えた状態のノリスは引き摺られる形で冥月のほうに引き寄せられた。
「ちょっ!」
そのまま麒麟剣を返してノリスが飛来するタイミングを見定めると無言で彼女の腹部に柄頭の一撃を叩きこむ。
「……かはっ!」
血を吐いて跳ね飛ばされるノリスだったが、またしても冥月は鞭を引いて彼女を引き寄せた。
「ふんっ!」
今度は理気を纏った柄頭で顎を殴り飛ばす。あまりの痛みにノリスは苦悶の表情を浮かべ、息も絶え絶えになりながら地面に転がった。
「げほげほ……おえっ!」
口から血反吐を吐きながらも、何とか起き上がったノリスの瞳は怒りと憎しみに満ちている。
「よ、よくも、よくも下等な卑猩風情が私の顔を、お母様にも打たれたことがない私の美しい顔を……!」
「他人を虐げといてよく言うぜ……」
呆れ果てたように呟く莉乃だったが、冥月としても同じ気持ちだ。正直他人を攻撃することは愉快とは思えず、何が楽しいのか理解することは出来ない。
「貴様がこれまで多くの罪なき者たちにしてきたことが跳ね返ってきたのだ。これは貴様自身がまねいたこと、それから……」
静かに麒麟剣を諸手に持ち変えその切っ先をノリスに向ける冥月。
「我々は和人だ。卑猩ではない」
「き、貴様あああああああ……!」
膝をついたまま両手から理気による電撃を放つノリス。すぐさま冥月は刀身に理気を込めてこれを弾いた。
「……驚いたな。炎以外の属性攻撃も使えるのか……?」
「これこそEMSの叡智サイコハンド! 私の手は全ての属性攻撃を使いこなせるわっ!」
要するにロベルトのサイコランチャー同様自分の理気を外付けの機械で属性攻撃に変換しているというわけか。
大方ノリスの場合は自分の両手にそれを仕込んでいるのだろう。
「……なるほど、それは大した発明品だな」
「1対2でも構わないわよ? この私が貴様ら下等な卑猩に負けるわけないもの」
最初から莉乃も攻撃に巻き込んでおきながらよく言うと冥月は思ったものの、何も言わずに武器を構え直した。
「……んじゃ、お言葉に甘えるとするか」
すでに臨戦形態に入っていたらしい莉乃は軽く腕を伸ばすと地面を蹴り、凄まじい速度でノリスに肉薄する。
「は、はやっ!」
実戦経験に乏しいノリスには莉乃の動きを見切ることすら出来ない。慌てて理気の障壁を張ろうとするも、間に合わず斧の柄による一撃をまともに食らった。
「ぐあっ!」
またしても血を吐きながら地面を転がるノリスに対して、莉乃の方は意外そうに目を細める。
「……これが、EMS貴族の正体か?」
激しく咳き込みながらもなんとか立ち上がったノリスの姿は泥にまみれ、整っていた顔立ちも苦痛と屈辱に歪む醜悪なものに変わっていた。
「俺たちと、どこが違うっていうんだ?」
「おのれ、おのれ、卑猩ごときが、下等な家畜ごときが……!」
絶叫しながら雷や炎、風といった属性攻撃を次々と乱打するノリス。
だがそれらの攻撃はかつて戦った集結態の弾幕にすらも劣るような、遥かに弱々しいものであり、今の冥月たちにとっては簡単に防御出来るような火力でしかない。
「こ、これは何かの間違いよ。EMS貴族であり元老院議長の妹であるこの私が、下等な卑猩どもにコケにされるなんて……!」
何やら喚き散らしながら攻撃を続けるノリスに対して、冥月と莉乃は淡々とこちらに向けられた属性攻撃に対処し続ける。
暴走気味のノリスの攻撃はロベルトやヴィルヘルミナの方にも飛来していたが、それらも清白が簡単に防御していた。
つまり精神の均衡を崩した今のノリスの力は、ついさっき理気を扱えるようになった清白よりも下ということである。
「……冥にい」
「ああ、こんなことは長く続かないだろうな」
