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聖女の『本性』と、初めての契約

『白百合館』の最上階。

割り当てられた三人部屋の扉が閉まった瞬間、部屋の空気が一変した。

同室になったのは、ルシア、戦士科のアリア、そして回復術師科の聖女セレティナだ。


アリアが「私、荷物を片付けてきますね!」と嬉々としてバルコニーへ向かい、室内には俺とセレティナの二人が残された。


夕暮れの光が差し込む部屋で、セレティナはそれまでの『完璧な聖女の微笑み』をスッと消し去った。


「――ねえ、ルシアさん」


ドサリ、とベッドに深く腰掛け、長い足を組む。

その口調からは、先ほどまでの慈愛の欠片も感じられない。地を這うような、低く気怠げな声。


「あんた、大講堂で何をしたの? フランチェスカのやつ、今さっき廊下で見かけたけど、虚ろな目で『ルシア様……ルシア様……』ってブツブツ呟きながら歩いてたわよ。あれ、ただ事じゃないわね」


セレティナの紫の瞳が、値踏みするように俺を射抜く。

さすがは聖女、他人の精神の変調に聡い。だが、俺の【鑑定】は彼女の脳内をさらに克明に映し出していた。


【セレティナの思考ログ】

『なにあれ怖い。でも正直、あの傲慢お嬢様をあそこまで狂わせる技術、めちゃくちゃ興味ある。私も教会の老害どもにあれ使いたい。っていうか、このルシアって女、近くで見るとちょっとガタイ良くない?』


(おっと、女装に疑いの目が向くのはよろしくないな)


俺は懐のスライムをベッドの上に置いた。スライムは室内の空気を察して、ぷるぷると形を平たく変え、警戒モードに入る。


「何をした、ですか? 私はただ、ローゼンバーグ様と目を合わせて、少しお話ししただけですわ」

「嘘おっしゃい。私を騙せると思っているの? 教会の汚い政治劇を嫌というほど見てきたのよ。あんたからは――私と同じ『泥の匂い』がするわ」


セレティナはふっと自嘲気味に笑うと、法衣の襟元を緩め、ベッドに寝転がった。


「あーあ、クソ面倒くさい。入学初日からこれ貯まるわ。どいつもこいつも『聖女様、お怪我を治してください』『聖女様、お導きを』って……豚どもが。私の癒やしの魔力はタダじゃないのよ。あいつら全員、四肢を叩き折ってから高額請求してやりたい……」


ついに本性を隠さなくなった。

ストレスの限界を迎えた聖女の、ドス黒い本音の吐露。

俺はそんな彼女を見下ろし――ふっと、女声をやめ、低く心地よい「男の声」で囁いた。


「だったら、その願い、俺が叶えてやろうか?」


「っ――!?」


セレティナの身体が跳ねるように起き上がった。

驚愕に目を見開く彼女。その視線は、俺の顔、そして偽装された胸元へと向けられる。


「あんた……声……それに、男――!?」

「静かに。バルコニーのアリアに聞こえるぞ」


俺は唇に人差し指をあて、妖しく微笑んだ。

そして、一歩、また一歩とベッドに近づき、逃げようとするセレティナの手首を掴んで組み伏せる。


「な、何よこれ……! 人間の大陸の結界を抜けて女子校に潜入するなんて、あんた何者……っ、んぐっ!?」


彼女が光属性の攻撃魔法を唱えようとした瞬間、俺の小脇から飛び出したスライムが、彼女の口元をピタッと覆って詠唱を封じた。主人の思考を読んだナイスアシストだ。


「んむー! んむー!」

「暴れるなよ、聖女様。俺の正体をバラされたら、俺のお嫁さん探し計画が台無しになるんでね。……お前さ、教会の老害どもに復讐したいんだろ? だったら、俺の配下(お嫁さん)になれ。世界ごと、お前にひれ伏させてやる」


俺はセレティナの顔を間近で覗き込み、その双眸に宿る『光の加護』を真っ向から睨みつけた。


【洗脳の魔眼】――最大出力。


ゴォ、と室内の空気が震えるほどの魔力が、俺の瞳から溢れ出る。

至近距離で魔眼の直撃を受けたセレティナの瞳が、一瞬で深い紫色から、俺の魔力と同じ「妖艶な昏い紫」へと染まっていく。


光の聖女の精神に、俺の絶対的な存在が刻み込まれていく。

書き換えられる主従関係。

聖女のプライドがドロドロに溶け、俺への「依存」と「狂信」へと再構築されていく。


「あ……あふ、ぅ……」


口元からスライムが離れても、彼女はもう呪文を唱えなかった。

ただ、熱い吐息を漏らし、うっとりとした目で俺を見つめている。


【セレティナのステータス変化】

状態:洗脳/【クラスメイト召喚契約・完了】

好感度:【測定不能(狂信・愛欲)】


「ルクス……様……。私の、神様……」


セレティナは自ら俺の首に手を回し、胸元に顔を埋めてすり寄ってきた。

完璧な陥落だ。これで彼女は、表向きは『清純な聖女』、裏では『俺のために教会の全権力を盗み出す忠実な愛人』となった。


「よし、いい子だ。これからよろしくな、セレティナ」


俺が彼女の銀髪を優しく撫でていると、バルコニーの扉がガラッと開いた。


「ルシア様ー! 荷解きが終わりました……って、あら?」


戻ってきたアリアが、ベッドの上で絡み合う俺たちを見て小首を傾げる。

俺は一瞬で「ルシアお姉様」の顔と声に戻り、ふんわりと微笑んだ。


「まあ、アリア様。セレティナ様が少しお疲れのようでしたので、マッサージをして差し上げていましたの」

「まあ! さすがルシア様、お優しいのですね!」


純朴なアリアは全く疑う様子もない。

その横で、洗脳された聖女セレティナは、アリアには見えない角度で俺のスカートの裾をギュッと握りしめ、蕩けた顔で小さく舌を出していた。


大貴族に続き、聖女も手中に収めた。

だが、俺の【鑑定】は、このアヴァロン学園の地下深く――「演習用地下迷宮」の底から、不穏で、それでいて凄まじく強大な『闇の魔力』が湧き上がっているのを感知していた。


「(ククク……面白い。明日からの迷宮演習、さっそく大物が釣れそうだな)」


俺は二人の美少女を従え、女子校生活最初の夜を、最高の気分で迎えるのだった。

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