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地下迷宮と、もう一人のチート

翌日。アヴァロン学園の裏手に広がる「演習用地下迷宮」の入り口は、新入生たちの熱気と緊張感に包まれていた。


「いいですか、新入生諸君。今回の演習は地下1階の安全圏のみ。決してそれより下に降りてはなりません」


教官の厳格な声を背に、俺たち新入生は数人のパーティーに分かれて突入を開始する。

俺の班は、すでに身も心も俺の僕となった聖女セレティナ、そして俺を熱烈に慕う戦士科のアリアだ。


「ルシア様、私が前衛を務めます! どんな魔獣が来ようと、この剣で切り伏せてみせます!」

「ええ、頼りにしていますわ、アリア様」


アリアが初々しく胸を張るのを、俺は「ルシア」の可憐な笑みで見守る。その隣では、セレティナが表向きの清純な顔で「神の加護があらんことを」とアリアにバフ(強化魔法)をかけていた。

……が、俺と繋がっている精神リンクからは、別の声が聞こえてくる。


『(ルクス様、あんなバカ犬放っておいて、早く二人きりになりたいです……。私、早くハグしてほしいのに……)』


健気に剣を構えるアリアの裏で、脳内直通のヤンデレ念話を送ってくる聖女。このギャップがたまらない。


地下迷宮の内部は、ひんやりとした空気の漂う岩肌の洞窟だった。

【鑑定】を発動しながら進むと、壁の向こうや角の先にいる低級モンスター(ゴブリンや大コウモリ)の位置が手に取るようにわかる。


「(まあ、地下1階の雑魚なんて、俺の出る幕もないな。それより――)」


俺の目は、さらにその奥――地下深くへと続く、隠された『隠し通路』へと向けられていた。

【鑑定】の視界が、一般生徒には見えない壁の亀裂を捉える。


【オブジェクト】 古代の隠し扉

【その先】 地下5階:『大森林と遺跡の複合階層』

【危険度】 S級(新入生が立ち入れば即死)

【お宝情報】 古代遺物『幻影の至衣ファントム・ドレス』の反応あり。


(ビンゴ。やっぱりあったか、チートアイテム)

女装の偽装を完璧にする魔導衣。これさえ手に入れば、今後のハーレムライフの安全度が跳ね上がる。教官の「降りるな」という忠告など、俺にはフリでしかなかった。


「アリア様、セレティナ様。少しあちらの壁が気になりますわ。行ってみましょう?」

「ルシア様がそう言うなら!」

「ええ、どこへでもお供します(ルクス様の仰る通りに)」


二人の手を引き、どさくさに紛れて隠し扉のギミックを解除する。

ガガガ……と静かに開いた闇の奥へと、俺たちは滑り込んだ。


一瞬の浮遊感の後、視界が開けた。

そこは、地下とは思えないほど広大な『大森林』。巨木が茂り、禍々しい魔力が渦巻いている。


「な、何ですかここ……!? 地下1階のはずじゃ……」

怯えるアリアの前に、ドォン!と地響きを立てて巨影が降り立った。


巨大な鷲の頭と翼、そしてライオンの身体を持つ魔獣。


【種族】 グリフォン(変異種・風属性)

【危険度】 災厄級


「グォオオオオオ!」

暴風を纏った咆哮。エルフの大陸の魔法体系に近い、極大の風属性魔力が周囲の木々をなぎ倒す。アリアが剣を構えるが、その足は恐怖で震えていた。セレティナも迎撃の呪文を唱えようとする。


だが、俺は二人の前に一歩踏み出し、小脇のスライムを地面に投げた。


「ルシア様、危ないっ!」

「いいえ、大丈夫ですわ。――我がめいに従え、吸い尽くせ」


最後は、誰にも聞こえない低い「男の声」で命じる。

地面に着地したスライムが、一瞬で超巨大な壁、否――【巨大な捕食細胞の塊】へと変貌した。


「グルァ!?」

グリフォンが放った風の刃が、巨大スライムの体内に吸い込まれ、一瞬で魔力へと分解される。

驚愕するグリフォンに向け、俺は冷酷に【洗脳の魔眼】を向けた。人間だけでなく、魔獣すら支配するのが俺の【魔獣使い】としての真骨頂。


「お前も、俺のペット(手駒)になれ」


瞳から放たれた紫の波動が、グリフォンの脳を直接揺さぶる。

「ガ、ガァ……ッ」

さっきまで凶暴だった災厄級の魔獣が、一瞬で大人しくなり、巨体を丸めて俺の足元に跪いた。頭を擦り寄せてくる姿は、まるで巨大な小鳥だ。


【ログ】 変異種グリフォンとの『魔獣召喚契約』が完了しました。


「嘘……グリフォンを一瞬で手懐けるなんて……」

呆然とするアリア。

俺はフゥと息を吐き、グリフォンの背後に鎮座していた宝箱から、目的の『幻影の至衣』を回収して懐に収めた。これで女装バレの心配は未来永劫ゼロだ。


最高の収穫に満足していると、【鑑定】のレーダーが、この大森林のさらに奥から『別の規格外の魔力』を感知した。


【名前】 ????(14)

【種族】 魔族(純血)

【ステータス】 『7つの大罪』直系

【備考】 人間に化けて学園に潜入中。現在、地下迷宮の結界を破壊中。


(へえ……魔族の大国からのスパイが、さっそくこんなところでコソコソやってるわけか)


俺は跪くグリフォンの頭を撫でながら、暗く歪んだ笑みを浮かべた。

人間の国を脅かす魔族の脅威。だが、俺にとっては、向こうから歩いてきてくれた『最高のお嫁さん(奴隷)候補』に過ぎない。


「アリア様、セレティナ様。どうやら、この奥に迷子の可愛い生徒がいるみたいですわ。助け(捕まえ)に行きましょう?」


可憐なルシアお姉様の皮を被った世界征服の怪物が、地下迷宮のさらに深い闇へと、静かに歩みを進めた。

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