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深夜の襲撃と、不死者の王の夜宴

深夜二時。女子寮『白百合館』は、静寂のなかにあった。

だが、俺――女装美少女「ルシア」としてベッドに入っていたルクスは、突如として宿舎を包み込んだ異様な魔力の波長に、スッと目を覚ました。


「きゅ、きゅぅ……」

枕元でスライムが形を鋭く尖らせ、侵入者の気配を告げる。


「(来たな……。教官たちが張っていた結界が、完全に無効化されている。魔族の仕業か)」


隣のベッドを見れば、アリアが健やかな寝息を立てている。だが、もう一人の同居人である聖女セレティナは、すでにベッドから起き上がり、昏い瞳で俺を見つめていた。精神リンクで危機を察知していたのだ。


『ルクス様、害虫どもが女子寮の庭園に転移してきました。その数、およそ五十。すべて高位の魔族兵です』

『ご苦労、セレティナ。アリアを起こさないように、静かに片付けるぞ』


俺はシーツを跳ね除け、身に纏っている『幻影の至衣』の偽装出力を維持したまま、バルコニーから夜の庭園へと音もなく飛び降りた。セレティナも法衣を翻してそれに続く。


深夜の庭園。月明かりに照らされた芝生の上に、漆黒の外套を羽織った魔族の集団が蠢いていた。その中心に立つ男の顔を、俺は物陰から【鑑定】する。


【名前】 ガルザ(??)

【種族】 魔族(『強欲』の眷属・討伐隊長)

【危険度】 A級

【目的】 アヴァロン学園の有望な新入生(特に聖女や大貴族)の暗殺、およびレルエの安否確認。


「チッ、レルエの信号が途絶えたと思えば……。だが好都合だ。この女子寮を丸ごと血の海にして、人間に絶望を植え付けてやる。まずは聖女の部屋から――」


「あら、夜這いにしては大層な人数ですことね、お客様?」


凛としたルシアの鈴を転がすような声が、夜の静寂に響き渡る。

魔族の兵たちが一斉に色めき立ち、ガルザが鋭い視線をこちらに向けた。


「誰だ……!? 貴様、人間の学生か。ふん、自ら殺されに来るとはな!」

ガルザが手を挙げると、十数人の魔族兵が抜き身の刃を構え、俺たちを目がけて突風のごとく肉薄してくる。魔族特有の濃密な「闇属性」の魔力が、夜気を肌がヒリつくほどに汚染していく。


「ルクス様、私が焼き尽くしましょうか?」

セレティナが表向きの聖女の微笑みを浮かべながら、裏ではドス黒い殺意の魔力を指先に集める。


「いいえ、セレティナ。今回は君の『光属性』も、彼らの『闇属性』も使わない。――こいつらで、新しく手に入れた召喚獣の威力をテストする」


俺は不敵に微笑むと、女声をやめ、周囲の空気を圧壊させるほどの低い「男の声」で、地面の影へと命じた。


「来い。――【リッチ】。そして、庭の防衛はお前に任せる、【ガーゴイル】」


ゴォオオオオッ!


突如、庭園の周囲に配置されていた美しき石像ガーゴイルたちが、バリバリと石の殻を破って生命を宿し、巨大な怪鳥の如き姿で魔族兵たちへと襲いかかった。

さらに、俺の足元から噴き出した圧倒的な死の魔力の中から、漆黒のローブを纏った骸骨の王――【リッチ】が、その巨大な姿を現す。


「なっ……リッチだと!? 不死者の王を、なぜ人間の子供が従えている!?」

ガルザが驚愕に顔を歪める。


「消えろ」

俺の冷酷な一言と共に、リッチが手にした骸骨の杖を地面に突き立てた。


極大の死霊魔術――『デス・センテンス』。


一瞬にして庭園全体が、生命の存在を許さない絶対的な「死の領域」へと変わる。

「ぎゃああああああっ!?」

襲いかかってきた魔族兵たちが、リッチの放つ圧倒的な死の波動に触れた瞬間、肉体から魂を強引に引き抜かれ、塵となって次々と消滅していった。A級の魔族兵たちが、悲鳴を上げる間もなく一瞬でゴミのように処理されていく。


「バ、バケモノめ……! 『強欲』の盟主様が黙っていないぞ……!」

恐怖で腰を抜かし、這いつくばる隊長のガルザ。


俺はリッチの影から静かに歩み出ると、ひざまずくガルザの脳天に、冷たい【洗脳の魔眼】の光を至近距離から突き刺した。


「お前の『強欲』の盟主とやらに伝えておけ。アヴァロン学園の女の子(お嫁さん)たちに手を出すな、とな。――お前はこれから魔族の国に戻り、俺の忠実な猟犬として、次の大罪の動向を俺に報告するんだ」


「あ、ああ、あ……っ!」

ガルザの瞳がドロドロの昏い紫色に変色し、完全に俺の支配下へと下る。


【ログ】 魔族兵隊長ガルザの逆洗脳・従属化が完了しました。


「さあ、お寝坊さんのクラスメイトたちが起きる前に、お帰り」

「御意のままに……我が偉大なる主(皇帝)よ……」

ガルザは魂を抜かれたような顔で、残った数人の部下と共に、夜の闇へと這うように転移して去っていった。


「ふぅ。片付いたな」

俺が一瞬で可憐な美少女ルシアの姿に戻ると、隣にいた聖女セレティナが、我慢の限界といった様子で俺の背中にがっしりと抱きついてきた。


「ルクス様……今の圧倒的な強さ、ゾクゾクいたしました……。あの虫ケラどもを消し去るお姿、まさに私の唯一の神様です……っ」

『幻影の至衣』越しに、セレティナの熱い体温と柔らかい感触が伝わってくる。


「(まあ、たまにはこういう夜のデート(片付け)も悪くないな)」


俺はセレティナの銀髪を優しく撫でながら、静まり返った女子寮を見上げた。

魔族の襲撃を裏で完璧に迎撃し、さらに敵国への強力な内通者をまた一人増やした。


世界征服を企む『7つの大罪』。

だが、彼らがアヴァロン学園を落とそうと躍起になればなるほど、その刺客はすべて俺の『皇帝の軍勢』の一部へと書き換えられていくのだった。

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