大富豪の令嬢と、秘密の『放課後デート』
地下迷宮での魔族との遭遇から数日。学園内では、新入生ながら災厄級魔獣の襲撃を退けた「ルシア(主人公)」と「アリア」の噂でもちきりだった。
そんな中、俺は授業終わりに、さっそく手に入れたチートアイテム『幻影の至衣』の性能を確かめていた。
「(驚いたな。見た目の偽装だけじゃなく、触られた時の柔らかさまで『美少女』として完全に固定されてる。これならどれだけヒロインたちに抱きつかれても、男の骨格だとバレる心配はゼロだ)」
極上のシルクのような制服に身を包み、大満足で女子寮への廊下を歩いていると、正面からきらびやかな足音が響いてきた。
「見つけたわ、ルシア様……!」
現れたのは、縦ロールの髪を揺らした大貴族の令嬢、フランチェスカだった。
入学初日に俺の【洗脳の魔眼】の直撃を受け、好感度が【測定不能(狂信・依存)】まで振り切れた、記念すべき俺の奴隷(お嫁さん候補)第一号である。
「ご機嫌よう、フランチェスカ様。どうかされましたの?」
俺が可憐に微笑むと、彼女は「ひゃぅっ……!」と可愛らしい悲鳴を上げて顔を真っ赤にし、モジモジと指を絡ませた。
「あの、その……ル、ルシア様にお願いがありまして。実は、私の実家(ローゼンバーグ公爵家)が、城下町に新しくオープンした最先端の魔導カフェのプラチナシートを貸し切ったのです。もしよろしければ、その……放課後、私とデートをしていただきたくて……!」
大貴族の権力を私物化した、最高に贅沢なお誘い。
普段ならお高くとまっているはずの公爵令嬢が、俺の前でだけは完全に恋する乙女(メス犬)の顔になっている。
【フランチェスカの思考ログ】
『あああルシア様が眩しい……! 私だけのものになってほしい……! お父様に頼んで、我が家の全財産と領地をルシア様に献上すれば、私を正妻にしてくださるかしら……!?』
(おいおい、まだ世界征服の『第1部』なのに、もう実家の全財産を貢ごうとしてるぞこの子)
だが、大貴族の財力と人脈は、のちに俺が領地を経営する際に絶対に必要になる。
「まあ、嬉しい。喜んでお供しますわ、フランチェスカ様」
「――あら。抜け駆けは許しませんわよ、ローゼンバーグさん」
不意に、背後からひんやりとした、しかし完璧に澄んだ声が響いた。
現れたのは、長い銀髪の聖女セレティナだ。彼女もまた、俺に脳を書き換えられた忠実な共犯者(お嫁さん候補)。
「聖女セレティナ……! あんた、いつの間に!」
「ルシア様、私も同行いたします。大貴族の贅沢な空間に、神の祝福(私の監視)が必要でしょう?」
表向きは聖女の笑顔。だが、俺との精神リンクからはドス黒い嫉妬の念話が飛んでくる。
『(ルクス様、あの女きもいです。二人きりのデートなんて許しません。私も連れて行ってくれないと、今ここで大声で泣いてあんたを困らせますからね……っ!)』
(聖女のヤンデレ化が止まらないな……。まあいい、二人ともまとめて連れて行くか)
「うふふ、それなら三人で行きましょう? お友達が多い方が楽しいですわ」
俺がふんわりと微笑むと、二人の美少女は火花を散らしながらも、俺の両腕にぴったりと抱きついてきた。
『幻影の至衣』のおかげで、二人の豊かな胸が俺の腕に押し当たっても、男の肉体だとは絶対に察知されない。安心して最高のご褒美を堪能できる。
こうして、俺たちは放課後の城下町へと繰り出した。
大貴族の権力で完全貸切にされた超高級魔導カフェ。極上のスイーツをフランチェスカに「あーん」され、セレティナからは机の下でこっそり手を握られるという、天国のようなハーレム空間。
だが、俺は甘い汁を吸いながらも、【鑑定】の目を光らせていた。
カフェの窓から見える城下町の物流、行き交う商人たちの動き、そして流通している魔導具の質。
「(人間の大陸の物流は、やっぱりこのローゼンバーグ公爵家と、いくつかの大商会が牛耳ってるな。……よし、フランチェスカを通じて、近いうちに公爵家の『物流ルートの隠し権益』をすべて俺名義に書き換えさせよう。第2部で領地を貰ったとき、一瞬で経済を爆発させるための布石だ)」
「ルシア様? ケーキがお口に合いませんでしたか?」
不安そうに覗き込んでくるフランチェスカの頭を、俺は優しく撫でてやった。
「いいえ、とても美味しいわ。ありがとう、フランチェスカ。あなたって、本当に頼りになるお姉様(僕)ね」
「はひっ……! お、お役に立てて光栄です、ルシア様ぁ……!」
頭を撫でられただけで、大貴族の令嬢は完全にトロンとした目になり、恍惚の表情を浮かべる。
それを見た聖女セレティナが、負けじと俺の耳元で小さく、男の僕に向けた声で囁いた。
「ルクス様……夜、女子寮の私のベッドで、もっとたくさん褒めてくださいね……?」
(くくく、学園ラブコメとしても、裏の支配計画としても、順調そのものだ)
美味しいケーキを食べ、お嫁さん候補たちに囲まれながら、俺は世界のすべてを掌の上で転がす極上の愉悦に浸っていた。
この城下町の平和が、遠くない未来、魔族の軍勢と『7つの大罪』によって戦火に包まれることなど、この時点ではまだ誰も知らない――。




