勇者の凱旋と、雲を割る絶対王の城
「アレン様! 人類の救世主、勇者アレン様だァァァッ!」
人間の大陸、聖教皇国の首都にある大広場は、割れんばかりの歓声と熱気に包まれていた。
魔王軍の『7つの大罪』の一角を討伐し、最前線から帰還した勇者アレンの凱旋式。白馬にまたがり、光輝く聖剣を腰に帯びたアレンが民衆に手を振るたび、花吹雪が舞い、地響きのような大歓声が巻き起こる。
大広場の正面に設置された豪華な特設ステージの上では、教会の老害――大司教が、濁った瞳に下卑た欲望をぎらつかせながらアレンを迎えた。
「よくぞやった、勇者アレンよ! お前のその偉業を称え、神の御名において、新たなる『聖女』をそなたの妻として迎えることを許可しよう! さあ、中へ入りなさい、アヴァロンの奇跡の美少女、ルシアよ!」
大司教が大きく手を広げ、ステージのカーテンを指し示す。
彼らが送りつけた強制令状により、魔王軍を退けた全属性の美少女「ルシア」が、勇者の引き立て役(家畜)としてステージに引っ張り出される手筈になっていた。
集まった数万の民衆、そして教会の神官たちが、期待の目をステージの奥へと向ける。
しかし、現れたのは――誰もいなかった。カーテンの向こうは、ただの空っぽだった。
「む、むむ……? どうした、ルシアとやらは何をしておる! 早く連れてこい!」
大司教が焦って部下の神官たちに怒号を飛ばす。
その時だった。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……ッ!!!!
突然、首都の全域を襲う、かつてない凄まじい大振動。大広場の石畳が激しく波打ち、数万の民衆が悲鳴を上げてその場にひれ伏した。
「な、なんだ!? 地震か!? 魔族の奇襲か!?」
アレンが即座に聖剣を抜き、警戒の目を走らせる。
「いいえ、アレン様。――敵は、地上にはいませんわ」
大広場のスピーカー、いや、全住民の『脳内』にダイレクトに響き渡ったのは、鈴を転がすような、この世の物とは思えないほど可憐で、それでいて圧倒的な威厳を孕んだ少女の声だった。
全住民が一斉に頭上を見上げる。そして、全員の思考が完全にフリーズした。
首都の上空を覆っていた白い雲が、文字通り「十文字」に引き裂かれ――そこから姿を現したのは、全長数キロメートルに及ぶ、黒鉄と結晶で造られた【神話級空中要塞・アルカディア】だった。
太陽の光を浴びて鈍く輝くその巨体は、聖教皇国の全域を完全に影で覆い尽くし、絶対的な絶望の質量として君臨していた。
「あ、あわわわ……。な、なんじゃあの巨大な浮遊城は……! 神話の遺物か!?」
大司教が腰を抜かしてステージにへたり込む。
要塞の先端がガシャガシャと変形し、巨大な結晶砲身――『神滅カウンター砲』が、大聖堂の真上へと正確に照準を固定した。その砲口に集束していくのは、空間をドロドロに歪ませるほどの、禍々しい紫黒色の全属性魔力。
そして、要塞の主甲板から、ゆっくりと一枚の『純白の絨毯』が空中に向かって展開され、大広場のステージへと繋がった。
光の階段を降りてくるようにして、天空から舞い降りてきたのは、白いワンピースの裾を風に揺らせた超絶美少女――俺だった。
俺の左右には、公爵令嬢フランチェスカ、名門のエレノア、そして戦士科のアリアが、教会の全戦力を一瞬で塵にできるほどの魔力を滾らせて控えている。さらに俺の影からは、聖女セレティナと魔族のレルエが、いつでも大司教の首を狩れる体勢で不敵に微笑んでいた。
「はじめまして、大司教様。お招きに預かり、亜人大陸の我が領地から、私の『私兵(マモンの5万の軍勢)』を引き連れて凱旋いたしましたわ」
ルシアの姿のまま、俺は完璧な淑女の礼を決めて見せた。
その瞬間、要塞の影からドロドロと湧き出した数千の飛行魔族の軍勢が、空を埋め尽くして咆哮を上げる。
「ル、ルシア……!? お前、その姿は一体……!」
幼馴染の勇者アレンが、驚愕のあまり聖剣を握る手を震わせ、呆然と俺を見上げる。
「あらアレン、大罪の討伐、ご苦労様でしたわ。……大司教様、私を勇者の嫁に、とおっしゃいましたっけ? ――身の程を、弁えなさい」
俺は「皇帝の声音」を全属性魔力に乗せて大広場へ叩きつけた。
同時に、左目の【神威・支配の魔眼】をカッと見開く。
ドゴォォォォォッ!!!
圧倒的な威圧感(神のプレッシャー)が広場を圧壊させる。大司教をはじめとする教会の老害どもは、恐怖で白目を剥き、その場に額を擦り付けてガタガタと震え出した。民衆もまた、勇者ではなく、天空から現れた「絶対的な支配者」の美しさと強さに、狂信的な崇拝の目を向けてひれ伏していく。
「ヒィィッ……許して、許してくださいルシア様ァァッ!」
「今日から、我が聖教皇国は……あなた様の従属国にございますぅぅっ!」
【システムログ】
聖教皇国の大幹部たちの洗脳(絶対屈服)が完了しました。
人間の大陸における教会の権力、財産、および民の信仰のハッキングに成功。
【獲得】 聖教皇国を裏の領地に加えました。
(ククク……見たかアレン。お前が世界を救う英雄ごっこをしてる間に、俺はお前の所属する国家そのものを、丸ごと裏からハッキングしてやったぞ)
民衆の圧倒的な崇拝の歓声が、今度はアレンではなく、俺に向かって降り注ぐ。
表舞台の英雄アレンの凱旋式は、この日を境に、世界を裏から一極支配する「統一皇帝ルクス」の完璧なる建国記念日へと書き換えられたのだった。




