玉座の祝杯と、新たなる『世界調律(チェックメイト)』
聖教皇国の首都を丸ごと覆い尽くした【神話級空中要塞・アルカディア】の威容、そして大司教たち老害幹部への完全なハッキング(絶対屈服)により、人間の大陸の権力構造は一夜にしてひっくり返った。
表向きには、勇者アレンの偉業を祝うはずだった凱旋式が、天空から現れた「奇跡の超越者・ルシアお姉様」を世界最高の聖女(あるいは神の化身)として崇める、事実上の狂信的な拝礼の儀へと変貌を遂げたのだ。
「――お見事でしたわ、ルシア様。大聖堂の地下金庫に眠っていた古代の聖遺物や教会の秘密資金、すべて我がローゼンバーグの物流網を経由して、アルカディアの格納庫へと移送(強奪)させましたわ」
要塞の最深部、いまや世界の最高権力となった『中央統御玉座の間』。
フランチェスカが、上質な琥珀色のワインが注がれたクリスタルグラスを俺へ捧げながら、極上の恍惚の笑みを浮かべていた。
「ふん、教会のジジイどもが溜め込んでた聖金属、私の魔導工学にかかれば一瞬で要塞の強化装甲に早変わりよ。……ねえルシア、これでこの要塞は本当の意味で『無敵』になったわ。地上のどこだろうと、あんたの敵になる場所なんて存在しないんだから!」
ティノが俺の膝の上にちょこんと座り、ふんすと小さな胸を張る。その頭を撫でてやると、彼女は嬉しそうに目を細めて俺のワンピースの胸元に顔を埋めてきた。
「ありがとう、フランチェスカ様、ティノちゃん。すべてはお前たちの優秀な働きのおかげですわ」
俺――女装美少女「ルシア」は、本来の14歳の男の声を混ぜた妖艶な声音で囁き、グラスを受け取って一口含んだ。
(ククク……最高だ。軍事、資金、宗教、技術。世界を裏から支配するためのパーツが、今この空中要塞のなかに完璧に集約された。第1部のアヴァロン学園、第2部の亜人大陸要塞、すべてが一本の線で繋がり、俺の『裏の帝国』が爆誕したわけだ)
「……ルクス様、ご報告が」
影のなかから、黒い衣装を身に纏ったレルエが静かに跪いた。
「どうした、レルエ。地上の様子は?」
「はい。あのアレンという名の勇者ですが……。聖教皇国がルクス様に事実上屈服したことを未だ理解できぬまま、教会の命令(※ルクスが裏から操る偽の神託)に従い、残る魔王軍の残党――『7つの大罪』の本体が潜む【魔族の大陸】へと、単身で最後の突撃を敢行いたしました」
「ぶっは……っ!」
俺は思わずワインを吹き出しそうになった。
アレンのやつ、俺が裏から教会の権限を使って出した「世界を救うために魔族の大陸へ突撃せよ」というデタラメな命令を、純粋な正義感から真に受けて一人で敵の本陣へ殴り込みに行ったのか。
「あはははは! 本当に救いようのないお馬鹿さんですね、アレンは。ルクス様が用意して差し上げた檻(世界の中心)のなかで、死ぬまでピエロとして踊り続けるなんて……♥」
セレティナが俺の背後から首に細い腕を絡ませ、トランス状態のヤンデレ笑顔でクスクスと笑う。
「まあ、いいじゃない。アレンが魔族の大陸で大暴れしてくれれば、魔王軍の残りの幹部どももそっちに釘付けになる。その隙に、俺たちはこの空中要塞を動かし――」
俺は立ち上がり、ドレスの裾を翻して中央のメインモニターへと歩み寄った。
画面に映し出されているのは、未だ世界の誰も全貌を知らない3つ目の大陸、不気味な闇の魔力が渦巻く【魔族の大陸】の地図だ。
「――世界征服の第3部、最終章の始まりですわ。アレンが表で魔王を追い詰めるその瞬間、私たちがこの【アルカディア】で天空から魔族の大陸ごと丸呑みにし、世界統一(戴冠)のチェックメイトをかける」
左目の【神威・支配の魔眼】を昏く光らせながら、俺は不敵に言い放った。
「総員、全速で要塞を魔族の大陸へ向けなさい。――お嫁さんたち(最強の配下)、世界を完全にハッキングする、最後の狂宴の時間よ」
「「「「御意のままに、我が皇帝(ルクス様)!!」」」」
洗脳され、調教され尽くした美少女たちの熱狂的な咆哮が玉座の間に響き渡る。
女装男子の国取りファンタジーは、ついに世界の理そのものを書き換える最終決戦へと突入するのだった。