実際すでにノリスは息切れをし始めており、後先考えずに理気を放ち過ぎた結果威力そのものも弱り始めていた。
「っ! はあ、はあ……。ひ、卑猩が、私よりも劣った、そ、存在が……!」
息を荒げながらも尚も属性攻撃を放とうとするノリスだったが、この短期間に放ち過ぎたためか理気の収束すら出来ず、両手からは微かな煙が立ち上るのみ。
「……そろそろだな」
冥月はそう呟くと、驚愕の表情で何度も属性攻撃を試みようとするノリスを理法念力で一気に引き寄せる。
「なっ! あっ!?」
「これで終わりだ」
飛来したノリス目掛けて麒麟剣を振り下ろす冥月。しかし寸でのところで彼女は強引に姿勢を変えたために、頭を割き絶命させるはずだった剣はノリスの片足を切り落とすにとどまった。
「ぎゃああああああああああああああ……!」
あまりの痛みに絶叫しながら地面に叩きつけられたノリスは、血だまりの中で身体を悶える。
「……終わりだな」
こうなっては最早戦いを続けることは出来まい。冷めた表情で剣を納めようとする冥月だったが、異様な気配を感じ剣を構え直した。
「……(何だ? この異質な理気は……)」
その直後切断したはずのノリスの足の断面から無数の筋繊維が伸び、すぐ近くに落ちていた片足に接続される。
「はあはあ……あ?」
そのまま欠損したはずの片足はノリスの足に接合され、切断された血管すらも修復されたのかさっきまで青白い肌であった足がたちどころに元の色に戻った。
「なんだあの力は、理気による再生とは明らかに違うぞ……?」
しかも冥月の感じた異質な気配は消えることなく徐々に高まっており、莉乃も不快そうに眉をひそめている。
「ふ、ふふふふ……。や、やはり貴様らでは私を殺すことなど出来ないのよ……!」
何が起きたのかまるでわからないのはノリスも同じだったが痛みも消え、足も修復されたために得意げに立ち上がった。
「ちっ! 骨が折れそうだな……!」
斧を構え直す莉乃だったが、冥月の方は後方で戦いの推移を見守っていたロベルトに視線を向ける。
「の、ノリス……?」
明らかに動揺するその姿から冥月は確信した。あれは理気による再生でもEMSの技術による治療でもない。
全く未知の、しかも明らかに人間にとって異質な別次元の力。
「ノリス・イェンセン、貴様は一体……?」
「ふ、ふふふふ……。私はEMS貴族、貴様らよりも上位の……あぐっ!」
調子に乗って饒舌に何ごとかを語ろうとしたノリスの身体が突如として歪む。骨格的に歪んだわけでもなければ、肉体が変異したわけでもない。
まるで何者かが彼女の意思に関係なく、肉体に通う神経を通して身体を動かしているかのようだ。
「な、に……? わ、わた、私の身体が……ああっ!」
バキバキと微かな音が鳴り、ノリスの身体が操り人形か何かのように関節を無視した動きをし始める。
「い、いや……頭に……誰か、あががががが……」
明らかに身体に異常が起きているにも関わらず、ノリスに痛みはないのか表情は青ざめてこそいるが苦悶のものはない。
「あ、ああああ、私が、消えて……た、助け……パウ、おねえ……」
ぐりんとノリスの瞳が回転し、白目を剥くとともに彼女はだらんとその場に倒れ伏した。
明らかにただならぬ事態が起きているが、どうやらこの場には説明出来る者はいないらしく皆呆然としている。
「ど、どうなってやがる?」
ようやく莉乃はそう呟いたが、先程感じていた嫌な気配が一気に強まるのを感じ冥月は眉を釣り上げた。
「……何だ、この奇怪な気配はっ!?」
瞬間ノリスはゆらりと、操り人形のような力ない動きで立ち上がる。
だが黒に変じたその瞳は二つともあらぬ方向を向いており、異様な粘液にまみれた口元も拭おうとせず首も傾いたままだ。
「……まだ気は抜けないらしい、な……」




