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魔法科の傲慢と、氷の微笑み

午後の授業は、運動場に併設された対人演習場での「魔獣使い科」と「魔法科」の合同模擬戦だった。

広大な敷地には、魔法科の生徒たちが放つ火や水の元素魔力が飛び交い、華やかながらもピリついた空気が漂っている。


「あら、そこにいるのは地下迷宮でちょっと運が良かっただけの、魔獣使い科の『ルシア』さんじゃない?」


聞き覚えのある高飛車な声に振り向くと、数人の取り巻きを連れた青い髪の少女が、侮蔑の笑みを浮かべてこちらを見下ろしていた。


【名前】 エレノア・フォン・アクアリア(14)

【クラス】 魔法科・水属性

【身分】 名門貴族の令嬢

【好感度】 -15(見下し・嫉妬)

【思考ログ】 『フランチェスカ様や聖女様が、あんな素性の知れない平民上がりの養女に現を抜かすなんて反吐が出るわ。私の美しい水魔法で、あの生意気な顔をグショグショに濡らして恥をかかせてやるわ!』


(なるほど。フランチェスカやセレティナが俺にベタ惚れなのが気に入らない、名門のお嬢様か)


俺の【鑑定】は、彼女の水属性魔力の質が極めて高いこと、そして実家のアクアリア家が「人間の大陸」の海上貿易に強い影響力を持つ大貴族であることを見抜いていた。


(水属性の超エリート、かつ海上ルートを持つ名門……。第3部の『10の島国編』へ進出するときの、完璧な踏み台(お嫁さん候補)を見つけたな)


「ご機嫌よう、エレノア様。私のような不調法な者にお声をかけていただき、光栄ですわ」

俺はあえて気弱な風を装い、一歩下がって怯えてみせる。


「ふん、口先だけは一丁前ね。魔獣使い科なんて、野蛮な獣や汚いスライムを泥まみれで育てるだけの落ちこぼれ。名門アクアリアの魔法とどちらが上か、この模擬戦で白黒つけてあげるわ!」


エレノアが杖を突きつけると、彼女の周囲に無数の鋭利な氷の槍が形成された。キィン、と凍てつく魔力が大気を震わせる。


「ルシア様、下がってください! 私が――」

アリアが激昂して剣を抜こうとするが、俺はそっとその肩を手で制した。


「大丈夫ですわ、アリア様。……エレノア様、私のような者でよろしければ、お相手いたします」

俺は足元に、いつもの丸いスライムをぽんと置いた。「きゅ、きゅぅ」と頼りなく鳴くスライムを見て、エレノアの取り巻きたちが一斉に嘲笑する。


「あはは! 本気? そんな濁った水バケツみたいなゴミで、私の氷結魔法を受ける気?」

エレノアが容赦なく杖を振り下ろす。

「消えなさい! 『アイシクル・レイ』!」


猛烈な勢いで放たれた十数本の氷の槍が、俺たちを目がけて殺到する。常人なら肉片も残らないであろう、新入生の枠を超えた容赦のない一撃。


だが、俺の口元は裏で小さく、愉悦に歪んでいた。

「(吸い尽くせ、相棒)」

誰にも聞こえない超低音の「男の声」の合図。


ベチャァァァン!!


「え……?」

エレノアの笑みが凍りついた。

突如、俺の前でスライムが爆発的に巨大化し、ゼリー状の巨大な防壁となってすべての氷の槍を正面から受け止めたのだ。それだけではない。氷の槍はスライムの体内にめり込んだ瞬間、その凄まじい魔力ごとドロドロに融解し、ただの「水分」として吸収されてしまった。


主人の魔力を吸って無限に変異する神話級のスライムにとって、純度の高い水属性の魔力など、極上の栄養ドリンクに過ぎない。


「嘘……私の最高火力の魔法が、スライムごときに……!?」

驚愕し、パニックに陥るエレノア。


「お返しですわ、エレノア様」

俺はルシアとしての可憐な笑みを浮かべたまま、一歩前へ踏み出し、エレノアの目線を正面から捉えた。


【洗脳の魔眼】――発動。


俺の瞳が、妖艶な紫色の輝きを放ち、エレノアの網膜を通じて彼女の脳へと直接侵入する。

傲慢な彼女の精神の、最も脆い部分――「完璧な自分でありたい」という強迫観念をドロドロに融解させ、そこに『ルシアという絶対的な存在への恐怖と悦び』を深く、深く刻み込んでいく。


「あ……、ひ、あ……ッ」

エレノアの杖が手からこぼれ落ち、地面にカラリと音を立てた。

彼女の美しい青い瞳が、俺の魔力と同じ昏い紫色に一瞬で染まり、その場でガクガクと膝をつく。


【エレノアのステータス変化】

状態:洗脳/【クラスメイト召喚契約・完了】

好感度:【測定不能(傲慢な令嬢の完全屈服)】

思考ログ:『冷たい……身体の奥が、ルシア様の魔力で満たされていく……っ。ああ、私はなんて無力なの……。このお方に、すべてを捧げて踏みにじられたい……!』


(よし、水属性の女王も完全に従属完了だ。これでアクアリア家の権益も俺の財布に入ったな)


「あら、エレノア様? 急に体調を崩されたのですか? 大丈夫ですわ、私がついていますからね」

俺はひざまずくエレノアの冷たい頬に優しく手を添え、まるで聖母のように微笑みかけた。


「はひ……ぅ、ルシア、様……。ごめんなさ、い……愛して、おります……」

取り巻きたちが呆然と見守る中、名門貴族のプライドを完璧にへし折られたエレノアは、涙目を潤ませながら俺のスカートの裾をぎゅっと握りしめ、恍惚の表情で頬ずりを始めたのだった。


「さすがルシア様! 敵をも慈しむそのお心、アリアは一生ついていきます!」

後ろでアリアがまたしても勘違いして感動している。


その時、俺の脳内に、影に潜むレルエからの緊迫した念話が飛び込んできた。

『(ルクス様、大変です……! 「7つの大罪」の刺客が、学園の結界の隙間を完全に補足しました。今夜、女子寮が襲撃されます!)』


(ほう、いよいよ来たか、魔族の軍勢)


俺はエレノアの青い髪を愛おしげに撫でながら、心の中で狂おしいほどの笑みを浮かべた。


「お膳立ては整った。さあ、俺の可愛いお嫁さんたちを脅かす害虫どもを、今夜は盛大に駆除してやるとするか」

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