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麒麟将  作者: 花鏡
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第二十話「真実」

おかげさまで二十話目です。今後ともよろしくお願いします。




「……ぐうっ!」


 サイコランチャーを弾き飛ばされ、麒麟剣を突きつけられるロベルト。その表情は信じられないという想いと敗北の屈辱が入り混じった複雑なものをしていた。


「勝負あったな、ロベルト・イェンセン」


 静かに剣の切っ先を外して鞘に納めると、冥月は正面からロベルトを見据える。


「ノリスの秘書ロベルト、あの日私に何をしたのか、お前の知っていることを話してもらうぞ?」


「……まあ、いいでしょう」


 ようやく観念したのかロベルトはゆっくり身を起こしてその場に座り込み、口を開いた。


「被験体009、すなわち貴方に施した実験は『メイプル』と呼ばれている化石を接続するためのものでした」


 出処に関してはあまりはっきりしないものの『禁足地』と呼ばれ、EMS人すらも近づくことを忌むような場所から発掘された化石らしい。


「各地に『禁足地』と呼ばれる場所は存在しますが、これまで女王陛下の命令で調査許可はされませんでした。それを認可させたのが帝国宰相、クララ・ガドウィン卿です」


 かくしてヴァスティーユ市の郊外、遥か昔には爬人の聖地と呼ばれた禁足地の一つを発掘調査した結果、メイプルと呼ばれる異形の化石が見つかったとのこと。


「メイプルは信じられないほどに強い理気を秘めており、クララ様とノリスの師ティーネ様はこれを利用して生まれつき理気を持たないEMS人の治療に使えないかと考えました。そこで……」


「実験として我々が使われることになった、と……?」


 ゲネシスソイミートタワーで見たように和人は人体実験にも使われる。研究に使うために無造作にモルモットが選ばれ、その中に冥月がいたのは想像するに難しくはない。


「……去勢された者や脳改造ロボトミー処置により自我を削られた者も接続実験には使われましたが、そういう者はみなネクロスどころか内側から弾け飛び死亡しました。成功したのは九番目の五体満足な個体、貴方だけです」


 そしてどういうわけだか理気を操る力を得て研究室から脱出、その後莉乃と出会い現在に至るというわけだ。


 だが一つだけわからないことがある。否、なんとなく察していたことだがこれまで確信出来なかったことだ。


「……一つ訊ねるが、集められた和人たちは無作為に集められたのか?」


 なぜこのようなことを訊ねるのか理解できないとばかりにロベルトは首をかしげたが、冥月の持つ剣がこちらを向いているのを思い出したのか、すぐさま口を開く。


「無論です。貴方がどこの誰かは知りませんが、養殖領ヤーハン、つまり大半はノリスの所領から集められました。もっとも、在庫処分とばかりに各地で捕獲された卑猩も相当数混じってましたがね……」


 これではっきりした。何故冥月は自分のことをほとんど思い出せないのか、何故身体が若返っているのかが。


「……(つまり私はあの地震ですでに死んでいた。そしてこの世界に転生し、メイプルとやらの影響で前世の記憶を取り戻したということか……)」


 生まれてから記憶を取り戻すまでこの世界で何をしていたのかは不透明だが恐らくかつての莉乃同様家畜同然に暮らし、EMS人を盲信していたのだろう。


「……(だがまあそんなことは良い、大切なことはこれから何を成すか、だ)」


 これまでは別の世界の記憶を持つが故にEMS人のことも和人や爬人のことも、どこか距離を引いて考えるべきだと考えていた。

 あくまでも当事者たるこの世界の人間が解決することであり、異世界人たる自分の価値観で測るのは独善的だと考えていたからである。

 しかし中身はともかく肉体がこの世界のものであるならば、自分もまた世界をよりよくするための義務を背負っているのではないのか?

