ライバルの影と、嵐の予感
アヴァロン学園の生活にも慣れ、俺の裏の支配(ハーレム構築)は順調そのものだった。
大貴族のフランチェスカからは公爵家の秘密の物流ルートを譲り受け、聖女セレティナからは教会の内部情報を吸い上げ、魔族のレルエからは敵国の動向を監視させる。
昼は気弱で可憐な美少女「ルシア」、夜は女子寮のベッドで彼女たちを貪る主神「ルクス」。まさに完璧な二重生活だ。
だが、そんなある日の昼下がり。学園の食堂でアリアと並んでオムレツを突っついていると、周囲の女子生徒たちが一斉にざわつき始めた。
「ねえ、聞いた!? 本国からの緊急速報!」
「勇者アレン様のパーティーが、人間の大陸の南端にある『灼熱の火山迷宮』を完全攻略したんですって!」
「まだ14歳なのにSランクって、やっぱり本物の英雄は次元が違うわね……!」
食堂の魔導スクリーンの映像に、一人の少年が映し出される。
眩いばかりの金髪に、正義感に満ちた真っ直ぐな瞳。手には神々しい光を放つ聖剣。
画面の向こうで大勢の民衆に歓声で迎えられているその少年は、俺と全く同い年の幼馴染――アレンだった。
「凄いですね、ルシア様。勇者アレン様は、私たちの同世代の星です。いつか私も、あんな風に世界を救う立派な騎士になりたいです!」
アリアが目を輝かせてスクリーンを見つめている。
「まあ、本当に素晴らしい英雄様ですわね」
俺はルシアとしての可憐な声を出しながら、心の中でクスリと笑った。
(相変わらず表舞台でガチャガチャと目立つのが好きな奴だな、アレン。……まあ、【鑑定】してやるか)
俺は画面越しに、遠く離れた幼馴染のステータスに視線を走らせた。
【名前】 アレン(14)
【クラス】 勇者科(休学中・世界遠征中)
【称号】 人類最強の勇者(Sランク)
【スキル】 『聖剣術・極』『光神の加護』『絶対正義』
【備考】 主人公とは幼馴染にして生涯のライバル。現在、魔族の大国に対抗すべく世界を奔走中。
ステータスはバグレベルに高い。さすがは正統派チートの勇者だ。
だが、俺の【鑑定】は、彼が命がけで攻略したという『火山迷宮』の、さらに奥にある情報までを見抜いていた。
(あいつ、火山迷宮の一番大事な『隠し最深部』を見落としてやがるな。アレンが倒したのはただのボスだ。その裏にある本物の国宝級チートアイテム――無限の熱源エネルギーを生み出す『永久熱源の心臓』がまだ眠ったままだぞ)
勇者は世界を救うために前だけを見て突き進む。だから、足元の細かいお宝や、利権には目もくれない。
(アレン、お前が世界を救うために命をかけて火山のボスを間引いてくれたおかげで、俺は安全に最深部へ行ってチートアイテムを回収できる。最高の引き立て役だよ、お前は)
「どうかされましたか、ルシア様? 難しい顔をして……」
アリアが心配そうに覗き込んでくる。
「いいえ、なんでもありませんわ。アリア様。ただ、あのようなお強い勇者様でも、世界征服を企む魔族の大国と戦うのは大変なのでしょうね、と思っただけですの」
「ふん、勇者なんてただの小童よ。ルクス様の足元にも及ばないわ」
背後から、誰にも聞こえない超低音の念話が飛んできた。
いつの間にか俺の影に潜んでいた魔族のレルエだ。彼女は学校では『暗殺者科の大人しい生徒』を装いながら、精神リンクで俺に甘えてくる。
『(ルクス様、魔族の国から緊急の伝令が入りました。わが国の盟主「7つの大罪」の一角が、勇者アレンの動きを警戒して、このアヴァロン学園にさらなる刺客を送り込むようです。今度は潜入ではなく、大規模な急襲を仕掛ける手筈です)』
(へえ、大罪の魔族が直々に、この学園を狙うか)
いい傾向だ。学園がピンチになればなるほど、俺が裏からそれを救った時のカタルシスは跳ね上がる。洗脳(お嫁さん化)したい女の子もまだまだ残っているしな。
「ルシア様、午後の授業は『魔法科』との合同演習ですね。一緒に行きましょう!」
アリアが俺の手を引く。
「ええ、行きましょう。アリア様」
俺は可憐に微笑みながら、懐の小さなスライムを指先でぷにぷにと弄んだ。
表舞台で光り輝く勇者の幼馴染。
だが、その光が強ければ強いほど、俺の歩む「闇の支配者(皇帝)」への道は、より深く、より確実に世界を侵食していくのだった。