 そのための前世の価値観、そのための能力、もしそうだとすれば自分は……。


「……訊きたいことは以上ですか?」


 冥月がずっと黙って考え込んでいたために痺れを切らしたのか、ロベルトは冷淡に言い放った。


「……もう一つ訊きたい、そのメイプルとやらのことだ。なんの化石だ?」


 考えるのは後回しにするべきであろう。とにかく今は目の前のことに集中しようと、冥月は自分に言い聞かせ、さらなる問いをロベルトに投げつけた。

 禁足地から発掘されたかの化石はEMSでもまだ解明されておらず、接続実験成功後は忽然と消えたらしい。

 ならばあの化石が何なのかはロベルトも知らないのかもしれないと冥月は思ったが、意外なことに彼は頷いてみせる。


「パウリナはあの化石をひと目見て『麒麟族』と呼んでいました。聞いたことのない種族ですが、彼女はあれが何か知っているようです」


 メイプルは麒麟族とやらの化石、そして冥月の剣に刻まれた紋章と麒麟像が残る神殿、セザンヌが調べていた爬人の先祖。


「……(そうか、そういうことか……)」


 今全てが繋がった。爬人とは恐らく和人と高次元生命体、麒麟族と呼ばれる者たちとの混血。

 そのため和人に近い見た目をしながらも爬人たちには爬虫類、否麒麟を思わせるような身体的な特徴が色濃く残っているのである。


 そして神殿に刻まれ、冥月の剣にも現れたあの紋章は爬人の先祖たる麒麟族由来の紋章、だからこそセザンヌが爬人所縁の地を調査した際はあちこちで見られたのだ。


「……なるほど、そういうことだったのか……」


「……よくわかりませんが、納得されたようですね」


 ロベルトは興味なさそうにそう呟くと、微かに嘆息し自嘲するような笑みを浮かべる。


「では、いい加減私の首を刎ねてもらえませんか?」


「……何だと?」


 想像だにしない言葉に目を見開く冥月。ロベルトのような怜悧冷徹な者が自ら死を選ぶとは思わなかったのだ。


「これほどの失態をしたのなら平民落ちは免れません。そんな目に遭うくらいならば死を選びます」


 平民落ち、貴族でなくなるということがそれほどまでに苦痛だというのか。


「どうしました? 私は先程まで貴方の命を狙った相手、遠慮なくどうぞ?」


 どうやらロベルトは本気らしい。抵抗する意思も見せずに冥月に首を差し出す。


「卑猩、否和人に首を切られてなんとも思わないのか?」


「思いません。死んだ後のことなど興味もありませんね」


 問答無用とばかりにロベルトは目を閉じて剣が振り下ろされるのを待った。


「……捨てるつもりならばその命、私に預けてみないか?」


 冥月の意外な提案にロベルトは興味をそそられたのか、固く閉じていた瞳を開く。


「……私はEMS人、貴方にとっては敵、さっきまで命のやり取りをしていた相手です。それにネクロス集結態に殺されかけたことをもうお忘れですか……?」


「……だが今は死のうとしている。貴君ほどの人材を犬死にさせるのは大きな損失だ」


 損失と言われてロベルトの瞳に不可思議な光が宿った。哀れみをかけられた時の屈辱に耐えるものでも、ましてや怒りに燃えるものでもない。


「……やれやれ、貴方の甘さ加減に呆れて死ぬ気も失せました」


 ゆっくり立ち上がるとロベルトはなんの感情も見えないような冷徹な表情で冥月を見つめる。


「私は貴方と行くつもりはありません。ですが一つ良いことを教えて差し上げましょう」


 チラッと先程莉乃と清白が走っていった方向を一度だけ見るとロベルトはポケットから小さな端末を取り出して操作、道を塞いでいた光の壁を解除して見せた。


「貴方のお連れが進んだ方向は確かに出口の方向ですが、最新型の生体兵器が配備されています。果たしてお二人で勝てますかね?」


「生体兵器、まさか集結態かっ!?」


 ゲネシスソイミートタワーのあるエリアAで戦った相手、恐るべき理気と自己再生、進化能力は今の冥月でも勝てるかわからない。


「さあ? 道は通ったのですから、気になるようならお急ぎ下さい。それに今この場所にはヴィルヘルミナ大佐にノリスもいます。簡単に抜けられるとは思わぬことです」


 場合によっては状況を撹乱させるための嘘とも考えられる。しかし相手は先程まで死のうとしていた人間、今更そんな真似をしてもメリットはない。

 それに今のロベルトは、少なくとも冥月と敵対するつもりはないようなそんな気がした。


「……失礼する」


 すぐさま冥月は走り始めたが、ロベルトは追いかけることもせずにただ見送る。


「……冥月、か。あんな者が現れるとは、まだまだ私も死ねませんね……」



_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/



 冥月がロベルトとの戦いを終えたほぼ同じ時刻、先行した二人とネクロアクアスとの死闘もまた佳境に入っていた。



「……さすがは集結態の最新型と言える実力じゃな」


 大刀を手に暴れ回るネクロアクアス、その凄まじい実力は確かに脅威といえよう。

 しかし清白は必ず付け入る隙はあると見ており、鋭い目でその動きを見極めんとしていた。


「……冥月がいない中ここまで食い下がるのはさすがと言おう、しかし……」


 ヴィルヘルミナの言葉にネクロアクアスは雄叫びをあげて莉乃に斬りかかる。


「……ふんっ!」


 すぐさま戦斧でネクロアクアスの一撃を受け止めるとともに理力剣を発動、その巨体を弾き飛ばした。


「ちっ! あいかわらずのバケモンぶりだな」


 莉乃の一撃はネクロアクアスの両手を焼滅させる威力だったが、後方に着地するとともにその腕は再生されている。


「貴様らではネクロアクアスを打ち滅ぼすことは出来ん」


 ヴィルヘルミナの言葉の通りだ。ネクロアクアスは宝珠を得てより戦闘に特化した集結態。

 コンパクトになった分巨体を生かした戦い方こそ出来ないものの、その理気は衰えてなどおらずむしろより洗練されたものに進化していた。

 しかも制御出来なかった集結態とは違い、ネクロアクアスはヴィルヘルミナに忠実に動くという点でも進化した相手と言える。


「……ヴィルヘルミナ、確かにお前の言う通りかもしれねぇよ。けどな……!」


 戦斧を振りかぶり、莉乃は上段の構えをとりネクロアクアスを睨みつけた。


「だからと言って自分から勝敗を諦める奴が生き延びれるわけねぇだろうがっ!」


 前回集結態を倒した際には冥月が囮となり、その隙に首を落とすことでなんとか勝利を得た。

 だが今回二人だけでは同じような作戦は実行出来ないことは明白、すなわち違う方法を考えねば勝ち目はないだろう。


「……(待てよ、確か冥にいは強いイメージとか言ってたっけな?)」


 前回集結態と戦った際にはなかった指輪、これを最大限にまで活かせれば一人でも勝てるかもしれない。


「……よし」


「莉乃、何か手はあるのか?」


 心配そうな清白の言葉に莉乃はすぐさま首を振ってみせた。


「ない!」


「な、なんじゃと?」


 さすがに慌てふためく清白だったが、莉乃のほうは堂々としたもので、とても無策な人間の姿には見えない。


「けど、試したいことはある」


 理力剣で一気に決めるつもりなのか、両腕を再生仕切るとともにネクロアクアスは大刀に理気を込めて大上段に振りかぶる。


「……今だっ!」


 地面を蹴り、ネクロアクアスに肉薄するとともに、莉乃は理気を込めた戦斧を振るい直接両腕を狙った。


「馬鹿め、ネクロアクアスの力を忘れたか? そこまで肉薄すれば、たとえ腕を切り飛ばしても瞬時に属性攻撃を受ける羽目になるぞ」


 ヴィルヘルミナの言う通り、腕を切り落として事前に理力剣の発動を防げたとしても次の瞬間にはネクロアクアスの属性攻撃が莉乃を襲う。

 かと言って先にネクロアクアス本体に理力剣を命中させた場合、すでに限界まで理気を収束させている以上莉乃の理力剣が発動する前に至近距離からカウンターを受ける羽目になるのは間違いなかった。


 つまりは完全なる自爆行為、良くて相打ちにしかならない一か八かにかけた攻撃である。


「理力剣っ!」


 莉乃の放った理力剣は炎の刃となってネクロアクアスの両手を切断、同時にその手を瞬時に焼滅させた。


「愚か者め、理力剣を封じたところでそこまで近づいては逃げ場はない。ネクロアクアスの属性攻撃を思い知るが良い」


 勝利を確信するヴィルヘルミナ、しかしいつまでたってもネクロアクアスは属性攻撃をしようとはせず、莉乃もまた無傷なままである。


「どうした? 何故動かん……」


 ヴィルヘルミナが訝しんだ瞬間、ネクロアクアスの全身に葉脈のような光のヒビが走りその身を内側から完全に焼滅させた。


「な、なんだと……?」


 慄くヴィルヘルミナの前で静かにネクロアクアスのいた地点を見つめる莉乃の左右の手には外見が全く同じふた振りの斧が握られている。


「二刀流ならぬ、二斧流、じゃと……?」


 驚きを隠せず呆然と呟く清白に信じられないとばかりに目を見開くヴィルヘルミナ。


「……片方でネクロアクアスの両手を斬り、次の瞬間には直接本体に理力剣を叩き込んでいたというのか……!」


「そう言うこった! 残念だったな、ヴィルヘルミナ!」


 得意げに胸を張る莉乃だったが複数個斧を具現化させられるという保障もなく、一撃でネクロアクアスを倒せるかどうかも分からなかったため、焦りからか額にはじっとりと汗をかいていた。


「……(あ、あっぶねぇ、少しでもイメージと違ったら不味かったな)」


「だがさすがに消耗はしているだろう、今ならば満足に戦うことは出来まい!」


 薙刀を手に前に出ると、その身に暴風を纏うヴィルヘルミナ。

 いかに絶大な力を持つ宝珠の加護があろうと消耗した状態では苦戦は免れないだろう。


「……いや、お主と戦うのは莉乃ではない」


 静かに前に出ると、清白は上から落ちてきた青い宝珠を掴み取った。


「この儂じゃ!」





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